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聖剣物語  作者: はち
初夜編
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初夜編 深い眠りから覚めたなら28

 エイドはリーゼロッテの手首を取り、ピクリピクリと鼓動する脈を図る。手首から火照る熱さに目を細め、彼女に質問する。


「微熱は、いつからですか?」

「けっこう昔です。季節の変わり目から、微熱はありました」

「では、不性器出血も同じ時期ですか?」


 彼女は驚いたようにエイドを見つめる。その表情に彼は少し困ったような表情で答えた。


「命の剣でマナの流れを見ました。その結果ですよ」


 リーゼロッテは、やましいことを考えた自分を恥じるように笑った。エイドは咳払いをすると、自身の見解を述べた。


「まず、失神の原因は慢性的不性器出血による貧血です。次に、微熱と不性器出血についてですが。二つに関連性はあると思いますが、具体的にどういう。というのはすぐに答えられません。ただ、微熱も不性器出血の原因は、過度な精神的抑圧にあると思います。ですので、精神的抑圧の原因を取り除けば、徐々に改善するかと思います」


 エイドは落ちたタオルを拾い上げ、ボウルの中でバシャバシャと埃を拭い落とす。


「精神的抑圧は2つに分けられます。外部的な抑圧。内部的な抑圧です。外部的なものは難しいですが、内部的な抑圧から取り除いてみませんか?」


 エイドが言うとおりだ。トリトン村の大半には、リーゼロッテへの軽蔑の花が咲き乱れている。花を刈り取るには数が多すぎる。であるならば、花が枯れるのを待つしかないだろう。しかしながら、この花は、リーゼロッテの存在をなくさない限り、枯れることはない花である。そうであるならば、外部的な事より、内部的。自分自身の事から対処する方が効果的であるといえよう。だが、どうやって。と思えば、彼女は答えを見つけられない。


「抽象的で申し訳ありません。ですが、一つ。医者としてお手伝いができることがあります」

「お手伝い?」


 エイドは無言で頷くと、バッグの中から一つの剣を取り出した。それは、剣というにはあまりにも中途半端である。柄はあるが、鞘はない。剣の中程から先がポッキリと折れ、錆びが黒い点となり、細かく、身の毛がよだつほどに全体に付着している。


「それは?」

「いちおう、剣です。王都で手に入れたものです」


 エイドは、剣をリーゼロッテに見せる。点の密集に、彼女は本能的に鳥肌を立てた。


「それをどうするのですか?」


 リーゼロッテは上目遣い気味にエイドに問う。


「胸の辺りに当てて、血とマナの流れを整えます。そうすることで、心身の過度な緊張を解すことが出来ます。ですので、申し訳ありませんが……」


 エイドは最後まで言わなかった。聖女は、彼の求めに従い、手を交差させ、服の裾を掴む。一瞬、彼女は服を脱ぐか躊躇った。何せ、今着用している服は、ワンピースタイプの聖女の服だ。服を脱げば、残るのは下着のみ。彼女は、聖女ではあるが、恥じらいもある。聖女は、ちらりと目だけをエイドに向けた。だが、彼は表情を全く変えず、聖女を見つめている。


(私の裸を見て、エイドさん欲情とかしないかな? 私、こう見えてもまだ若いし。若い女性の裸を見れば、男の人って獣になるって言うけど)


 リーゼロッテは口を「へ」の字に曲げ、窓から外を見つめる。窓の外には人影はない。


(反応されても困るし、反応されなかったら女としても悲しいなぁ。まぁでも。エイド先生は医者だし。そう言うことはないでしょう)


 彼女は、覚悟を決め、エイヤッと服を脱いだ。そして、どうだといわんばかりに、エイドに上半身を見せ付ける。


「はい。リーゼロッテさん。そのまま、もう一度ベッドに横になってくださいね」


 彼は言葉と共に、リーゼロッテの肩に手を置き、そのままベッドに彼女の身体を横たわらせる。聖女は、エイドを見上げる格好となる。ドクドクと心臓を脈打つのは聖女のほうであった。


(う、嘘! も、もしかして、え、エイド先生いいいい。お、お、お、男にいいいいい? や、やっぱりなの? 本当に、男の人って、女の裸を見たら、獣になるの? せ、先生。待って。わ、私、心の準備がああああ。せ、せめて先生のピンク乳首だけみないと――)


「力を抜いてくださいね」


 エイドは微笑みを浮かべ、黒い刃を聖女の胸に勢いよく突き刺した。ドスンと胸を穿つ音と共に、女の身体が浮く。ブチブチと黒いさびが破裂し、液体でも固体でもない物質が身体の内側に侵入する。

 リーゼロッテの頭は、ひきつけを起こしたように、ガクガクと前後左右に震えだす。白目をむき、口からは、黒い泡をブクブクと吹き出している。


「おやおや。聖女様。よく効いているみたいですね」


 エイドは手に力を更に込め、捻るように刃を胸の内側へ押し込んでいく。錆はブリブリと更に音を立て、聖女の胸に黒い沁みを作る。

 血は一滴も流れず、被験者は絶叫すらあげない。奇妙な処置に彼は興味津々に観察する。


「聖女様。夢を見ているのですか? そんなに頭を揺らして。教えてくださいね。どのような夢だったのか。深い眠りから、覚めたなら」

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