表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/58

第30話 タバコは寿命を縮めます 第五、第六の犠牲者

――――――――――――――――



 残り時間――6時間16分  


 残りデストラップ――7個


 残り生存者――9名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――2名



 ――――――――――――――――



 銃を手にしたヒロユキは、下半身がガレキの下敷きになって動けなくなっているヒロトの姿を見つけだした。ヒロトは意識がはっきりしないのか、目元がぼんやりとしている。


「おいおい、ざまーねえ格好だな」


 バカにしたように言った。


「起きてねえのか? じゃあ、オレがとっておきのモーニングコールで起こしてやるよ」


 ヒロトの下半身が埋まっているであろうガレキに、わざと足で全体重をかける。


「うぐ、ぐ……ぐ……」


 ガレキの重みにさらにヒロユキの足の力が加わって、ヒロトの体の痛みが増したらしく、口から呻き声が漏れてくる。


「手も足もでないっていうのは、まさにこういうことを言うんだな」


 ヒロユキは勝ち誇ったようにせせら笑う。そして、手にした銃の先を、ゆっくりとヒロトの顔にポイントした。



 ――――――――――――――――



 四階の廊下で円城とは分かれた。スオウたちは案内図をみて、リハビリルームの場所を確認すると、そちらに向かって歩き出した。


「車イスが置いてあればいいけどな」


「大丈夫でしょ、こんなに大きな病院なんだからね」


「イツカは楽天的だよな」


「だって、悲観していてもはじまらないでしょ?」


「それもそうだけどさ。でも、まだデストラップは7個も残ってるんだぜ。この病院を出る前に、次のデストラップが発動する可能性だってあるしさ」


「そうなったら、スオウくんの出番でしょ」


「えっ、おれ? なんで?」


「さっきだって、デストラップの前兆をちゃんと読み取ってくれたでしょ」


「あれはまぐれだよ」


「でも勘が鋭い人っているでしょ。だから、わたしはそばにスオウ君がいるだけで安心しているんだよ」


 凄く遠まわしにイツカから告白をされたみたいで、顔を赤らめて照れてしまうスオウだった。


「そこまで言われたら、デストラップの前兆は必ず見逃さないようにしないとな」


「期待しているからね」


 イツカがスオウの顔をじっと見つめてきたので、スオウは慌てて視線を外して、あらぬ方を見つめるのだった。



 ――――――――――――――――



 五階のホール内は、ミネのか細い呼吸音だけが聞こえる静かな状況であった。円城がホールに入っていくと、ぼんやりとした表情を浮かべて床に座っていた五十嵐がさっと立ち上がって近寄ってきた。


「円城さん、どうしたんですか? あの高校生二人が瓜生さんのところに行くと言って出て行ったんですが……」


「それなら本人に聞いている。あの二人が私たちのいるところに来てくれんだ。そこで話し合って、この病院から出ようという結論になった。それで五階にいる参加者にも連絡しなといけなくなって、私が来たんだ。あの二人は別の用事があって、動いてもらっている」


「そうだったんですか。それなら良かった。もしかしたら、あの二人もって気が気がじゃなかったんですよ」


 円城の話を聞いた五十嵐は安心したのか、ほっと肩の力を抜いた。


「五十嵐さん以外のほかの参加者の様子はどうかな?」


 五十嵐に訊きながら、円城はホール内をぐるっと見回した。


「ミネさんは相変わらずの状態のままですね。薫子さんは地震の直後は恐怖で混乱していたけど、今は逆に落ち着いています」


「それであの男は?」


 円城は瑛斗本人には気付かれないように五十嵐に目配せした。


「ああ、彼は最初から変わらず、あのまんまですよ。何か気になることでも?」


「いや、このゲームの参加者の人となりはあるていど把握したが、あの男だけは正体が掴めないままなんで、少し気になっていてね」


「うーん、ただの人見知りにしか見えないけど……」


「それならそれに越したことはないんだけどな」


 円城は瑛斗を観察するように見つめた。


 瑛斗は薫子のお腹の辺りにじっと視線を向けている。お腹の赤ちゃんのこと心配しているのか。


 それとも――。


 その視線が何を意味するものなのか、円城には分からなかった。



 ――――――――――――――――



 誰かの声が聞こえる。始めは遠くから聞こえていた声が、徐々に近くで聞こえてきた。それにともなって、意識がはっきりとしてきた。



 ゲーム……ゲーム……そうだ、おれは命を懸けたゲームをしていたんだ!



 完全に覚醒した。とたんに体に激痛が走りぬけた。しかし不思議とその痛みは上半身のみで、下半身に痛みは感じなかった。


「うぐ……ぐ、ぐ、ぐ……」


 歯を食いしばっていても、勝手にもれてきてしまう呻き声。


「ようやく起きたみたいだな。ったく、待ちくたびれたぜ」


 頭上から声が降ってきた。すぐにその声の主が誰であるか思い出した。


「お前か……」


 汗と埃が目に入ってくるせいでよく見えなかったが、自分の親友をナイフで刺した男の顔を忘れるはずがなかった。


「お、お、お前だけは……ぜ、ぜ、絶対に……ゆるさねえからな……」


「その格好でよくそんなことが言えるな。それとも冗談でも言ってるつもりか? だとしたら笑えねえ冗談だな」


 ヒロユキが嘲笑する。


「…………」


 歯を食いしばりながらヒロトは辺りにさっと目を向けた。辛うじて、自分の置かれている状況だけは把握することが出来た。胸から下の部分が、あの地震の揺れによって落ちてきた天井の下敷きになっていた。かなりの重量らしく、下半身に力をいれてもビクともしない。


 そのガレキの上に、鼻血をたらしながらも、勝ち誇った顔をしたヒロユキが立っている。右手には銃。その銃口は一直線にヒロトに向けられている。


「ようやく自分の状況を理解したみたいだな。その格好でも、まだほざいていられるか?」


「お、お、お前こそ……勝ったつもりかよ?」


 それだけようやく言い返した。


「この状況じゃ負ける気はしねえよ。オレもガレキの下敷きになったが、簡単に抜け出したぜ。しかも、これを見ろよ! あんだけの地震の後に、この銃を見つけ出した! どうやら幸運の女神さまはオレだけに微笑んでくれたみてえだな!」


 ヒロユキの野卑な声。その声に重なるようにして――。



 電気配線から聞こえるジジジという電流の音。

 空気が抜けるようなシューシューという音。

 天井の穴に引っかかっていたガレキがときおり落ちる音。



 ヒロトは限られた視界の中で、この絶体絶命の状況を打破できる何かを必死に探す。頭もフル回転させる。しかし、体の痛みが思考の邪魔をして、なかなか名案が浮かばない。



 この電気配線をなんとかして、こいつを感電させることは出来ないか? 天井の穴に引っかかっているガレキを、どうにかしてこいつの頭上に落とせないか?



 だが考え付くものはすべて出来そうになかった。


「どうした? 急にダマっちまってよ。なにか名案でも考えてるのか? だとしてら、もう時間切れだぜ」


 ヒロユキが銃の引き金に掛かる指に力を入れる。この男は本気で撃つ気なのだ。


「お前に撃てるのか? ホールではビビって撃てなかったんじゃないのか?」


 ヒロトは時間稼ぎの為に必死に言葉を発していく。


「心配するな。さっきとは違うからな。今はしっかりと撃ってやるよ!」


「…………」


 こちらの挑発にのらないヒロユキに対して、ヒロトの方が焦り始めてしまった。


 そのとき必死に動かしていた右手に触れるものがあった。いつもズボンの後ろポケットに入れているタバコである。


「おい、タバコでも吸って、一回頭を落ち着けたらどうだ?」


 ヒロトは体の下から苦労してタバコの箱を引っ張り出した。それをヒロユキに見せ付ける。


 ヒロユキの目がタバコの箱に泳いだ。予想通りだった。捕まって護送中の身だったのだから、きっとしばらくの間タバコを吸っていないと踏んだのだ。これで少しは時間が稼げるはずである。


「どうした? いらねえのか?」


 ヒロトは唇だけを起用に使って、箱からタバコを一本取り出すと、痛みに顔をしかめながら口にくわえた。


 ヒロユキの喉がごくりと大きく動いた。


「まさか禁煙中とか言うんじゃねえよな?」


 ヒロトはさらにけしかける。タバコの箱からライターをなんとか取り出した。火をつけようとしたとき、箱に書かれている文字が目に入った。慌ててライターのスイッチから指を外す。


「まさか……これって、そういうことなのか……?」


 ヒロユキには聞こえない小さな声でつぶやいた。


 そういえばさっきからずっと、部屋のどこかで空気が抜けるようなシューシューという音がしている。


「おい、一本よこせよ!」


 タバコを我慢出来なかったのか、ヒロユキが声を荒げた。


 しかし、ヒロトは返事をするどころではなかった。頭の中にある考えが浮かんでいて、そのことで頭が一杯だったのである。


「おい、一本よこせって言ってんだろう! それともお前を殺してから奪ってもいいんだぜ!」


 ヒロユキが怒鳴り声を張り上げた。よっぽどタバコの誘惑に飢えていたらしい。


「そんなにタバコが欲しいのなら、ほら、箱ごとくれてやるよ!」


 タバコの箱をヒロユキの足元に放り投げる。



 空気が抜けるような『シューシュー』という音がしている。

 ヒロユキは鼻血を流していて、その『ニオイ』に気が付いていない。



 ヒロユキがタバコの箱に飛び付いた。すぐに一本取り出して口にくわえる。


「おい、火だよ、火! そのライターをよこせよ!」


「その前にタバコの箱をよーく見てみろよ」


「はあ? 何くだらねえこと言ってんだっ!」


 ヒロユキはヒロトの意図を理解していない。



 タバコの箱には『タバコはあなたの寿命を縮めます』と書かれている!

 部屋のどこかで『シューシュー』という気体の音がしている!

 ヒロユキはその『ニオイ』にまだ気付いていない!



 なあ、ハルマ、どうやらお前にはもう会えそうにないぜ……。最後に一度、お前の顔を見たかったんだけどな……。



 脳裏に親友の笑った顔を思い浮かべる。それで踏ん切りが付いた。


「最後にお前にいいことを教えてやるよ。――お前は女神様じゃなくて、死神に好かれたんだよっ!」


 ヒロトはライターの着火ボタンを親指で強く押し込んだ。


 ガレキの山で覆われていたレストラン内で、凄まじい轟音とともに大爆発が起きた。


 部屋中に充満していたガスに引火したのだった!


 ヒロユキは炎と爆風の両方を受けて体ごと吹き飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ