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エヴァンの報告



 相変わらずな茶番を一通り終えて、エヴァンさんが席に着きぐぅちゃんは再び防音の壁を張った。


 エヴァンさんのおかげ?で何となく心が落ち着きを取り戻した気がする。ここで、私が取り乱しても仕方が無いことだ。私は森を守る者。冷静さを失ってはいけない。先ずは出来る限りの情報を集め、考えなければ。

 

「で、エヴァン何か情報が掴めたのか?」


 ニコちゃんが渋々入れたお茶を優雅に飲んでいたエヴァンさんはカップを口から離しソーサーの上へと戻した。その一連の流れも学生時代に見慣れた貴族らしい所作と全く同じで、こんなに親しみやすいエヴァンさんでもやっぱり貴族なんだなぁと思い直す。

 

 エヴァンさんはぐぅちゃん達の幼なじみで東の森を含めたモナン領を治める侯爵様の御子息だ。例えるならば、ぐぅちゃんにとってのエヴァンさんは私にとってのアリーみたいな存在である。

 五人兄弟の三番目に生まれた彼は、跡取りではないからと自由気ままだ。その為領地経営を手伝ってはいるものの、東の森に訪れている事も多くいずれはここに住むとまで言い張っているらしい。


 エヴァンさんはテーブルの上に乗せた掌を合わせ、それをじっと見つめた。

 そして何かを決意したかのようにばっと視線を上げ、ぐぅちゃんを見る。


「まずこの森だが、この地を切り開いて巨大な教会を建てるらしい」

「は?教会?」

「ああ。教会だ」



エヴァンさんの話をまとめると、ずっと昔からこの国を守ってきた森やエルフを信仰する人々が沢山いる。けれど、その森やエルフが無くなれば、信仰する対象が無くなり怒りで混乱や暴動が起こりかねない。それを防ぐ為に教会を建てるのそうだ。信仰の対象があればそれを心の拠り所に人々は生きて行ける。国は自ら教会を建て自分達に都合の良い神を創り上げ国民をそちらへと誘導する....。

なんて身勝手な話だろう。それは神や信仰する人々への冒涜だ。


「それなら、なぜ森を無くす必要がある?そのままにしておけばいい話じゃないか」

「そうだね。グレンの言う通り。だけど、そこまでは僕も分からなかった。父上ならまだしも、僕は侯爵家のたかだか三男だからね。建築家への依頼があったことを知るのが精々だよ。この情報だって機密事項で得るのすっごく大変だったんだからね?信仰対象を移す話だって、偶然立ち聞きしただけなんだから。」

「偶然ねぇ...」

「何故そうなったのかまでの情報は得られなかった。上の考えることは分からないよ。分かりたくもないけどね。ただ、ある程度予想は出来てしまうあたり、自分もやっぱり貴族なんだなって思い知らされるよ。」


 エヴァンさんはわざとらしく肩を竦めてみせた。子供の頃からエヴァンさんはよく貴族じゃなくこの村に生まれていたらなと溢していたことをっふと思い出す。自由で純粋なエヴァンさんはきっと貴族社会では生きづらいだろうと思う。学園に通うようになって改めて思ったことの一つだ。私は貴族に生まれなくてほんとぉに良かった。


「で、お前の予想ってなんだ」

「本命は東の森じゃない」

「本命?」

「ああ。本命は西の森。ミューリアちゃんの精霊の森だ」


 エヴァンさんの言葉が耳に届いた瞬間、胸が何かに握りつぶされたような感覚襲われた。本命が精霊の森?

エヴァンさんはこちらの様子をチラリと伺ったが私は無言で見つめ返し続きを促した。


「西の森に隣接しているリストピア。絶対的な魔の力でこの大陸の事実上の宗主国だ。そんなリストピアだが、どの国とも表面上は対等に付き合っているのは知ってる?」


 先ほどまではぐぅちゃんの方を見て話していたけれど今はこちらを見て話すエヴァンさんに、はい。とだけ返事をする。


 魔の帝国リストピア。大陸の中心に位置し、帝国の頂点に君臨する皇家には代々この世の始まり、全ての力の源、創世の神ネストリダリウムの先祖返りが生まれるという。今代の先祖返りは皇太子殿下と学園の授業で学んだ。その力は強大で絶対的な存在だ。


「フォレスティア王は、貪欲なお方だ。どの国をも差し置いてリストピアとお近付きになりたいと野望を抱いていると密かな噂がある。西の森はリストピアの王都にも近い。確信があるわけでも確かな証拠があるわけでもないが、隣接する西の森を開き交流を促すという理由なら西の森を狙っている納得がいく。」

「....そう...ですか」


一通りエヴァンさんの話を聞き終えて、返せた返事はそんなものだった。先ほどまで強張っていた体は今はすっかり力が抜け、椅子の背もたれに体を預けている。机の上に置いていた腕は今は膝の上で頼りなく震えていた。エヴァンさんの話はちゃんと聞いていたし、覚えてもいる。けれど全く理解出来ずにいるのだ。

 あまりのことに思考が職務放棄をしてネムに会いたいなぁなんてただただ、無意識の内に沸き起こった欲を思い浮かべるだけだった。この状況を打破する機転も効かず、すぐに動く行動力も持ち合わせていない。自分で自分が情けない。これが今代のエルフィーなのだから森も可哀想だなんて他人事のように思う。


「なぁ、ミュー」


ぐぅちゃんの落ち着いた声がしばらく誰も言葉を発さず続いた沈黙を破った。

私は俯いていた顔をゆっくりとぐぅちゃんの方へと向ける。


「なぁに、ぐうちゃん」





「・・・俺たちでこの国を森にしちまうか?」


ぐぅちゃんは吹っ切れたような笑顔で私に問いかけた。


それはあまりにも突拍子で恐ろしくて現実逃避な発言で、けれど、とても魅力的なお誘いだった。






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