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第20話 さらに正体をあらわす者

――――――――――――――――



 残り時間――8時間39分  


 残りデストラップ――9個


 残り生存者――10名     

  

 死亡者――2名   


 重体によるゲーム参加不能者――1名



 ――――――――――――――――



「もう……もう……や、や、やめてーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 甲高い悲鳴じみた叫び声があがった。この場の緊張感に耐えられなかったのか、叫んだのは薫子だった。それによって一気に場の流れが変わった。


「うるっせんだよっ!」


 ヒロユキが薫子に銃口を向けた。


「いやあああああーーーーーっ! やめてやめてやめてぇぇぇぇーーーっ!」


 銃の先を目で確認した薫子が、さきほどとは比べ物にならないくらいの絶叫を上げた。


「そんなに怯えているなら丁度いいぜ。お前を人質にして、この危機を乗り切ってやる」


 この瞬間、完全に攻守が逆転した。ヒロユキは勝ち誇った表情を浮かべている。対して、瓜生は苦い表情である。


 その理由がスオウにはよく分かった。瓜生は自分に対してのことならば、いくらでも強気に出られるが、女性が危険に晒されている状況では、自分から動くことが出来ないのだ。


 ヒロユキが銃を構えたまま、薫子に近付く。


「ダメダメダメダメ……」


 お腹に両手をやって、呪文を唱えるようにつぶやき続ける薫子。その態度は異様とも思えた。


「薫子さん、冷静になって」


 イツカが薫子に落ち着いた声音で声をかけた。


「ダメダメダメダメ……」


 薫子の耳には、イツカの声は届いていないらしい。


 ヒロユキがさらに一歩近付こうとしたとき、薫子が何かを覚悟したようにヒロユキの顔をきっと睨み付ける。そして――。


「わ、わ、わたし……お腹に……お腹に……赤ちゃんがいるんですっ!」


 ホール中に響き渡るほどの大きな声で薫子が叫んだ。


 このゲームが始めってからというもの、スオウは幾度となく薫子の態度に違和感を覚えていた。その理由が今ようやく分かった。薫子は妊娠していたのだ。だから、ずっとお腹を気にして擦っていたのだ。


 なぜ妊娠しているにも関わらず、こんな危険なゲームに参加しているのか。そこまでの事情はさすがに分からなかったが、いずれにしても、それなりの事情があるのは間違いないだろう。


 問題はこの状況変化にヒロユキがどう反応するかである。


「けっ、妊婦かよ。なんで妊婦がこんなところにいるんだよっ!」


 ヒロユキが苦々しげに吐き捨てた。薫子に向けていた銃口が、心の動揺を表わすように揺れる。さすがに妊婦に銃口を向けるのは躊躇しているらしい。


「くそっ。お前じゃダメだ。かえって足手まといになる」


「――良かった」


 スオウは誰にも聞こえない小さな声でつぶやいた。銃の恐怖が続いていることに変わりはないが、妊婦を危険な場所に向かわせるわけにはいかない。


 薫子に向けていた視線を、イツカの方に向けた。ちょうどスオウの方に視線を向けてきて、目と目が合った。無言のまま、お互いにうなずく。言葉を交わさなくても、イツカが何を言いたいのかは分かった。


 そのまま視線を瓜生の方に向けようとして、その男の顔を見て、止まった。異常なくらいの据わった目で、じっと薫子を見つめている。いや、より正確に言うのであれば、視線はずっと薫子の腹部を凝視しつづけている。



 なぜだろう?



 スオウがそんな疑問を感じたとき、スオウの視線を感じたのか、振り返ってこちらに視線を飛ばしてきた。


 スオウとその男――瑛斗の視線が空中で交わった。だが、瑛斗はすぐに視線を逸らせて、俯いてしまった。


 不自然さは感じたが、今は瑛斗に構っている暇はないので、瑛斗のことはいったん頭の中から排除した。


「この女がダメなら――」


 ヒロユキが他のゲーム参加者の顔を順番に見ていく。


 瓜生、円城、ヒロキ、そしてスオウの顔はスルーしていく。五十嵐と瑛斗は顔を伏せたままである。


「お前は……止めとくか。気が強そうだからな」


 ヒロユキはイツカのこともスルーした。


「残っているのはお前だけだな」


 ヒロユキの視線が止まった先にいたのは愛莉だった。


「ほら、立てよ。オレと一緒にくるんだ」


 ヒロユキが銃口を愛莉に向けた。


「やれやれね」


 意外にも愛莉はサバサバとした態度だった。とても銃口を向けられているとは思えない。


「いやに冷静なんだな。オレは本気なんだぜ」


「別にあんたが本気かどうかなんて気にしちゃいないから。だいたい、このメンバーを見たら、残っているのはアタシ以外いないからね。こうなると思っていただけのことよ」


 始めから愛莉は覚悟をしていたらしい。


「おい、その子を人質に連れていくなら俺を――」


「おめえは黙って引っ込んでろ!」


「いいよ。アタシは大丈夫だから」


 瓜生の心配する声を、愛莉は簡単に一蹴した。


「そいつは銃を持ってるんだぜ」


「百も承知だから。でも撃たれると決まったわけじゃないでしょ? そもそもアタシたちは命を懸けたゲームの真っ最中なんだから、いつ死んでもおかしくないわけだし」


「オレは一度も撃たないとは言ってないぜ」


「じゃあ、アタシをその銃で殺して、あんたひとりきりになって、デストラップを避けられるの?」


「…………」


 愛莉の指摘に対して、沈黙で返答するヒロユキ。


「二人でいた方が、デストラップの前兆を見逃さないでしょ。この際、あんたが逃走犯だろうが何者なんだろうが、アタシには関係ないから。アタシはこのゲームで勝ち残りたいだけなの。あんたの人質になったとしても、このゲームに勝てるならば、それでオッケーよ」


「いい度胸してんな。そっちの女を選んだ方が良かったかもしれねえな」


 ヒロユキがイツカにチラッと視線を向けた。イツカは視線を完全に無視している。


「そっちの子が若いからって、今さら指名チェンジはないんじゃない」


「まるで指名の取れない売れないキャバ嬢みたいだな」


「だって実際本物のキャバ嬢なんだから、しょうがないでしょ」


 まるで緊張感の感じられない会話である。キャバクラでの会話といってもうなずける両者のやりとりだ。


「小煩い女だぜ。まあいい、さっさと廊下に出やがれ。それじゃ、オレたちはここから別行動をさせてもうからな」


 ヒロユキは銃口を振って愛莉に指示する。


「みんな、バイバーイ」


 愛莉は銃口を向けられているにも関わらず、軽い調子で残った参加者に挨拶をした。


 その姿を見て、瓜生は苦笑を浮かべている。

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