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第32話 〈手作り!!〉

 

「しかし納得出来ん!」


 俺たちはいつものようにウルダースの森に薬草採集に来ていた。



「まあまあアッシュさん。自分でどうにか出来る事じゃないですから〜」


 アンナが慣れた手つきで薬草を摘んでいく。

 まるでスキル【ぬすむ】でも使っているかのような手つきだ。



「ホンットにこう言う事に関して、アンタはしつこいわねー」


 俺のしつこさに、嫌気が差したような顔で薬草をブチブチと摘んでいるのはミレーヌだ。



 俺が納得いっていないのは、いつもの通りレベルについてだ。

 薬草採集の依頼を受けるにあたり、冒険者カードの更新をしたのだが、俺はその結果に愕然としていた。



 俺とアンナは2上がってレベル9になり、二人ともステータスに変更はないものの、アンナは新スキル【煙幕】が使えるようになっていた。


 そしてミレーヌだけレベルが4上がって15になっていた。

 ミレーヌもステータスやスキルに変更はなかった。



「五分ゴブリンとあれだけの死闘を演じたのに、たったの2レベル……」


「【目覚める力】使ってる間はノーカウントっぽいですよね〜……」


「だよな。俺も魔法でだけど、一体倒したってのにアンナと上がり幅同じだもんな」


「いやいや、私が素で一体倒したの忘れてません? 私の方が納得いってないんですけど?」


 俺はワケの分からん事を主張するアンナをシカトして、冷めた目でミレーヌを見る。



「な、何よ!? 私は【目覚める力】使わずに3体倒したんだから、レベルが上がってても不思議じゃないでしょ!?」


「おーい……私の主張は無視ですか〜?」


「とにかくだ!」


 ダンッ!! 地面を強く叩く。



「魔導士の頃は強い敵とガンガン戦ってガンガンレベル上がってたから気にならなかったけど、職業(ジョブ)毎に成長曲線が違うとしか思えん! そして戦士は晩成型なのだろう!!」


 俺の発言にアンナとミレーヌが、ヒョッとした間の抜けた顔をする。



「何当たり前の事言ってんのよ?」


「アッシュさん、それは流石に常識ですよ〜」


「へ?」


 顔が熱くなり、赤くなっているのが自分で手に取るようにわかる。



「へ〜……頭の良いアッシュでも、基本的な事で知らない事もあるのね」


「いつも私達の事、頭が悪いって馬鹿にしてるのにね〜」


 ああ、穴が入ったら飛び込んで中から蓋をして自害してしまいたい。

 アンナとミレーヌが、見たこともないくらいニヤニヤしていやがるら。



「仕方ないな〜。そんな基本的な事知らなかった残念なアッシュに、今日はご飯をご馳走してやるか!」


「そうですね〜……あ! 私達二人で残念なアッシュさんに、ご飯を作ってあげるのはどうですか!?」


 オイ、やめろ。



「そうね〜、たまにはいいわね〜。帰りに材料買って帰りましょうか」


「さんせ〜い!」


 はんたーい! 大・反・対!!

 俺は一人心の中で叫ぶ。



 ミレーヌよ思い出せ、四人で旅をしていた頃の食事当番の事を。

 俺、カイ、俺、カイ、俺、ミレーヌ、カイの順番でローテーションしていた事を忘れたのか?


 カイは料理が趣味だと公言するほどで、家庭料理などを幅広く作れ、とてもうまい。


 俺もザ・男飯と言った感じの料理になってしまうが、カイも俺の作る飯は好きだと言ってくれていた。


 そしてミレーヌ。

 いつものダメダメなミレーヌからは想像も出来ないほど料理が上手い。

 もはやプロと言っても過言では無いレベルだ。

 食べるのが好きだから、味を追い求め料理の腕も上がっていったのかもしれない。


 ただ冬マツキノコ狩りの時に七輪を持ってくる事でも分かるように、とにかく素材から何からこだわりが強く、食事当番には向かないので週に一回だけ当番を任せていた。



 ……問題はアンナだ。

 何を作らせても未知の暗黒物質(ダークマター)にしてしまう、恐ろしい手の持ち主である。


 教会や修道院なんかで炊き出しの手伝いをしていたはずなのに、全く料理が出来ない。

 料理が出来ないだけなら許せるのだが、やたらと料理を作りたがり、その度に未知の物質を生み出し続けるモンスター……それが【聖女】アンナ・フランシェスカだ。


 アンナが初めて炊き出しに参加した時に起きた、ハウンドッグ王国最悪の集団食中毒事件は、悪魔の晩餐会事件と呼ばれ、王国に衛生観念の徹底的な見直しを促した。

 この事件の原因がアンナと決まったわけではない……決まったわけではないが、参加していた以上は容疑者の一人だ。


 それなので俺、カイ、ミレーヌの間では、アンナに料理をさせないのが暗黙のルールになっていたほどだ。



 俺がそん事を考えているうちに、アンナとミレーヌは何を作るかで大いに盛り上がっている。



(ミレーヌ! ミレーヌ!)


 俺が小声でミレーヌに呼びかけるが、ミレーヌは全く気が付かない。

 知力がGになって、アンナに料理をさせるなと言う俺達パーティーの暗黙のルールを忘れてしまったのか!?


 ダメだ……帰りに整腸剤を買って帰るか……いや、こんな時こそ色付きポーションを試してみるのもいいかもしれない。

 もしかしたら解毒作用のあるポーションが見つけられるかもしれないしな!

 頼んだぞボンズ錬金術師! 俺の命はアナタの腕に掛かっている!



「薬草はこれくらいでいいですね〜」


「早く帰って買い物に行きましょう」


 アンナとミレーヌは早く帰って料理をしたい様子だ。

 帝都に戻り冒険者ギルドに薬草を納品して、アンナ達と別行動をし、俺は気が進まず重い足取りのまま、一足先に一人で家に帰った。



「ふう……何を食わされるのか不安で堪らんな。先にポーションを準備しておくか……」


 自室に行き、色付きポーションを道具入れに忍ばせておく。




 そして数十分後に、買い出しを終えたミレーヌと、悪魔の晩餐会事件の重要参考人『少女A』が帰って来た。


「ただいま」

「ただいまです〜」


 ゴクリ。

 一体コイツらは何を作るつもりなのか……。



「今日は作った事ないんだけど、ジャパング名物オシスを作ってみるわ。アンタ魚好きでしょ?」

「ジャパングの人達はオシスに目がないんですよ〜」


 魚は好きだけど、やったぜ! とはならないのが残念。

 ただでさえ、『容疑者A』がキッチンに立っているという事実だけで、オシスとやらが悪意の無い毒物に変わりかねないのに、何故作った事のない料理に挑戦するのか……理解に苦しむぜ。



「お、俺そんなに腹減ってないからさ……無理して作らなくていいぜ?」


 無駄だと思うが牽制してみる。



「大丈夫ですよ〜。オシスは一口サイズなんで、食べる量の調整が簡単なんですよ〜?」


「それに初挑戦だから時間も少し掛かると思うから、出来上がる頃にはお腹も空いてくるんじゃない?」


「あ……そ、そうかな?」


「アッシュとアンナには命を救ってもらったわけだし、お礼だと思ってゆっくりしてて」


 お? 作るのはミレーヌだけなのか!?



「私も手伝いますよ〜、ミレーヌちゃ〜ん」


 はい、死んだ〜! 俺死んだ〜!

 しかしオシスとは一体どんな食べ物なのか……。



「オシス? オシスはライスをビネガーと砂糖や塩なんかと混ぜて、生魚の切り身を乗せて一口大に握った料理よ」


「生魚? 切り身には手は加えないのか?」


「手を加えるのはライスだけで、"握り"に技術がいるらしいわ。まあ、何とかなるでしょ」


「魚も寝かせて熟成させたりとか色々本当はあるんですけど、今日の今日でしかも素人がそこまで出来ないですからね〜」


 キ、キターー!

 普通なら、生魚なんて食えるか〜!! ってなるところだが、今の状況からだと『容疑者A』が手を加える事のない生魚の方が、はるかに安全な食べ物だと断言できる。


 しかしアンナはオシスに詳しいな。



「じゃあ準備出来たら呼ぶから、自分の部屋で待ってて」


「? 自室で? ここじゃダメなのか?」


「いろいろと準備があるんですよ〜。さぁ邪魔者は行った行った」



 こうして俺は一抹の不安を覚えながら自室へと追いやられた。



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