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第24話 救出活動 第四の犠牲者

――――――――――――――――



 残り時間――7時間22分  


 残りデストラップ――9個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――1名



 ――――――――――――――――



 瓜生と円城の二人は二階に来ていた。瓜生は横を歩く円城の様子をうかがい、少しだけ眉根をひそめた。円城はさきほどからゼイゼイと荒い息をしているのだ。


「――あんた、何か重い病気でも患っているのか?」


 瓜生の質問に対して、円城は立ち止まって瓜生の顔を見返してきた。


「――どうしてそう思うんだ?」


「最初にあんたの顔色を見たときからなんとなくな」


「――そうか」


「確信したのは咳の音を聞いたときかな。明らかに肺に異常のある感じがしたからな」


「鋭い洞察力だな」


「まあ、このゲームに参加しているくらいだから、何かしらの事情を抱えていると、推測するのは簡単だけどな」


「なるほど。つまりそう言っているあなたにもそれなりの事情があるってことか」


「ふっ、上手く自分の病気の話をすり替えたな」


「さて、なんのことだか」


 瓜生と円城がのらりくらりと焦点をぼかしながら話をしていると、廊下の先から激しい音が聞こえてきた。


「ムダ話はここまでだな。ここから先は本気でいかないとケガだけじゃ済まないぜ」


「ああ、分かっている。もっとも、今の私にとってケガぐらいどうってこともないがね」


 円城は自嘲するというわけでなく、淡々と事実だけを述べるように言った。


「分かった。あんたの体調のことは、これ以上聞かないことにするよ」


 瓜生の言葉に重なるようにして、廊下の先から乾いた破裂音が聞こえてきた。


「くそっ! あの音は銃声だぞ!」


 瓜生はすぐさま廊下を走り出した。



 ――――――――――――――――



 廊下を走っていると、前方に見知った人影が見えてきた。瓜生と円城だ。


 

 やった……これで助かった……。



 安堵の思いが愛莉の胸中にうまれた。ホッとして走る速度を緩める。



 ねえ、助けて――。



 声を出して救援を頼もうとしたが、なぜか声が出なかった。何かがおかしいと思ったとき、急に体に激痛が走った。レストランからここまで、興奮状態のまま走ってきたので、その痛みに気付かなかったのである。



 そういえばレストランを出るときに、イスやテーブルに激突したけど……。



 そんなことを考えながら、体の痛む箇所に手を伸ばそうとした。しかし、出来なかった。愛莉の体は自分の意思に反して、ズルズルと廊下に崩れ落ちてしまった。



 おかしい……なんでだろう、目がぼやけるけど……。


 あれ? さっきまであんなに……痛かったのに……もう、痛みがない……。


 アタシ……どうしたんだろう……?


 せっかく……ここまで逃げて……来た……のになあ……。



 唐突に、このゲームに参加するにいたったいきさつが、脳裏に思い返された。



 ――――――――――――――――



 愛莉はキャバクラで働いていた。人気も売り上げもナンバー1で毎日が楽しかった。


 そんなある日、新人のキャバ嬢が入店してきた。若くてスタイルもよくて、おまけに性格も良かった。すぐに愛莉を追い抜かして、ナンバー1になった。


 それから愛莉も必死に努力したが、ナンバー2が指定席になってしまった。


 あるとき、昔の常連で新人に乗り換えた客から、整形したらナンバー1に戻れるんじゃないのかと言われた。すぐに愛莉は整形することを決心した。


 でも、肝心の治療費がなかった。ナンバー1キャバ嬢になってからというもの、ブランド品を買いあさり、ホストクラブに散財して、湯水のように金を使い続けて、一切貯金をしてこなかった。ナンバー1キャバ嬢なのだから、金が無くなってもすぐに稼げると高をくくっていたのだ。


 そんな整形費用に困っている愛莉の前に、キャバクラに客としてあの男が現れた。死神の代理人、紫人である。


『お金は用意できませんが、体の治療に関することならば、なんでも出来ます』と言ってきた。


 愛莉はすぐに整形の話をした。整形だって立派な治療の一種だ。


 紫人はすぐに愛莉の整形を快諾した。その条件として、ゲームの話をしてきた。


 もちろん、愛莉はそのゲームへの参加を即決した。



 ――――――――――――――――



 そして、まさに今、愛莉はそのゲームをしているところだった。しかし、これ以上ゲームを続けることは出来そうになかった。


 意識が混濁して、体にもう力が入らない。廊下に倒れた愛莉の体の周りには、赤い池が広がっていた。愛莉の体から流れ出た血である。


 愛莉はレストランから逃げ出すときに、体に銃弾を浴びていたのだ。



 ア、ア、アタシ、もう……ダ、ダ、ダメなの……かな…………。



 すぐ近くで自分の名前を必死に呼ぶ声が聞こえる。でも、その声に返事をするだけの力が、もうすでに愛莉の体からなくなっていた――。



 ――――――――――――――――



 ヒロトはヒロユキと対峙し合っていた。部屋の中はまだ消火器の噴煙が残っていたが、お互いの顔は確認出来るまでにはなっていた。


 ヒロトは手に武器代わりのイスを持っていた。白一色の世界で、あたり構わずに振りまわしたが、何回かヒロユキに当たった手ごたえはあった。現に、ヒロユキの手には銃が握られておらず、こめかみからは出血もしていた。運良くイスがヒットしたのだろう。


「お前、なんのつもりだ?」


「女を助けに来たって言えばカッコイイんだけどな、あいにくとお前に用があってここまで来た」


「オレに……?」


「ああ。お前が逮捕されるきっかけになった、コンビニの事件があるだろう?」


「…………」


 ヒロユキは露骨に顔をしかめた。


「あの被害者はオレの親友なんだよ」


「けっ、なにかと思えば、青くさい友情ゴッコかよ」


「なんとでも言えばいいさ。銃のないお前ならすぐに片がつきそうだしな」


「そこまで言うのなら、ヤッてやろうじゃねえか!」



 ――――――――――――――――



 瓜生と円城が床に倒れている愛莉のもとに駆け寄ったまさにそのとき、メールの着信音が鳴り響いた。




『 ゲーム退場者――1名 愛莉


  

  残り時間――7時間06分  


  残りデストラップ――9個


  残り生存者――9名     

  

  死亡者――2名   


  重体によるゲーム参加不能者――2名      』





「くそっ! 遅かったか!」


 瓜生は床に自分の拳を強く叩きつけた。



 ――――――――――――――――



 愛莉退場のメールの余韻も覚めやらぬというのに、再び、参加者全員のスマホから耳障りな音が鳴り響いた。


 メールの受信音とは異なる音――それは日本人なら誰もが知っている、ある警告音だった。



『緊急地震速報』



 そして、十数秒後――。



 突然、病院が激しく強く大きく揺れ始めた。



 震度6強の地震が、ゲーム参加者がいる病院を襲ったのだった。

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