第13話 〈不人気クエスト!!〉
「アイツら今頃何してんだろうな〜」
「アイツらって、ミレーヌちゃんとカイ君の事ですか〜?」
「うん」
俺とアンナはまたもやEランククエストの薬草採集に来ていた。
クエストのついでに自分達の薬草も採集するためだ。
回復手段を持たない俺たちにとって、傷の治療が出来る薬草は生命線なのである。
そしてまとまった量を確保出来たら、錬金術師にでも渡してポーションを作ってもらおうと考えている。
「そうですね〜……カイ君は闘技場の大会とかで優勝して、年上のお姉様方にチヤホヤされてそう」
確かに奴ならチヤホヤされてそうだ。
そしてアンナは話しながらも薬草を採集する手は決して止めない。
「ミレーヌは?」
「ミレーヌちゃんは、一人で聖剣振り回して魔王軍残党と戦ってそう……」
本当にそうしてそうで、簡単に想像出来るから困る。
「私の目の黒い内は、魔王軍に一分の勝機もないと思え! とか言ってそうだもんな」
「想像出来ますね〜」
笑いながら作業を続けていると、あっという間に俺とアンナが持つ袋は薬草で一杯になった。
「あ、あの木の実!」
そう言ってアンナがもいで来たのは紫色の毒のある果実だ。
「昔ミレーヌちゃんとカイ君が生で食べてお腹壊してましたよね〜、懐かしい〜」
干して毒抜きすれば食べられる果実なのだが、腹を空かせ猛獣と化した前衛職の二人が、生で食べて酷く腹を下した事件があった。
「あの時、アッシュさんがいい教訓になるから状態異常治癒は使わなくていいって言って、私はオロオロしちゃいましたよ」
「アイツらは脳味噌まで筋肉で出来てるから、なんの考えも無しに本能で動くからな。まあ、今となってはイイ思い出だろう?」
「確かに。でもお腹を押さえて蹲る二人を見て、爆笑するアッシュさんを、鬼だと思ったのをよく覚えてます」
「え? 俺笑ってた!?」
全く覚えていない。
アンナの捏造じゃないだろうな?
「笑ってました。あ、鬼がいる……って思いましたもん」
そうだったかなぁ。
「昔話はそれくらいにして、そろそろ帰るか」
「ですね。今日も沢山採れましたね〜」
冒険者ギルドに戻り、納品窓口に薬草を納め、受付で達成手続きをして報酬をもらう。
「ちっ……流石に薬草採ってただけじゃレベルは上がらないか」
冒険者カードを見て呟く。
流石に薬草採集と、たまに薬草に付いている害虫をプチっとやってるだけではレベルが上がっていなかった。
「仕方ないですよ。気長に頑張りましょう」
そうして俺達は宿に戻り、明日のクエストに備えた。
次の日。
「おはようございま〜す」
「おはよう」
今日もアンナと冒険者ギルドに向かう。
「なあ?」
「はい」
「今日は薬草採集やめないか?」
「構いませんけど……」
「受付の職員に絶対変に思われてるって! S級二人が毎回薬草採集してんだぞ? 俺が職員ならあだ名付けてるね!」
実際に俺たちは、あの受付の女性職員に完全に頭のおかしいS級冒険者パーティーだと思われてるはずだ。
「やだなぁアッシュさん。世の中アッシュさんみたいな人ばかりじゃないですよ〜」
……どういう意味だ、星屑飛ばさせてやろうか?
「でも確かに薬草採集は飽きて来ましたね」
「だろ? ほかにいいクエストないか探してみようぜ」
そんな話をしながら、俺達は冒険者ギルドに入って行く。
さて、今日の依頼は何があるかな?
ええと……EランクEランクっと……。
基本的にボードに貼り付けられた依頼は早い者勝ちだ。
勿論パーティーや個人を指名したクエストは例外だが、通常の依頼は取り合いになる事もままある事だ。
中にはクエストが依頼されてから何十年もクリアされていない、インポッシブル・クエストと呼ばれるクエストがあり、国や大陸同盟が冒険者の代わりに依頼を引き受けて、その上で改めて冒険者やパーティーを指名すると言った例外中の例外もある。
何故そんな面倒な段階を踏むかというと、インポッシブル・クエストと呼ばれるだけあって、自由に依頼を受けさせてしまうと、S級冒険者がいる相当な実績のあるパーティーでも簡単に全滅してしまう事があるからだ。
そうならない為にも、国や大陸同盟がパーティーや冒険者個人を厳選して指名するのだ。
ちなみに魔王を討伐したパーティーも、初めはインポッシブル・クエストを攻略するために大陸同盟が世界中から選りすぐりの冒険者を集めて出来たパーティーだった。
「お?」
一つの依頼が目に付いた。
『新しくテイムした狼の実践訓練を手伝ってほしい。
実践訓練にはドーバードの狩猟を考えています。報酬として、狩猟したドーバードは、狼のエサの分を少し分けて頂く以外は全てお譲りします』
魔獣使いの訓練のお供か……まあ、魔獣使いは使役する魔物なり猛獣なりが万が一やられたら、ほぼ詰みだしな。
魔獣使いとは魔物や猛獣を飼い慣らして、自分の代わりに戦わさせる変わり種の職業だ。
飼いならす魔物や猛獣は捕獲してもいいし、幼体から育ててもいい。
だが、変わり種の職業と言っても、腕の立つ魔獣使いは相当強い。
なんせAランククエストに討伐依頼があるような魔物を使役したりしているからだ。
俺も次に転職する機会があるなら、魔獣使いでもいいかもしれないと思える職業だ。
「アンナ、どう思うこれ?」
ふむふむとアンナが依頼書に目を通す。
「この依頼、日付を見る限りでは、貼り出されたのは数週間前ですね。でもこんな依頼ありましたっけ?」
「俺達は採集クエストしか探してなかったから、目に入らなかったんじゃないか?」
「そうかもですね〜。でも報酬がドーバードを貰えるだけじゃ誰も引き受けてくれないですよね〜?」
確かにそれはそうだ。
ドーバードは飛べない鳥でサイズは中型犬くらい。
コイツはクチバシでつつかれるとかなり痛いが、動きはノロマで狩るのは非常に簡単だ。
クエストの報酬がこの誰でも狩れそうなドーバードだけでは、よほどの変わり者か、お腹と背中が今にもくっついてしまいそうな冒険者くらいしか引き受けてはくれないだろう。
「……ふう、俺達が引き受けてやるしかないんじゃないか?」
俺の提案にアンナは驚きもせず当然といった感じだ。
きっと俺が引き受けるのを分かっていたのだろう。
「アッシュさんなら、そう言うと思ってましたよ〜」
「決まりだな」
俺とアンナは依頼書を剥がして、いつもの受付でいつもの女性職員に、冒険者カードと一緒に手渡す。
「はい、Eランククエストですね。依頼内容は魔獣使いさんの訓練のお供ですね。クロウさん、フランさんいつも人気のない依頼を選んで引き受けてくれてありがとうございます」
ん? クロウとフランは俺たちの偽装された名前だが、この女性職員は、S級冒険者の俺達が引き受け手のない不人気なクエストを、わざわざ選んで受注していると勘違いしているのか?
……これは都合がいい、乗っかるとしよう。
「はは。報酬が高い高難度クエストは人気がありますからね。俺たちじゃなくても誰かが引き受けてくれるでしょう」
「でも報酬が高い依頼ばかりじゃないですからね〜。なけなしのお金で依頼料を払って、報酬は安く設定せざるを得ない貧しい方達も多いですからね。そんな人達の助けに少しでもなればと思って……」
アンナも女性職員が勘違いしている事に気付いたのだろう。
俺の話に上手く合わせてきた。
そして神官だった頃の経験を生かして、貧しい者たちに手を差し伸べている感を演出している。
「私感激しました! 初めはS級冒険者なのに、何で薬草採集ばかりしているのかと疑問に思ってましたが、お二人がそんな深い考えで動かれているとは思いもよらず……」
思いもよらずにあだ名付けたりしてないだろうな。
「申し遅れました。私は、当冒険者ギルドの事務方の責任者をしておりますベティーナと申します。ぜひ、ベティとお呼び下さい。これからは私どもの方でも、人気の無いクエストをピックアップしておきますね」
「お、おう。頼みます」
「はは……ありがたいです〜。それよりも受注手続きを……」
ベティは手と口が同時に動かないタイプだ。
よく事務方の責任者にまで出世できたもんだ。
「はい手続き完了です。依頼主にはギルドから連絡しますが、ここで待ち合わせますか?」
俺は手を顎に当て少しだけ考えてから答える。
「いや、先に行って現場の下見しときたいから現地集合で」
「かしこまりました。ではこちらの腕章をお使いください、受注の目印になります」
俺とアンナはクエストを受注した証明となる黄色い腕章を受け取った。
「では、サイカ草原で待ち合わせという事で連絡しておきます。お気をつけていってらっしゃませ」
安全ピンで、ローブに穴が空いてしまうから腕章付けたくないなと思いながら、俺達はサイカ草原に向けて出発した。
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