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第38話 〈剣技!!〉

 

 お前に……お前に勝算はあるのか、ミレーヌ!?



 今、俺とアンナは家の庭で聖剣を構えた勇者モニカとミレーヌの地稽古が始まるのを固唾を飲んで見守っていた。



「アッシュさん、アッシュさん……ミレーヌちゃん大丈夫なんでしょうか?」


「さあな……さっき聞いた時は策があるみたいな事を言っていたが……バリボリ」


 うん、今日もセンベーが美味い。



「もう緊張感が台無しですよ〜」


 そう言いながらアンナも俺のセンベーに手を伸ばす。



 睨み合うモニカ、ミレーヌのその手には聖剣が握られている。

 モニカは聖剣レイア・ムロー。

 ミレーヌは聖剣ノアブライト。

 世界二大聖剣と呼ばれる伝説の武器で、防具無しの打ち合いが始まろうとしていた。




「……行くわよ」


 ────ゴクリ。


 モニカがレイア・ムローを構える。

 正眼の構えと呼ばれる中段の構えだ。


 それに対してミレーヌはノアブライトを八相の構えと呼ばれる上段に構えた。

 二人とも誰かに学んだ経験はない。

 己の才覚と弛まぬ努力で辿り着いた剣術だ。



「フ……相変わらず全くスキがない。いや……スキだらけとも言える」


 お、おお! モニカが躊躇してるぞ!

 ミレーヌの奴、昔とった杵柄と言うやつで構えだけでハッタリかましてやがる。

 もしかしてこれがミレーヌの言う策なのか?

 でも稽古である以上、スキが無くても打ち込んできそうなものだが……。



「それでも!」


 モニカが動くぞミレーヌ!

 一体どう対処するって言うんだ!? バリボリ。



 モニカが地面を蹴り、その姿がブレて見えた瞬間に甲高い音が庭に響いた。


 ガキィィィィン───!!



「キャア!!」


「なに!?」


 一合打ちあっただけで、聖剣ノアブライトが弾かれミレーヌが吹き飛ばされてしまった。

 思いもよらない事態にモニカも困惑している。

 いくらミレーヌの力のパラメータがSSでも力だけでは防ぎきれなかったようだ。



「なぜこの程度で倒れている、ミレーヌ!」


 その言葉に怒りの感情が混じっている。



「う……く……」


 ミレーヌはたったの一撃で、相当なダメージを受けているようだ。

 モニカと今のミレーヌのレベル差を考えれば仕方ない事だろう。

 よく即死しなかったものだ、モニカが本気なら間違いなく死んでいた。



「立て! 私をガッカリさせるな!!」


「……好き勝手言ってるんじゃないわよ……勝負は……これからよ」


 そう言ってミレーヌは腰につけたポーチから砂時計を取り出した。



「オイ、まさか……バリボリ」

「ミ、ミレーヌちゃん!? ボリボリ」


 ミレーヌは一瞬の迷いも見せずに砂時計を反転させた。


 ────カラン。



 あのヤロー……まさか【目覚める力】を使うとは……こんなしょうもない理由で奥の手を使う奴があるか!

 一度使った俺とアンナの砂時計は、未だに使える状態になっていないんだぞ!?

 ボリボリ……この状況を切り抜けたらミレーヌは説教だな。



 ミレーヌの策とは、まさかの【目覚める力】の事だった。

【目覚める力】を使うために、あえてダメージを受けたのだ。


 ミレーヌのダメージがみるみる回復していき、のそりと立ち上がったミレーヌがニヤリと不敵に笑う。

 その姿を見たモニカは、ただならぬ気配に聖剣レイア・ムローを構え直す。



 ダン!!


 と、弾ける音と共にミレーヌが一瞬で弾き飛ばされた聖剣ノアブライトを拾い、そのままの勢いでモニカに打ち込んだ。



「久しぶりに剣を握ったものだから……ここからよ」


「……望むところだ!」


 聖剣と聖剣の鍔迫り合いで火花が飛び散る。

 二人の剣気に当てられ、飛竜達やクッキーが怯えているのが分かる。

 だがその中で何故かマオだけは嬉しそうに飛び跳ねていた。


「マオ、マオ、マオー!」



 ガィン、ガィン、ギィン!


 二人が激しく剣を打ち合う。

【目覚める力】によって剣士に戻ったミレーヌはやはり強い。

 とかく器用貧乏と揶揄されがちな勇者と比べ、剣士として剣の腕だけを磨いてきたミレーヌとでは、僅かではあるがミレーヌの方が剣の力量は上のようだ。



「くっ….相変わらずの腕だなミレーヌ!」


「ふふ……アナタも腕を上げたものね」



 二人は目で追えないほどの速さで剣を交えている。



「ボリボリ、おいし……アッシュさん、さすがミレーヌちゃんですね! モニカちゃんを押してるように見えます」


「ああ。あの勇者と互角に打ち合えるだけで大したもんだ……ただ……ボリボリ」


【目覚める力】は短時間しか保たない……一気に押し切らないと結局はお前の負けだぞ、ミレーヌ。


 そんな俺の心配がミレーヌに届いたかのように、ミレーヌはモニカから距離をとった。

 剣は全くの素人の俺やアンナにも分かるほどの剣気が練られていく。

 そしてモニカもそれに一早く反応して剣気を練り上げていた。



「ごっくん。オイオイオイオイ……」

「ごっくん。まさかこんな場所で?」


 モニカとミレーヌはお互い必殺技とも言える剣技を放とうとしていたのだ。



「お前ら! こんな所で剣技なんて使ったら家が吹き飛ぶぞ!!」


「そうですよ〜! 二人が剣技を使うには家の庭は狭すぎます〜!!」


 俺とアンナはセンベーを食べる事も忘れて叫んでいた。



「大丈夫よ……さすがに本気じゃないわ」


「うむ……あくまで稽古なのでな。ただ怪我をしてしまったら治癒は頼むぞ、アンナ」


 急に神官として頼られてしまったアンナが、どうしようといった感じで口をパクパクさせている。

 砂時計が落ち続け【目覚める力】が使えない俺達には何も出来ることはない。

 せいぜい二人が怪我をしないように祈るだけだ。



「マオ、マオ、マオ!」


「コラ! そんなに近付くと危ないぞマオ!!」


 俺が止めるのも聞かずにマオは飛び跳ねている。



「行くわよ……剣姫一閃(コアント・ロー)!!」

「来い……聖神剣・一の太刀(オーパス・ワン)!!」


 ミレーヌの剣技、剣姫一閃(コアント・ロー)とモニカの剣技、聖神剣・一の太刀(オーパス・ワン)がぶつかり合い耳を劈く激しい衝突音が帝都に響き、ぶつかり合い逃げ場を失ったエネルギーが相殺される事なく衝撃波となり拡散される。



 ────ガタガタ、パリン、バリン。


「アンナ! 掴まれ!」

「キャーーー!」

「マ……」


 凄まじい衝撃が俺たちを襲い、危うく吹き飛ばされそうになる。

 家の窓ガラスの何枚かは耐え切れずに割れてしまった。


 衝撃が収まるのを待ち、すぐさま皆の無事を確認する。

 ミレーヌ達はもちろんアンナも怪我はない。

 クッキーや飛竜がいる竜舎に被害はなさそうだが、どこを見渡しても、至近距離にいたスライムのマオの姿が見当たらない。



「オイ、お前ら! 家の庭で何つう事しでかすんだ! 窓ガラス割れただろうが! マオも見当たらないし!」


「マオ〜、どこですか〜?」



 ミレーヌとモニカは事の重大さにようやく気づく。


「す、すまない……つい熱くなってしまった。割れたガラスは弁償させてくれ」


「そんな事よりマオは、マオはどうなったの!?」


「……多分……」


 至近距離で二人の技の衝撃波をもろに浴びたであろうマオは、多分その場で消し飛んだのだろう……耐久力も低く弱いスライムなので仕方ない。

 もしかしたら何処かに飛ばされた可能性も無くはないが……。


 技がぶつかる瞬間の激しい光で、誰もマオの最後の姿を目撃していなかった。



「そ、そんなぁ……」


 ミレーヌがその場に力なくへたり込んでしまう。



「すまない……私が稽古をしようなんて言わなければ……」


 モニカは別に悪くない。

 ミレーヌが転職(ジョブチェンジ)した事を知らなければ、モニカの立場ならミレーヌに稽古を申し出るのは仕方ないことだろう……剣の相手になるのが、剣士時代のミレーヌくらいなのだから。

 それよりも何よりも、引き受けたミレーヌが悪い。

 あまつさえ【目覚める力】なんて奥の手使いやがって……必要な時に使えなかったらどうする気だ。



「マオの事は、俺が冒険者ギルドに捜索の依頼を出しておこう。運が良ければ何処かに飛ばされただけで済んだかもしれん」


「うん……」


「とにかく!! ミレーヌちゃんもモニカちゃんも反省してください! 打ち合うのは構わないですけど、剣技を使うならサイカ草原みたいに何もない広いところでやってください! 迷惑です!!」


 アンナに叱られてシュンとなったミレーヌとモニカが、割れたガラスの掃除に連行されて行った。



 この後、俺とアンナで騒音などで迷惑をかけてしまったご近所さんに、菓子折りを持って謝りに行ったのは言うまでもない。


そしてマオは何処を探しても見つかる事はなかった……。


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