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いざ、入場


「ぐ、ぐぅちゃん。すっごく見られてるよぉ」

「そりゃあ、エルフの美貌は別格だからなぁ。それがさらに二人並んでんだ。目を奪われないわけないだろ?」

「それ自分で言うんだ」

「俺は嫌ってほど自分の外見は自覚してんだよ。ミューも見た目だけは相当いいもんな。見た目だけは」

「一言余計だ」

「それにしても言葉と裏腹に堂々とした表情できてんじゃん。貴族みたいだな?」

「やめてよ。これアリーに教わった付け焼き刃なんだから」



 ぐぅちゃんにしか聞こえない声量で表情にも出さず、相変わらずな会話を交わす。


 扉が開き会場に入った瞬間、賑やかだった会場は静まり返り視線の的となった。息が詰まりそうになるほどの突き刺さるような視線に怯みそうになったけれど、隣にいるぐぅちゃんは堂々としてそっと手を引いてくれる。物怖じしないぐぅちゃんがとても頼もしくおかげで私も少しだけ落ち着きを取り戻せた。

 けれど注目されていることは変わらず、『何があっても堂々としていなさい』と言うアリーの激励を思い出してひたすら前を向くしかない。それでも、やっぱり溢れる不安は隣にいる幼なじみの安心感のせいだと思いたい。

 


「ねぇ、これからどうしたらいいのかな?」



 本格的に婚約式が始まるのは本日の主役である二人が入場し、ダンスを踊ったり挨拶や歓談をしてかららしい。それを聞いて『さっさと終わらせちゃえばいいのに!』っと悪態をついた私に『王家の婚約式だから国賓が揃うまでに結構時間がかかるのよ。仕方ないわ』と苦笑しながらアリーが宥めてくれたことを思い出した。


「とりあえず、あそこにエヴァンいるし行くかぁ」

「賛成」


まず、一足先に入場していたエヴァンさんの元へ行くことにした。

 エヴァンさんは待ってくれていたかのようにこちらに向かってヒラヒラと手を振ってくれている。

 

「やぁ、注目の的だねお二人さん」

「さっそく疲れたわ」

「緊張しました。目が怖い」

「あはは。お疲れ様」


エヴァンさんは近くにいた給仕の人を呼び止めて飲み物を頼んでくれた。

 ぐうちゃんとエヴァンさんはお酒、私は冷たいぶどうジュースをもらった。口に含んだ瞬間にひんやりした酸味と甘味が口いっぱいに広がり喉の渇きが潤っていく。


「それにしても、二人並ぶと本当に絵になる。さすがエルフだ」

「何今更言ってんだよ。俺とミューが並んでるとこなんて、何回も見てるだろ?」

「それはそれで、美しい光景なんだけどね。今回は別格だ。グレンは僕の見立てどおり本当にそのスーツがよく似合う。喋らなければ文句なしだ」

「おい、どういう意味だよ」


 二人が言い争っているのがとても微笑ましい。確かにエヴァンさんの言う通りスーツ姿のぐぅちゃんはとても様になっている。幼い頃から知っているから似合ってるなぁくらいで特にときめきも無いけれど、きっと他の女性では今日のぐぅちゃんに一目で魅せられてしまうだろう。ほら、あそこのご令嬢達なんて、扇で口元を隠しつつずっとぐぅちゃんをうっとりと見つめている。ニコちゃんぐぅちゃんは私が守るからね!!

っといっても何やかんや言い争いつつもぐぅちゃんは昔からニコちゃん一筋で溺愛状態だから心配の必要はこれっぽっちもないんだけど。


「そして、何よりミューリアちゃん。本当に綺麗だよ。まるで夜を統べる女神のようだよ」

「ふふ。ありがとうございます。これはアリーとデザイナーさんが私の為にと用意してくださったんです。私にはもったいないくらい素敵でしょ?」


裾をつまみ軽くスカートを広げて見せる。

 スカートが揺れるたびにホールの明かりに反射してキラキラと光が舞う。


 そういえば、少し場の雰囲気に慣れてきたみたい。

周りを横目で見渡してみる。

 なんとなく見たことのある顔触れになるほどと納得した。学園生活で貴族に見慣れていたからか。田舎育ちの私はアリーやエヴァンさんしか、貴族と触れ合う機会がなく入学当初は住む世界の違いに驚いたものだったけれど、楽しかった1年目はなんやかんやと慣れていった。だから今日久しぶりにこの世界に入ってもすぐに落ち着きを取り戻すことができたんだ。思い出すことも嫌だったあの学園生活も得るものがあったんだなぁと少しだけ前向きになれたことに自分でも驚いた。


「本当に素敵だよ」


 エヴァンさんは眩しそうに目を細め何度も褒めてくれる。自分の容姿は褒められてもどこか他人事でイマイチ素直に喜べないけれど、今日この色のドレスを纏って褒められることはすごく嬉しい。


「この色私の大好きな色なんです」


 こそばゆい気持ちに恥ずかしくなって急いで言葉を見繕う。こんな時扇子を上手くつかえたなら顔を隠せたのに。


「ほほーう。さては、ミューリアちゃんいい人でもできたのかい?」

「なんだミュー、お前男が出来たのか?」

「な、なんで急にそんな話になるんですか」


 思わず少し大きな声が出てしまって慌てて口元を押さえる。二人はニヤニヤとこちらの様子を揶揄いの眼差しで見てくる。なんで分かったんだろう。そんなに顔に出てた!?

顔が熱くて赤くなっていることが鏡を見なくても分かる。友達や知り合いに知られるより兄みたいな存在に知られる事の方がよっぽど恥ずかしいんだと今知った。


「あんな小さかったミューが色気立つなんてなんか俺、複雑だわ」

「干渉する兄は嫌われちゃうよ、グレン。分からなくもないけどね」

「分かってるんだけどな、でも一度くらいは顔確認しねぇとな」

「僕もついていくよ」


「二人で話進めないでくれる!?」


赤くなった当事者を置いてけぼりにして二人のよく分からない会話を咎めようとした時、会場に盛大なファンファーレが鳴り響いた。




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