第4話 「キラキラDays」
カレンダーの暦も4月に変わり、いよいよ緑高の新学期が近づいて来た。心地の良い春の陽気が続き、駅前に咲いている桜並木も満開を迎えているなか、ここひだまり町の駅前商店街も賑わいを見せていた。この時期になると県外の学生も入学や新生活の準備に追われて商店街に買い物に出かけるようになるため、あまり見慣れない初々しい顔ぶれがちらほら目立つようになってくる。この商店街での顔合わせ、そして出会いが、ひだまり町の商店街の人々のちょっとしたイベントになっていた。接客の空いた時間に行う商店街の人々の会話も潤っていた。
「今年もやって来ましたねえ。若い人たちがちらほらと買い物してくれるのが嬉しいですね。」
「駅前にスーパーマーケットできたけど、やっぱり商店街を利用する人も一定数いるから、しばらく安泰だな。」
「四年前の爆発が嘘みたいに活気に満ち溢れているなあ。イメージキャラクターとしてサンシャシンスターがいるからね。」
「地元の復興で始めたアイドルだった今や彼女も日本を代表するスターになったから、聖地巡礼目的に色々県外からもちらほらお客さんが来てくれるようになりましたからねえ。いやあ彼女のおかげで我々の笑顔も心も商売も輝いておりますなあ。ははは」
「あっ、うちお客さんが来ちゃたわ。先行くね。いらっしゃい〜!」
ふらりとやって来たのは1人の少女。身の整った裕福そうな緑高の女子生徒と思われる人物だった。
「すみません…。ここにスケッチブックは置いていますか……?」
ユイとナナミもここの商店街に買い物に来ていた。
「ユイちゃん悪いね。買い物に付き合ってもらっちゃって商店街の割引券の期限が今日までだからってお姉ちゃんに押し付けられちゃってさあ…。」
ナナミは10枚ほどある商店街の割引券の束を財布から取り出し、ユイに見せびらかしていった。
「そうだね…。お姉さん、こないだ暗い中1人でずっと待たせちゃったんだよね…。私も今度会う機会があったら一緒に謝ったほうがよかったのかなあ…。」
「ユイちゃんは本当に優しいなあ。そこまではしなくていいよ。連絡しなかったのは私のせいだし。それに押し付けられたのは、無料券じゃなくて割引券だからなあ…。無理して使わなくてもいいけど、やっぱりご機嫌取るためには粗品でも買っとこうかと。私じゃセンスは悪いからユイちゃんに協力してもらおうと思って。」
「そうだね。一緒に選んで、お金半分出せば、私の気持ちも伝わるんじゃないかなあ。」
「えっ、お金まで出してくれるの…?それは悪いよー。」
「何言ってんの。私たち友達じゃない。困った時はお互い様だよ〜。」
「金の切れ目は縁の切れ目って言うじゃない…はっ、もしかして!見返りに何か期待してるとか?」
「何も期待してないよ〜、ほんとに私の好意だからね。」
「よかった、私、そんなにお金持ち合わせてなかったんだ。いざという時借りようと思って!」
「えっ、あっ!割引券除いたら、ほとんどお札入ってないじゃない。もう、アブラナったら〜」
「あっ、いまアブラナって言ってくれた。」
「えっ、あのその。」
ユイは顔を赤らめて、ドギマギしていた。ナナミは嬉しそうにこう続けた。
「いままであだ名で呼ばれたことなかったんだよね。そう呼んでくれって何度も言い続けたのに…、ユイちゃんが初めて、ほんと…初めて…」
「あはは…恥ずかしいなあ、てか、嬉し泣きするほど!?」
「そうだ、ユイちゃんもあだ名で呼ぶのはどうかな。」
「えっ、私はいいよ…ユイって名前好きだし…」
「お礼に考えてあげる!えーっと…そうね…ユイ美、ユイ子、ユイっぺ、ユイユイ、ユイーナ、ユイユイ星人、カワユイ…」
「全然元の名前より言いにくくなっちゃってるじゃない!もう、私のことはユイでいいから。」
「はいはいわかりました」
ピピー!
突然、車のクラクションが鳴りひびいた。2人は話に夢中になりすぎて、いつの間にか商店街通り過ぎて駅前の大通りに飛び出てしまっていた。
「おわ、危ない危ない!ひかれるところだった!」
「ほんと、間一髪だったね…お話に気を取られないで前を向いて歩けばよかったね。」
「いやあ…クラクションが鳴らされたのが乗用車でよかったよ。バスだったら大勢の乗客に迷惑かけるところだった。」
「ええ、そっち!?アブラナ、何にせよひかれたら危ないよ。」
「アブラナ危ない…なるほどいいダジャレですな!」
「もう、そんなつもりで言ったんじゃないからね!」
「さて、戻りますか。」
2人は商店街の方に引き返した。
「さて、買い物しますか。さっさか選んで終わらせちゃいましょう!」
「そうだね。どんなものがいいかなあ…」
「やっぱり、食べ物かな。」
「いいねえ…お菓子なんかいいと思ったけど、もしかして自分が食べたいだけじゃない…?」
「あはっ、バレちゃった?」
「もう、食いしん坊なんだから。こないだのケーキの件もあるし、食べ物はやっぱり心配だよ。他のものにしよう!」
「…そうだなあ…何がいいかなあ…」
「そうだ!お姉さんの好きなものにすれば良いんじゃない?」
「お姉ちゃんの好きなもの…」
ナナミは目を閉じて考え始めた。
「…絵が好きだったから、それ関連のものだったら喜びそうかなあ。」
「そうだね!画材屋さんとか、いってみない?この近辺にあったかなあ…」
「テキトーにぷらぷら探してみましょう!歩いてみれば見つかるでしょう!」
こうして2人は歩き始めた。のんびり歩いてみると商店街のどこかこじんまりとした中に活気のある商人たちのかけ声。行き交う人々の会話。全体的にのんびりした空気が商店街には流れていた。
ふと、1つの画材屋さんを見つけた。
「ここなんかいいんじゃない?」
「世界屋…そうだね。入ってみよう。」
ユイたちが入った途端、買い物終わりにお店から出てきた少女の肩にぶつかった。その表紙にハンカチを落として行った。
「あっ、今の人、もしかして緑高の人じゃないかな。」
「そうだね。ちょっと走ればすぐ追いつきそうだしちょっと行ってくる!」
「あっ、アブラナ、待ってよ!」
2人は走り出した。
すぐに追いついた。
「ちょっとすみませーん。落としていきましたよ。」
「えっ、…」