10.仕様です(逃げ口実)
「そうか、まーちゃんは、まだよお分かってないんやな。
んじゃ、ちょっとばかしワイが解説しよか」
「はーい! よろしくお願いしまーす!」
「いや待て、ネズセンセはわかっとるやろ?」
「え? そういう反応するところじゃなかった?」
「お気遣いどうもやで」
なんか一々ツッコミ入れるのも面倒になってきた。
とりあえず説明のために、ウィンドウを出して、公式の解説ページを開く。
表示されるのは文字の羅列。
そりゃこれじゃ、誰も理解できん。というか、理解する気が起きん。
「まーここに書いてある事簡単にまとめたらやな……。
この世界の人間にも寿命があるっちゅうことや。
んで、4360時間活動したら、死んでまうんや」
「短く儚い人生だねぇ……」
「せやな。この4360時間ってのは、フルで使ったら大体半年ってトコやしな。
けどスリープモードの時、つまりちゃんと寝る宣言して寝てる時とかは、そのカウントが進まんのや」
「なるほど、適当にぼーっとしてるのはダメなんだね!」
「ネズセンセ、合いの手おおきにな」
ちくいち入ってくる生徒役の声は、やりやすいのかやりにくいのか……。
「まぁ続けるわ。んで、寿命が来たら、そこで終わりなんやけど、スリープ以外にも時間を稼ぐ方法があるんや。
それが今のワイの姿、セーフティーモードや。この状態やと、カウントが十分の一まで遅くなるんよ」
「へー、じゃあボクもそっちの方が見て回るにはよさそうだね」
「せやな。けど、色々行動が制限されてな。
この状態やと、あらゆるスキルが使われへんねん」
「スキルが使えない?」
「せや。戦闘も、製造も基本無理や。
その代わり、敵に狙われることもない。だからセーフティーって名前なんやろな。
アイテムの売り買いはできるから、商売は一部できるんやけどな」
「へー、その姿の方が便利ってわけでもないんだね」
「せやな。戦われへんし、半分幽霊みたいなもんやとワイは思てるで」
「幽霊は言い過ぎでしょ。非戦闘員の一般市民って感じかな?」
「せやな」
一通り今の姿の説明をすれば、まーちゃんは静かにコクコクうなづきながら聞いていた。
ホントにわかってるのかは不明だが。
「それじゃ、トンちゃんはなんでその姿になってんの?」
「そりゃ、長く生きたいと思うのは当然やろ?
こっちやと10倍長生きできんねんで?」
「やれる事少ないのに?」
「こうやって喋ってる程度やったら十分やん」
「確かに! よし、今からボクもセーフティーモードに……」
「まぁ、好きにし」
ネズセンセはウィンドウを出し、セーフティーモードへと切り替える。
すると巨大ネズミの姿は眩い光に覆い隠され、次に出てきた時には、俺と同じく全長30センチくらいの、オレンジ色のライオン姿になっていた。
「へー、ネズセンセはライオン姿なんか」
「え? これってどういうのがいいって選べないの?」
「えらばれへん。完全ランダムや。
でないと、ワイがわざわざ黒ブタ選ぶかいな……」
「んー、でもこれライオン? なんか違うくない?」
「ん? せやな……。なんやよおわからんけど、ツノ生えとるやん」
「しかも尻尾がふさふさだしさー、タテガミもふさふさだし?
羽はあれだよね? トンちゃんにも付いてるから標準装備ってことだよね?」
「せやな。しかしそれはライオンというか……」
「そう、ボクも思ってたんだよ。これはやっぱり……」
「狛犬!」「シーサー!」
二人の声が重なるも、それは不協和音にしかならなかった。
俺とネズセンセは顔を見合わせ、互いに「お前空気読めよ」という、表情でのテレパシーを飛ばし合う。
「いや、狛犬やろ!?」
「いやいや、シーサーだよ!」
「なぁ、まーちゃんはどっちやと思う!?」
「えっ……、と……」
俺の問いに、まーちゃんは後ずさりしながら困ったという顔を隠さなかった。
「あの……、その……」
「どちらでも結構。機能には支障ありますまい?」
答えを遮るように、傍観に徹していた赤き狼が静かに呟く。
あまりに会話に入ってこないから、寝てるのかと思ってたぞ。
「あ、アカさんいたんだ?」
「ワイも帰ったかと思ってたわ」
「ひどい言われようだな……」
赤き狼は、肩を落としため息を吐くのだった。