第7話 〈初クエスト!!〉
パーティーを組んで、クエストを受ける事にした俺と【聖女】アンナは、受注するクエストを選ぶ為にクエストボードの前にいた。
こんなに真剣にクエストを選ぶのは、いつぶりだろうか?
なんだかアンナも真剣に選んでいる気がする。
「どうぞアッシュさん、お好きなクエストを選んで下さい」
「何言ってんだよアンナ。アンナが好きなの選べよ」
俺は転職して、レベルが1になって弱くなってるから、出来れば強いアンナにクエストを達成してもらいたい。
そこそこの難度のクエストからは、魔物が出てきたらアンナに倒して貰わないと俺は死んでしまう。
まぁ仮に死んだとしても、アンナの蘇生魔法ですぐ蘇れるんだけど。
「う〜ん、そうですねぇ……こういうのはいつもミレーヌちゃんやカイ君が選んでくれてたから……」
アイツら脳筋組は何も考えずに報酬の額で選んだりするからな、何度危ない目に遭った事か……。
「やっぱりアッシュさんが選んで下さい!」
まあアンナは優柔不断なとこあるから仕方ないか。
……だが、いざ俺が選ぶとなると難しいな。
アンナはオフェンス面は俺の魔法に頼ろうとするだろう……だが、俺はもう魔法が使えない。
いや、昔取った杵柄とかで、よしんば魔法が使えたとしても、高難度クエストに出てくるような魔物を倒せる魔法は無理だろう。
そうなると、やはり魔物はアンナに倒してもらわねばならん。
今の俺に倒せる程度の魔物しか出ない超低難度クエストを選んだりしたら、いくら能天気なアンナでも怪しむだろう。
しかし、高難度のクエストを選んで、強い魔物が出てきて、『アッシュさん、お願いします!』なんて言われた日には目も当てられん。
どうする……どうするのが正解なんだ?
「ま、まずはC難度クエストなんかで肩慣らしするか? ほら、前衛職のミレーヌやカイがいないことだし……」
さすがに理由が少し苦しいか?
「うーん……そうですね。私達だからって絶対高難度クエストを受注しなきゃイケナイわけじゃないですもんね!」
アンナの笑顔が眩しすぎてツライ……後ろめたさがあると【聖女】の笑顔はメンタルを削ってくるのか。
とにかくこれで高難度クエストは避ける事ができた。
出てきた魔物はアンナに倒させて、パワーレベリングを密かに遂行しよう。
「じゃあ、これにするぞ?」
そう言って俺が勢いよくクエストボードから剥がしたのは、C難度のファットモスの狩猟だ。
このファットモスと言う魔物は、食用に向いた大きいイノブタなんだが、気性はとても大人しく危ない魔物では無い。
ただ体が分厚い脂肪に守られていて、耐久力が高くなかなか倒せない事で有名な魔物だ。
とにかく打撃はほぼ効かない。
これで俺のハンマー攻撃が効かない言い訳にもなるだろう。
ていうか今の俺のレベルでは、例え剣を持っていてもまるで歯が立たない相手だ。
俺は剥がした依頼書を、受付に渡しクエストの受注手続きをする。
誰が受注したかを冒険者ギルドが把握しておく為に、冒険者カードの提出も義務となっている。
俺とアンナの手続きが終わり冒険者カードが返却される。
「では、気をつけていってらっしゃいませ」
受付の女性職員に笑顔で送りだされるが、ふと違和感を感じる。
俺は冒険者カードの名前が変わっているからまだしも、【聖女】アンナ・フランシェスカが居るというのに何も言われなかったな……。
妙な違和感を感じつつ俺とアンナは竜着場に向かう。
「クルル〜」
俺の愛飛竜パージも、久しぶりにアンナに会えて嬉しそうだ。
アンナの飛竜レイムズも俺に頭を擦り付けてくる。
流石に戦闘に加わったりはしないが、飛竜がいなければ俺達の以前の旅が成功していたはずもなく、パージやレイムズなどの飛竜も、俺達の大切な仲間だ。
「行くぞ! 第二の冒険の始まりだ!」
俺とアンナの飛竜が、大地を蹴って飛び上がる。
飛び上がった勢いそのままに、大きな翼を上下に動かし空へと舞い上がる。
ある程度の高度まで上昇したら、風をつかまえて目的地のボーヤノ平原を目指す。
ミレーヌの領地からなら30分も飛べば着くだろう。
「わりと近かったな」
パージから降りて、尻を軽く叩いてやる。
そうすると勝手の分かっている愛飛竜パージは、その場で身体を休め始めた。
この場合パージは、俺が呼んだ時にスグに駆けつけてこられる距離にいれば何をしていても構わない。
飛んでいようが、水を飲んでいようが寝ていようが自由だ。
アンナも同じようにレイムズの尻を叩いて自由にしている。
「さて、まずは索敵だが……アソコにいるな」
「い、行きましょう」
音を出来るだけ立てずに近づいて行く。
近くで見ると、ただでさえ大きいファットモスの中でもかなり大きい個体のようだ。
おそらく体長3メートル、体幅1.5メートル、体高は2メートル近くはある大きな個体だ。
コイツからならかなりの人数分の肉がとれそうだ。
俺はマントの中にしまっていた新武器、星屑ハンマーを構える。
その様子を見て慌てたのは【聖女】アンナだ。
「アッシュさん! アッシュさん! なんでハンマーなんて構えてるんですか!?」
今までお互い後衛組として頑張って来た俺とアンナだ。
互いの事は勝手知ったるもので、俺の武器がいつもの杖と違うことにすぐ気付いた。
「……これからは後衛の非力な魔導士も、雑魚相手くらい自分の力で戦えた方がいいと思ってな」
「そう……何ですか……」
ターゲットのファットモスは、俺達に気が付いているが歯牙にもかけず平原に生える植物を食べている。
「そい!」
俺は掛け声と共にファットモスに殴りがかかったが、ファットモス自慢の脂肪の鎧に、打撃の威力を全て吸収されてしまう。
「そい! ちぇあ! そりゃ!」
ダムッ! バスッ! ドスン!
鈍い打撃音がボーヤノ平原に響き渡る。
何度もハンマーで殴りかかるのは、ファットモスに打撃が効かない事を、よりアンナに印象付けるためだ。
「ダメだアンナ! ハンマーじゃダメージが通らない! 聖属性の攻撃魔法を頼む!」
そう叫びながら後ろを振り返った俺の目に、衝撃的な光景が飛び込んできた。
なんと神官のアンナが短剣を構えていたのだ。
アンナの短剣を構える手はブルブルと震えている。
「何やってんだアンナ! なんで短剣なんか持ってんだよ!? 早く魔法を!」
早くしないと、いくら温厚なファットモスもそろそろ反撃してくるだろう。
「き、きええぇぇぇぇぇぇ!!」
「ふぁ!?」
何故か短刀を握りしめたアンナが、奇声を上げながらファットモスに斬りかかる!
バイーン。
アンナの短剣はあえなく脂肪の鎧に弾かれてしまった。
「何やってんだよ!?」
「う、うえーーん。アッシュさんが魔法撃って下さ〜い」
────いっ!? 泣き出しやがった!
困った! しかも俺は魔法が使えない。
とにかく今は攻撃するしかない。
俺がハンマーで叩けば、アンナが短剣で斬りつけるを繰り返すが、ファットモスはほぼノーダメージだ。
「どうなってるんですかぁ?」
「それはこっちのセリフだっつーの!!」
「ブモオォォーーー!!」
大人しくて有名なフアットモスがついに怒った。
このままでは二人とも危ない。
「仕方ない……スキル【みなぎる力】!!」
奥の手であるスキル【みなぎる力】を使い、なけなしの魔力を攻撃力に変換する。
「これで……どうだぁぁ!! 頼むぞ星屑ハンマー!」
スキルにより魔力が膂力に変換されて、渾身の一撃が繰り出された。
バイーン。
俺の奥の手も、あえなく脂肪の鎧に阻まれる。
オヤッサン、話が違うぜ!
「に、にげろーーー!!」
俺は振り返るとアンナの手を引き一目散に逃げ出した。
後ろには怒り狂うファットモスが地面を掻いている音が聞こえる。
「ピィーーー!」
俺は指笛を吹き愛飛竜パージを呼ぶ。
主人の呼び掛けにパージが颯爽と駆けつける。
どうやらレイムズも一緒に飛んで来てくれたようだ。
俺とアンナは各々飛竜に飛び乗り、難を逃れた。
「はぁっ、はぁっ、はあっ……」
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ……」
足下に広がる平原を見ると、怒り狂ったファットモスが所構わず体当たりをかましている。
パージ達がすぐさま駆けつけてくれなければ、俺達もあの体当たりの餌食となっていただろう。
「と、とりあえず……はあっ、はあっ……冒険者ギルドに戻るか……」
「そ、そうですね……ひぃっ、ひいっ……このクエストは失敗申請しましょう」
「話し合う必要があるな……」
「そう……ですね……」
俺とアンナは無言でアンナの領地に戻り、冒険者ギルドの受付にクエストの失敗申請をして、俺とアンナパーティーの初クエストは残念ながら失敗に終わったのだった。
【C】ランククエスト
『ボーヤノ平原でファットモスの狩猟』──失敗
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