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第37話 〈不穏な噂……〉

 

「なかなか素敵な家じゃないか」


 アンナと共に飛竜ロックスで庭に降り立ったのは、勇者モニカだ。



「でしょ〜。私とミレーヌちゃんが気に入って決めたんですよ〜。あ、ロックスはこっちの竜舎に繋いでくださいね」


 ロックスを繋いだモニカが家に入ってくる。

 今は城に預けてあった純白の聖なる鎧ベルロンドと聖剣レイア・ムローを身につけている。

 聖剣レイア・ムローは、ミレーヌの持つ聖剣ノアブライトと世界二大聖剣と呼ばれる凄まじい攻撃力を持った剣だ。



「お邪魔します」


「アラ? 本当に来たのね。やっぱり勇者ってのは図々しいのね」


 コラコラ。

 オマエから誘っておいて何て言い草だ。



「済まないなミレーヌ。少しの間だけ世話になるよ」


「フン」


「モニカちゃん、こっちの部屋好きに使って下さい」


 モニカはアンナに礼を言いながら空き部屋に入っていく。

 空き部屋と言っても、急な来客に備えてベッドなどの寝具は一通り揃っているので問題はない。




 しばらくすると、鎧と剣を外し楽な格好になったモニカがリビングに下りてきた。


「気になっていたのだが、変わった色をしたスライムだな」


 モニカがミレーヌが捕獲した紫色のスライムを見て言った。



「モニカもそう思うか? 俺達も紫色なんて見た事なくてな」


「マオ、マオ、マオー!」


 急にスライムが興奮したようにモニカに体当たりをぶちかました。



「?? コレはじゃれているのか? それに……鳴くだと!?」


 もちろんモニカはノーダメージで、痛くも痒くもないはずだ。



「その子、誰彼構わず体当たりするんですよ〜。痛くないからいいですけど〜」


「いやいや、そんな事より鳴くスライムなど初めて見たぞ!? 付いてきたと言っていたな? どこにいたのだ」


 やっぱりモニカもこの異常さにスライムに興味を示したか……。



「コイツはウイジン湿原でたまたま見つけて、そのまま付いて来ちゃったんだよ」


「ウイジン湿原……懐かしいな。子供の頃よく通ったものだ。しかしこんな紫色のスライムはいなかったはずだが……」


「やっぱ新種か突然変異個体なのかな?」


「その可能性はある……一度ギルドでキチンと照会した方がいい」


 モニカは冒険者ギルドの分析官にスライムの種類を鑑定してもらった方がいいと言う。

 新種の場合、危険性や特技などをデータ化して世界中のギルドで共有するためだ。



「さっきから黙って聞いてれば、アンタ達何よ! この子にはマオって名前があるんだから!!」


 ミレーヌはマオ、マオと鳴くのでマオとスライムに名を付けたみたいだ。単純な奴め。



「それに付いて来たんじゃなくて、ほか……ガフッ」


 ムキになり捕獲した事を言いそうになったミレーヌを、ここでもアンナが肘をみぞおちに叩き込み黙らせる。


「……ほか? なんだ?」


「いいのいいの。バカはほっとけって。それよりみんなで飯でも食いに行かないか?」


「さんせ〜い!」


「そうだな。私もお腹が空いていたところだ。再会を祝おうじゃないか」


 こうして俺達は食事に出掛ける。

 いつもの食堂でもいいのだが、やはり勇者が同伴していると言う事で、個室のある少しお高めの店に行く事にした。





「では、モニカちゃんとの再会を祝して、カンパーイ!」


「「「カンパーイ!!」」」


 いつもの食堂より少しだけ気取って小洒落た料理が次々と運ばれてテーブルが賑わっていく。

 そんな小洒落た料理をいつもの調子でがっつくミレーヌ。

 パラパラと食べカスを床に落とすのも気にせず頬張り続ける。



「……ミレーヌは相変わらずの食べ方なのだな……」


「食欲失くすだろ?」


「うるはいふぁね……ほっとひなはい」

 ※うるさいわね……ほっときなさい



「見てみろ。俺の言った通りに、ミレーヌが落とした食べカスをマオが食べてるよ」


「マオ、マオ」


 床に落ちた食べカスを一生懸命身体に取り込んで吸収している。

 これはこれでお店に迷惑を掛けないので良いのかもしれない。



「モニカちゃんは休暇が終わったらどうするの?」


 アンナの質問に、モニカは急に真剣な顔つきになった。



「最近、魔王軍残党の動きが活発化しているのは把握しているな?」


「そりゃ、噂くらいは聞いてるけど……」


「先日潰したコミュニティで不穏な噂を聞いてな」


 不穏な噂?



「お前達が倒した魔王が復活するという話だ!」


「────!? バカな!!」


 あり得ない!

 魔王は俺が究極魔法を用いて、原子レベルで崩壊させてやったのだから。

 それは魔法を行使した俺が一番よく分かっている。



「アシュリーの言いたい事は分かる。お前の究極魔法で滅ぼした魔王が復活などあり得ないだろう……だが仮に、転生しているとしたらどうだ?」


 ……転生……俺の究極魔法を食らい、更にはアンナの詠唱阻害魔法を食らった上で転生魔法を使っていたと言うのか?



「考えにくい事だが、転生ならあり得ない話じゃない。ただ、転生とはそんなにスグ出来るものなのか?」


 話題が話題だけにミレーヌの手もいつの間にか止まっていた。



「普通は100年……いや1000年単位で先の話だろうよ。だが、魔王軍残党は様々な禁術を用いて転生までの時間を縮めているようなんだ」


「禁術……」


「中には魔神なる存在の力を借りる禁術もあるらしい」


 魔神……何にせよ景気の良い話ではない。



「まあ、そういった噂があるのでな。調査を兼ねて出来るだけ多くの残党を狩っていくつもりさ。雰囲気を悪くして済まなかったな、さぁ食べよう」


 そう言ってモニカが食事を再開する。



「あまり無理をしないでねモニカちゃん」


「ハッ、何言ってんのよ? この女を倒せる奴が魔王軍に残ってるわけないでしょ!? そんな奴が残ってたら真っ先に私達の所に復讐に来てるわよ」


 ミレーヌも悪態はついているがモニカの実力はやはり認めているようだ。

 苛立ちが混じっているのか、食べ方がさらに汚くなった。

 だがミレーヌの言い分はもっともで、勇者である事に胡座をかくことなく鍛錬を続けてきたモニカは、間違いなく最強の人間である。

 よほどのことがない限り心配することはない。



「次はどこに行くの?」


「次か? パーティーメンバーとも相談してからになるが、オムシアランドかジャパングか……島国に行く可能性が高いな」


「オムシアランドか。カイの奴は元気にやってんのかねえ?」


 オムシアランドとは南にある大きな島国で、【拳帝】カイの出身国だ。

 アイツも俺達のように旅をしていなければ、オムシアランドにいるはず。

 ジャパングはアンナの短剣『紅』が作られた鍛冶の技術で有名な国だ。



「もしオムシアランドに行くことになったら、カイに会いに行くとしよう」


 こうして再会を祝う食事会は少しだけ不穏な空気をになったものの、楽しく過ぎていった。

 そして、その帰り道……。



「ミレーヌ」


 口を開いたのはモニカだ。



「何よ」


「聖剣ノアブライトはどうした?」


 ────何を言うつもりだ!?



「家に置いてあるわよ。アンタだってレイア・ムロー持ってないじゃない」


「ならば明日にでも軽く打ち合わないか!?」


 そうきたか!!

 マズい……非常にマズいぞ。

 おそらくミレーヌは何も考えずに発言するから、その前に何とか止めないと……。



「せ、せっかくのお休みなんですから、買い物でもしてゆっくりしましょうよ〜」


 ナイス、アンナ!



「いや、ミレーヌと剣を交えるチャンスなど中々無いからな。お遊び程度でいい……付き合ってくれないか?」


 そりゃ稽古でもモニカと剣をまともに打ち合えるのなんて【剣聖】ミレーヌぐらいだろうけど、もうミレーヌは剣士ではないんだよ〜……。



「残念。最近の私は()()()を愛用してるのよ。剣以外も扱えた方がいいと思ってね」


 おお!

 ミレーヌのくせに中々いい言い訳だ。

 力を失くした事はボカしつつ、鞭を使っている事に不自然さを感じさせないパーフェクトに近い回答だ。



 だが俺の思いとは裏腹に、モニカはミレーヌの見せた鞭を見て何か考えているようだ。


「……もしかして……それは嬢王の鞭か!?」


「アラ? よく知ってるわね」


 しまったぁぁぁぁ!!

 元はと言えば、あの鞭はモニカが売った物だった!!

 てことはだ……間違いなく嬢王の鞭の特性も知っているはず。



「私が売った物だからな。懐かしい……とあるダンジョンで手に入れたんだが……ん? その鞭は確か魔獣使い(テイマー)に恩恵がある鞭ではなかったか?」


「そうよ! だから私が……バラモス!!」


 アンナの高速の肘が食べ物でパンパンのミレーヌの腹を打ち、ミレーヌがワケの分からない言葉を口走る。

 それにしても何度見ても惚れ惚れするような早く美しい肘打ちだ。

 もしかしたら、アンナは体術の才能があるんじゃないのか?



「た、単純に攻撃力の高い鞭がコレしか売ってなかったんだよ! それに名前をミレーヌが気に入っちゃってさ〜」


「そ、そうなんですよ〜。どうしてもこの嬢王の鞭がいいって聞かなくって〜」


「なるほどな。だが剣が使えなくなったわけではあるまい? 少しでいいんだ……明日稽古をつけてくれ」


「……少しだけよ」



 何故かミレーヌはモニカの申し出を受けた。

 何か勝算があるのだろうか……?



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