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Ⅰ-65 サトルの存在感

■バーン南の荒地


ミーシャの狙撃練習は地面に倒れたマネキンが細かくなるまで続いた。

もう少し、もう少しと言いながら結局40発を撃っていたが、終った後は興奮して目がキラキラ輝いていた。


「お前の魔法はやはり凄いな! あの距離を真っ直ぐ飛んでいくなら、幾らでも当たるだろう!」


-いや、それはアンタらだけですわ。


「なかなか、ミーシャみたいにはうまく行かないけどね」


「そうなのか? いやぁ、あの魔法具は本当に凄いぞ」


ミーシャ様の興奮は中々収まらなかった。


サリナを見ると、「じぇっと!」と叫びながら、既に吹流しを持ち上げられる風を何度も放てるようになっていた。

どうやら、俺だけが取り残されつつある。

あれ?いつの間にか俺が要らない子なんだろうか?


仕方が無いので、新しい大型の武器で榴弾を沢山撃って憂さ晴らしをした。

いつ使うか判らないものだが、大型獣を遠くから狙うのに必ず役立つ物のはずだ。

しかし、ミーシャはそっちの武器には全く興味を持たなかった。

それでも、弾薬の安全ピンを抜いて俺に手渡す方法は覚えてくれたから、実戦で使える目処が立った。


武器演習に満足した俺は使った武器をストレージに収納して、サリナの新しい馬車を呼び出した。クロカンタイプの国産4WD、但し中古だ。


「サリナ、今度はこれを運転してみろよ」

「サリナが動かして良いの!?」

「ああ、広い場所でまずは練習だ」


サリナを運転席から乗せてやると、いきなり戸惑っていた。


「座るところが逆なの?」


そうだった、4輪バギーもピックアップトラックも米国モデルで左ハンドルだったから、こいつはそれが当たり前になっているのだ。


「ああ、この車はこっちにハンドルがあるだろうが? アクセルとブレーキは同じ位置にあるから、エンジンを掛ける前に踏んでみろ」


運転席の椅子を一番前まで寄せてやると、なんとか足が届く感じだ。

顔もハンドルの上に出ているかどうかぐらいだが、ぶつかる物が無い荒野なら何とかなるだろう。

俺は助手席に座ってシートベルトを締めた。

ブレーキを踏ませてから、キーでエンジンを掛けさせる。


「このレバーのボタンを押しながら、前に少し押せ。ブレーキは踏んでおけよ」

「うん・・・、こう? かな?」

「ああ、そうしたらブレーキをゆっくりと戻せ」

「うん・・・、少し動いたよ!?」

「ああ、ブレーキをもう一度踏めば止まるから。踏んだり戻したりしてブレーキの感覚を掴むんだ」

「うん、前の馬車と同じだよね?」

「ああ、慣れてきたらアクセルを踏んで良いぞ」

「ほんとに!? わーい!」

「ウワァッ!」


サリナはいきなりアクセルを踏み込んで俺を驚かせたが、滑らかに加速して40kmぐらいで走らせ出した。

何度かブレーキを踏んで減速の感触を掴む練習と加速を繰り返している。20分もしないうちに、運転する感覚を掴んだようだ。


「お前、怖くないのか?」

「どうして怖いの? こっちの方が大きいから面白いのに!」

「そうか・・・」


どうやら、車の運転でも俺は要らない子になりそうな気がしてきた。


§


■第4迷宮西方の川沿い


第4迷宮のある緑の堅鱗団の縄張りは、大きな川が二つに分かれた間に挟まれた湿地帯が殆どだ。それぞれの川には縄張りに入るための橋が2箇所架かっているが、ミーシャ情報によれば、どちらにも堅鱗団の団員が見張りをしているので、橋を使って縄張りに入ることは出来ない。


俺は西側に流れる川の橋を南に大きく迂回してから川を渡ることにして、サリナの運転で狙撃練習をした場所から南へ1時間ほど移動した川の近くを野営地に決めた。到着する頃にはサリナの運転は驚くほど上手くなっていた。


日が沈む前に見えた川向こうの湿地帯は低木と低い草に覆われた陸地と入り組んだ細い川が入り混じっていた。

川を越えて入った後の移動はクロカンでは難しいだろう。イメージしている乗り物があるが、使えるかは明日試した結果次第だと思っている。


野営地でキャンピングカーを呼び出して、サリナに指向性地雷を8つセットしてもらった。

サリナは既に手順が頭に入っているので、手際よく設置しながら点火ケーブルを車内へ引き込んでくれる。


俺はミーシャと周囲を警戒しながら、この辺りに居る魔獣をタブレットに入れた魔獣解説書で確認していた。湿地帯だからなのか、堅鱗団の縄張りだからなのか、それっぽい魔獣が多い。

ワニ、蛇、トカゲ、ジャガー、それぞれ色んな種類がいるが、いずれも巨大で牙や角が付いている。

ファンタジーっぽいのでは、スカイスネーク・・・、蛇が飛ぶらしい。

どの銃を持っていくのがベストなのか?

それに、ミーシャの矢では鱗を通さないかもしれない・・・銃を持たせるべきか?

この世界に来た時は、誰にも武器は使わせないつもりでいたが、二人と一緒に居ると既に考えが変わってきている。

晩飯を食いながら相談することにしてみるか。


キャンピングカーでの夕食は和食に挑戦してみた。肉じゃがと野菜のてんぷら、そして主食にざるそばをチョイスした。

肉じゃがはすぐに食べ始めて気に入ったようだが、てんぷらとそばは俺を見てから食べることにしたようだ。


「てんぷらは、この白い器のつゆに少しつけて食べろ。そばはこっちの茶色いつゆにつけて・・・、こうやって、すすって食べる。さあ、がんばれ!」


てんぷらはすんなり食べられたが、そばを箸で掴むのにかなり苦戦していた。

それでも、味は気に入ったようで、めんつゆを飛び散らせながらお替りを要求された。

食後のデザートは約束どおりアイスクリームを出してやって、明日の作戦会議を始めることにする。


「サリナは風の魔法は手応えあったのか?」

「もう大丈夫! 凄いからね!」


相変らず物差しが“凄い”しか無いが、自信があるならこいつの場合は出来るような気がする。


「じゃあ、明日も何か見つけたら遠慮なく焼き払って良いからな」

「任せてよ♪」


「ミーシャは渡している弓で良いか?それとも俺の使っている銃を試してみる?」

「そ、そうなのか!?良いのか? だが、今日のは重いから持ち運ぶのがだな・・・」

「ああ、アレじゃなくて・・・、こっちの銃はどうかな?」


ストレージからアサルトライフルを取り出して、興奮しているミーシャに渡した。


「おお! こっちだったか!? これも同じ物がいくつもあるのか? サトルのが無くなったりはしないのか?」


「同じ物がいくつかあるから、使ってもらっても良いよ。この辺りは鱗の硬そうな魔獣が多いから、弓だと射抜けないだろ」


「うむ、その通りだ。さっそく、今から試してみても良いだろうか?」


「いや、もう暗いからダメだって」


「そうか、確かにそうだな。うん、明日の日の出と同時に試させてもらうことにしよう」


このやり取りは前もやったな・・・

それに、すっかり銃器マニアになって来たんじゃないか?

俺の存在感がどんどん低下していく気がする。

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