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幕間 賑やかさとともに。


ペルカの依頼のため、カラビユク山麓まで向かう準備を整えるユラは、情熱と扇情のペルカに翻弄された私にちくちく苦言を呈しながら言った。


「怪しいってやっぱりあの子!」

「でも依頼料受け取っちゃったし、調査だけでも行った方が気が楽だろ」

「も~~~、ばか!」


そう言いつつも2時間ほどで出発の準備は整ったようだ。村に向かうということで、前回のヨスガットの羽虫討伐よりは荷物の量は少ない。大食らいのオランズが不在なのも、荷物を軽くしているのだろう。


「明日は夕方くらいにはペルカの村に到着できるようにしよう」


ベッドで休む前にユラと軽い打ち合わせをしようと事務所へ向かうと、そこには依頼主のペルカがいた。


「まだ居たのか、明日は日の出と同時に出発だからもう帰っていいぞ。」

「今日くらい一緒にいてくれないのかしら?」


月と部屋の明かりがペルカを妖しく照らす。


「ーーーは?」

「ここまで言っても気づいてくれないなんて、随分とにぶい殿方なのね…?」


まったく頭が追い付かない私の視線はゆっくり近づくペルカに釘付けで、後ろにユラが居たことを完全に忘れていた。


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


「二人は仲がいいのね、楽しそうで羨ましいわ」


ペルカは、後ろからユラに蹴とばされ事務所の土壁と口づけをした私を笑う。


「勘弁してくれ」

「反省の色が全く見られていないのが悪いの!」


ここまで事務所が賑やかなのはオランズが居ないときでは珍しいことだった。仕事の合間、ひとりぼんやりと事務所で過ごすのも悪くはないが、こういった喧騒も嫌いじゃない。


「さぁペルカ、今度こそ本当に宿にお帰り」

「鈍いのね、ホントに」

「アンタね―――!」


流石のユラも本気で怒りかけ、語気を荒げペルカに詰め寄ろうとしたところ


「宿代も含めて、全財産渡しちゃったのよ」


ペルカはいたずらっ子のように舌を出しそう言った。


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


「反省の意も込めて、今日は事務所で寝てろ!」


怒りの矛先を失ったユラの言葉が私に刺さる。

依頼人を事務所で休ませるわけにもいかず、ユラは私の部屋、ペルカは客間、私は事務所で一晩を明かすこととなったのだった。


私は事務所の硬い机に毛布をかけ、その上に横たわる。ふと、ペルカが漏らした言葉を頭の片隅で反芻する。


(「私見たの、アイツの根城に大きな属晶石が生えているのを」)


一般的に属晶石は晶床から採取され、武器や家具へ使いやすいよう加工されて私たちの手元にやってくる。そのため“生える”という表現から推測するに、地面から属晶石が剥き出しになっていたということだろう。


(「属晶石が剥き出しになるほど、自然現象の気配が強い状況になっているのか…?」)


属晶石は自然現象が濃縮されたものと言ってもよい。火山や熱帯地方には炎の属晶石が、雨の多い地方や水辺には水の属晶石が、雷の多い地方や標高の高い場所には雷の属晶石が。それぞれその地域の特性が現れやすい。属晶石が剥き出しになっている状況だけに、周囲の状況もかなり極端な状態になっていることが予測される。


(「ヨスガットの依頼のとき、大きな青い属晶石が繭の中に在ったということも気がかりだ―――」)


ヨスガットの依頼でも大きな青い属晶石が関係していた、その事実に自然と緊張してしまう。


(「あんまり、晶撃を使う状況にはなりたくないんだけどなぁ…」)


晶撃の反動を怖れる私は、晶撃の反動の記憶をぼんやりと手に思い出しながらゆっくりと眠りに落ちていった。


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


事務所の外から朝の支度の喧騒が聞こえてくる。カンカラの朝は早い。

温暖とはいえ砂漠地方に位置し、日中の日差しはそれなりに皮膚に刺さる。そのため、大きな仕事は午前中のうちに済ませてしまおうという人が多い。日の出前の喧騒は朝の目覚まし代わりになる。


硬い机の上で寝たせいか、身体のあちこちが軋んでいる。軽く伸びをしながら起き上がり、身支度を整えていく。客商売でもあるため、最低限無精に見えない程度には整える。洗面に映る自分を眺めていると、客間からドタドタと姦しい音が聞こえてくる。


「ペルカ、あんた服くらいちゃんと着なさいってば!」

「ユラちゃん着せて~…」

「あーーもうなんだコイツ!」


どうやら朝は弱いらしいペルカがユラに世話されながら客間から転がり出てきた。


「あんたはこっちに来ない!」


昨夜の土壁キッスの二の舞は流石にご勘弁いただきたい私は、全員分の荷物を玄関へ運び、ドタバタと準備を進める2人を待った。15分ほどだろうか、どうやら準備が整ったらしい2人が玄関へやってきた。


「おはよう! 涼やかに、爽やかな朝ねっ!」


気合が入ったらしいペルカは演技がかった様子でハキハキと朝の挨拶を告げる。


「どっと疲れた……」

「おつかれさん。ま、これも依頼のうちだと思ってさ」


ユラは何か言いたげな視線を私に向け、わざとらしく続けた。


「あ〜朝はお腹空くよね〜、朝から重労働だったもの!」

「私はトマトとベーコンのサンドが食べたいわ。うんと辛子を効かせたやつね」


ユラは労働の対価を要求し、ほぼ無一文のペルカもそれに便乗してきた。ここは大人しく従ったほうが良さそうだ。空腹の猛獣を手なづける術に、私は食事を与えることしか思いつかなかった。


さてどこの露店に寄ろうか、ペルカの村へ向かう方角を考えながら3人は事務所をあとにした。



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