表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/58

第46話 死神との死闘 その1

 ――――――――――――――――



 残り時間――3時間28分  


 残りデストラップ――2個


 残り生存者――3名     

  

 死亡者――6名   


 重体によるゲーム参加不能者――4名



 ――――――――――――――――



 紫人からのメールが届いた。スオウは歩みを一旦止め、鉄パイプを右脇の下に器用に挟み込むと、スマホに届いたメールをチェックした。そこに絶対に見たくない名前が載っていた。



『 ゲーム退場者――1名  瓜生

               

  

  残り時間――3時間28分  


  残りデストラップ――2個


  残り生存者――3名     

  

  死亡者――6名   


  重体によるゲーム参加不能者――4名         』




「うそだ……。こんなの絶対にありえない……。あの瓜生さんが犠牲になるなんて……うそに決まってる!」


 瓜生の笑顔が頭に思い浮かんでくる。必ず再会すると約束した瓜生――。


「ちゃんと……約束したじゃないですか……。大人なのに……大人なのに……約束を破るなんて……ずるいですよ……ずるいじゃないですかっ!」


 その場に力なく崩折れた。


「――スオウ君、ねえ、スオウ君! 今は病院から遠ざかるのが先だよ!」


 イツカがスオウの肩を必死に揺すってきた。


「でも、瓜生さんは再会するって約束したんだ……。それなのにさ……それなのにさ……」


「いいから、早く起きてっ!」


「なんだよ、イツカは悲しくないのかよっ!」


 行き場のない悲しみを、イツカにぶつけてしまった。それが八つ当たりだということは、スオウ自身が一番よく分かっている。


「しっかりして、スオウ君! 苦しんでいる妹さんが病院で待っているんでしょ!」


 それはスオウのことを思いやるイツカの優しい怒鳴り声だった。


「――そうだ……そうだった……。妹が、妹が……病院で、待っているんだ……」


 ゆっくりと立ち上がる。イツカの目を見て、今やらなければいけないことがなんなのか思い出した。



 そうだ、おれは妹の為にも絶対に生き残らないといけないんだ!



 イツカの一喝のおかげで、混乱していた頭に冷静さが戻った。


「――ありがとう、イツカ。瓜生さんには悪いけど、今は逃げよう」


「そうだよ。今は目の前のやれることをしないとスオウ君」


「よし、駐車場まで急ごう」


 スオウは再度鉄パイプを右手で力強く握り締めた。傷口の痛みに耐えながら、前を向いて歩いていく。


 ときおり耳の横を通り過ぎていく強風の音。反対に遠くから聞こえる雷の音。


 ゲーム開始当初に五階ホールのテレビの天気予報で見た強風雷注意報を思い出した。これ以上天候が悪化しないことを祈るばかりだ。


 地震による緊急出動なのだろうか、けたたましいサイレンが何十にも重なって聞こえてくる。それだけ多くの緊急車両が出動しているのだろう。


「ダメもとで、救急車を呼んでみようか? この状況じゃ、いつ来てくれるか分からないけど、おれたち二人じゃ重体のゲーム参加者を外へ運び出せないから」


「うん、そうだね。それが一番安全な方法だよね」


 スオウはイツカに確認してから、スマホで119番に連絡を入れた。



『はい、消防です。火事ですか? それとも救急ですか?』



 地震の影響による回線の混雑を予想していたが、電話はすぐに消防署につながった。


「救――」


『急』と言いかけたとき、突然、まばゆい光に顔を照らされた。光の方に視線を向けたが、まぶしすぎて視界がまったく利かない。


 不意に、ギュルルンという獣の咆哮じみた音が前方からした。すぐに音の正体が車のエンジン音だと気づいた。脳裏に、さっき見た病院の入り口付近に止まっていたルーフが壊れた車が思い浮かぶ。


 果たして、それらが意味することは――。


 車の屋根に落ちたのは人間だったに違いない。しかも、その人物はまだ生きている。そして、車を運転してこちらに向かって来ているのだ。


 今このゲーム内で生き残っている人間は三人しかいない。スオウと、イツカと、もうひとり――。


 光芒を放つ人工的な獣が、猛烈なスピードで近付いてくる。


「イツカ、早く逃げるんだっ!」


 スオウは考えるよりも先に行動していた。隣に立つイツカの背を手で力強く押して、車のヘッドライトの中に自分だけが残る。


「スオウ君!」


 イツカの絶叫。


「くそっ、何か策はないか……?」


 光が間近に迫ったところで、ようやく車の輪郭が目で把握できた。そのとき、別の物がスオウの視界に入った。



 これだ! これしかない!



 スオウは地面に右手を付き、『それ』を掴んだ。光に向かって『それ』を大きく振り上げる。


 ちょうどそのとき、良い具合に一陣の風が吹き抜けた。スオウが手にした『それ』――足場を覆っていた巨大なシートが、風の力で舞い上がり、猛スピードで接近してきた車の方に飛んでいき、フロントガラスを一面覆い隠す。



 よし、今だっ!



 スオウは一か八かのタイミングを見計らって、真横に飛んだ。同時に、下半身に非常に重たい衝撃が走る。そのまま地面に飛ばされて転がっていく。


 だが、ここで気を失う訳にはいかない。車の行方をしっかりと目で確認する。


 フロントガラスを暗闇で閉ざされた車は左右に蛇行しつつ、体勢を整えるためか、急ブレーキを踏んだ。切り裂くような音とともに、車体がグリップを失い、盛大にスピンをする。


 そのままスピードを落とすことなく病院の外壁に激突。そして、コンクリートの塊と鉄の塊がぶつかり合う衝撃音。


「や、や、やった……のか……?」


 変形した車が薄闇の中にぼんやりと見える。そこから白い煙が闇の中を空へと立ち上っていく。


「スオウ君、大丈夫? 怪我はしていない?」


 イツカが心配顔で駆け寄ってきた。


「――ああ……ちょっとかすっただけだから、平気だよ……」


 スオウは強がってみせたが、実際のところ、左わき腹の辺りにじんじんとした痛みがあった。車をよけるのが一瞬遅れてしまったのだ。


「スオウ君、早くここから逃げよう!」


「そうだな……」


 スオウは答えながらも、車からまだ目を離すことが出来ずにいた。そのとき、車の一部に赤い光が生まれた。それがたちまち車全体に広がっていく。どうやら車体から漏れ出したガソリンに引火したらしい。


「――ねえ、これで終わったんだよね? これで本当に終わったんだよね?」


「ああ、そうだと思いたいよ……。この体じゃ、やつの相手を続けるのは――」


 二人の話し声をかき消すかのように、爆音が轟き渡った。ついに車が爆発したのだ。


 病院の三階近くまで、昇り竜のごとく炎が立ち上っていく。爆発の衝撃によって、車の破片がそこらじゅうに飛び散っていく。ガソリン特有の鼻をつくニオイと、焦げ臭いニオイがあたりに立ち込めていく。爆発によって、車は完全に破壊されていた。


「この炎で全部燃やし尽くしてくれよな……」


 だが、スオウの願いは届かなかった。ガジャンという音が車の付近でしたのだ。

炎を背にまとったがごとく、人影が車から出てきた。


「うそ……うそ……うそ、でしょう……」


 イツカが声を震わせた。スオウも目の前の光景が信じられなかった。あれだけの規模の爆発に巻き込まれたにも関わらず、その男は生きていたのだ。


「あいつ……不死身なのかよ……。まるで……死神そのものじゃないか!」



 地獄の炎の中から姿をあらわした、死神を思わせる男――瑛斗。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ