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軍神少女、旅をする  作者: 雪日しるべ
3/3

談話

「俺の自慢の店だ、さあ入れ入れ! 飯も場所も出してやる!」


 バリンが我々の背中をバシバシと叩いて押してくる。

 なるほど、やけに自信満々に歩いていると思ったらこういうことか。自分の店なら自信がある、ということの表れか。

 実際、店の中からは喧騒と、香草で肉を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。


「叩くな叩くな、急かさなくても入るとも」

「いい匂いね~! これは期待できそうね!」


 後押しされる形で、店の戸を開く。

 そこは開けたホールになっており、十数人程の冒険者らしき者たちが、酒を呑み、肉を喰らい、笑う姿があった。


「姐さん! エール3つ追加だ!」

「こっちは串4つ!」

「はいはい、順番に持って行くから待っててね〜」


「……昼間から随分賑やかだな」


 外から聞こえていたより数段うるさい店内に、軽く耳を塞ぐ。


「まあ冒険者ってのは半分くらいこんな奴らばっかさ、景気が良い時くらい騒ぎたいってもんなのさ」

「そういうものか……」


 帝都にはこう言った手合いの者たちは少なかったから、久しぶりなのも相まって余計に大きく感じられる。

 バリンがカウンターの向こうへと入り、カウンター席の一部を開ける。


「さあ、座った座った! まずは肉か? 酒か?」

「その前に確認だ。 バリンは我々に食事、あと宿泊場所を提供してくれるということでいいのだな?」


 念のために確認しておく。食事ついでに宿まで確保できれば、それも顔見知りの宿ならば、今後の動きがしやすくなるというものだ。


「おうともさ、知らねえ仲じゃねえし安くしとくぜ」


 よし、とりあえず最初の問題は解決だ。

 これでいちいちアリシアの小言を聞きながら宿を探す手間が省けた。


「ならば良い。 しばらくここで世話になろう」

「しばらくって……そういやお前さん達、何を探してんのか聞いてなかったな」

「そうだな……お前になら話しても大丈夫だろう。アリシア、届いたものを出してくれ」

「はいはい、えーっと、あったあった」


 アリシアが荷物袋の中を漁って取り出したのは、1通の封された手紙だ。

 それを受け取り、中身をカウンターに広げる。

 内容は単純だ『オレリアの街で待つ』とだけ書いてある。他には差出人の名も何も書いていない、たったそれだけの紙きれだ。


「なんだこの手紙? たったそれっぽっちに仕事を辞めてまで旅に出る理由があるってのか?」


 バリンが不思議そうに首を傾げる。


「手紙の中身はまあアレだが……今回動かねばならなかった最大の理由は、こちらだ」


 そう言って手紙の入っていた封筒を差し出す。宛名はしっかりとシェリス、私の名前が入っている。

 そして、蝋で封された裏面を見たバリンが眉をひそめる。


「こいつぁ……鷹の紋章、昔の俺達が使ってた蝋印じゃねえか」

「そう。 でも貴方も知ってるように私たちは解散した」

「つまり、使われるはずのない蝋印を使って、わざわざ私個人に呼び出しをかけた者がいる。 というのがこの街へ来た大方の理由だ」


 この蝋印を使うのはかつての我々、夜明けの鷹の団長のみ。今使われる可能性はないハズなのだ。


「使われるはずはない、って言うが……別に普通に団長がお前に連絡よこしただけじゃないのか?」

「そうなら話が早いのだが……」


 何も知らない様子で話すバリンに、少し言葉が詰まる。


「実はね、団長……解散を宣言して以降、完全に消息不明なのよ」


 アリシアも深くため息をつく。

 3年前、大戦終結から間も無くして、団長は傭兵団の解散を全員へ指示した。

 ある者は帝国の軍部へ招かれ、ある者は冒険者となり、またある者は流浪の傭兵を続け、それまで組織的だった一団は散り散りになった。そして当の団長は、全員の解散を確認した後、こつぜんと姿を消したのだ。

 バリンに団解散から以降の話を軽く説明する。


「と、まああの団長はそれ以降連絡も無し、私も幾度か帝都から出た時に話を漁ったがーーまあ手がかりはなかった」


 この3年間、かつての面々と交流が耐えたわけでは無かったので私もいろいろと探しはしたが、それでもなお成果無し

 それなのに急にこの手紙だ。何かある、と勘ぐらぬ方が不思議だろう。


「つまり、この手紙が団長本人からのものなら良し。そうでないなら鷹の名を騙る不届き者を探さねばならない、というのがこの旅の大目的だ」

「失踪の理由とか、解散の具体的な理由とか、色々私からも聞きたいことが山積みなのよ」

「なるほどな、俺は大戦中に抜けたから噂だけだったが、真意はそういうことだったか」


 話を聞いたバリンは、さすがに真剣な表情で答える。

 そして数瞬の沈黙の後。


 ぐぅーーーーーーーー


 と横のアリシアから大きな虫の音がした。


「まったく……お前の腹には何を飼っているのだ……」


 てへへと笑うアリシアに、もはやため息も出ない。


「ガハハ! まあなんにせよまずは飯か! さあ好きに食え!」

「じゃあ私ステーキ! 分厚いやつで!」


 やれやれと肩をすくめる。私も気が抜けてしまった。


「では私はパンとミルクでも貰おうか」


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