第15話 今やるべきこと
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残り時間――10時間17分
残りデストラップ――9個
残り生存者――10名
死亡者――2名
重体によるゲーム参加不能者――1名
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これで続けざまに三人の参加者がデストラップの餌食になった。
「九鬼さんが死んだってことは、ミネさんを診れる人間がいなくなったってことだよね……」
ミネのそばに付きっきりのイツカが心配そうにミネの顔を見つめる。相変わらずミネの呼吸は荒く、顔色はさらに悪くなっている。
「――九鬼のオッサンがやられたのは痛いな。ここからはちょっとした怪我にも注意しないとならないな」
瓜生は考え込むような表情を浮かべた。
「バアさんにはあと10時間ちょっと耐えてもらうしかないな。そしてゲームが終わりしだい、すぐに病院に運ぶ。問題はそれまで体力がもつかどうかだが……。今の症状を見る限りじゃ、かなり厳しいかもしれないな」
「そんなあ……」
イツカが悲壮に顔を歪めた。
「オイオイ、なんだよ葬式みたいな顔をしてよ。あのバアさんが死んじまったのか?」
品のない顔で品のない冗談を言いながらヒロキがホールに戻ってきた。イツカのにらみつけるような視線を完全無視している。
「あんたがデストラップにかかればよかったのに!」
「ハハハ、オレは運が強いからな。このゲームに参加することになったのだって――いや、この話はいいか」
「……あ、あ、あの……また、デストラップが、あったから……戻りました……」
背中を丸めた猫背姿の瑛斗がホールに戻ってきた。
「ああ、分かった。君は大丈夫だったみたいだな」
廊下側に陣取っていた瓜生が応対した。だが、険しい視線は廊下の先に向けられたままである。
「――戻った」
一言だけボソッと言ってホールに入ってきたのはヒロトである。
そして最後に無言のまま円城がトイレから戻ってきた。青白い顔は変わらなかったが、さきほどホールを出て行ったときとは異なり、非常に険しい表情を浮かべている。ホールにいる皆の視線を一身に受けながら、瓜生にゆっくりと近付いて行く。
「――瓜生さん。四階と三階をつなぐ階段の踊り場で、九鬼さんが倒れていた。私はちょうど近くのトイレにいたんで、見付けることになった。そばに近付いて確認したわけじゃないが、メールにあるように亡くなっているように見えた」
「――分かった」
瓜生が重々しくうなずいた。
「私たちがあのとき力ずくでも止めていれば――」
「いや、あのおっさんは自分の意思で単独行動をしたのだから、誰の責任でもないさ」
瓜生はそこで円城の耳元に口を寄せた。
「円城さんの目から見て、あのおっさんの遺体にどこかおかしな点は無かったか?」
「いや、私も詳しく調べたわけではないから……。ただ見た限りでは、階段から落ちたように見えたな。足を滑らせたんじゃないかと思ったんだが。あの人、ずっと落ち着きがなかったように見えたから」
「その可能性が高いが、でも一応は調べておいた方がいいな」
「まさか、わざわざ遺体を見に行くのか?」
「どんなデストラップにかかったのか確認しておきたいからな。それにデストラップを見ておけば、次のデストラップの避け方の参考になるだろうし」
「それはいい考えかもしれない。私たちはまだデストラップについて知らなすぎるからな」
瓜生は上手く話を誤魔化したが、スオウには瓜生の本音が分かっていた。瓜生は自分の目で九鬼の遺体を確認したいに違いない。デストラップではなく何者かの手によって九鬼が殺されたという可能性について考えているからだ。
「円城さんはここに残っていてくれ。体調の方も心配だからな」
「ああ、それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ。九鬼さんの遺体だが、建物の南側の階段にあるから」
「分かった」
円城との会話を終えた瓜生が、スオウに顔を向けてきた。
「悪いがオレと一緒に来てもらえるか?」
「たぶん、そう言われると思ってました」
「でもいいのか? これから九鬼のオッサンの遺体を見に行くことになるんだぞ?」
「ああ、そうですよね……」
このゲームではすでに奥月が死んでいるが、奥月の遺体は鉄パイプの山の下に隠れてしまい確認することが出来なかった。
「もちろん、嫌ならここにいてもらってもいいんだぜ。ことがことだからな。オレも高校生に無理強いはしないさ」
「――いや、一緒に行きます。このゲームに勝ち残る為に、おれも自分の目でしっかりと確認をしておきたいんです」
「よし。分かった。――それじゃ、みんな。今から俺とスオウ君とで、九鬼さんの遺体を確認しに行ってくる。もしかしたら、このゲームを攻略出来る手掛かりが見付かるかもしれないからな。すぐに戻ってくるから、他の人間はここで待機していてくれ」
「おいおい、あんたらがデストラップにかかったらどうすんだよ? そういうのをミイラ取りがミイラになるっていうんだろ?」
ヘラヘラとした口調でヒロキが言った。心配しているのではなく、完全に面白がっている風である。
「へえー、顔に似合わず、難しい言葉を知ってるんだな」
「はあ? こっちは心配して言ってやったんだぜ!」
とたんにヒロキの顔に凶暴な表情が浮かんだ。これ以上ないくらいに、分かりやすい性格である。
「こんなことでいちいち怒るなよ。場を和ませようとしただけだろう。──そうだな、俺たちが帰ってこなかったら、そのときは残った人間でまた対応の仕方を考えてくれ。なんだったら、お前がリーダーになってもいいんだぜ」
瓜生は冗談で言ったのだろうが、ヒロキは真に受けたのか、わざと視線をそらして聞こえない振りをした。自分がリーダーから一番遠い位置にいることは自覚しているらしい。
「待って、わたしもついて行く」
手をあげたのはイツカだった。
「イツカちゃん、そう言ってくれるのはありがたいけど、君はバアさんのことを――」
「アタシが看てるよ。といっても、ハンカチの交換くらいしか出来ないけど」
愛莉が立ち上がって、ミネのそばに近付く。
「てっきり、あっちの坊主コンビみたいに非協力的かと思ってだぜ」
「さっきは動物が苦手だったから、一緒に犬探しに行けなかっただけよ」
「分かった。バアさんのことは君に頼むことにする」
「任せて」
「それではミネさんのことを頼みます」
イツカがミネの看病を愛莉に変わってもらう。
「――それじゃ、俺たち三人で九鬼さんの遺体を確認しに行ってくる。待機組はくれぐれもデストラップにだけは注意してくれ」
瓜生がスオウとイツカの方に顔を向けてうなずいてみせた。
「さあ、行くとするか」