11.アヤシイ勧誘
「まぁええわ。狛犬かシーサーかなんて、見た目だけやしな。
そいうことやから、時間に制限あるし、まーちゃんもやりたいことは早めに決めたほうがええでって話や」
「せやせや。ボクと一緒にケモノの国を作るんだよ?」
「おいやめろ! その道に引きずり込もうとするんやない!!
まーちゃん怯えとるやないか!!」
「ちぇ……。布教のチャンスだと思ったのになー」
二歩三歩と後ずさりするまーちゃんの背中を押して、俺は輪の中へと戻す。
さて、そろそろ本来の目的である、生産職への勧誘を始めるとしよう。
「でやな、ワイのオススメは商人なんやが、興味ないか?」
「商人……?」
「せや。最初の方は、店での売り買いにちょっと有利になるスキルくらいしかないんやけどな、極めたら薬とか、武器とか、防具やら作れるようになるんや。
あとはそうやな、家持ったらその中に置く家具とかも作れたりするで」
「へー、トンちゃんは商人を勧めるんだ?」
「なんや? 悪いんか?」
「いやー? べつにー?」
ネズセンセはにやにやとしている。
どうやら、コイツは知っているらしい。商人を極めることの難しさ……。
そして、それを勧める俺の目的も、気づいたのかもしれない。
「まー、いいんじゃない? 商人の道に進むってのもさ。
商人専門の人って結構少なくて、重宝されるだろうしね?」
「せやろ? みんな売買が有利になるスキルはつまみ食い的にとるんやけど、製造までできるようになるヤツってのは少ないんや。
それに、作った武器や家具なんかには、作った人の名前が刻印されんねん。
いい武器であるほど有名になって、より売れるっちゅう、極めたら大儲けできる職業やねん」
「う……、うーん……」
俺の説明に、まーちゃんは悩んでいるようだ。
それも仕方ないだろう。いきなり出会った人に、職業の説明を受けて、それで「はい、それにします」というヤツの方が少ないと思う。
だが、悩むってことは興味はあるんだろう。
悩む内容が、どうやってあしらうかってものじゃない限りは。
ならば押すしかない! 全力で!!
「いやいや、悩むことなんてないて!
可愛い子の手作り装備なんて、欲しがらんやつおらんやろ!?
絶対バカ売れの、あっちゅうまの億万長者やで!?」
「かわ……、いい……?」
「せやせや! 薬にしても、家具にしても、可愛い子が一生懸命作ったモンやで?
そんなん買うしかないやろ!?
しかもそれが、商人系極めた一流品やってみ?
あーこれはワイが欲しいくらいやわ。なぁ、そう思うやろネズセンセ!」
「せやなー。ボクも装備一式作って欲しいかな」
「やろやろ!? ネズセンセもこうゆーてるし、ええんちゃうか?」
「うーん……。やってみたい……、けど……」
まーちゃんは、やってみたいとは言っているものの、まだまだ及び腰だ。
「なんや? なんか心配事でもあるんか?」
「あの……、一人だと不安で……」
「なんや、そんなことかいな! 心配いらんで。
ワイがちゃーんと一人前になるまで面倒見たる!」
「わー、トンちゃんカッコイー!」
「ちょ、ネズセンセ、からかわんといてぇな。
それに、センセらも手伝ってくれるやろ?」
「え? それは無理」
「うわっ、即答かいな!?」
「うん。だってボクらは、ケモノの国作らないとやし?」
「それ本気やったんか!?」
「本気も本気。せやから仲間集めせんとなー。
また明日から、新人さんの勧誘がんばるでー」
「は、そうけそうけ。まぁええわ、まーちゃんはワイが面倒みるさかいな。
しかし、さっきから気になってたんやけどな……」
「なんや?」
「ネズセンセ、ワイの喋り移っとるやないか!!」
「あ、ほんまや!!」
「いや、絶対わざとやん!?」
「ははは、ばれたー?」
ぷかぷかと宙に浮く狛犬は、そう言いながら笑って誤魔化した。