01.禁止ワードのため表示できません
人の立ち入らない、鬱蒼とした森の中、一人の男は巨大な黒い竜とたいじしていた。
鱗の一枚一枚がつやめき、艶やかだと思わせるほどの、魅惑的と表現したくなるほどの竜。
今まで誰も、傷一つつける事ができなかったことを、その姿は示していた。
その眼下に立つ男もまた、竜とは対極に立つ姿であるものの、対峙するには十分な様子を見せる。
傷つき、ボロボロになったミスリルの鎧を纏う男。傷のひとつひとつが、彼のこれまでの激戦を物語る。
しかしその瞳は、竜をただの獲物としか見ていない、力強さを感じさせた。
竜と男の睨み合いは、永遠だと思わせるほど長く感じたが、それは一瞬のことだったのかもしれない。
男は手に持つ大剣を強く握り直せば、剣は男の想いに応えるよう、力強く輝き始めた。
「覚悟せいや! この×××竜がっ!!」
戦いは静かな森に響き渡る、男の声で始まる。
男は飛びかかり、真っ直ぐ竜の首をその剣で狙う。
しかし、竜もただやられるわけはない。背にある巨大な翼を盾とし、男の剣を防ぐ。
「お前は、いっつもワンパやなっ!! 先にぶっ壊させてもらうで!!」
その翼を前にし、男はそのまま翼を叩き切る。
はらりと木の葉のように堕ちる翼を目にした竜は、一瞬動きを止めた。
到底人間に傷つけられると思っていないその黒き竜は、目前の出来事を理解できなかったのだ。
「おらっ!! ×××竜がっ!! さっさと!! レアアイテムっ! よこさんかっ!! ×××がっ!!」
そこからは、一方的な殺戮ショーだ。
ひたすらに剣を振り続け、艶めく鱗を一枚一枚剥ぐように破壊する。
徐々にめくりとられていく、その装甲を眺めるしかない竜は、必死に攻撃を防ごうとするも、相手の方が素早く、そして一撃一撃が強かった。
「おらっ! さっさとくたばれ!! ×××! ×××!」
森の主を一方的に痛めつける声が響くも、そこに割って入る者など居るはずもない。
竜の配下の魔物はすでに、この一人の人間によって殲滅されていたのだから。
「×××!!」
◆ ◇ ◆
「待って? マジで待って??」
「ん? なんや? 今からがエエトコなんやけど?」
「そうよ、石切君。水を差さないでくれる?」
二人の話を止めた俺に対し、武勇伝を語るトンさんと、インタビュアーの愛理さんは、俺を空気の読めない奴だと言いたげな目で見てくる。
しかし、記録を取っている俺にしてみれば、ホントに勘弁してほしい事態なのだが……。
「いやいや二人とも、ホントにちょっと待ってほしい。
チャットログが×××で埋まるって何事だよ!?」
「え? ワイはいつも通りの狩りを、嘘偽りなく語ってるだけやで?」
「そうよ。それに×××程度が禁止ワードなわけ……。
ホンマや! ×××だらけやん!」
「愛理さん、口調移ってます」
チャットログを開き、今までの会話を確認した彼女は、やっと今の事態を理解したようだ。
「え? ×××って禁止ワードなん? ホンマに?」
「そうだったみたい。私も言われるまで気づかなかったよ。
どうしよう、これじゃあインタビュー記事載せれないね」
「ほんなら、×××を×××にするとかでどうや?」
「×××ならいけるかな? 他にも×××は×××とか?」
「せやな、あとは×××を×××にして、他にもあかんのあったか?」
「いやいや待て待て!! ×××が増えてるだけじゃねーか!?」
「「え? ほんまや!!」」
二人の言葉が重なった。そして二人のボケが重ねられ続けた俺の疲労も、同じく積み重なってゆく。
ゲームの広報にと、超上級者のインタビュー記事を書くことになったのに、これじゃあどうやっても載せられるものにはなりそうもない……。
まったく、愛理さんはこの調子だし、今回の企画はこのままお流れになりそうだな……。
そう思いため息をつく俺の前に、湯気だつ紅茶が差し出された。
「粗茶ですが……」
「あ、ありがとうございます」
メイドさんの格好をした、赤髪の可愛らしい女の子がそこには立っていた。
武勇伝を語る超上級プレイヤー(口の悪さも超上級)の彼女とは思えぬ、しおらしさを感じる子だ。
彼女は×××で盛り上がる二人にも紅茶を出し、静かに彼氏の隣へと座った。
まあ、二人ともゲーム内で付き合ってるだけで、現実では、会ったこともないかもしれないんだけど。
「まーちゃん、ありがとな」
「いえ……。インタビューは、順調ですか?」
「んー。それがね、×××が禁止ワードでどうしようって話してたところなの」
「せやねん。まーちゃん、なんか代わりになるええ言葉ないやろか?」
「えぇ……」
二人は容赦なく、可愛い女の子に禁止ワードの改善案を考えさせている。
なんかもう、絵面が不良に囲まれた不憫な子だ。
「二人とも、いいかげんに……」
「×××、とかどうですか?」
「「「…………」」」
可愛い顔をした彼女から発せられた言葉に、この場の時は止まった。
俺も、一体何を聞かせられたのかわからず硬直する。
それはまさに、狩られる竜と同じ状況だったのかもしれない。
いやいや、そうじゃない。俺は俺の仕事をしないと!!
「お前もそっち側かーーー!!」
ん? 俺の仕事ってツッコミ入れることだっけ?