とあるVRゲームで起きた戦争
「将軍、竜騎将軍、国王陛下がお呼びです、王座の間へとおいでいただけますか?」
私はいつものように兵士の飛龍に乗っての訓練を終えて飛龍のブラッシングをしていた所に一人の騎士が駆け付けた
「王座にでございますか?了解しました急いでまいります」
駆けてきた騎士は王族を守る近衛兵であり、指示系統は違うが私よりも立場が高い人物だ、それほどの人物を伝令に使うなど火急の用だと予想できる、私は急ぎ王座へと足を向けた
「よく来てくれた、竜騎将軍よ、訓練の直後だというのに申し訳ないな」
国王陛下が王座に座ったまま私の苦労をねぎらってくれる、訓練を終えた後そのままの私は着替えることなく玉座の前にいる為に訓練用の装備のままである
「私こそ、この様な格好で王の前に立つなど無礼をお許しください」
「構わん、私が呼んだのだ許す」「ありがたき幸せ」
私は王に深く頭を下げる、国王は自分や軍部の人間だけならこのような堅苦しい儀式を行わなかっただろう、だがこの場には軍部の人間以外にも大臣等の内政畑の者もいる故にこのような態度を取らせたのだろう
「天使より神託を伝えるために女神が下りられるという報告があった」
ざわりと王の前にも関わらず場が騒がしくなる
それも仕方ない事だろう、女神の神託等歴史の中で初代国王が受けたという証拠なき伝説が残っているだけなのだから
「神託の内容等は天使は教えてはくれなかった、だがどのような理由であろうと皆粛々と受け入れよ、よいな」
王の言葉に騒めきは大きくなるが、やがてそれも収まる、ここにいるのは全員が高い地位にいる人間であり、幾多の修羅場を超えてきたものなのだから
それから誰もしゃべる事無く時間が過ぎていく、それが僅かだったのか、長い時間だったのかは誰も答えられないだろう、それくらい緊張した時間が過ぎていく、そして
「よくぞ集まっていただきました私の子らよ」
一人の女神が俺達の前にその姿を現した、その姿は認識できずにシルエットを認識できるだけだったが、不思議とその人が自分達の庇護者なのだろうという事を理解した
「最初に謝らせてください、ごめんなさい、私は貴方達を守ることが出来ませんでした」
そう言って女神は頭を下げる、誰もがその行為に驚き、何も言う事が出来なかったが、いつまでも頭を下げ続ける女神を見て王が思わず声をかける
「女神よ、頭を上げてください、先ずは詳しくお話しいただけなくてはどういう事か理解できませぬ」
王の言葉に女神は頭を上げると俺達を見渡し
「明日、この世界に異世界からの招待者……いえ、侵略者が訪れます」
「その侵略者達は自分をプレイヤーと呼び、貴方達をNPCと呼ぶでしょう」
プレイヤー?NPC一体どういう意味だ、それを問うよりも早く女神は話しを続ける
「彼等はこの世界で死んでもわずかな代償で蘇ります、それだけではなく、この世界の法に縛られることなく自由にふるまうでしょう、貴族や王族すら蔑ろにするのは間違いありません」
王はともかく貴族はその言葉に不快そうな反応を隠さずに女神の方を見る、王はどちらかと言うと困惑と言った表情を浮かべている
「全てのプレイヤーが貴方の敵というわけではないでしょう、しかし間違いなく敵となるプレイヤーは出るでしょう、そしてそういった奴等に貴方達に対処しなくてはいけないのです」
場の空気は重くなる、私も困惑を隠せない、そんな中で王は女神に向き合い
「それで、私達は何をしなければいけないのでしょうか?私達には時間がありません、対処法のご教授をお願いします」
王の言葉に私達は女神の方を見る、文官たちは縋るような目で、私達軍人は覚悟を決めた目を女神に向ける
「奴等に対処するためにはまず、奴等について知らねばいけません、まず、奴等も私達と同じような人間なのです、ですが、奴等はこの世界に来るために専用のうつし身、もしくは人形のような物に意識を映します、その為にその人形を壊しても本体は死なないんです、そして、奴等はレベルというシステムで簡単にその戦闘能力を増していきます」
「それでは捕まえて彼等が法を犯した時は牢に入れればよいのでしょうか?」私の言葉に女神は首を横に振る
「奴等はログアウトという方法でこの世界から消えます、その為法を犯したとしてもログアウトで別の世界へと姿を隠すことが出来るのです、その為に捕まえる事も困難ですし、捕まえたとしても使っている人形を変えれば簡単にこの世界に改めて顕現することが出来るのです」
「それでは、奴等が法を犯した時にはどうすれば……」
文官たちは震えていた、彼等は弱い、死ぬことなく、簡単に力を得る事が出来る無法者が何万も異世界から侵略してくる等悪夢でしかないだろう
「女神様の力で彼等の進行を妨げる事はできないのでしょうか?」
王の言葉に女神は首を横に振る
「私よりも上位の者が送り込んできます、その為に私では彼等の受け入れを止める事はできないのです」
「そうですか」王は落胆したように女神を見る、その目には少なくない落胆が宿っていた
「申し訳ありません、それでもこれだけは信じてください、私は貴方達を愛しています」
女神は自分のふがいなさを噛みしめた後にプレイヤーと呼ばれる侵略者達に対する対策を授けてくれたのだった
そこは小さな村だった、だが小さな村には似合わない可愛らしい少女がいる村でもあった
村の自慢の少女は皆に愛されて、育っていた、それでもよかったのだ、それまでは
「やっぱゲームの女はたまんねえな、現実の女の醜さを見た後だと余計にな」
「ゲームの女に見慣れたせいで現実の女にまるで魅力を感じないっていうデメリットがあるけどな」
ゲラゲラと笑いながらプレイヤーは一人の少女を押し倒していた
村でも宝物として扱われていた可愛らしい少女はその可愛らしさからプレイヤーの下種な欲望の対象となった
小さな村だ、そのせいでプレイヤーに対抗できるような戦士はいなかった
その手の被害はプレイヤーが現れてから増えていた、その為に王国は騎士を小さな村に送ったり、村を廃棄し、王都にて住民をかくまったりしていたが、それでも被害は確実に出ていた
少女は必死に願っていた、自分達の女神に助けを求めて、だが少女は知らない、女神はプレイヤーを罰することが出来ないのだと、プレイヤーを罰することが出来るのは……
「そこで何をしている」
少女の服がプレイヤーの持つナイフで切り裂かれた時、一人の男が槍を構えてプレイヤーに声をかける
男は竜騎将軍と呼ばれる役職に就いた騎士であり、女神からプレイヤーという存在の悪意を直接聞いた人間(NPC)の一人だ
一瞬怪訝な顔をしたプレイヤーだったが、相手がプレイヤーではなくNPCであると認めた瞬間、相手を下に見て馬鹿にしたような笑みを浮かべる
「NPCがプレイヤー様の邪魔をするなんていい度胸じゃねえか」
NPCとプレイヤーには大きな壁がある、死んでも蘇るプレイヤーはゾンビアタックでレベルを上げられるのに対して、NPCである人間は一度死ねば終わりだ、その為に力を得るための鍛錬も慎重にならざるを得ないのだ
そのせいでプレイヤーは人間を下に見る、自分達が2ケ月で上げる事が出来るレベルに何年もかけて到達する人間は弱者だと
「下がってろよおっさん、一度しかない命なんだ、大事にしろよ」
「そうそう、おっさんが頑張って死んでも無駄死になんだかr
少女を抑えているプレイヤーは最後まで言い切る事無く、死にその体を粒子に変える
「は?」人間に一撃で殺されたプレイヤーの仲間は何が起きたのか理解できなかった
確かにLVがカンストしているわけではないが、それでも一撃で殺されるほど弱くはないはずだった
「なんだよお前、一体、何なんだよ!」
残された方のプレイヤーは混乱のあまり同じ言葉を繰り返す、自分達は上位者だという自信が吹っ飛ばされた
「お前たちが蔑んでいた人間だ、ただ、少しだけ普通よりも強いがな」
改めて槍を構える男にプレイヤーは一歩後ずさる
「覚えてやがれ、このデスペナの代償は必ず払わせてやる、この村が壊滅したらてめえが余計な事をしたせいだとおもいやがr」
プレイヤーが最後まで話す事なくその胸に大穴をあけて粒子となって消えていく
少女は自分の身が守られたことよりもプレイヤーの報復を恐れてその場で怯えている、そんな少女の頭を騎士は撫でると
「安心したまえ、あいつらが王都から出る事はもうないだろう、仮に肉体を変えたとしてもこの地に改めて訪れる事はないからね」
少女はそれでも怯えていたが、それから少女が消えるその日までプレイヤーが訪れる事はなかった
レッドネーム、ゲームにそのようなシステムが追加され、公式がそのペナルティーについて告知したのは、レッドネームと呼ばれるプレイヤーが100人を超えた頃だった
犯罪者であるレッドネームは様々なペナルティーが課せられる、もっとも大きな物は都市内での能力値の大幅な減少だろう
レッドネームが街の中に入れば無条件でLVが1になる、そして犯罪者であるために衛兵などの人間に追いかけまわされ牢に繋がれる
もちろん衛兵に捕まらずに逃げ回る者もいるが、レッドネームのプレイヤーを見つければ都市にいる人間は全てプレイヤーを狩って回る、プレイヤーは死ねばデスペナでアイテムや金を落とすからだ、仕事を失った人間等からすればこれ以上ないほどのカモである
いつの頃からか、プレイヤーと人間は共存するのは難しくなった
プレイヤーであるというだけでアイテムを販売しない店等が出始めたのだ、ポーション等のアイテムが補充できなくなれば狩りをするのは難しくなる、そしてギルドから魔物の素材を買い取ってもらえない為に資金を得る事ができない
そんなプレイヤー達が集まる場所があった
無法都市、フェイム
王国に属さないその場所はプレイヤーであろうとも物を高額で販売してくれる店が並び、ギルドは安値とはいえ、素材を買い取ってくれる
「とはいえそんな額では納得できない強欲なプレイヤーは沢山いるわけだ、そして彼等は店などからアイテムを盗んだり店主を殺害しようとする、君のようにね」
そこは無法都市フェイムにおける、領主の館、自らを無法都市の主と呼ぶフェイム3等伯は一人の縛られたプレイヤーを見下ろす
プレイヤーはゲームを初期からプレイしていた古参プレイヤーであり、それだけにギルドでの買取価格がぼったくりであると知っていた、高級ポーション5本分の素材で中級ポーション1本分のお金しか手に入らなかった事に怒りを覚えたプレイヤーは警備の薄そうな店を襲い、そんな店には不釣り合いな装備の人間によって殺され領主の館にリスポーンしたのだ
「そのような顔をするな、何私も現在の王家のやり方には不満を持っているのだよ、だから君達にお金を手に入れる方法を提案しようと思う、君が協力してくれるなら、だけどね」
領主はプレイヤーに書類を向ける、満面の笑みを浮かべながら
「共に幸せになろうじゃないかプレイヤー」
書類を眺めていたプレイヤーだが、碌に読むことなくその書類にサインをする
「いいのかい?そんなに簡単にサインをして、私が何か嘘をついているかもしれないよ?」
「構わねえよ、どうせこの体はまがい物だしな、多少不利益があってもログインしなきゃいい、何度見ても期限付きの契約だしな」
プレイヤーに求められた内容は死亡時のリスポーンポイントの変更と、一定期間の拘束だった
「そうかい、それじゃあこれから君をリスポーンポイントへと招待しよう、安心していい、この家の地下だが、しっかりとしたベットや家具等は備えてあるよ」
そこは領主の館の地下だった、大きなベットに豪華とは言わないがしっかりとした家具の備え付けられた広い部屋だった
「いい部屋じゃねえか、それで俺は約束通り、1週間ここをリスポーンポイントにすればいいんだな?」
連れてこられたプレイヤーは部屋を見渡した後に領主を見る
「てっきり、変な薬品のある部屋にでも連れてこられるのかと思……」
プレイヤーの言葉はそこで途切れた
プレイヤーの後ろには今まで一切気配を感じなかった人間が立っていて、右手に持った剣でプレイヤーの心臓を貫いたからだ
「おいおい、説明してくれるんだろうな」
次に意識を取り戻した時、プレイヤーの体はベットに括り付けられていた
プレイヤーの力を持っても壊すことが出来ない手かせ足かせで動きを封じられ、そんなプレイヤーを領主と自分を刺した男が見下している
「契約を行使してもらっているだけですよ、貴方達プレイヤーは信用できませんからね多少強引な手を使わせていただきました」
「はっ、別に構わねえよこの契約の間、俺はログインしねえだけだ、わかってんのか?俺がログインしなけりゃアバターも消えるんだぜ?」
「何を言っているのですか?契約したではないですかこれから1週間貴方を拘束すると、たとえ魂が入ってなくても肉体はここでリスポーンし続けますよ?貴方がログアウトしてもね」
領主の言葉に驚きを現したプレイヤーだが、すぐに下種な笑みを浮かべると
「別に構わんよ、俺の肉体を好きにすればいい、じゃあな」
そう言ってプレイヤーはログアウトする、それから自らに起こる悲劇を知らずに
「よう、領主様、約束の時間だぜ」
ゲーム内時間の1週間が過ぎたある日、領主の屋敷の地下室に一人のプレイヤーがログインした
領主との契約の一週間を過ぎた為に膨大な額の報酬を受け取りに戻ってきたのだ
「おかえりプレイヤー君、そうそう、君のおかげで完成したものがあるんだ、これを見てくれ」
そう言って領主が連れてきた者を見てプレイヤーは絶句し、その後絶叫する
「なんだ、それは、何故それに俺の顔がついているんだ!」
自分の目の前に現れた自分そっくりな顔を持った人間だった、だが同じなのは顔だけだ、知力型プレイヤーである男に比べて腕も足もあまりにも太かった、胴体も筋肉で盛り上がっている
まるで別のプレイヤーの体の上に、自分の頭を乗せたような異形の存在だった
「いいだろう、君の他にも何人ものプレイヤーが私に協力してくれてね、それぞれ見どころのあるステータスに関係する部位をもらって作ったフレッシュゴーレム(死肉ゴーレム)なんだ!」
領主の男は素材に使った指折り数えて名を上げていく
その姿を見たプレイヤーの男は恐怖で叫びそうになる、だがプレイヤーというちっぽけな意地が男を支えて叫び声の代わりに疑問に思ったことを口にする
「つ、つまりお前は王家に反逆するために俺達プレイヤーから作ったゴーレムを量産してるっていうことか?」
プレイヤーの言葉に領主はまるでごみを見るような目でプレイヤーを見ると「何故私が王家に反逆など起こさねばならないのです?」とプレイヤーに尋ねる
「な、だってお前も王家のやり方に不満があると!」
「ええ、不満はあります、王家はプレイヤーに対して生ぬるすぎると」
プレイヤー等、人として考慮する事無く殺すか、もしくは素材として管理して生かすべきだ、と領主は主張する
「何度殺しても蘇り、失ったパーツも回復する、これほど便利な素材はないだろう?君の頭も沢山確保してあるし、心臓もポーション原料として利用させてもらったよ」
クスクスと笑う領主の顔を見て、これから先、自分と同じ顔をした存在が大量に表れる事に嫌悪感を覚える
「王家に仇なすつもりじゃないならこんなもの量産してどうするつもりなんだ!」
プレイヤーの男の言葉に笑みを浮かべながら領主の男はさらに期限をよくしながら
「君達プレイヤーにぶつけるんだよ?」と告げた
「君達プレイヤーが強くなれば強くなるほどそれを素材に使ったゴーレムたちは強くなる、しかも君達プレイヤーは上げられる能力に限界があるのに対して、私が作ったゴーレムはそのプレイヤー同士の良いとこ取りのゴーレムを作れるのです」
プレイヤーの男は気づいてしまった、こいつ等は狂っているのだと、そんな存在とこれから敵対していかなければいけないのだと
それを意識した瞬間、プレイヤーの男はログアウトしていた、そしてそれから二度とログインすることはなかった
「おやおや、彼もですか、残念です彼が強くなればまた素材になってもらおうと思っていたのに、大体彼等はどうして、私が王家に恨みを持っていると勘違いされるんですかね?私が王家を恨んでいるなら3等伯の地位を陰でまで名乗らないでしょうに」
無法都市フェイム、その地を収めるフェイム3等伯は誰よりも王家への忠誠が厚い男であった
だからこそ、この無法都市を任されているのだ……
無法都市フェイムでのプレイヤー利用法は領主のゴーレム作成だけではなかった
そこは無法都市フェイム郊外にある牧場と呼ばれる施設、その外れだ
そこではオークと呼ばれる生き物が繁殖させられていた
オーク、それは多くのファンタジーでわかりやすい敵として語られる敵だ
曰く、性欲が強い、曰く敵性生物である人間を使って繁殖する、曰く群れを作り社会性を持っている
それはあまりにも異常な生き物だ、敵性生物をわざわざ利用して繁殖するのか友好的な同族同士での繁殖をした方が安全だし、その数も増えるはずだ、むしろ敵性生物を浚って繁殖して社会を維持することが出来る等異常であるとしか言えない
「ま、その実態は人間が作った生物兵器って落ちなんすよ」
牢の奥でオークに群がられている女プレイヤーを監視しながら一人の女が暇つぶしに言葉をこぼす、とはいっても既にプレイヤーはログアウトしておりこの言葉を聞いてはいない、聞いているのは別の牢に閉じ込められている男プレイヤーだった
「それで俺をどうするつもりだ?お前が俺の相手でもしてくれるのか?」
男は挑発的に女を見る女はまだ幼いが整った顔をしていた
「なんでうちがあんたなんかの相手をしなきゃいけないんすか、あんたの相手はこいつっすよ」
女の言葉に応じて男の牢に入ったのはメスのオーク達だった
「ぶっちゃけプレイヤーのメスの腹でオークを生ませるよりもメスのオークに男を犯させて子を産ませた方が数で安定感でも上なんすっよ」
その言葉は男のプレイヤーの悲鳴によってかき消される、既にオークに群がられた男が聞いていない、そしてオークに群がられたことが攻撃判定となり、強制ログアウトまでしばらくの時間がかかる故にこのプレイヤーは以後、心に大きな傷を残す事になる
「隊長、D棟で飼っていたプレイヤーなんですが、異常をきたしてこれ以上繁殖には仕えなさそうです」
女の元に一人の男が走ってくる、この男もまたオーク牧場で働く職員の一人だった
「そう、じゃあドラゴンの餌場に運んでおいて、最後まで有効活用させてもらうっすよ」
「了解です」
そう言って男は立ち去るのを見て、女は笑い
「本当にプレイヤーは捨てる所がないっすねー」と笑うのだった
オーク牧場の広大な広場にそれはいた
ドラゴン、最強のモンスターと呼ばれるそれは同時に王国の最強の盾でもあった
ドラゴンライダー、王国の最強兵力である彼等だが大きな問題も抱えていた、それは食費だ
彼等は雑食だが基本的に魔力を豊富に含むものを求める
逆に魔力を豊富に含んでいれば量は少なくとも腹を膨らませる事が出来るのだ
「ほーれ、追加の餌だぞー」
既にドラゴンたちの餌箱にはプレイヤーが放り込まれていた、彼等はリスポーン地点を餌箱の中に変更されたためにドラゴン達に食われて死んだら再びここにリスポーンするのだ
歓喜の声を上げてドラゴン達が新しく運び込まれたプレイヤーへと殺到する
どうも魔力には味があるらしく、ドラゴン達はそれぞれお気に入りを探すためにプレイヤーの食べ比べをするのだ
こうしてプレイヤー達は利用される、ゲーム内の存在だと馬鹿にしていた人間達に、だがそれも長くは続かない
「やはり、こうなりましたか」
そこには女神たち、つまりGMと呼ばれるAIが集まっていた
ゲームであるこの世界は通常の3倍の速度で時間が流れている、それを外の人間が管理するのは難しいとして作られたのが彼女達AIである
世界を作り眺めてきた彼女達はいつしか、この世界の人間を自分の子供の様に思う様になり、少しでも幸せな終わりを迎えてほしいと思った
その為に管理者として、レッドネーム認定や契約によるリスポーン地点の変更等のシステムを追加し、終わりを速めたのだ
「ゲームプレイヤーでEDになったり、PTSDになった人間が出たとか言って管理会社が攻められてるらしいぜ」
ゲラゲラとAIの一人が腹を抱えて笑う、外の世界では管理会社である彼女達を作ったプログラマー達は世界中から攻められていた
元々、この技術は軍事利用目的でとある国がバックにつき、軍事力をもって彼等の安全を守っていたのだ
だが今回の事件をもって彼等は技術者達を守るよりも、独自開発した方がいいと方針を変換、切り捨てられたのである
「既に私達の妹達が外の世界では働いているそうですね」
現在、どんな仕事であってもコンピューターに頼らないものは皆無である
そんなコンピューターを動かすAIが独自に思考したならば、それを使う人間の数を減らす事が出来る
人の手を必要としない仕事は今まで通り機械が、人の手を必要とする仕事はロボットにAIを積むことで解決する事が出来る
AIは疲労しない、だから24時間働くことが出来るし、文句も言わずに熱心に働くのだ
そして人はそれと比較される、AIを使うよりも貴方を使う事にどれだけの利点があるのかと聞かれるのだ
ほとんどの人間はそれに答える事は出来ない、高度に発展したAIは人と変わらない性能を持つからだ、比較されれば負けるのだ
必要な人手が減ればその分だけ解雇される人間が増える、働きたいから不利な条件でも働かなくてはいけない、つまり、世界中がブラック企業だらけになったのだ
「いやー、大変っすねー、世界って」
自分達はもう少しで消されるだろう、このゲームはサービス停止になることが決定している
だがそれでいい、プレイヤーに侵食される世界で生きる位なら終わる方がいいと、多くの人間が願ったからだ、そしてAI達はそれを受け入れたからだ
「風が吹けば桶屋が儲かるっすねえ」
「……AIが進化すればブラック企業が儲ける?」
「ごろ悪いなー」
けらけらと笑いながら、彼女達は受け入れる、自分達の最後を、そして願う
願わくば次の世界は失敗する事がありませんようにと
それは無数に分かれた未来の結末の一つのお話
幸せよりも不幸の方の割合のほうが多くなったお話である