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ヒロインはメイドと出会う


なんて、なんて可愛いい子なんだろう。クルクルの水色の髪がフワリと揺れて大きなまん丸の目にはこれまた綺麗な空色の瞳。そこに溢れんばかりに溜まる涙はクリスタルのようにキラキラと輝いている。少女の泣いている姿はとても愛らしく、いけないとは分かっていてもきっとこの子にとってこの泣いている姿が一番美しいのではないのかと思ってしまうほどに。

それほどに泣いている少女は魅力的だった。


 そんな彼女はこちらを見て大きな目をさらに見開き茫然とこちらを見ている。そして、また一粒の美しい宝石が頬を伝って落ちた。


「あ、あの、急に声を掛けてしまってごめんなさい。泣き声が聞こえたので思わず近づいてしまいました。...これ、よかったら使ってください」


 なんだか、申し訳ない気分になって慌てて言葉を繕い、ドレスの隠しポケットからハンカチを取り出して渡した。

 王都に向かう道中に立ち寄った小物屋さんでアリーとお揃いで買ったものだ。


 ーーアリー、会場で私のこと探しているだろうか。優しくて心配性のアリーの事だから直接話さなくとも視線で私を見守ってくれていただろうから。はやく、戻らないといけないな。


 それにしても....





「す、すみませんん。ありがとうございますぅう。っう、っう。」


 す、すごく泣いてる。なんて声かけようか。どうしよう、どうしよぉぉ。


 少女はハンカチを受け取ると恐る恐る目元に当てて涙を拭き取った。さっきよりも少し落ち着いたみたいで何より。

 

「あのぉ、何かあったんですか?」

「っすん。え、えぇとぉ、そのぉ」

「あ、別に言いたくなかったらいいんですけど、話せば楽になることもあるかなぁと思って...私で良ければですが」


メイドさんは、っばっと顔をこちらに向けた。そしてその大きな瞳から止まりかけていた涙がまたハラハラと溢れだす。


 なんでーっ!?


それをみて私はパニックである。何か言葉を間違えてしまったのかもしれない。どうしよぉ...私も泣きたくなってきた。


「あ、ありがとうございますぅ。あのぉ、綺麗なお花に夢中になって歩いていたら、この子をふんでしまって。....っうぅぅ〜」


 彼女がしゃがんでいる足元に視線を落とし、手を伸ばした先には元気を無くした白い花が一輪。それを優しく撫でながらまた一粒の涙をながしている。

 

 彼女は涙を拭い鼻をすすりながらポツポツと成り行きを話してくれた。

 

 仕えしている人がパーティに参加している間、時間が出来た為に一人で庭園を散歩していたんだとか。あまりに王城庭園が美しく感動して夢中で観賞していたところ、ふさりと足の裏に柔らかい感触を感じたらしい。嫌な予感がして恐る恐る足を退けてみたら、案の定花壇の外、通路側に生えた花を踏んでしまったようだった。それが彼女にとって、とても悲しい出来事だったらしくここで一人で泣いていたそうだ。

 それで、こんなに泣いてしまっていたなんて、彼女はなんて心優しくて繊細なんだろう。

 草花を大切に思ってくれる人はとても好きだ。さっきまでの心の靄はまだ残っているけれど、彼女の優しさに触れて少しだけ心は温かくなった気がする。



 私の力で少しでも元気になってくれるだろうか?


 経緯を説明してくれた彼女は再び花を優しく撫でている。



「この花は、クルーゼといって、とても強いお花なんですよ。踏まれても、再び起き上がって花を咲かせるんです」


 そう。この白い花はとても強い花だ。可憐な見た目をしているけれど、踏まれても踏まれても起き上がり、寧ろその度に根を伸ばしどんどん繁殖していく。きっと明日には一株分くらい範囲を広げているだろう。

 けれど、少しでも彼女に笑ってほしくて少しだけお花にワガママを言ってみる。


「可愛い女の子が泣いてるよ。さぁ」



『起きて』



 花にそっと手を添えて呼びかける。魂の奥底から湧き上がるあたたかいこの力は魔法とは似て異なるモノ。

 花は青白い光を淡く纏いゆっくりと顔を上げていく。そして、その隣から新たな芽を出した。

 やがて、光は粒となって消え凛と咲くクルーゼが彼女を見つめる。


「す、、、」


 花が元気を取り戻し、添えていた手を引いた。

 凛と咲いたクルーゼに微笑み、隣のメイドさんへと視線を移す。

 これで、少しでも元気になってくれると良いんだけどなぁ.....っ!?


「す、すすすごいですぅ〜っうっう。私感動しましたぁぁ」


号泣.....


「か、感動してもらえてよかった..です?...っふふ。メイドさんよく泣きますね」


ほんと泣き虫なメイドさんだな。


感動しても泣いてしまう彼女を見ていると、だんだんと視界が滲んでくる。

頬を伝う温かなものはルナールに戻ってからよく流すものだった。


「私も一緒に泣いてもいいですか?」

「へ?」


これは、もらい泣きだ。ただのもらい泣き。そうじゃなきゃさっきの出来事を事実だと肯定した事になってしまう。悲しくて泣いているんじゃない。私は無関係なのだから。


「ど、どうしたんですか?どこか痛いのですか?」


隣でメイドさんが慌てているのが分かる。急に泣き出して申し訳ないなと思いつつも、一度溢れた涙はなかなか止まってはくれない。先ほど自分のハンカチは渡してしまったから流れるままに流すしかないのだ。だから、私が泣いているのは仕方がない。だってもらい泣きだから。涙が止まらないのは仕方ない。だってハンカチがないのだから。




 



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