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第22話 欲望の捌け口

 ――――――――――――――――



 残り時間――8時間02分  


 残りデストラップ――9個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――1名



 ――――――――――――――――



 ヒロユキは愛莉を人質にとって、二階のレストランにいた。護送車から逃げ出してからずっと飲まず食わずでいたので、腹が空いていたのだ。


「厨房に行って、何か食えそうな物を探してこい」


 ヒロユキは一番奥のイスにふんぞり返った姿勢で、愛莉に指示を出した。


「何様のつもり? あんたのお手伝いさんじゃないんだけど」


「そうだな。お前はお手伝いじゃなくて、オレの奴隷だからな」


「サイテー」


 愛莉がバカにしたように棒読みで言った。


「撃ってもらいたいみたいだな」


 ヒロユキは銃口を愛莉に向けた。引き金を少しだけ絞る仕草をすると、愛莉は顔を強張らせて、厨房の中に走っていった。


「けっ、はじめから言うことを聞けばいいんだよ」


 銃をテーブルの上にバンと音をたてて置いた。さっき瓜生に言われたことを思い出す。弾は残り四発しかない。有効に使わないと、こちらがやられことになる。



 やっぱり、人質のあの女をを上手く使うしかないよな。



 愛莉の消えた厨房の方を見つめる。これからのことを真剣に考えていたはずが、すぐに愛莉の後ろ姿を思い出して、顔がにやけてきた。


 愛莉は自分からキャバ嬢だと言っていたが、実際のところ、顔は派手目で体のラインはセクシーで、水商売のニオイをプンプンさせていた。


 警察に逮捕されてからというもの、下半身を使う機会が一切なかったので、溜まるものが溜まっていた。



 そうか、奴隷ってことは、オレの命令に従わせることが出来るんだよな。



 たちまち卑猥な妄想が浮かんでくる。


「これしかなかったから」


 愛莉が厨房から戻ってきた。缶コーヒーと非常用と思われる乾パンが載った銀のトレイを手にしている。


「ちぇっ、しけてんな」


 ショボイ食事に思わず舌打ちが出てしまったが、ないよりはマシである。


「よし、こっちに持ってこい」


 ヒロユキは横柄に命令した。愛莉が無言のまま料理を運んでくる。


「ここに置け」


 銃口でテーブルをコンコンと叩いた。


「金は持っているけど、性格は捻じ曲がっているオヤジ客と同じだね」


 ヒロユキの傲慢な態度に、愛莉はすごく嫌そうな表情をした。


「キャバ嬢ならキャバ嬢らしく、客を楽しませる接客をしろよな。いつ客が怒るか分からないぜ」


 ヒロユキは手にした銃をこれ見よがしに突きつけた。


「このゲームが終わったら、速攻でキャバ嬢なんてやめてやる」


「このゲームが終わるときまで、生きていられるとは限らないがな」


 ヒロユキが見下すように言うと、愛莉はキッと強い目で見返してきた。



 いい表情をしやがるぜ。ますますコーフンしてきたな。でも、まずは腹ごしらえが先だ。食欲が満たされあとで、性欲を満たすとするか。



 ヒロユキは乾パンを噛りながら、愛莉の全身を舐めるように見つめた。


 ヒロユキの脳裏から、すでに命を懸けたゲームのことはすっかり消えていた。今目の前にいる女の肉体のことで、頭の中は一杯だったのである。


 ヒロユキの頭の中では、愛莉はもう全裸姿であった。



 ――――――――――――――――



 ヒロユキが淫靡な妄想を膨らませていた頃、ヒロトは三階をくまなく調べまわっていた。足音を立てないように慎重に気をつけながら、ヒロユキの居場所を捜す。


 ヒロトはどうしてもヒロユキを捜しださなければならなかった。ヒロトもあのニュース速報を見るまでは分からなかったが、あの男は親友の仇だったのである。


 親友のハルマは深夜のコンビニであの男――ヒロユキに難癖を付けられて、ケンカになり、いきなりナイフで刺された。



 オレがもう少し早く着いていれば……。



 その夜、ヒロトはハルマとコンビニで待ち合わせの約束をしていた。しかし、バイトの残業が入ってヒロトの到着は遅れてしまい、その間にハルマは事件に巻き込まれてしまったのだ。


 もしもヒロトが時間通りにコンビニに着いていたら、ヒロユキとのケンカに巻き込まれることはなかったかもしれない。


 ハルマは今病院のベッドの上で、昏睡状態のまま眠ったきりである。


 ヒロトはハルマを助ける為に、このゲームに参加したのだった。だが、犯人であるヒロユキがこのゲームに参加していると知った以上は、このまま何もせずにいることは出来なかった。



 例え、アイツが銃を持っていたとしても、このまま見過ごすわけにはいかねえよな。



 ヒロトの心はもう決まっていた。一発でもいいからヒロユキを殴って、そしてその場で土下座をさせて、謝罪をさせるのだ。



 ハルマ、お前の仇は絶対にうってやるからな。



 ヒロトはヒロユキが隠れているレストランまで、もうすぐそこまで迫っていた。



 ――――――――――――――――



 さきほどから愛莉はその視線の正体に気が付いていた。キャバクラで接客しているときに感じる視線と同じものなのだ。服の上から裸を想像している猥雑な視線。


 この男も他の男たちと一緒だった。こんな状況下だというのに、エロにしか興味がないのだ。だったら、そこを上手く突いてやればいい。この手のやり取りならば、キャバクラでイヤというくらいに経験している。自分の方に分があるはずだ。


 だが、問題がひとつある。この男の持っている銃だ。それをなんとかしないとならない。


「おい、なに睨んでやがる!」


 ヒロユキの様子を観察していたらすごまれた。


「あんたひとりだけで食べてるじゃん。アタシだってお腹空いてるんだけど」


 愛莉は当たり障りのないように注意しながら返答した。


「お前も腹が減ってんのか。へへ、そうだな。だったらオレの言うことを聞けよ。そうしたらメシぐらい好きに食わせてやってもいいぜ」


 途端にヒロユキの顔にいやらしそうな笑みが浮かんだ。


「言うことって、何を聞けばいいの?」


「簡単さ。そこのテーブルの上で横になれよ」


「横になって、どうするの?」


「純情ぶってんじゃねえよ! キャバ嬢なら枕営業ぐらいお手のもんだろうが」


「――分かったわ。でも約束は守ってもらうからね」


 愛莉はわざとヒロユキの卑猥な取り引きに応じる素振りを見せた。


「よし。このコーヒーを飲み終わったら、食後の運動を楽しむか」


 ヒロユキが遠慮のないギラついた目で、愛莉の体をジロジロと凝視してくる。



 気持ち悪い目で見てくんなよ! すぐにその汚らしいツラをブチのめしてやるからな!



 顔にはとっておきのキャバ嬢スマイルを浮かべながら、心中では物騒なことを考えている愛莉だった。



 ――――――――――――――――



 ヒロトはレストランの入り口まで来たところで立ち止まり、ドアに隠れながら室内の様子をうかがった。廊下を歩いているときに男女の声が聞こえたので近付いてみたら、当たりだった。問題はこの後である。どうやって中に入るかだ。



 銃さえなければすぐに突入出来るんだけどな。



 何か武器の代わりになるような物がないか辺りを見回した。廊下のある一点で視線が止まる。


 学生時代にヤンチャをしていたころ、『コレ』を教室内で使って停学処分をくらったのを思い出した。


「よし、これを使ってみるか。何もないよりはマシだろうからな。あとは出たとこ勝負だ」


 ヒロトは腹を括った。あとは中に突入するタイミングを見極めるだけである。その場でじっと機会を待つ。

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