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第45話 落下の法則 第十の犠牲者

――――――――――――――――



 残り時間――3時間36分  


 残りデストラップ――4個


 残り生存者――4名     

  

 死亡者――6名   


 重体によるゲーム参加不能者――3名


 重体によるゲーム参加不能からの復活者――0名



 ――――――――――――――――



 一階の廊下にいたスオウの耳に、二階で何かが破裂する音が聞こえてきた。


「銃声か? いや、さっき瑛斗に撃たれたときの音と少し違うみたいだったけど……?」


「ねえ、スオウ君、今の音って……?」


 スオウとイツカが顔を見合っていると、ボドゥンという音が、今度は外から聞こえてきた。二階から何かが外に落下したらしい。


「これは外に出て、直接たしかめた方が良さそうだな」


 スオウは窓枠を掴み、右手一本の力で体を引き上げた。一瞬の躊躇のあと、そのまま外に飛び降りる。


「よし、外は大丈夫みたいだ。イツカも早く!」


 一階の廊下に残るイツカに声をかける。


「分かった」


 イツカが窓を越えて、外に足を着いた。


「どうやら、あれがさっきの音の正体みたいだよ」


 スオウは病院の前庭に停めてある車を指差した。車のルーフ部分が内側に大きくめり込んでいるのが見て取れる。建物から落下した何かがルーフを直撃したらしい。


「近寄っても大丈夫なの? 危険じゃない?」


 車に向かおうとしたスオウにイツカが心配げな顔を向けてくる。


「そうだな。近寄るのはやめておこう。今は病院から離れるのが先だよな」


 スオウは地面に落ちていた鉄パイプを一本拾い上げた。おそらく、一番最初のデストラップのときに落ちてきた足場用の鉄パイプだろう。近くには足場を覆っていたシートも落ちている。強風のせいで、ばたばたと大きな音をたててはためいている。


 鉄パイプを杖代わりにする。いつまでもイツカの肩を借りるわけにはいかない。


「とりあえず駐車場まで行こう。そこまで歩いていけば、仮に病院が崩壊したとしても、巻き込まれることはないだろうから」


 スオウはイツカとともに歩き始めた。



 ――――――――――――――――



 しばらくの間、瓜生は目の前で起きた奇跡のような瞬間を理解できずにいた。


 銃を構えた瑛斗に対して、瓜生は成す術もなく絶体絶命の状態であった。にもかかわらず、今廊下に立っているのは瓜生の方である。そして、床の上には、変形したシリンダー部分が飛び出した銃。



 いったい、何が起こったっていうんだ?



 瑛斗はたしかに銃の引き金を引いた。しかし銃弾は発射されなかった。代わりに銃が暴発したのである。


 その結果、瑛斗は銃を握っていた右手を負傷して、痛みのせいか壁に寄りかかった。その絶好のタイミングを瓜生は見逃さなかった。持てる力を振り絞って瑛斗に体当たりを敢行したのである。瑛斗は驚いた表情を浮かべたまま、窓から地上に落下していった。


 瓜生の大逆転劇である。


 一連のことの成り行きを頭で整理して理解したとき、さっきの缶ジュースの一件を思い出した。炭酸が吹き出たのは、酸素ボンベではなく、銃の暴発のデストラップを意味する前兆だったのだ。瓜生はそれを読み間違えたのである。



 まっ、結果オーライっていうことにしておくか。



 心の中でそう結論付けた。どんな形であれ、勝ったのは自分なのだ。



 さあ、俺もこの病院から早く逃げ出すとするか。



 瓜生はすぐに愛莉の待つ部屋に急いだ。


 廊下を歩いていると、ミシミシやら、ギシギシやらという、不吉な軋み音があちこちから聞こえてくる。明らかに病院崩壊の時間が迫っていた。


 瓜生は部屋に戻ると、最初にベッド上の愛莉の状態を確認した。浅いが息はしっかりしている。


「よし、身体の方はもってくれたみたいだな」


 スオウとイツカが運んでくれた車イスをベッドに横付ける。よいしょとばかりに、愛莉の体を持ち上げた。左足の傷が悲鳴をあげるが、意思の力で痛みをぐっとこらえる。愛莉を車イスに乗せたら、あとは逃げるだけだ。


 車イスを押して、廊下に出る。階段は車イスでは無理なので、エレベーターホールに向かった。


 地震とガス爆発の影響がないことを祈りつつ、エレベーターの乗降ボタンを押す。すぐに階数表示が点滅し始める。何事もなく四階からエレベーターが降りてきた。


 車イスを最初に載せて、自分も乗り込もうとした。そこで右足に履いていた靴が急に脱げそうになった。


 足元に目をやると、靴紐が切れていた。どこかでガレキにでも引っ掛けたのかもしれない。しかし、今は結び直している暇はないので、そのままエレベーターに乗り込んだ。


「頼むぞ。ちゃんと動いてくれよな」


 拝むようにして、一階のボタンを押した。お馴染みの浮遊感とともに、なぜかエレベーターが上昇を始める。


「くそっ、なんで上昇するんだよ! 俺が押したのは一階のボタンだぞ、一階!」


 やはり地震の影響で故障していたのだろう。瓜生が怒鳴っている間に、エレベーターは一階ではなく、最上階の7階に着いていた。


「最上階まで来たんだから、今度は一番下までちゃんと降りてくれよな」


 もう一度、一階のボタンを押した。開いていた扉が閉まり、今度こそ下降し始める。


「よし、大丈夫だな。これで降りられるぜ」


 瓜生がほっとしかけたそのとき、降下するスピードが急にグンと速くなった。それは降下というよりは、むしろ落下と呼ぶに近かった。


「――――!」


 不意に瓜生の脳裏に、切れた靴紐の映像が思い浮かんだ。


 一般的なエレベーターはワイヤーロープで吊り下げられている。


 切れた靴紐と、エレベーターのワイヤーロープ。


 そのふたつから導き出される答えは──。


「冗談だろ……。まさか、さっきのあれが……デストラップの前兆だったのか……?」


 エレベーターはさらに落下速度をあげて、一階に向かって落ちていく。エレベーターを吊り下げていたワイヤーが切れたのは、もはや疑いようもない。



 くそっ、ふざけんなよっ! この子だけは絶対に助けてみせるからな!



 瓜生は愛莉の体に覆いかぶさった。少しでも落下のダメージから愛莉を守るためである。



 数瞬後――エレベーターは凄まじい大音響をあげて一階に落下した。いや、エレベーターシャフトの底に衝突したというべきだろうか。



 瓜生と愛莉の二人が乗っていたエレベーターの箱は、見えざる巨人の手により、上下にぐにゃりと押しつぶされてしまっていた。

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