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ヒロインは告白する

 


 今日もネムと一緒にお昼ご飯を食べて、暖かな日差しのなか、二人で少しだけお昼寝をした。

暖かなといっても春手前のこの時期は、外でお昼寝をするにはまだ少し肌寒い。でも大きめのブランケットが一枚しかなかったから、お互い出来るだけ壁に近づいて二人で半分こした。

 リリがブランケットの半分を私に掛けて反対側をネムに掛けてくれた。そういえば、リリはチョーカーを貰った日以来スクスクと大きく成長しました。もはやお馬さん並みの大きさで最近では背中に乗せてもらえるようになりました。それが、本来のリリのあるべき成長した姿らしい。魔物ってすごい!

それでも物を口で咥えて運んでくれる器用さは変わらないのでやっぱり私のリリは類稀なる天才だった。


 上手にブランケットを掛けて貰った私達はお互いはみ出してしまわないようにさらにきゅっと壁に近づいた。

 それぞれ体を向け合い、壁がなければ容易に触れてしまえるその距離が胸の鼓動を速める。

 

 最近、私は自分の気持ちに気がついた。この気持ちは友人としての好きじゃないってこと。一緒にいれば楽しいのに少しソワソワする。会えない時間は寂しいし、会えている時間はあっという間で名残惜しくなる。

こんなに近くにいるのに触れられないことがどこかもどかしくて、きっとこの感情が恋なんだと知った。


「ねぇ、ネム」

「なに?」

「私、ネムが好き」

「え?」


ネムは目を大きく見開いた。突然すぎてそりゃびっくりするよね。それでも私は続けた。


「私ね、ネムが好き。お友達としてじゃなくて、きっと恋しちゃったんだと思う。でもね、どうか返事はしないで?だって私達にはこの壁があるでしょ?私はこの森からはなれるわけにはいかないし、きっとネムもそう。いつか、私はお婿さんをもらって、ネムはお嫁さんをもらうの。それが、わかっているから振られてしまうのは悲しい。だから返事はしないで。ただ、好きって伝えたかったの」


自分でも驚いてしまうほど、穏やかにでた告白はあまりにも現実的でなんだかロマンチックじゃないなと一人で苦笑した。

ネムはただただ、ぽかんと口を開けて呆然としている。たまに見せてくれるこの表情ネムの素が出ているみたいでとても好きだ。


「.....何それ、ズルいよ」

「え!?どこが?」

「そういうところだよ。そういうミューリアのずるいところぼくはあまり好きじゃない」


好きじゃない...

好きじゃない...

好きじゃない...


「....だから返事はしないでっていったのにぃ嫌いにならないでぇ」


ネムに好きじゃないって言われた。泣きそう。目頭が熱くなってくる。恋として好きではなくても友人としてはそれなりに好意を持ってくれていると思っていた。ただの自惚れだったなんて...。

恋って難しい。一方通行の恋はこんなにも悲しくて苦しいんだ。

そうか、だからネムは私にずるいって言ったんだ。私はこの悲しみから逃げ出そうとして返事を拒否した。だから私はズルいんだ。

 

とうとう涙が溢れてきた。でもそんなのどうでもいい。やっと出来た友達なのに失いたくない。私はネムに嫌わないでと乞うしか出来ない。


「泣かないでよ。君は本当泣き虫だなぁ。僕は嫌いだなんて言ってないでしょ?」

「だっ...だって好きじゃないって言った」

「僕は、僕の返事を聞かずに一方的に自分の気持ちだけ伝えて終わりにしようとするところが嫌だと言ったんだ。どうして僕の返事を聞こうとしてくれないの?」


熱を帯びた夕焼けの瞳に見つめられて目を逸らせない。思ってもみなかった言葉に私は流れる涙をそのままにその綺麗な夕焼けを見つめ返すことしか出来ない。


「どうして一緒になれる道を探そうとしてくれないの?どうして僕の気持ちを置いてけぼりにするの?」

「....だって、私はこの森を守っていかなきゃいけない。ネムだってきっといつかお父様の跡を継ぐのでしょ?私達はここから出られない。触れることは出来ない...から...」


最後は泣いてしゃくり上げてしまって上手く言葉に出来なかった。

 私の言葉を聞いてネムの瞳が少し揺れて徐々に苦虫を噛み潰したような苦い顔になっていく。


「.....もう、後は継いでる」


ネムは嫌そうにそう呟く。


「え?そうなの?いつ?」

「3ヶ月くらい前に。僕が二十歳になったから継ぐことになったんだ」

「ネム誕生日だったの?教えてよ!」

「どうして?」

「どうしてって...その日があるからネムがいて私はネムに出会えたんだよ?おめでとうってお祝いしたいし、何かプレゼントしたいよ」

「....そっか。ミューリアがお祝いしてくれるなら煩わしいその日も楽しいかもしれない」


自分の腕を枕にしているネムは子供っぽく笑う。けれど、気になるその言葉に今度はわたしが眉を潜めた。煩わしいってどういうことだろう?

そのことを問いかけようと口を開きかけたが声を発する前にネムの声がそれを遮った。


「ねぇ、ミューリアは僕と一緒になってくれる?」


その一言に息がつまりそうになる。


「...そんなことできるの?」

「分からない」

「何それー」



普段の会話で選ぶ言葉や仕草の中からもネムがいかに賢く、聡明であるかが分かる。それくらい、いつも的確なことを言うのに、今はこんなにも曖昧な返事をしている。その事が可笑しい。でもそうさせているのが私で...嬉しくて思わず笑ってしまう。


 そうしてしまったらネムは機嫌が悪そうに少しだけ顔を顰めるのだ。


「今はミューリアの気持ちを聞いてるんだよ」


そう言いながらネムの指は私のおでこをつつく振りをする。壁があって当然その指は私のおでこには届かなかったけれど、そのことがとても惜しいなと思った。


「私、ネムが好きだよ。だから一緒に居たい」


そう返したらネムは満足そうに笑った。





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