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第六話 炎と白砂と魔物男


「つれないじゃないかペルカ」


そう言った怪しい男はペルカを挑発するように語りかける。


「お祖母様もずいぶん熱心にご先祖さまとお話ししてらっしゃるし、静かにしたまえよ」

「誰のせいで村がこうなったと思ってるのよ!」


ペルカはその怪しい男を糾弾するも、男は心外だとばかりに反論した。


「たまたまぼくが来たときに異変が起きただけで犯人扱いとは哀しいよ」

「あの、異変の調査に来たんですけど、貴方のことを教えてもらえますか?」


あくまで丁重に男から情報を引き出そうとするユラ、貿易商として多くの人と契約を結ぶための度胸が光る。しかし男はまるで私たちのことが見えていないように振る舞う。


「ペルカがどうしてぼくの言うことを聞いてくれないのか、メルヌーがどうしてぼくの言うことを聞いてくれないのか。ぼくの疑問に付き合ってくれないかいペルカ」

「なぁアンタ、疑われてるんだ。無実なら質問に答えてくれないとーーー」


「答えないと?」


私たちを無視し続けていた男は、唐突に私をギラリと睨みつける。その視線に込められているのは明らかな敵意と殺意だった。私は背中にかけている晶撃武器に意識を傾けつつ、男の動きに注意して交渉を続けた。


「私たちはこの村にきたばかりで戸惑ってる。村がこんな状況だからな」

「この村にきて特に変わりないペルカや君たちの方が、ぼくには奇妙なんだけどね」


それは男が村に何か細工を施したことを確信させる発言だった。


ー・ー・ ー・ー・ ー・ー・ ー・ー・ ー・ー


「やっぱりアンタが.... みんなを!」


男が告げた真実に激昂したペルカが短剣を手に飛びかかる。感情に任せた切っ先は何をとらえることなく、空を切るのみだった。


「気が早い子だ」

「ーーーがっ!」


ひらりとペルカを躱した男は、体勢を崩した彼女を黒くしなる腕のようなもので弾き飛ばした。スルリと流れるような動きに注視すると、それは腕ではなく大きな尾だった。


「ぼくも人のことは言えないか、ここまで我慢したんだけどな」

「この人、脚が!」


先ほどまでは確かに両足で立ってたように見えていた男だが、今は長い尾を足代わりにその場に立っていた。


「もうちょっとで炎が必要分準備できるのに邪魔が入っちゃったなぁ」

「く....ぁ....」


ペルカの首を掴む男に向けて剣を向ける私に、ユラは私に耳打ちする。


「…喋れる魔物なんて初めて見たけど、気をつけてね」


奴は魔物、と言えるのだろうか。魔物と言えば動物がより歪に狂暴化したものを想像しやすい。狼型、鳥型、肉食植物型など一般的に魔物は獣の形をとっている。ペルカを太い尾で打ち付けた男は、下肢が蛇のような流線形になり、ちらりと見える表皮は流れるような鱗を現わしている。


「ぼくには何故君たちがまともに立っていられるかが気になるけどね」


そう言いながら動けないペルカを放って、魔物男は敵愾心を剥き出しにし、するりと滑るように私たちへ近づきながら値踏みするように睨みつけてくる。


「晶圧の影響がないなんて、君たちは何者だい?」

「晶圧…?」


初めて聞く単語に私たちは疑問を隠せない。


「知らないなら、知らないでいいことさッ!」


魔物男はそう言い放ち、全身を赤い炎に包み戦闘態勢をとる。私たちは現れたその姿に息をのむ。煤けたような灰色の長髪を炎に揺らめかせ、ヒトの足は下肢は蛇長く太い尾と変化し、腰から背中および上肢にかけては厚い鱗に覆われていた。とくに目を引いたのは、胸から飛び出している赤い属晶石だった。大きさは子どもの頭ほどはあろうか、魔物男の呼吸や挙動に合わせて淡く輝いている。


「君はどんな薫りでその身を焦がしてくれるのかなッ?」


魔物男は体躯からは想像できないほどの身軽さで私に詰め寄り、大きな腕を振り下ろしてくる。その速さに反応が遅れた私は巨腕の一撃を受け流すことができず、剣ごと弾き飛ばされてしまう。


「いきなりだな…、目的くらい教えてくれてもいいんじゃないか?」


私は時間稼ぎも兼ねて言葉を交わそうとする。魔物男は腕は前腕から肘にかけて、発達した大きな鱗が伸び、揺らめく周囲を見るに高熱をもっているのが分かる。重い一撃に痺れる腕の感触が徐々に戻っていくが、あの一撃はそう何度も受け流すのは難しいだろう。


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


ユラはそっとペルカの元へ近づき、容体を確認する。息はしている、その事実に少し安心する。魔物男の意識がペルカから逸れているうち、どうにか一撃を与える隙を作れないか頭を回転させる。力では当然ユラに分はない。


(「ペルカのこともあるし一旦体制を整えないと、まずいよね…」)


緊急退避に用いられる白砂の属晶石を握り隙を伺う。風と砂で敵の視界を奪い退避する際に用いられる属晶石だ。魔物男はユラが戦う力をもっていないと判断したのか、ユラたちから完全に意識は離れている。ペルカの肩を支えつつ、魔物と時間稼ぎをしている彼に目で合図を送る。彼は気づいてくれただろうか、一抹の不安を抱えユラは魔物男に向けて晶撃銃の撃鉄を起こす。


ガチリ、という硬い感触に自らの行動でペルカたち3人の命がかかっていることに、冷たい感覚が背筋を上る。どうすれば一番効果的に白砂をぶつけられるだろう。小型の属晶石発動機である晶撃銃は、軽く小さいため携行に優れており、補助を務めることが多いユラは敵に向けてそれを使用した経験はそう多くはない。


(「うまくやろうだなんて考えちゃダメ、逃げるための隙を作る…」)


そう思いながら、静かに銃口を魔物男へ向ける。




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