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第三話 稲妻と油断と奇蹟


「オアシス、かなりの賭けだぞ」


そんなことはわかっている。

ただ力に劣る私たちが大きな成虫に傷を負わせることができるとしたら、賭けに勝つ必要がある。


「ったく、俺の指揮に従うんじゃないのか?」

「お互いの信用のなせる技だろ?」

「言ってくれるなぁ」


そう言いつつも私の1歩下がり作戦の準備に入るオランズ。


「オアシスに誘き出して、あとはどうすんだ?」

「オアシスの中心でお前が囮になってくれる間に、こいつをブッ刺してくる。そうしたら―――」

「思いっきりブッ放つ、だろ?」

「正解」


二人はお互いに頷いて動き始める。

オランズは自らの武器を地面に叩きつけ晶撃を発動し、斧槍へ雷を纏わせる。破裂音を伴って激しく明滅する斧槍に、魔物は危険と判断したのか大きく腕を広げ、威嚇しながらその巨躯をオランズへ向かわせる。オランズは斧槍を激しく明滅させつつもゆっくり確実にオアシスの中心へ向かっていく。囮になっているオランズを一瞥しつつ私も作戦行動を開始する。


(「ここのオアシスは浅い…。浅いからこそ雷の晶撃は水面を奔り、その中心に身を置いた魔物を縛ることになるだろう」)


威嚇しながらオランズを追う魔物に気づかれないよう、私は気配を消し静かに魔物の背後に回っていく。


(「もう少し、もう少しオアシスに入っていってくれ―――」)


刹那、痺れを切らした魔物はとうとう大きな腕を振り上げ、オランズを屠らんとする。


「―――ッ!」


私は走り出していた。


オランズが死ぬ。


そうはさせない。


魔物の背中に飛び乗り、駆け上がる。魔物は背中の違和感に気づき、私の方を見ようとするもオランズに集中していたためか動きはそう早くはない。一気に駆け上がった私は、3つの節に分かれる魔物の身体うち、大きな腹にあたる部分だろう場所への剣を突き立てた。そしてより深く突き刺すように私は剣を踏みつける。魔物はその痛みに大きい甲高い金切り声を立てながら身を仰け反り、私を大きく弾き飛ばす。反転する視界の中、オランズに視線を配ると、奴は今日一番に斧槍を輝かせていた。


「奔れッ!!!」


オランズは大上段に斧槍を振り下ろし、晶撃を発動させる。陽動のため燻ぶらせていた雷光が待ってましたとばかりに激しく光を放つ。今そこに雷が落ちたのではないか、そう思わせる轟音を伴って青白い稲妻がオアシスの水面を奔る。

私が弾き飛ばされたとき、剣を突き立てられた魔物は痛みに悶えるように身を逸らし振りむいていた。落ちる世界の中で私は青白い稲妻を見た。稲妻は水面を、魔物を駆け上がっていく。その先には私が突き立てた剣があった。剣に稲妻が集中するように一気に集まり、魔物の腹を焼いていく。剣に集まった稲妻の激しさに、私の剣の晶撃が発動したのだろうか、最後に凄まじい爆発音と青白い光が発せられた。

成功だ、と確信しながら私は地面に落っこちた。


 ―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


「――! ―――ば! 起きて!」


ユラに呼び起され、飛び起きるように周囲を見回す。爆発の余韻か視界が揺れている。暫くすると意識もはっきりし、状況が飲み込めてくる。どうやらあの大型の魔物は倒せたらしい、大きな腕や顎が周囲に散らばっている。オランズは無事だろうか、オアシスの方へ視線を向けるとオアシスの中央で横たわり笑い続けている男がいた。どうやら無事らしい。


「オランズ! よかった!」


ユラもオランズの無事を知り、彼の元へ駆けていく。


全員が油断していた。魔物の他にはまだ繭があった。


爆発の余波だろうか、羽化しかけていた繭が衝撃で大きく開き、繭から大きな腕が伸びていることに気づくのに遅れてしまった。


気づいたときには遅く、魔物の大きな腕はユラめがけて振り下ろされる。


「ユラッ!!!」


―――間に合わない!


そう思った。手を伸ばした。届かない。


届け―――!



魔物の腕がユラを貫かんとした刹那、轟音と共にさらに両隣の繭から大きな青く輝く柱が飛び出し、羽化しかけていた繭を貫いていた。致命傷だったのだろう、振り上げられた腕は自重でゆっくりと傾き斃れた。


ユラは何が起こったのか気付かなかったが、一瞬の命の危機に腰が抜けたのかそのまま座り込んでしまった。


「なに、が……」


私はユラに手を伸ばした姿勢から動けなかった。自分の意志じゃなかった?

いや、ユラを助けたいのは自分の意志だ。だが青い柱は私の意志に連動するように魔物の繭を貫いていた。私も状況をまったく飲み込めないでいた。


「ふたりとも大丈夫かッ!」


しばらくして周囲の安全を確認したオランズが私たちを心配して駆けてきた。


「おい、さっきの青い柱ってお前―――」


分からない。


「それにあの瞬間、お前の眼が光ったように見えたんだけど」


分からない、今は3人全員が無事なことだけで十分だった。



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