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第8話 死と恐怖を前にして

 ――――――――――――――――



 残り時間――12時間22分  


 残りデストラップ――11個


 残り生存者――12名     

  

 死亡者――1名 



 ――――――――――――――――



 スオウたちが五階に戻ってくると、ホール内の雰囲気は一変していた。

 

 ホールに残っていた他の参加者たちも、奥月が死んだ現場を見ていなくとも、なにが起こったのか紫人からのメールを読んで理解したのだろう。


「――瓜生さん、奥月さんは……」


 真っ先に五十嵐が瓜生のもとに近寄ってくる。


「メールは読んだだろ?」


「ええ。でも、ちゃんと聞いてからでないと――」


「メールにある通りだよ。あのオッサンは鉄パイプの下敷きになった」


「それじゃ、奥月さんは、その……本当に、死んで――」


「ああ、何十本って数の鉄パイプが落ちてきていたからな。あえて確かめはしなかったが、どんなに体を鍛えている人間でも、あれじゃ助かる見込みはないだろうな。おそらく、何本かは体に突き刺さっているかも――」


「分かりました。奥月さんの件はこれ以上詮索するのはやめます。ただ、ひとつ気になる点があります。鉄パイプですが、事故だったという可能性はないんですか?」


「俺もそう思いたいところだが、あの状況はただの事故とは思えなかったぜ」


「それじゃ、奥月さんが亡くなった原因は紫人が言ったように――」


「間違いなくデストラップだよ。それと今回のデストラップには、もうひとつ別の意味があると思う」


「もうひとつの意味というのは?」


「これは俺の考えだが、勝手に病院から出ようとするとこうなるっていう、死神からのありがたい警告の意味があるんじゃないかとな」


「なるほど。そうなると、ぼくらはこのまま病院内から逃げ出すことなく、ゲームを続けていくしかないわけですね」


「まあ、俺ははじめからそのつもりで来ているけどな」


「ぼくも一応の覚悟はしてきたつもりなんですが、まさかゲームがこれほど激しいものとは……」


 五十嵐は顔をゆがめたように強張らせている。


 スオウも五十嵐と同じ思いだった。心のどこかで、こんなゲームで人が本当に死ぬなんてことはないと思っていたのだ。しかし今、目の前で現実の死をまざまざと見せつけられて、ようやくこれが本当に命をかけたゲームなんだと、納得せざるをえなくなったのである。


「いいか、みんな。覚えておいた方がいいぞ。これが『デス13ゲーム』なんだ!」


 瓜生が断言するように言った。まるで『はじめからこの『デス13ゲーム』のことを知っていたかのような口ぶり』である。


 ホール内が静寂に包まれた。誰もが次になにを言うべきか、言葉を持ち合わせていなかったのだ。


「とにかく、これまでの甘い考えを改めないと、俺たちはすぐに次のデストラップの餌食になっちまうぜ。そのことをここにいるみんなが肝に銘じておくんだ。そしてお互いに注意しあって、デストラップの前兆を絶対に見逃さないことが重要になる」


 瓜生がみなに言い聞かせるように参加者の顔を見回していく。


「とりあえず、今は一度全員落ち着こう。グタグタしゃべっていて、次のデストラップの前兆を見逃したらマズイからな。――ちょうどいい。ちょっとしゃべりすぎたから、自販機で飲み物でも買ってくる。今回だけはみんなの分は俺がおごってやるよ」


 瓜生の冗談交じりの言葉に、ようやくホール内の緊張が少しだけ和らいだ。それを確認すると、瓜生は廊下に向かった。


「瓜生さんのおかげで助かったわ」


 イツカが瓜生の後姿に目を向けた。


「ああ、そうだね。ただ、瓜生さんはなにか隠しているように見えるんだよな」


 スオウは瓜生の背中に一抹の不安の影を見ていた。


「どういうことなの?」


「瓜生さんはこのゲームに関して、妙に慣れているような気がするんだ……。もちろん、おれの気のせいだけかもしれないけれど」


「それってまさか、瓜生さんが死神側の仲間とかいうの?」


「そういう考え方もあるのか。いや、おれはそこまで深くは考えていないよ。ただ、ちょっと気になっているだけだからさ」


 スオウは自分の考えを素直に述べた。歳が近いせいか、イツカの前だと隠し事なく話せる気分になれるのだった。


「たしかに瓜生さんは職業不詳で正体不明のところはあるけれど、でも、あの三人よりはずっとましでしょう」


「あの三人か――」


 イツカのいう三人というのが、ヒロト、ヒロキ、瑛斗の三人だとすぐに分かった。偽名丸分かりの自己紹介をしたヒロトとヒロキの二人に、こちらと決して顔を合わせようとしない瑛斗。


「まさか、あの三人の中にこそ、死神側のスパイがいるなんてことないよなあ。それだけは本当に勘弁してもらいたいぜ」


「ほら、飲み物を買ってきたぜ。みんな、これを飲んで少し落ち着こう」


 瓜生が両手一杯に缶ジュースを抱え込んで戻ってきた。ホールの中央にあるテーブルの上に、ジュースを並べていく。

 

 その中からイツカがミネ、薫子、愛利の女性陣に配っていく。それを見てスオウも、五十嵐、九鬼、円城に配ってまわった。それから例の三人の方に目をやる。


 ヒロトとヒロキのヤンキーコンビはそろって不貞腐れたような顔で壁の一点をにらみつけている。依然として、仲間意識は皆目感じられない。


 瑛斗はタイプの女性なのか、薫子の方をジトッとした目で見つめている。それはどこか偏執的な視線にも思えた。



 やれやれ、この三人にも困ったもんだよな。



 スオウは仕方なく、三人にもジュースを配って回った。


 ヒロトとヒロキは相変わらずの無反応。


 瑛斗はスオウが近付いた途端に、薫子に向けていた視線をスッと逸らした。そして視線を床に向けて、スオウとは決して視線を合わそうとしない。


 スオウは瑛斗の一番近くのテーブルの上に缶ジュースを置いて、その場から離れた。



 せめて、お礼の一言ぐらいあってもいいと思うんだけどな。



 スオウは内心でグチりながら、イツカと瓜生の元に戻ると、自分の缶ジュースを開けた。途端に、中の炭酸が盛大に吹き出してきた。


「うわうわうあ!」


 慌てて缶を近くのテーブルに置く。情けなさそうに濡れた両手をぶらぶらさせた。


「ひょっとしたら、デストラップだったのかもね」


 イツカが笑いながら言った。あきらかにからかっている口調だった。


「これがデストラップなら、一個デストラップが回避出来てラッキーなんだけどな」


「残念でした。わたしが振っておいただけよ」


「まあ、そんなことだろうと思っていたけどさ」


 イツカがわざと笑いを起こそうとしてやったことだと、スオウは直ぐに分かった。だからわざと、イツカの言葉にノッてみせたのだ。



 ホール内の雰囲気がさらに和んだのも束の間――。



「おい、デストラップって、まさかこれに毒が入ってるなんてこと無いだろうな?」


 手にした缶を凝視する九鬼。足元は激しく貧乏ゆすりをしている。苛立ちと怯えが混ざっったような様子だった。


「ちょっと、九鬼さん。せっかくわたしが良い雰囲気を作ったのに――」


「私はこの缶に毒が入っていないかどうか聞いたんだ! そんなことは聞いてないぞ!」


「そんなに飲みたくなければ、飲まなきゃいいだけのことじゃん」


 今まで黙っていた愛莉が、あからさまに侮蔑したような視線を九鬼に向けた。


「うるさい! お前にそんなこと言われる筋合いはない!」


「アタシだって、あんたにお前呼ばわりされる覚えなんかないし!」


「なんだと、このガキが――」


 九鬼が手に持った缶ジュースを投げる素振りを見せた。


「それは止めておいた方がいいぜ」


 瓜生が有無を言わせぬ口調で割って入った。


「……くそっ、勝手にしろ!」


 九鬼は手近のテーブルに缶ジュースを叩きつけるように置いた。

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