13.困ったら神様のせいにしとけばええねん
まーちゃんの腕の中で、俺はモミモミと、柔らかくなるように調理されるかのごとく弄ばれていた。
なんとも積極的というか、調子を狂わされる反応だが、むしろ俺にとっては調子は狂わされる方がありがたいくらいだ。
「まったく、まーちゃんは甘えたさんやなぁー。
まぁええわ。ワイが面倒見たるゆーたんやし?
ちゃーんと一人前になるまで付きおうたるわ」
「へへへ……。よろしくね……」
はにかみながら笑うその顔は、無邪気な子供のようで、それでいて女の子らしい柔らかな笑みで、うっかり見惚れそうになる。
いやいや、これはゲームのアバターであって、本物じゃないわけで、これはつまりまーちゃんの理想の姿であって、それは裏を返せば……。
やめよっか、この話。虚しくなるだけだし。
気を取り直して、今日はまーちゃんの商人への第一歩を踏み出す日なんだ。
余計なこと考えずに、特に俺自身のやる気を削ぐようなことは考えずに、やっていこうじゃないか。
何より俺には、あまり時間が残ってないのだから。
「ほな、まーちゃん。気が済んだらそろそろ行こか」
「はいっ!」
「ええ返事や。とは言ってもな、まず最初にやらなならんのはレベル上げや」
「レベル上げ? 何をするの?」
「ズバリ! 戦闘や!!」
「銭湯屋? 番台仕事? それとも経営?
『トントン? 贅沢な名だねぇ……』っていうのやる?」
「ちゃーう!! そんなモノマネもいらーん!
てかこれ以上減らしたら『ト』くらいしか残らんやないか!!
戦や戦! 戦って! 勝つ!!
それがレベルを上げる唯一の方法なんや!」
「えっ……。商人になるんじゃ……」
「商人のスキルとるのに、スキルレベルを上げやんといかんのや。
んで、ついでに基礎レベルも上げて、有利なステータス構成にするで」
「スキルレベル? 基礎レベル?」
「あー、そこからか……」
マジの初心者、しかも説明何も聞いてない……。
というより、ちゃんとチュートリアル受けてきたんだろうか?
まぁしかし、わからないなら教えるしかない。
それに、分かってないからこそ、俺の望み通りに育成させられるんだし。
しかし、ロールプレイングガチ勢って言ってたし、うまく用語をボカしながら、違和感なく説明してやらないといけないのか……。それが一番面倒そうだ。
ともかく、説明しながら狩場へ向かうことにしよう。
俺はまーちゃんの腕に抱かれ、揺られながら、一からの説明をはじめた。
「この世界にはな、基礎レベルとスキルレベルがあるんや。
基礎レベルは、強さとか賢さとか上げるためのレベルで、攻撃力とか魔法の威力を上げられるんや」
「戦っていたら、勝手に強くなるんじゃないんだ?」
「あー、それはあれや……。えっと、なんや?
そう! ステータスの管理する神様がおってな、敵を倒して得られる経験値を供物に、好きな能力上げさせてもらえるんや」
「へー。だから戦わないといけないんだね」
「せやせや」
嘘である。でっち上げである。
いやしかし、我ながらなかなか良い感じに誤魔化せたんじゃないだろうか?
神様に経験値捧げるから強くなる。世界観を守りながら、能力が数字として現れる理由としては悪くないと思う。
てーか、その神様ってのが運営な気がするが、そういうメタい話は、ロールプレイングガチ勢には伏せないとな。
「でーやなー、同じようにスキルの神様もおるんや」
「そっちも経験値をスキルに変えてくれるの?」
「おっ、呑み込みが早くて助かるわ。
その通りで、スキルレベルってのを上げてくれて、スキルポイントってのをくれるんや。
そのポイント使うて、好きなスキルを取れるっちゅうわけやな」
「それじゃあ、大工のスキル取りたいな。可愛い家具作ってみたい」
「楽しみにしてるトコ悪いんやけど、いきなりは無理なんよな……。
スキルには、取るのに前提スキルがあったりするんや。
まぁその辺は、狩りしながら話そか」
街を出てすぐの平原、ここが初心者向けの狩場だ。
誰もいない、そして野生動物が数頭見えるその景色を眺めながら、俺はこの先の険しい商人道を予見していた。




