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聖剣物語  作者: はち
初夜編
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初夜編 聖女リーゼロッテの回顧録(深い眠りから覚めたなら16)


 

「聖女リーゼロッテ。こちらでございます」


 トリトン村領主 コンラッドが案内したのは、改築中の建物だった。リーゼロッテはアヌイと共に、ポカンと口を開けて建物を見上げる。コンラッドは、建物と聖女の顔を交互に見つめる。


「ここが、御堂ですか?」


 聖女は、改築中の建物をみつめたまま、領主に問いた。澄んだ声に怒気は含まれていない。だが、動揺が見られた。

 コンラッドは苦笑いを浮かべ、彼女に取り繕うようにして答える。


「はい。以前は、村の集会所としてココを利用しておりました。ですが、リーゼロッテ様が赴任されるということで、貴女様にふさわしい御堂に建て替えようと……」


 リーゼロッテは口をあけたまま何も言わない。けれどもやはり、その建物は御堂とは言いづらいものである。御堂にあるべき聖剣のモニュメントも、ステンドグラスの窓もない。三角形の屋根の取替えと、新しい窓への取り替えただけの外観。内装講じも行われているが、リーゼロッテの場所がうかがう事は出来ない。

 これが、聖女バルバラのような地位のある聖職者が目にすれば、烈火の如く怒るだろう。だが、年若いリーゼロッテは、村の失態を咎めることはせず、じっと改築の風景を見つめていた。


「村の者は、御堂や修道院というものを知りません。貴女の望む形であればよいのですが……」


 声が小さくなる領主に、聖女はクルリと振り向いた。


「いいえ。領主様。他の聖職者は何と言うかはわかりませんが。私は、御堂や修道院は形。なんだってよいのです。大いなる意思の言葉を告げられるのであれば、なんだって構わないと思っています」


 聖女は、領主の落ち度を責めることなく答えた。だが、領主にとっての御堂は一つの権威付けである。

 聖職者と言う一種の権威を囲っている。そのステータスを内外に知らせる為に豪奢な御堂を作らせるのだ。

 けれども、この村では豪奢な御堂は作られない。それは、現時点でのトリトン村の、村としての勢いを現している。コンラッドが渋い顔をするのは、致し方ないことだろう。


「領主様。それに、私は嬉しいのです」

「嬉しい……とは?」

「えぇ。村の人が私の為にココまでしてくださることが」


 リーゼロッテはそう言うと、もう一度御堂を見つめた。

 心なしか、彼女は頬を赤くしている。

 槌が打つ男の太い腕。互いの安全を呼び合う太い声。その隣では、大木を切り分け鉋にかける老人の鋭い目つき。日陰でシャツをはためかせ、溜息をつく青年。天板を二人で抱え、笑顔で談笑し運ぶ色黒の男達。材木を確認し、額の汗を拭う色白の気弱そうな男。


(あぁ。ダメよ。ダメダメ。私。そんなに男の人を見ては)


 心で自制するも、リーゼロッテの目は、建築中の男から離れなかった。

 何しろ、彼女は修道院での生活以外、男性を見ることが殆ど無かった。修道士や聖人は、「同じ聖職者」という事で、異性と思ったことが無い。

 彼女は初めて、活気溢れる男性達を見た。彼女の目の前には、異性が沢山いるのだ。


「おーい。やっちゃん。それ取っちくれんね」

「あいよー」


 中年男性の些細な会話。なのはずだが、リーゼロッテの目には、彼らの周りには花が無数に撒き散らされている。


(あぁ。ダメよ。ダメ。落ち着いて。私。あの二人の会話が甘ったるいからってそんなぁ)


 リーゼロッテは、気を静めるべく、別の方向を見た。そこは、休憩エリアであり。

 難と言うことでしょう。そこにいる男性達は皆上半身裸。色黒でも色白でも、腹は出ていても、出ていなくても。胸毛があろうとなかろうと。ぽっちりと主張する男の乳首がちりばめられています。リーゼロッテの目は完全に、2つのぽっちり乳首に向いて離れません。


(あっ。あっあああああっ。あれが、ち、ち、乳首。乳首? 男の人の乳首? す、すごく、ち、乳首って低いの? ぽっちりと困ったような顔をして乳首って顔を出しているの? 低くて、かわいくて、お、押したくなるような。こ、これが乳首なの!)


 真顔で男の乳首を見つめる聖女。コンラッドは彼女の厳つい表情に、講じの不誠実さに不快感を表していると思ったようです。


「おい。お前達。いつまで休憩しているんだ」


 コンラッドの声に、一瞬、男達の顔が曇る。しかし、相手は領主。彼の命令は絶対だ。皆、しぶしぶと服を着始める。


(待って。お願いだからあああああ。待って。そ、そこのピンク色の乳首と茶色の乳首をもっとよく見せてください。なんで、乳首で色の差があるんですか? どうして乳首のまわりに毛が生えている人と生えていない人がいるんですか? わ、私気になるの。その乳首が。どうして女の人と違うのか。触ったらどんな感触がするのかとか。べ、別に変な意味じゃなくて。本当に興味だけなんです。だから、お願いします。見せてください。そ、そこの乳首を! 乳首だけでいいからああああああ。お願いします。服を着ないで下さい。まだ早いですよおおおおおお。ああああああ。乳首いいいいちーーーーくーーーーびーーーーー)


 リーゼロッテは口の中に溜め込んだ唾液を名残惜しそうに飲み込んだ。


(あぁ。乳首)


 残念そうな彼女のねっとりとした視線に応えるよう、まだ上半身裸の男が、物を拾うように、前かがみとなる。浅くはいていたズボン。紐の緩いパンツ。前かがみになると、自然に、ズボンとパンツが下がって行き。その先にあるのは……。


(あっっあああああああ。ら、らめええええ。そ、そ、うぉっおっ。お尻があああ。お。お。お。お尻。お尻が見え、見え、見っ。見せあああああ。わ、割れ目がこんなにも見えっ。あ、あぁぁあああ。そ、そこから下がったらどうなるの? お尻ってどうなってるの? どう割れてるの? み、見せ。み……。け、研究の為よ。い、いやらしいわけじゃないから。わ、割れ目。お、お尻のわああああああああああああ)


 聖女の頭は完全に尻モードになっていた。ぷっくりハリのある尻。パーンと誰かがはたけばプルンプルンと揺れ、小気味良い音がしそうな尻。もう少しであらわになる。という時に、恰幅の良い男が彼の前を通り過ぎ、全てを見ることが出来なかった。


「ちっ」


 そして、何故かアヌイが舌打ちするのであった。


「もうしわけありません。リーゼロッテ様。汚いものを見せてしまって」

「いっ。いいえ。皆様の自然体を見れたから、私は別に……」

(可能ならば、次回は鼠蹊部を見せてください)


 リーゼロッテは、自分の心を見せぬよう、胸の前で慌てててを振った。


「失望されたのでは? この村に?」

「そ、そんなことありません。この場所は、大いなる意思が選んだ場所です。彼の方は、『光なき場所に光を。光なき者に光を』と私に言われてました。私は、その言葉に従い、ここにやってきたのです。失望とか、全然そういうのはありません。」


 リーゼロッテは、自分が聞いた大いなる意思の言葉を口にする。彼女にとってみれば、とても大切な言葉だ。一方、この言葉の意味を知らない者は捉え方が異なる。困った顔をしていたコンラッドの表情に赤みが増す。こめかみ付近の薄い皮膚がピクピクと蠢いたのを、アヌイは確かに捉えた。

 アヌイはリーゼロッテの服の裾を引っ張る。聖女は驚いたようにアヌイを見つめる。ロバの「失言だ」という視線に、リーゼロッテは首をかしげる。


「どうかしましたか? 聖女様」


 リーゼロッテは自分の呼び名が変わっていることにも気づかない。取り繕うように「いいえ」とだけ返し、アヌイの手綱をきつく引っ張った。


「それでは、聖女様のご自宅を案内しましょう」


 コンラッドは笑っていた。しかし、口元は引きつっている。そんな彼の変化に彼女は感づかない。アヌイの頭を優しく撫で、コンラッドの後ろを笑顔で付いて行った。


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