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第15話 〈正座!!〉

 

 秋晴れで雲一つない、ここサイカ草原。

 澄んだ空気が、より遠くまでの景色を楽しませてくれる。



 そんなサイカ草原にて今、一人の女性が泣きながら正座していた。

 その女性はかつて、魔王を倒し、その功績をもって【剣聖】と称えられた英雄だ。



「さあ、話してもらおうか?」


 俺とアンナに囲まれ、ミレーヌは泣くばかりだ。



「ミレーヌちゃん、私は久しぶりに会えて、す〜っごく嬉しいんですよ。でもね? 何でフーバスタンでクエストを発注してるんですか!?」


 少しずつ泣き止んだミレーヌがポツリポツリと話始めた。



「一カ月位前に〜……グスッ……思い切って転職(ジョブチェンジ)したんですけどぉ……グスッ」


「ええ!? ミレーヌちゃんも転職(ジョブチェンジ)したんですか〜!?」


 おおう……まさかミレーヌまで転職(ジョブチェンジ)しているとは。



「……魔獣使い(テイマー)転職(ジョブチェンジ)したのか?」


「……うん」


「あそこで俺達が狩ったドーバードを、一心不乱に食べてる狼が、お前のテイムモンスターか?」


「うん……名前はクッキー」


 ペットとして大人気の、タイニーウルフじゃねえか!

 しかもクッキーって……。



「ペットの間違いじゃないよな?」


「間違いじゃないよ! 初めは小型の犬とかから練習するといいって書いてあったの」


 書いてあっただと?

 敢えて聞かないけど、何か指南書でも読んだのだろうか?



「ミレーヌちゃんは可愛い物好きなところありましたもんね」


「それはそうと、何で隠れてたんだ?」


 ミレーヌは申し訳なさそうに下を向いたまま話す。



「数週間前に冒険者ギルドに今回のクエストの依頼をしたのね。それでやっと引き受けてくれる冒険者が見つかったってギルドから連絡が来て……」


「ベティさんですね」


「うんベティ。で、意気揚々とやって来たら、その黄色い腕章を付けてドーバードと戦ってる冒険者がいるじゃない? ……そりゃ嬉しかったわ。やっとレベル上げが出来るって!」


 まさかコイツ……レベル1のままなのか?



「で、戦闘中だったから、タイミングを見て声を掛けようとしたんだけど、よく見たらアッシュとアンナじゃない……ビックリして隠れちゃったんだけど、見てみると二人とも何か様子がおかしいなって思って……」


 そりゃ後衛組の俺とアンナが、ドーバードに殴りかかってりゃ様子が変だと思うわな。



「……で、もしかしたら二人も転職(ジョブチェンジ)したのかもしれないって思ったの。で、私が声を掛ける前にクッキーが飛び出して行っちゃった」


「なるほどな……ちなみに俺が戦士でアンナが盗賊(シーフ)だ」


「え!? 戦士はいいとして盗賊(シーフ)!? 振り幅おっきいわねぇ」


「いや、お前の剣士から魔獣使い(テイマー)も中々振り幅でかいぞ」


「そうかな? 私的にはそんなに変わらないけどね」



 最前線で戦う剣士から、魔物を自らの代わりに戦わせる中衛職に転職(ジョブチェンジ)しておいて何を言う。

 やっぱりミレーヌも昔から少しズレてるところあるよな、アンナ程ではないにしても。

 アンナもミレーヌもしっかりしてそうで、トロいところあるし、世間知らずなところもあるし……よく俺たち魔王を討伐出来たもんだ。



「いい加減あのクッキーとやらに、俺達のドーバード食べるのやめさせてもらっていいか?」


 ミレーヌは、忘れてたとばかりにハッとした表情をした。



「クッキー! ストップ! カムヒア!」


 俺とアンナは夢中でドーバードを貪るクッキー見る。



「…………」

「…………」


「カムヒア! クッキー! クッキー! ヘイ、ボーイ!」


 叫ぶミレーヌを横目で見てから、再度クッキーを見る。



「…………」

「…………」


「クッキ〜……お願〜い、こっち来て〜!」


 ミレーヌは涙目だ。



「ワン、ワン!」


「よ〜しいい子だ〜! こっちだよ〜」


「ワンワン!」


「え? ちょ、やめ、くすぐったいですよ〜」


 クッキーはミレーヌを無視して、アンナに飛びつき尻尾をぐるんぐるん振り回しながら、アンナの顔を舐めている。



「……元気だせよ」


「うわーん! クッキーのバカァ!」


 大丈夫だミレーヌ。

 何も案ずる事はない。

 今はむしろアンナのところに行ってくれた事を感謝するべきだ。


 アンナの顔を見てみろよ?

 さっきまでドーバードを貪り食ってた口で顔を舐め回されてるぞ?

 顔中血生臭くなってないかアレ? 



「ミレーヌちゃ〜ん! この子いい子ですね〜! ウフフ……そんなに舐められたら顔中ヨダレ塗れになっちゃいますよ〜」


 ……いや、ヨダレじゃなくて血塗れになってるぞ。


 ミレーヌもようやくその後事に気が付き、ドン引きしている。


 さてと……いつまでもこんな所で話していても仕方ないな。



「もう立っていいよミレーヌ。とにかく元気そうで何よりだ」


「ありがとう」


 長時間の正座で脚が痺れているのか、うまれたての小鹿のような体勢から立ち上がる事が出来ないでいる。



「キャ!? ちょっと! やめて! ダメェェ!」


 俺は激しく痺れているだろうミレーヌの足を、星屑(スターダスト)ハンマーの柄の部分でコンコンと刺激してやった。

 食われたドーバードの恨みだ。


 それからしばらくして、ミレーヌはようやく立つことが出来た。



「とりあえずまた会えて嬉しいよ」


「私もよ。誰も私を知らないだろうと思って、フーバスタンで冒険者やろうとしてるのに、まさかこんな所で会えるなんて思っても見なかったわ」


 俺とミレーヌはガッチリと再会の握手をする。



「私も私も〜」


 アンナもミレーヌと再会の握手を交わすが、ミレーヌは血塗れのアンナと目を合わせようとしない。



「何で目を合わせてくれないんですか〜?」


「えっ? べ、別に……」


「ミレーヌは久しぶりに会って照れてるんだよ。言わせてやるなよ」


「そうだったんですね〜。ミレーヌちゃん可愛い〜!」


 そう言ってアンナは、握手ではなくハグをしようとする。



「ヒイィィィ」


「?」


 アンナは、ミレーヌが何故悲鳴を上げるかを分かっていないようだ。

 ま、面白いから黙っておこう。



「今日はアレだな、もうそんな気分じゃないな。実践訓練は明日でいいだろ?」


「そうね、今日は今更な気がするわ」


「なら、再会を祝してご飯食べに行きましょうよ〜!」


「ふふ、いいわね」


「…………」


 再会を口実に飲む気だな。

 だが今日はミレーヌがいるから、アンナが潰れたらミレーヌに任せればいいか。



「じゃあクッキーとやらの訓練は明日にして、冒険者ギルドに帰るか!」


「あのドーバードはどうするの?」


「持って帰りますよ〜。一羽は無事でしたし、食べられちゃった方も少しくらいは……あ、ダメですね。コッチは埋めましょう」


 ミレーヌがクッキーに穴掘りを命じたが完全にスルーされたので、俺がミレーヌに穴掘りを命じる。

 ミレーヌは、黙ってドーバードが入るサイズの穴を掘り、ドーバードの見るも無残な亡骸を埋めた。


 そして無事だった方のドーバードをミレーヌ一人に担がせる。



「さ、帰るぞ! あとで冒険者カードも見せてもらうからな」


「分かってるわよ。アンタ達のも見せなさいよ」


「楽しみですね〜」


 カードを見る事がか? それとも酒か!?



「そういやお前レベルいくつなんだよ? 俺達はもう3で、ドーバード倒したから更に上がってると思うぜ?」


「レベル? 5だけど何?」


「────!?」


 アンナが目を見開き、口をパクパクさせながら俺を見る。

 分かってるよアンナ……俺たちの気持ちは、今間違いなく一つだ。


 地道に薬草採集したり、ファットモスと戦って逃げたり、ヘッドバットディアを倒したりして、やっとレベル3だと言うのに、ペットの狼と遊んでただけのミレーヌがレベル5だと!?


 それとも何か?

 ペットと遊んでたと言っても、相手は小型ながらも狼の魔物。

 ペットでも魔物と遊ぶことがレベルアップに加味されているとでも言うのか?

 ……解せん!



「腹が立ったから、今日の飯はミレーヌの奢りな」


「え? 再会を祝うのに奢らせる気!? おかしいわよ、アンナもコイツに言ってやってよ!!」


「……いえ、今日はミレーヌちゃんの奢りで」


「なんで? なんでアンナまで!? どうなってるのよーー!」


「ワオーーーン!」


 ミレーヌの叫びと、タイニーウルフのクッキーの遠吠えが、サイカ草原にひびきわたった。




【E】ランククエスト

『サイカ草原で魔獣使い(テイマー)の狼の実践訓練』──延期

 ドーバード──二羽の狩猟に成功(内、一羽は食害にあい持ち帰れず)



評価をしていただけると喜びます。


タイトルを、

『魔王討伐後にジョブチェンジした英雄の日常』〜魔王がいなくなっても、世界は続いているのだから〜


から変更しました。

よろしくお願いします。


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