18.大先輩(チョロい)
「なぁなぁ、悪いんやけど、そのスキルのこと教えてくれへんか?
こっちの子がな、商人目指しとんねや。
せやから大先輩としてな、その腕前伝授したってほしいんよ」
「はっ? だっ、大先輩っ……。
いや、そんな……。ま、まぁそこまで言うならいいけどよ……」
「ちょっろ」
「何か言ったか?」
「いやいや、なーんもゆうてへんで。大先輩様のお話聞けてうれしーなーって」
「そっ、そうか……」
苦笑いがはにかみ笑いに変わり、少し顔を赤らめながら、チョロ先輩は説明を始める。
まーちゃんが俺をみて、「うわぁ……」と小さく呟いた事には、気づかなかったことにしておこう。
「とは言っても、実演販売は言葉通りだし、見ての通り。
NPCにアイテムの実演をして、高値で買わせるスキルだ」
「NPC?」
「ん?」
「あれや、街の住民ってことや」
「あ、うん。わかった」
通りすがりの実演販売チョロ先に説明するのも面倒なので、ここは適当に流しておこう。
若干怪訝な視線が送られてきたものの、チョ先はスルーすることにしたようだ。
「スキルの熟練度を上げるために、色々売ってんだ」
「熟練度?」
「スキルはな、取っただけじゃあかんねん。
取った上で使って、それで熟練度上げると効果も上がんねん」
「へー」
「あぁ、その子は初心者なのか」
「せやせや。細かいことはワイがフォローするんで、よろしゅうな」
「といっても、今言ったことで全てだぞ?」
「マジか。しかし、モノ売るだけなら、買取価格上げるスキルあるやろ?」
「あぁ、交渉(売却)だな。熟練度が上がれば、最終的にそちらより高額で売れるようになる。
高価なドロップ品で、収集数の少ないものは実演販売の方が得ってわけだ」
「へー、そうなんかー」
「って、そこの黒い方はなぜスキル取らなかったんだ?
スキルツリーを考えれば、ほぼ必須スキルだと思うが……」
「ワイは戦闘スキル取りたかったからな。そういうの全部取らんといたんや」
「そうか。戦闘特化ならそれもアリか」
どうやら話を聞くに、割と皆取るスキルのようだ。
確かに序盤は金策に苦労するし、取っておけば楽になるだろう。
けれど、時間制限のあるこの世界では、小銭稼ぎするよりも、レベル上げに勤しんだ方が強くなると思うんだけどな。
「まぁいい、他に何か知りたいことあるか?
俺は商人スキルもそれなりに取ってるから、答えられると思うぞ」
「まーちゃん、なんか気になることあるか?」
「ううん」
「そかそか。ありがとな兄ちゃん」
「役立ったなら何よりだ。せっかくだ、連絡先交換しておこうか。
何か聞きたいことがあったら、メッセージを飛ばしてくれ」
「おー、ありがとな。さすが大先輩は頼りになるなぁ!」
「まっ、まぁあれだ、俺も新人の頃は色んな人に世話になったからな。これくらい当然だ」
「そっかそっか」
ホントにチョロい。ちょっと褒めればすぐにノッてくるのだから、やりやすい相手だ。
実際メッセージを飛ばすかはかなり未知数だが、俺たちは連絡先を交換して別れた。
そして防具を揃えた後、再び狩りに行こうと街の外を目指す時、ぽつりとまーちゃんは呟いた。
「私、実演販売のスキル取る!」
「へ? どうしたんやいきなり」
「あのね、トンちゃんにお金貰って、装備揃えてもらったし、お金稼ぎたいの!」
「いや、別にそんな高いモンでもないし、気にせんでええで?」
「ううん。それだけじゃないの。それでお金貯めて、お家買うの。
それでそれで、可愛い家具を集めて……」
その後は長かった。ものっそく長かった。
未来のマイハウス構想は、頭の中で盛大に繰り広げられているらしい。
そしてお店を開いて色んなものを売るんだと、小さい子が「将来お花屋さんになりたい!」って言っているような雰囲気で、目を輝かせて語るのだ。
「ねっ! 一緒にお店やろうねっ!」
「へっ!? ま、まぁええけど……」
「決まりっ!」
嬉しそうに笑うまーちゃんに、俺は何もかける言葉はなかった。
まぁ、どのみちスキルとしては実演販売は取ることになるわけだし、別に問題はないのだが……。
店か……。俺の本性(コミュ障)、バレないようにしないとなぁ……。




