挿話 自称ヒロインの喜び 後編
短めです
「あぁ、彼女はなんて素晴らしいんだ!そう思いませんか?陛下。みるものを魅了する美しさ!そしてなにより誰もが平伏してしまうほどの絶対的な神の力!」
近くで惚けた声がして振り返れば、赤茶色の長髪に片眼鏡をかけた青年が何かに取り憑かれてたかのように目の前の光景に釘付けになっていた。
「君は、相変わらずだね」
陛下は苦笑しながら呆れたような声で彼に話しかけている。そんなお顔もとても美しく素敵。
リストピアの宰相である赤茶髪の彼は、だれもが帝国の宰相の名に相応しいと言うほど敏腕であり、その一方で絶対的な実力主義者だと聞いたことがある。その為、皇帝陛下を敬愛し、帝国内の誰よりも堅い忠誠を誓っていることは有名な話だ。未来の皇妃もそれ相応の実力が条件で候補の令嬢達がそれを満たせていなければ、彼が突っぱねてしまうらしい。陛下もそれに意見する事は無いらしく、よほど彼を信頼しているのだろうことがわかる。
「君は下がっていたらどう?」
陛下がこちらに振り向き声を掛けてくださった。私のことを心配してくれているのね。そのお気持ちはとても嬉しいのだけれど、ここで宰相に実力を存分に見せておくのも私達二人の未来にとって、とても大切なことだと思うの。
私は少し下を向いて首を振った。
「いいえ、陛下。私が彼女を止めてみせますわ」
ミューリアさんの、おかげでストーリーを進めることができるわ。ありがとう悪役ミューリアさん。
「そう...頑張るのはいいけど、怪我をしたら許さないよ」
「は、はい。陛下の仰せのままに」
"怪我をしたら許さないよ"
ですって。はぁ...貴方様はどれだけ私をときめかせれば気がすむのかしら。
緩む頬に気合を入れてミューリアのいる方へと向き直る。さぁ、燃え尽きてしまいなさい。
『炎火球』
胸の前で合わせた手が段々と熱を帯びる。そのまま掌を開けば火球が現れ、手から浮かび離れると、どんどんとその大きさを増し、成長した火の球は勢いよく目標へと向かっていく。近づくにつれて勢いを増し彼女を包み込んでしまうほどの大きな炎となった。
「おぉ!デワイス嬢も素晴らしい力をお持ちだ」
ふふ。そうでしょう?これで、私の先祖返りとしての力を宰相にも見せられたのでは...
ーーーーーーっな!
私の火球を片手で受け止めるなんて....
いいわ、一度で終わってしまったらつまらないもの。どこまで私の攻撃に耐えられるのかしら?
ーーーーけれど、攻撃を撃っても撃っても、彼女には当たらず気がつけば目の前まで彼女が迫っていた。
どうして、あんなにも容易く私の攻撃を躱せるの?これが、本物のヒロインの力だというの?そんなの認めない。この世界は私のものなの。私がヒロインなんだから!
まぁ、いいわ。だって私の味方には彼がいるんだもの。流石のヒロインでもネストリダリウムの力には敵わないに決まってるわ。
覚悟しなさい。悪役のミューリアさん。