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第25話 〈オ・デン!!〉

 

 武具屋でアンナの短剣『(くれない)』を買った日。

 俺達はミレーヌと合流して、冒険者ギルドに併設されているいつもの食堂に来ていた。



「解せぬ」


「もう……まだ言ってるの? 仕方ないじゃないの」


「そうですよ、アッシュさん。私も納得はしてませんけど、一緒に頑張りましょうよ〜」


「アンナまで、そう言う事言ってー」


「持つ者には、持たざる者の気持ちなんて、わかりっこないですよ〜」


 

俺たちが何について話しているかというと、レベルについてだ。

 食事の前に冒険者カードの更新をしたのだが、その結果に俺とアンナは納得が出来ないでいた。


 俺とアンナはレベルが7にまで成長していた。

 このレベルになってくると、その辺を歩いている町人よりは強くなったかもしれない。

 だが、納得がいかないのはミレーヌのレベルだ。

 ミレーヌはレベルが11にまで上がっていたのだ。


 ステータスについては誰も変化がなかったのだが、ランクに変化がないだけで、数値的なパラメータはレベルが上がった分だけ上昇しているだろう。



「なんでお前だけ4も上がってるんだよ!」


 俺の怒りは冷める事を知らない。



「しつこいわね〜。私がベルト・紺ベアー倒したからじゃないの!?」


「全員で戦ってたろうが!? 何でお前だけレベルが大幅に上がるんだよ!?」


「うっざ。しつこい男はモテないわよ」


 食い下がる俺にミレーヌは嫌気がさして、違うアプローチで話を変えようとする。



「モテなくて結構。見た目は良いのに、残念なオツムと地獄のように汚い食べ方で、異性にドン引きされてる元剣士様は誰だったかな〜?」


「アッタマ来た! 表出なさいよ!」


「上等だオラァ! 戦士の力思い知らせてやんよぉ!!」


「2人とも言い過ぎですよ〜。アッシュさんもミレーヌちゃんも落ち着いてください」


 アンナは、ここまで話が拗れてくると、どちらの味方にもつけず一人オロオロとしている。



「アンナ、ここまで来たら誰にも止められないわ」


 そう言ってミレーヌが席を立ちギルドを出て行く。

 俺は続いて出て行くフリをして席に座る。



「さてと……汚い食べ方のバカもいなくなったし飯にするか」


 俺はミレーヌだけを外に追い払うつもりで、自分はハナから席を立つつもりが無かったのだ。



「え、ええ〜〜〜!? いくら何でもヒドくないですか〜?」


 アンナが騙されたミレーヌに同情し出した。



「いいのいいの。冒険者たる者いついかなる時でも思慮深くないとね。簡単に相手の挑発に乗るなんてもってのほかさ」


「それはそうですけど〜」


「お待たせしました〜」


 困惑しているアンナのもとへ注文した料理が運ばれてきた。



「……冷めちゃってもあれですし、食べましょうか」


 アンナも開き直ったようだ。



 俺が頼んだのは、冬マツキノコ入りの熱々のオ・デンだ。

 寒くなってきたので、美味さがより際立ってきた。

 アンナが頼んだのは、これまた冬マツキノコ入りの餡掛け焼き麺だ。

 茹でた麺をさらに炒め、その上に餡状のスープで絡めた野菜炒めを乗せるという、これまた熱々の一品だ。



 アンナ主導のいつもの挨拶をしてから、食事を始める。

 そしていざ一口目を食べようかと言う時に、()が戻ってきた。



「チョット! アンタ達何で外に来ないのよ!? あの流れでよく普通に食事しようと思えるわね?」


 食事を邪魔された俺とアンナがため息をつく。



「そりゃ邪魔者がいなくなれば、飯くらい食うだろ」


「アッシュさん……そう言ういい方は……」


「アンタねぇ!」


「分かった分かった。俺が悪かった、謝るよ。お前の頼んだ冬マツキノコ入りの釜炊きライスはまだ来てないからさ……俺のオ・デン少し分けてやるから座れよ」


「え? 本当? いいの? 悪いわね」


 料理を分けて貰えると知った、意地汚いミレーヌが急速に機嫌を直して席に座る。



「ほらよ。アーン」


 俺はオ・デンの具材をフォークに刺してミレーヌに差し出した。



「ちょっと恥ずかしいわね……アーン」


 ミレーヌは少し照れながら口を開けた。



「──!? アッツ〜〜!! 何!? アッツ!!」


 俺はアーンを促して差し出した熱々のオ・デンの具材をミレーヌの口には入れず、顎にペタリと付けたのだ。



「ギャーハッハッ! いやあ、すまんすまん。あんまりミレーヌが色っぽくアーンするから、見惚れて手元が狂ったよ」


「……そう?」


 ミレーヌは顎を水で冷やしながらも、色っぽいと言われてまんざらでもなさそうだ。



「もうアッシュさんは! ミレーヌちゃんが可哀想ですよ! ミレーヌちゃんには私の餡掛け焼き麺をあげます」


「アンナいいの?」


「いいんですよ。私も悪ノリしてミレーヌちゃんを追いかけなかったですから。はい、あ〜ん」


 アンナはスプーンの上でクルクルとタップリの餡を絡めながら、器用に麺を巻きつける。


「ありがとうアンナ。あ〜ん」



「──!! アツッ! あっつ〜!! ちょっとアンナ!?」


 なんとアンナも巻きつけた熱々の餡掛け麺を、ミレーヌの口ではなく、口の横の頬にペトリとつけたのだ。



「ギャーハッハッ!!」

「ウフフフフ。ごめんなさい。私はちゃんとやろうとしたんですよ? だけどミレーヌちゃんの顎が真っ赤になってるの見てたら手元が狂っちゃいました」


 絶対わざとだ、悪い女やで。



「アンタ達ねぇ! 本当に信じられないわ。それが生死を賭けた旅を共に乗り越えた仲間にする事!? だいたいねえ……」


「お待たせしました〜」


 ナイスタイミングでミレーヌの注文した、釜炊きライスがようやく運ばれてきた。



「お前の料理が来たぞ。一旦落ち着けよ」


「もう! 後でキッチリ話するからね! アッシュはともかくアンナま……ほわぁ、いいニオ〜イ!」


 ミレーヌがいつまでもグチグチ言っているので、釜炊きライスの蓋を取ってやったらこの通り。

 冬マツキノコの豊潤な香りの前に、怒りを忘れてしまったようだ。



「ウマイウマイ。熱いけどこれ、ハフハフ、本当に、モグモグ、美味しい、ごっくん、わよ」


「……いや、何言ってんのか全然わかんね〜よ」


「ミレーヌちゃん……今は食べる事に集中してください」


「そう? そうね。 温かい内に食べないと料理に失礼よね。では遠慮なく……」


 ──カッカッカッ、ハフハフ、モグモグムシャムシャ──グアッグアッ、ハフハフ、ゴックン。



 もはや何の音なのか分からない。

 ただ一つ言える事は……やはり食べ方が汚いと言う事だ。

 見ているだけで食欲を失くす奇跡の食べ方とすら言える。



「話は変わるんですけど〜」


 俺がミレーヌの食べ方に辟易としていると、アンナがふと口を開く。



「私、宿出て部屋借りようと思ってるんですよね〜」


 ほう……アンナも俺と同じ事を考えていたか。



「フーバスタン帝国に来て、メストを拠点にしてしばらく経ちますし、荷物が増えてきて部屋が手狭になってきたんですよね〜。どうせ同じ家賃払うなら宿を出て部屋を借りようかなと思いまして……」


「俺も丁度似たような事を考えていたところだ。まだフーバスタンで活動するつもりだしな」


「へ〜。アンタ達そんな事考えてたのね。なら私も宿出ようかしら?」


 食事を終えたミレーヌも話に加わる。



「一人で部屋を借りようと思ってたんですけど、お二人も部屋を借りるつもりなら、全員で一軒家借りませんか?」


「たしかに、別々で借りるよりかは安く済むだろうしな」


「アンタ達、使い切れないほどお金持ってるでしょ。お金持ちになっても、そういう庶民的な感覚は変わらないのね〜」


 魔王討伐パーティーの中で、唯一の貴族出身で金銭感覚の違うミレーヌには理解出来ないのだろう。

 俺とすれば貴族出身で、あの食事作法でいられることの方が到底理解出来ないけどな!



「じゃあ俺とアンナで家借りるか! ミレーヌは乗り気じゃなさそうだしさ」


「そうですね」


「ちょ、ちょっと……」


「じゃあ明日物件見に行くって事でいいですか? アッシュさん」


「オーケー。俺たちは同じ宿だから、フットワーク軽いしな」


「ちょっと! そうやってすぐ仲間外れにするのやめてよ! 誰も一緒に借りないなんて言ってないじゃない!?」


「じゃあアンナ、昼前に迎えに行くから」


「準備しておきますね〜」


「ちょっと〜! 私も行くってば〜〜〜!!」


 ミレーヌの叫びがギルドにこだました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 興味深い作品ですね! またゆっくり読ませて頂きます!
2020/09/08 10:23 退会済み
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