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ヒロインの提案



「っふふふ」


 あぁ。だめだ。可笑しくておかしくて堪らない。


「あはははははっ」


 笑いがどんどん込み上げてくる。


「何がおかしいのだ」


眉間に深い皺を寄せた王様は訝しげにこちらを睨んでいる。


 その時ーーー


ゴゴゴと地面が揺れ草花が騒めきだす。

木々が一斉に枝を伸ばし始め噴水の水は枯れていく。


「な、何事だ!!!」


王が叫び、立っていられないのか地面に膝をつき、騎士達は王を守るべく囲んではいるものの動揺を隠せていない。

そんな滑稽な姿をみてまた楽しくて堪らなくなる。


「ミュ、ミューリア様...」


背中側から聞こえてきた愛らしい声に振り向き私は穏やかな声で返事をする。


「ごめんねリコル、巻き込んじゃって。

それに...またお花傷つけちゃうかもしれない...ごめんね。でもどうか泣かないで。ちゃんと元通り元気な姿にするから。沢山のお花を見せてあげる。だから笑ってて。リコルの笑った顔可愛いくて私、大好き」


 リコルの愛らしい瞳からは一粒の綺麗な雫が流れた。


「ミューリア様...泣いてーーー」




「っうわーーーーー」


背後から青年の叫び声が上がった。


 騒がしい声の方へと振り向けば幾人かの騎士が成長した草花の蔓に足を取られて空中へと吊るされている。

 今までどこにいたのか、急に現れたローブを纏う魔法士達は一斉に蔓へと火の玉を飛ばすが燃える気配はまるで無い。

 当たり前だ。魔法でどうにか出来るはずがないのだから。


 「ごめんね、リコル」


 そう言って自身の髪にさしてあった花を一輪取ってリコルの髪に優しく挿す。


「ミューリア様...ッキャ」


 私より少しだけ背の小さいリコルを段々と見上げていく。

 足元に咲いていた花が大きく花びらを広げて大きく成長し、リコルの足元を掬って攫っていく。どこが一番安全だろうか。

 一瞬、愛しい人に似た人物を思い浮かべたけれどすぐに考えるのをやめた。


「おい!ミュー何してんだよ!!!」


その時上空から馴染みの声が降ってくる。私にとってはとても優しいその声の方へと笑顔を向けた。

そこには大きな鳥、ルルに乗ったぐぅちゃんが空を舞っていた。


「あ、ぐぅちゃん。ルル連れてきてたんだね!ちょうど良かった。この子安全な所に連れてってあげて」

「それはかまわねぇけど、って落ち着けって。何するつもりだよ」

「何って...」


ぐぅちゃんは慌てた様子で、けれど私のお願いは聞いてくれるのかルルからリコルを乗せた花へと飛び移り、リコルだけをルルへと乗せるとエヴァンさんのところへ行くようにと指示を出してくれていた。

 そして、飛び去ったルルを確認したぐぅちゃんは花の主導権を自分のものにし、こちらへと近づいてきた。

 そして花から飛び降り、私の腕を掴んで大きく揺らしてくる。


「ミュー、落ち着けって」

「何言ってるの、ぐぅちゃん。私は落ち着いてるよ。むしろ、清々しいくらい心が晴れやかなの」


 私はぐぅちゃんの手を解いて、背を向けた。両手を広げて目を瞑り大きく息を吸いこむ。たくさん成長したおかげで花の匂いが濃く、とても心地がいい。

 ゆっくりと目を開けてくるりと舞って振り返る。


「私ね、してない事をした事にされるの慣れてるの。いつも何もしてなくてもした事になってた。どうせしたことになるなら、何をしたって良いと思わない?」

「何言って...」

「もう、どうでもいいの。何もかも」



本当は分かってた。皇帝陛下が本物のネムだってこと。はじめは、まさかと思って驚いたけれど、話せば話すほど、大好きなネムのままだった。

嬉しかったのに。初めて触れた瞬間が思ってたのとは違っても、それでも嬉しかった。ネムの正体が何であろうと会えて触れられて幸せだった。


 もう一度バルコニーへと顔を向ければ、やっぱりそこには皇帝陛下と寄り添う彼女がいる。その光景が私の胸をどんどんと締め付ける。その事実を胸に刻み込まれるかのように。


あ...


ネムと目が合った気がした。

 

だから、私は微笑んだ。


もう、疲れたのだ。全部おしまい。






「ねぇ、ぐぅちゃん。この国を森にしちゃおっか?」


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