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挿話 自称ヒロインの喜び 中編


 

 プロフィールで読んだことがあるの。

そこには、触れた者の感情が読み取れることともう一つ。

 先祖返りとして生まれ、幼い頃から周りの過度な期待と理想を押し付けられながら育ったせいで自身を閉ざしたことを。


だから、彼を特別扱いせず、貴方自身を見ているのよと伝えてあげれば彼の心は動くことを私は知っている。


これで、彼は私の事が気になって気になって仕方がなくなったはずよ。



「あ、そうだわ。これ良ければ召し上がってくださいな。安心してください。毒などは入っておりませんわ。ほら」


 顔を伏せている彼にクッキーの入った袋を差し出す。毒見でクッキーを目の前で食べてみせた。これもヒロインがしていたことをそのまま再現している。


 ゆっくりと顔を上げた陛下は私の手元と顔を交互にみて不思議そうな顔をしていた。そんな顔も素敵で、思わず緩みそうになる頬に必死で力を込めた。


「これは?君が作ったの?」


「はい。殿下がお好きでよくお作りしております。味には自信がありますのよ」


 そう言って差し出せば、陛下は恐る恐るといった様子で一枚摘み、口へと運んだ。

 口に含んだ瞬間、陛下は目を大きく見開いてそして、優しく微笑んだ


来る!ついにあのセリフが、



「私以外の人を思うなんて妬けてしまうな」



やったわ...。遂にこの時がきたのね。

クッキーを受け取った後、一生懸命クリスのことを考えながら粉砂糖を振りかけておいたの。そうすれば、ミューリアの感情を上書きできると思って。陛下の事を考えてしまわないかとヒヤヒヤしたけれど、上手くいって良かったわ。

ずっとずっとこの瞬間の為に頑張ってきたんだもの。


 このセリフは、モノの感情が分かる陛下が、気になり始めたヒロインの作ったクッキーが、クリスを思ってのモノだと分かり不満を漏らす場面だ。

 つまり、陛下は確実に私の事を好きになり始めてる。早く私も伝えたい、この思いを。



 その時、背後で何かが走り去っていくような足音がかすかに聞こえた。反射的に振り返ってみると、一瞬だけ桃色の毛先が庭園へと流れていくのが見えた。きっとミューリアに違いないわ。残念ね。いつも一足遅いのよノロマちゃん。



 特に話す事もなく、しばらく二人で庭園を眺めながら過ごしていた。


そろそろ、時間かしら?


 本当はもっと二人の時間を楽しんでいたいけれど、ここは一旦お預けね。




 ーーーそして、クリスが倒れた。



 王族暗殺未遂の疑いでミューリアを捜索することになり、私達は比較的安全な二階のバルコニーから他国の王達と共に外の様子を伺う事となった。ここまで、想定通りの展開に思わず笑いが溢れてしまいそう。


 国王陛下も薄情よね。実の息子に薬を盛ることを許すなんて。

 


 けれど、現実は私の想像を遥かに超えることとなった。



なによこれ、なによこれ、なによこれ.....


最高じゃない!こんなに面白い展開ある?


 まさか、ミューリアが...ヒロインが闇堕ちするなんて!!





 本来のシナリオであれば、悪役令嬢であるサブリナが、自分に婚約破棄を言い渡したクリスを恨み毒を盛った後、最後の悪足掻きとして、庭園に鬼火を放ち会場を混乱に陥れる展開だ。鬼火は神の力であり魔法では消すことは出来ない。それを、同じ先祖返りであるミューリアが勇敢に立ち向かい、最後は皇帝陛下と協力して火を鎮め、燃えてしまい灰だらけとなった庭園を元の美しい庭園へと蘇らせるのだ。因みに悪役令嬢サブリナはその後捕縛され投獄されることとなる。


 それにしても、学園の時のように大人しく罪を被るのかと思っていたけれど、まさか反抗してくるなんて...いいわぁ。とてもいいわミューリアさん。ここはどうしてもシナリオ通りにならないと思っていたけれど、あなたのお陰でとても面白い展開になりそう。私は正義のヒロインであなたは闇堕ちした哀れな悪者。あぁ、なんて最高なの!


 私が貴女を倒してあげる。だって所詮草花なんですもの。私の炎で全部燃やしつくしてあげるわ。ゲームであれば、陛下が助けてくれるのだけど彼は今、私の味方だからごめんね?そして、そんな貴方にとっておきのサプライズを用意したの。驚いてくれるかしら?



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