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第48話 死神との結末

 ――――――――――――――――



 残り時間――2時間57分  


 残りデストラップ――2個


 残り生存者――3名     

  

 死亡者――6名   


 重体によるゲーム参加不能者――4名



 ――――――――――――――――



「――スオウ君……大丈夫! ねえ、大丈夫なの……?」


 離れたところにいたイツカが大声を上げながら走り寄ってくる。


「やったよ……。今度こそ……本当に、終わったよ……終わったんだよ……」


 しゃがみこんだままの状態でイツカを待つ。


 イツカがスオウの脇にしゃがみこむ。イツカがスオウの脇に来て、そのまま座り込んだ。自分の膝の上にスオウの頭を乗せると、甲斐甲斐しく労ってくれる。


 スオウはされるがままになる。いや、実際のところは、もう体を動かすことが出来なかった。


「勝ったんだよね? これで本当に勝ったんだよね?」


 イツカが繰り返し訊いてくる。


「ああ……勝ったよ……勝ったよ……」


 うわ言のようにつぶやくスオウの頭を、イツカが優しく撫でてくれる。


 そのとき――。


 大地を大きく揺さぶる轟音が上がった。とうとう病院が崩壊を始めたのである。


 崩壊は数十秒続いた。辺りに大量の粉塵が舞い上がる。その埃が強風に流されていく。


 再び視界がひらけたとき、そこに完全に潰れて瓦礫の山と化した病院が姿を見せた。


 今夜、何度も聞いたメールの受信音がした。



『 ゲーム退場者――1名  瑛斗

               

  

  残り時間――2時間54分  


  残りデストラップ――0個


  残り生存者――2名


   死亡者――6名   


  重体によるゲーム参加不能者――5名         』



 スマホを操作するのが無理だったので、イツカが自分のスマホを使って、開いたメールを見せてくれる。


「病院の崩壊が最後のデストラップだったみたいだね。やっぱり外に逃げて正解だったね」


 イツカの感想に対して、うなずくことしか出来ないスオウ。


 さらに続けてメールの受信音。イツカがスマホを操作して、新しいメールを開いて見せてくれる。



『 最後のデストラップが発動しました。


  今夜のデス13ゲームはこれで終了となります。

  

  長時間、ご苦労様でした。

   

  なお、勝者の報酬については、準備が整い次第、順次実施されます。


  

  勝者――2名  


  生田スオウ 

  四季葉イツカ             



                     死神代理人 紫人 』



「これでゲームが……ようやく、ようやく終わったんだ……」


 張り詰めていた緊張感がようやく解けた。


「スオウ君、勝ったんだよ! わたしたち、ゲームに勝ったんだよ!」


「そうだな……これで、妹を助けられるよ……」


「うん、きっと妹さんも喜ぶと思うよ!」


「ありがとう……。そういえば聞いていなかったけど……イツカは紫人になにを要求していたんだ?」


「えっ? わたし? わたしも……大事な人の病気のことを、ちょっとね……」


 イツカが顔を強張らせて、視線をそらした。イツカもそれなりの思いを抱いて、このゲームに参加していたのだろう。人には言いにくいことなのかもしれないので、それ以上追求することはやめにした。


 今はもっと重要なことを話さないとならない。


「そうだ……イツカにひとつ……どうしても、お願いが……あるんだけど……いいかな……?」


「どうしたの? そんな真剣な目をして?」


「どうしても……きみに……お願い……したいんだ……」


 声を発するのがつらくなってきた。終わりが来る前に、ちゃんと伝えておかないとならない。


 銃で撃たれた傷と、車にぶつかった衝撃。


 それがスオウの体にどれほどのダメージを与えたのか。さっきから下半身に力が入らなくなっていた。左手も震えるばかりで、何かを掴むことは無理そうだ。視界は全体に紗がかかったようにぼやけている。


 自分の死期が近いのだと悟った。だから、イツカにお願いをしたのである。


「妹に……妹に……伝えてくれ……。助かって……良かったなって……」


「スオウ君、突然何を言い出すの! すぐに救急車を呼ぶから大丈夫だよ! 絶対に助かるから!」


「いいんだ……自分のことは……自分が一番よく……分かっているから……」


 そういえば、妹も同じようなことを言ったことがあるのを思い出した。こんな差し迫った状況だというのに、やっぱり兄妹なんだなあ、と妙に納得してしまった。


「苦労して、せっかくゲームに勝ったんだよ! ここで死んだら、ゲームに勝っても、死神に負けたのと同じじゃん!」

 

 イツカが声を掛けてくる。


「死神か……。そうだな……死神の顔ぐらいは……最後に拝みたかったけど……体がもう……もちそうに……ないんだ……」


 下半身に続いて、さっきまでズキズキと痛んでいたはずの左手の感覚までもが無くなってしまった。体から急激に生きる力が消えいく。


「スオウ君! スオウ君!」


 イツカの声がこだまみたいに耳内に反響する。



 きっと今頃、死神の野郎は笑っているだろうか。それとも、死んだゲーム参加者たちの魂の数を数えるのに必死なのだろうか。



 命のともし火が消えかかっているスオウの脳裏に、ゲーム中に起きた様々な場面の映像が走馬灯のように思い浮かんでいく。



 ゲーム参加者たち、デストラップ、前兆、銃、地震、爆発、出血、死……。

 悲しみ、驚き、怒り、虚無、悲哀、寒気、不安、絶望……。

 悲鳴、怒声、泣き声、蛮声、絶叫……。



 それらの映像から、突拍子もないが極めて合理的な、あるひとつの解答を導き出した。


 紫人は最初に言っていたではないか。



 死神は『特等席』で、このゲームを見ていると――。



 ああ、そうか……そういうことだったのか……。おれは……すっかり、だまされていたよ……。



 死神の正体は――。



 死ぬ前にひとつやることが出来てしまった。力がだせるか分らないが、最後に死神に一泡吹かせてやりたい。


 唯一動く右手をゆっくりと伸ばしていく。イツカに向けて。


 手のひらをイツカの頬にあてがった。イツカは誤解したのか、スオウの右手を握ろうとした。


 スオウはイツカの手を払いのけると、右手をイツカの細くて白い喉もとに移動させた。


 イツカの顔に変化があらわれる。不思議そうな表情。その表情が激変する。驚愕の表情を浮かべるイツカ。


 スオウは最後の力を使って、イツカの喉を手で握り締めたのである。


「イ、イ、イツカ……き、き、君、だったんだな……。き、き、君…………だったん…………だな………………し、し、し、し、死、神、は……………………」


 スオウの意識はそこで、途――切――れ――た――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。

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