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第9話 〈武具屋!!〉

 

「遠かったね〜。レイムズお疲れ様」


「道中、怪鳥に襲われて危なかったな……てか寒っ! そういや俺フーバスタン帝国来るの初めてだわ。こんなに気候がアンセムと違うのか……」



 俺とアンナは竜着場にてパージとレイムズを繋ぎながら、自由国家アンセムとは違い、何処か寒々しく物々しい、そんな雰囲気のあるフーバスタン帝国の帝都メストに圧倒されていた。


 フーバスタン帝国は、北大陸の中でも北部にあるため、先日までいた自由国家アンセムに比べたらかなり寒い。



 そしてその寒さに拍車をかけるのが、この帝都の街並みだ。


 敵国や魔物からの攻撃を想定しているのだろうか?

 目につくのは帝都メストをグルリと囲む、高く分厚い防壁。

 その防壁の上には兵の姿も多く見える。



 そして街の建物一つ一つも燃えにくい石や煉瓦造りで、窓も小さめに作ってある。

 敵が一気に攻め込めないように工夫してあるのか、道は狭く入り組んでいる。


 流石にメインストリートになる大通りの道幅は狭くないが、ハウンドッグ王国の王都フォルテッシモのように一直線ではなくカーブを描いていて、街路樹なんかも不均等に配置されている。

 そして何処を見渡しても兵隊の姿が見える。



 聞いた話によればフーバスタン帝国は徴兵制を採用していて、正規兵以外の国民は数年間の徴兵義務があるらしい。


 街の全てが中心にある皇帝が住まう王城を守るために設計された街は、飛竜に乗って空から近づいて来た時は、帝都丸ごとが巨大な要塞に見えた。


 そんな独自に戦う力のある国だからこそ、大陸同盟(ジャスティス)に加入せず単独で魔王軍と渡り合って来られたのだろう。



「なぁアンナ……ここって普通に入国していい国なの?」


「私も来るのは初めてですけど〜、問題ないはずですよ」


 昔は国境を固く閉ざしており、入国が世界一難しい国と言われていたが、今は入出国は自由になっているらしい。


 その一番の要因となったのが、勇者の出現だ。

 俺たちに魔王討伐を横取りされてしまった形になる勇者とパーティーの仲間は、全員ここフーバスタン帝国の生まれだ。

 俺は幼かったから覚えていないが、ある一人の男の子に『星見の儀』で勇者の才能が確認された時は世界中で大ニュースになり、それだけで魔王軍に勝利したかのような大騒ぎになったらしい。


 そして勇者が成長し活躍を始めた頃に国境を開いたはず。



「よく考えたらこの国の人達にとって俺達って、勇者の手柄を横取りした、親の仇のような存在なんじゃないか?」



 アンナはハハと苦笑いしながら、


「さすがにそこまでは無いと思いますけど……あまり快くは思われてないかも……」


 冒険者カードの名前が偽装されている事に安堵する。


 ありがとう女神インティーナ様。

 秋になり高くなり始めた青空に感謝の念を捧げると、ふと女神インティーナ様が微笑んだような気がしたが、気のせいだろう。



「でもそんな国だからこそ、私達の顔が知られていないわけですし……」


「だな」


 お陰で街中や冒険者ギルドで顔を隠さなくてすむし、レベル上げなんかも捗るだろう。



「とにかく今日は宿で体を休めて、明日の朝イチで冒険者ギルドに行ってみよう」


 その日は長旅の疲れを癒すため、宿に部屋をとって身体を休める事にした。


 夕食は寒い北国だけあって煮込み料理が多いが、その中でも俺が気に入ったのが、色々な野菜や魚を練った物、ソーセージなどをスープで煮込んだオ・デンと呼ばれる郷土料理だ。

 夜は特に冷える北国だけあって、よく煮込まれた熱々の具材が身体を芯から温めてくれる。



 アンナはビールを片手にひたすら揚げ物を食べていた。

 飲酒は法律で問題ないから構わないのだが、聖職者だったアンナが……神官の頃は俺たちが飲んでいても酒を一切飲まなかったアンナが……神官と言う枷が外れ盗賊(シーフ)になった途端コレでは、世も末である。


 その日は飲んだくれに遅くまで付き合わされたのだった。



 次の日。


「うう……頭痛いです〜」


「そりゃあんなに飲めば二日酔いにもなるさ。〈状態異常治癒(リフレ)〉使えよ?」


「うう……アッシュさんの意地悪〜。魔法が使えないのわかってて言ってるでしょ!?」


「アレ? 盗賊(シーフ)って魔法使えるだろ!?」


「使えますけど、レベル1じゃ使えませんよ。それに〈状態異常治癒(リフレ)はどのみち使えませ〜ん」


 自分の声が頭に響くのだろう。

 アンナはこめかみを手で押さえながら喋っている。



「思ったんだけどさぁ……アンナいつまでその神官のローブで戦うの? 防具は変えないのか?」


 アンナは頭痛で顔をしかめながら答える。



「アッシュさんこそ、魔導士用のローブとマントじゃないですか〜?」


「バカヤロー!」


「うわぁ! 大きい声出さないで下さいよ〜」


「この漆黒のマントと真紅のローブは、俺のトレードマークだろうが!? しかもよく見ろ! ちゃんとハーフメイルも装備してるだろ!?」


「あ、ほんとだ」


「アンナの防具買いに行くぞ」


 そう言って俺は、武具屋に行く前に道具屋に寄り、二日酔いに効く薬を買ってアンナに飲ませてから武具屋へ行った。



「えへへ」


 なんだ気持ち悪い。



「アッシュさんて、ふとした優しさありますよね」


「薬が効いたようで何よりだ」


「照れちゃって〜」


「お前が二日酔いのままだと俺が困るからだよ。オラ、早く防具選びな」


 そうですね〜とアンナが店内を物色している。

 初めて来た店では、店員に聞いた方が手っ取り早いので俺が店主に声をかける。



「すいませーん」


「おう、らっしゃい」


 ん?

 どこか既視感を覚える光景だ。



盗賊(シーフ)用の軽くて丈夫な防具が欲しい。お勧めはある?」


「そっちの嬢ちゃんのかい?」


 俺が肯定すると、ニヤリと笑った店主が少し待ってろと言い、バックヤードに消えて行った。


 なんだか見覚えのある光景だ。



「ねえねえ、アッシュさん……あの人、アンセムで私達が武器買った店の店主にソックリじゃないですか!?」


 言われて見れば、確かにあの商売上手に似ている。



「オヤッサン……」


「誰がオヤッサンだ」


 出てきた店主に聞かれてしまった。



「ほらよ、コイツを試してみな。黒竜の皮で出来たハーフレザーメイルだ。防御力は折り紙付きだし何より軽いぜ?」


「わぁぁ! 盗賊(シーフ)っぽくて良いですね〜」


 受け取ったアンナが試着室に入る。



「時に店主……アンセムに親族がいないか?」


 あまりにもオヤッサンに似過ぎている。



「……なんだ、兄貴の知り合いか?」


 やっぱり。



「俺達アンセムでお世話になって……」


「そうだったのか。双子の兄貴のお得意さんと来たら、サービスしなくちゃな」


 双子の兄弟のお得意さんと聞いて、オヤッサンの顔が自然と緩む。



「お待たせしました〜」


「アンナ聞けよ。このオヤッサン、あのオヤッサンの双子の弟だってよ!」


「えーっと……どっちのオヤッサンが双子のオヤッサン!?」


 アンナは混乱した。



「このオヤッサン……紛らわしいからオヤッサンその2な。オヤッサンその2はオヤッサンの弟なんだってさ」


「???」


 アンナはますます混乱した。



「誰がその2だ、誰が! それよりも嬢ちゃん、似合ってるじゃねーか」


 ふむ、確かに盗賊(シーフ)風味が出たな。

 俺はアンナに親指を立てる。



「ですよね!? いかにも盗賊(シーフ)っぽくて良いですよね。後はこのレザーメイルの下に着る服ですが……」


「それくらいサービスしてやるから、好きなの持ってけ!」


「オヤッサンその2!」

「ありがとうオヤッサンその2!」


「お前らワザとやってるだろう」


 オヤッサンその2は呆れ顔だ。



「それはそうと、お前ら金はあるんだろうな? あのレザーメイル、正直高いぞ?」


 俺達が金を持ってなさそうに見えたのか、アンナが着替えに行っている間に、オヤッサンその2が心配そうに言ってきた。



「心配するなオヤッサンその2。俺たちは金なら持っている。あのレザーメイルは幾らだ? 俺が払っておこう」


 俺たちは冒険者として旅をしながら高難度クエストをクリアしてお金をかなり稼いでいた。

 魔王討伐の報酬も大陸同盟(ジャスティス)から立ちくらみがするほど貰えたし、名誉男爵として領地運営までしている俺たちに金銭的な死角はない。



「この金額ポンと払うなんてお前たち何者なんだよ……まあ払う物払ってもらえりゃ何者でもいいんだがよ……」


「俺たちの正体は知らない方がいいぞ……なんてな」


「これに決めました〜」


 全身を盗賊(シーフ)スタイルで固めたアンナが嬉しそうに走ってきた。

 着ていた神官用のローブは一応持って帰るそうだ。



「オヤッサンその2、世話になった」

「素敵な装備ありがとうございました、オヤッサンその2」


「毎度」


 オヤッサンその2は俺達の相手に疲れたのか、犬を追い払うかのように、手でシッシッとやっている。



「フーバスタンにいる間は、世話になるぞ。では!」

「また来ます〜」


 こうしてアンナの新装備を手に入れた俺達は、ようやく冒険者ギルドに向かったのだった。

 その道中、アンナがガラスに向かって、ご機嫌カーテシーをした事は言うまでもない。


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