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第24話 〈銘!!〉

 

「たしか、今日が受け取りの日だったな」



 壁に掛けられたカレンダーを見て、冒険者ギルドに発注していた、ポーションの受け取り予定日が今日だった事を思い出した。



 宿を出て、ルーティンとなっている朝の飛竜の手入れを終わらせてから冒険者ギルドへと向かう。

 冬が近づいてきている事もあって、フーバスタン帝国の帝都メストも日に日に寒さが厳しくなって来た。



「おはようございます。今日は冷えますねー」


 いつもの受付職員ベティに朝の挨拶をする。



「アッシュさん、おはようございます。本当に寒くなってきましたね」


 そんな他愛もない日常会話だが、ベティはいつもニコニコしていて、とても好感が持てる。



「頼んでいたポーションって、届いてます?」


「たしか届いてますよー。少し待っていてください」


 俺はロビーの長椅子に腰を掛けてベティを待つ。



「お待たせしました〜。ポーション20本ですね」


 大型のリュックにパンパンに詰めてあった薬草全てを使ってポーション20本か……普段使い分は道具屋で買った方が効率はいいな。


 錬金術師に調合依頼したポーションは、調合する錬金術師の腕次第で、効果の高いポーションが出来る事がある。

 道具屋に売っているノーマルポーションとは効果が雲泥の差なので、効率度外視で薬草を採集して調合依頼に出すのだ。



「ありがとうございます。っと、これ代金です」


 錬金術師の調合手数料とギルドへの仲介手数料を支払う。

 錬金術師と直接取り引きしたほうがもちろん安く済むが、偏屈だったり変わり者の多い錬金術師とは直接取り引きをしている者は少ない。



「確かに受け取りました。また何かあったらいつでも声を声掛けて下さい」


 ベティに礼を言って、ポーションを持って宿へと戻る。

 ポーションの品質を見たいからだ。



「ふう……ただいまっと」


 誰も返事をするはずのない部屋に挨拶をするのも独り身が俺の習慣だ。

 部屋に備え付けられた小さな机に荷物を置き、椅子に腰を掛ける。


 この宿に逗留してしばらく経つので、徐々に荷物も増えてきて手狭になってきた。

 このままフーバスタン帝国を拠点にクエストを受けていくのなら、宿を出て部屋を借りるのも悪くない考えかもしれない。



「さて……ポーションの出来はどうかな?」


 俺はベティに渡された木箱の蓋を開けて、ポーションを一本手に取って見てみる。


 色は青。

 ノーマルポーションより色がやや濃く見える。

 少しばかり品質が良いのかもしれない。


 次々と手にとって見てみると不思議な事に気付いた。



「なんだこれ……ノーマルポーション無くね!?」


 そう、ノーマルポーションがただの一本も入っていなかっなのだ。

 通常は錬金術師に調合を頼んでも、20本のポーションなら約半分の10本はノーマルポーションだ。


 今回納品されたポーションには見た事のない緑や赤のポーションも混じっているが、通常の水色に近い青色の、ノーマルポーションは入っていなかった。



 ふむ……使ってみるまで赤や緑のポーションほ効果は分からないが、今回調合を依頼したボンズとか言う錬金術師は何者だ?

 只者ではないのかもしれない。


 ポーションは通常青系統の色で濃い青になればなるほど品質が良いとされている。

 それなのに赤や緑のポーションを作り出すとは……体力回復以外の副次的な効果も期待出来るかもしれない。



「ボンズ錬金術師か……覚えておこう。……おっと、もうこんな時間か。アンナに武具屋に付き合って欲しいと言われていたんだったな」



 俺は部屋を出て同じ宿に宿泊しているアンナを呼びに行く。



 ──コンコン。


「はーい」


「俺だ。用事が終わったから武具屋行くぞ」


「ちょっと待ってて下さいね〜」



 俺は宿の外で待つ事にした。

 少し待っていると、アンナが小走りで出てくる。



「お待たせしました〜」


「で? 今日は何を買いに行くんだ?」


 俺の質問にアンナは真剣な顔付きに変わった。



「アッシュさんは、私が今どんな武器使ってるのか知ってます!?」


 知ってるも何も、クエストの度に見ているが……。



「……ミスリルの短剣だろ!?」


 その答えにアンナが大きくため息をついた。



「はあ〜。そうなんですよ〜。ミスリルの短剣なんですよ〜」


 だからどうしたと言うのだ。



「ミスリル製の短剣……いい武器じゃないか」


「そうですよ? いい武器なんですけどね〜……アッシュさんの武器は星屑(スターダスト)ハンマーですよね? で、ミレーヌちゃんは嬢王の鞭……」


 まさかコイツ……。



「気付いちゃいました!? そうなんです! 私の短剣にだけ名前がないんですよ!!」


 真剣にどうでもいいんだが……。



「自分で名前つけりゃいいじゃねーか」


「バカバカ、アッシュさんのバカ! 自分でつけるのと銘打たれてるのでは全然違いますよ!」


「まあ、わからんくもないけどな……そんな都合よく銘打たれた短剣があるかね〜?」




「……あるよ」


「いや、あるんかい」


 俺とアンナは、オヤッサンその2の店で事情を話していた。



「本当にあるの?」


「本当も何もコイツがそうだぜ」


 そう言って、ショーケースの中から一振りの短剣を取り出し、鞘から抜いた。

 白い刀身が印象に残る美しい短剣だ。



「コイツは昨日仕上がったばかりの業物だぜ?」


 オヤッサンその2は自慢げだ。



「アンナ、触らせて貰えよ。いいでしょ? オヤッサンその2」


「構わないけど、気を付けろよ。そいつはなかなかのヤンチャな切れ味してっからよ」


 アンナは真剣な顔つきでオヤッサンその2から、白い短剣を受け取る。



「名前は? 銘打たれてんだろ?」


「この白く美しい刀身と、素材となった魔物から文字って"ヴァイスベーア"だ」


 ん? ヴァイスベーア? 

 意味は白熊か……ダサいな。



「……これ何の素材で出来てるの?」


 何かに気付いたアンナが、短剣の素材を尋ねる。



「コレか? コレは、とある地域で暴れまくっていた熊が最近ようやく狩られてな。そいつの牙と爪が売られてきたんで、粉末にして金属に混ぜて叩いてみたらよ。そしたらこの白い刀身になったのよ。切れ味もミスリルと同等くらいには切れるぜ?」


 俺は全てを察した。

 ミレーヌが倒した、ベルト・紺ベアーの牙と爪が素材になっているらしい。

 タゴ・サクめ……いらない部分をキッチリ売りに出しやがったんだな。



「私コレはチョット嫌だな〜」


 まあ、そうなるわな。

 ミレーヌにバレたら、感謝なさい! とか言われそうだし。



「他には何かないの?」


「他ね〜、なんかあったかなぁ? ちょっと裏見てくるぜ」


「はいよ」


 そう言ってオヤッサンその2は、いつものようにバックヤードに消えていく。



「さすがになぁ?」


「はい……あの熊で出来た短剣はチョット……」


「だよな。まあでも大丈夫じゃないか? オヤッサン達がこの裏に行く"激アツ演出"をした時は、例外なくいい武具持って出てくるからさ」



「おいおい……裏に探しに行くのを、俺が演出してるみたいに言うんじゃねーよ!」


「なかったのか?」


「いや、あったけどよぉ」


「ほらね」


 俺はアンナにウインクした。


 激アツ演出により、イイ武具を見つけて照れるオヤッサンその2の手には、またもや一振りの短剣が握られていた。



「コイツは、火の国ジャパングで打たれた短剣らしい。素材はヒヒイロカネ、燃えるような赤い刀身が特徴だ。銘は"(くれない)"。ジャパングの古代言語で鮮やかな赤を意味する言葉らしい」


 ほう……赤く、なかなか美しい短剣だ。

 火の国ジャパンングと言うと、フーバスタン帝国と同じく大陸同盟(ジャスティス)には加盟していない国だ。

 火の国と呼ばれる国で打たれた武器なだけはありそうだな、素材がヒヒイロカネだと言うのも申し分ない。

 あとは、アンナが名前を気に入るかどうかだが……。



「素敵……短剣・(くれない)……気に入ったわ。コレ下さい!」


「毎度! だがヒヒイロカネ製だ、値が張るぜ?」


 裏にしまってあったことも忘れてたくせに、さすが商売上手だぜ。



「大丈夫です! 私、お金ならあるんです!」


「そ、そうか。でもあんまりお金持ってるとか言わない方がいいぜ?」


 オヤッサンその2に気を遣わせるんじゃない。


「毎度あり〜」



 こうしてアンナは新しい相棒、短剣『(くれない)』を手に入れた。


 ご機嫌なアンナは、帰り道にガラスに映る自分を見て(くれない)を手にしながら、お約束のご機嫌カーテシーをしたのは言うまでもない。


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