表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/10

1、はじまりの歌

場面転換と登場人物が、ころころ変わるので、長編にして、わかりやすくしてみました。

長さは少し長い、短編といったところです。


後書きは、話の最後のみ。


今回の案の良し悪しがわかることが、次の作品の発想につながり、大変助かりますので、ぜひ、


・良いと思ったらブックマーク

・このぐらいの作品だなという気持ちで、ページ一番下の★★★の評価

・ここが良いよ!作者さん!な感想、レビュー


をよろしくお願いいたします。

 曲を作ることは、俺にとっての人付き合いだったのかもしれない。




 母親が「あんた、小さいころ『ピーマン食べられないから残したい』っていう歌つくったからね。歌にするほうが面倒くさいと思うけどさあ」と笑っていた。




 小学生のとき、親父に打ち込みの方法を教えてもらって、数カ月後に初めてオリジナル曲を作った。機械音声に歌わせてネットにアップしたら、そこそこバズった。




 中学生になっても、曲は作り続けた。


 ファンと呼べる人たちが増えてきて、毎日のようにメッセージが届いた。


「元気が出ます」とか「生きてていいんだ、って思えました」とか、そんなことを言われて、多少戸惑いもしたけど、少し嬉しかったのも事実だった。




 高校一年も終わろうとしたときに、大手のレーベルから「デビュー予定の女性ボーカリストに楽曲提供をしてもらえないか」と打診があり、親を驚かせた。というかレーベルの社員も、俺の年齢に驚いていた。




 高校二年に上がるころには具体的な話がすすみ、なぜか俺と女性ボーカルとで音楽ユニットを組んでデビューすることになったが、俺は顔を隠すことになった。


 世間に正体をバラさないこと。それなら音楽活動でお金を稼いでも良しーーこれは母親が出した条件。


 俺は顔が出ようが出まいが、どちらでもよかった。ただ、自分のもとに相変わらず送られてくるメッセージに、すこしでも応えたいと思ったのだ。




「勉強の合間に聞いてます」とか。


「悲しいこと、忘れられます」とか。


「次の曲がでるまでは、なんとか、がんばってみます」とか。




 そんなことを言われると、感情表現があまり得意ではない俺でも、なんだかはしゃぎたくなってくる。


 そんなことを伝えてくれる人たちに、こちらこそ感謝を伝えたくなってくる。




暗ineクライネ」と名付けられた音楽ユニット。


 正体はアンノウン。


 ジャケットにうつるボーカルのクーラはシュールなウサギの仮面で顔を隠し、楽曲提供者のイネはフードを被り下を向き陰影で顔バレを防ぐ。




 ちなみにイネってのは俺のこと。


 名前が「稲瀬潤いなせじゅん」だから、イネ。がっかりだろ?


 でも初ミニアルバムはヒットした。


 購入者だけが応募できる、プレミアム・プライベートコンサート五十名のみご招待の抽選には数万人の応募があったらしい。




 俺は嬉しかった。


 初めて、俺の曲を聞く人間の顔が見れるからさ。




 母さんとの約束もあったので、念の為、ステージに上がるのはクーラだけとなった。


 音響もスタッフさんに任せて、俺はそれっぽいビデオメッセージだけを残し、それ以外は袖から観客席を見ているだけ。




 会場は小さな箱だ。


 宝石箱みたいだった。


 五十人の観客が、目で、耳で、クーラの声帯が発する振動を、全身で受け止めていた。


 俺は感動して、一人一人の顔を目に焼き付けようと頑張った――で、三十九人目。俺はソイツを見つけたんだ。




 女子高校生だった。


 普通、こういうところって私服でくると思うんだけど、そいつは学生服をきていた。




 目を輝かせて、本当に真剣に曲に向き合っていた。


 俺の伝えたい思いの全てを、全身で受け止めようとしているみたいだった。


 いつも他人に見せている、氷みたいにクールな部分はどこにも見当たらなかった。




 ――そう。




 俺はそいつの普段の姿を知っていた。


 その女子高校生は、普段、俺が通っている高校の――隣の席に座っている女子だったからだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ