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幽影の君  作者: セレン☆
4/5

東支部

太陽が少し西に傾いた時刻にも関わらず、森の中は薄暗く木漏れ日が点々と地を照らしている。あまり乾いていない湿った空気と土はあまり気分のよいものでは無かった。

その中に流れる水の音がしんとした辺りに響く。唯一静かに、穏やかに、微笑みがあるような川の音がそこにあった。

川沿いにある一つの影は小刻みに動く。バシャバシャと音を立てながら汚れた服を洗っていた。


黒っぽい上下の服は動きやすそうなゆったりとしたもので、その短い白銀の髪が栄えるように目立っていた。汚れた服はその水の周りをほんのり赤く染めながら綺麗になり、濡れたそれを絞ってそのまま着る。

返り血がなくなり、濡れているローブ以外は元の姿に戻ったギルカがいた。


この森は王都東の先端地から外れた森の奥深くである。凶暴な動物と視界が悪く、見通しが良くないので、ここに訪れる人はよっぽどの馬鹿か、高戦闘技術を持った人しか来ない。不気味な場所である以上、暗殺者にとっては好都合の場所とも言える。訪れる人が少ない故に見つかる確率も低い。ギルカがいるアジト本部の支部の一つが存在しているのだ。


ギルカにはあと4つの依頼書が残っているが、今は任務実行はしていない為、支部に行ってみることにした。久しぶりの訪問である。


王都東の森はヤイターバン森で一般の人々が気軽に訪れることが出来る地域区があるが、その更に奥には黄色と黒の太い縄のロープで張り巡らされ、立入禁止のドクロが描かれた看板が幾つもある。そのロープの向こうは闇夜やみよの森と呼ばれ、入る人はほとんどいない。ちなみに支部がある場所はその森からさらに奥の地図にも載らず名もない場所にある為、未だに見つかられたことは一度もない。というのも、厳重に罠を張り、幻覚を見せる霧に覆われているせいでもあるのだが…。


ギルカは木の枝から枝へと飛び移りながら高速で移動する。時間帯によって支部の外から入れる入口が変わるのだ。その時間までに辿り着けるよう高速で移動しているのだった。


川から数十分。幻覚に紛れた入口を見つけた。入口を見つけたからと言ってそのまま入れる訳ではない。

高さ20mほどある塀をよじ登り、ある場所の石に暗号であるリズムを軽く叩き、やっと入ることが出来るのだ。


ギルカは入口の石の位置を確認すると、そこに目掛けて飛び移りながら登る。そして、暗号を解いてから中へと入った。入るのはいいが、今度は地上までそこから50mあり、普通に飛び降りれば死ぬ仕組みになっている。しかも入口の大きさは人1人がやっと入れる大きさである。一応大人数で通れる場所もあるが、中から出る一方通行しかないので結局はこの扉からということになる。


ギルカは中に入る直前に横にあるロープの一つを迷わず掴んでから入る。ロープは入口のサイドに3本ずつの6本あり、そのうちの1つは無事に30m先まで辿り着けるようになっている。それ以外の5本のロープはハズレでよっぽどの奇跡でも起きない限り死亡する。


途中まで降りたあとはそこから石に足をかけ手をかけながら降りた。降りれば沼地である。40mほど遠い芝生の位置まで一気に飛び、沼地にハマらないように着地した。沼地は一度入ればなかなか抜け出せないので敵への防御対策でもである。だが、暗殺者でもたまに失敗して沼にハマることがあるので、ギルカは少し不満に思っているのだった。


そしてようやく支部の庭に入ると、門の前で立っている門番の近くへ移動する。身軽な格好だが武装している門番に話しかけられた。


「そこの者、何をしに来た。即刻ここから立ち去れ」


2人の番兵は槍を交差し、その1人が門祓もんばらいをする。ギルカはそれに対し、身分証を示す。


「俺はこういう者だ。そんな馬鹿らしいことは外でやれ。最上指揮官の顔くらいは覚えて置くんだな」


「はっ!これはご無礼を。申し訳ありません。どうぞ中へ」


番兵はギルカの身分証を見るなりビシッと背筋を伸ばし、中へと通す。


「…次はない。ほかの者にも伝えておけ。また同じ真似をしたら殺す」


「は、はい!申し訳ありませんでした!!」


殺気を少し放ちながらギルカが言うと、番兵は冷や汗をダラダラと流しながら返事をした。


ギルカが中へ入ると、お城の屋敷ように錯覚する。いや、赤いカーペットで敷き詰められたりはしていないのだが、本部が土と岩で出来た少し古っぽい野生の建物のようになっている為、そう感じるだけである。

入ってすぐ目の前にある階段を昇り、左側の廊下を歩くと、人がちらほら歩いていた。


「こんにちは」


「なにか手伝いましょうか?」


「どうかされましたか?」


などなど歩く度にすれ違う人に話しかけられる。だが、ここは暗殺者最下位に位置する人々であり、今から会う最上位の人は1番上のフロア奥にいる。しかし、どこまで厳重なのかと突っ込みたくなるほど簡単には会えない仕組みになっているのだが…。


まず屋敷の階段をあちこち昇ったり降りたりしながら昇れる場所まで移動する。というのは、階段一つで行き先が全て異なるからである。行きたい場所へ行くには初めの階段から失敗しないように行くしかない。そして隠し扉を使用し、一気にエレベーターで地下まで降り、廊下を少し歩くと幾つもの扉が現れる。手前から3つ目の右側の扉に入ると、タンスと昇り階段と降り階段があった。昇り階段を使い、永遠に続く急な階段を上へ上へと登ると、階段の終わりに4つの扉がその場を囲むように現れた。いや、一つは階段のせいで頭上後ろ側にある。


ギルカは後ろにある扉を開け、跳びながら入る。そして扉を閉めて廊下を再び歩き、やっと目的地に到着した。


ある扉の前に立ち、独特のリズムでノックをする。すると中から声が聞こえた。


「…ん?どうぞ?」


それに従い、部屋へと入ると、何やら作業中の男性が座っていた。手が止まっているところ、固まっているのだろう。目を見開きながらこちらを見ている。


「…久しいな。3年ぶりか?」


疑問形で通されたが、ギルカはそれをスルーして声をかけた。


「…え、あ、お、ん…。どうしてここに来た?」


ギルカの言葉に我に返ると少しつっかえてから質問をしてきた。


「任務していた場所が支部に近かったからな。どうしているかとこっちに来た。お前は相変わらず多忙のようだ、シルディック?」


「お、おお。そうか。久しぶりだな。お前はここへ寄るほど暇しているのか?」


シルディックはこの東支部の支部長で王都東詰おうとひがしづめの暗殺を主にしており、屋敷内にいる暗殺者全てを仕切る最高指揮官である。本部の最高指揮官であるギルカと権力立場ではギルカの方が上ではあるが、プライベートの場合、そこまで権力がハッキリしているわけではない。だが、妙な位置関係で上下関係が少しハッキリしているのは明らかである。


「まさか。頭に序任務ついでにんむを4つほど頼まれたんだ。やらないわけには行かんだろ?」


序任務ついでにんむね…グライシスはいつも人遣いが荒いのな…はぁ…」


グライシスとはギルカの養父であり、上司であり、本部の現頭領である。シルディックと同期なのだが、実力差で負け、支部長として仕事をしているのだった。ちなみにギルカはグライシスの下で暗殺者として動いていたこともあり、シルディックより強い。

シルディックはそんな同期のグライシスに時々振り回されているのだった。


「…………………。」


「…ところで、挨拶だけをしに来たわけではないだろう?」


ギルカが無言でシルディックが嘆いている所を見ていると、ふいに質問をされた。返事をしながら懐から2枚の紙を取り出し、渡す。


「ああ。この2つ。依頼書だが、本部から派遣出来る者が今いなくてな。お前の所に回す」


「……ふむ。分かりました。それで、君はこれからどうするんですか?」


「今日出来る任務はこの近くにない。ここで1泊してから外出する」


「分かりました」


ギルカは部屋の扉の前に移動し、シルディックに指示を出す。


「それと、俺が門を入る時、新入りがいたな。俺の顔を覚えさせておけ。2度目があれば即殺すぞ。あの安っぽいやり方で門祓い出来るなら苦労はしない。もっといい方法があるだろう」


「は、はい。すみません。新しく入って来た人はここ3年で数十人来たので…そうします。しかし、門祓いの方法はそれ以外に思いつきません…」


「なら、やめておけ。監視カメラで充分だろ。第一、あんな厳重にしている方が誰も近づこうなんて思うやつは殆どいない」


「それだと、職を失う人が「俺に口答えでもするのか?」………すみません!」


シルディックが抗議しようとすると、ギルカは殺気立ちながら冷めた口調で問いかける。元々が淡々と抑揚のない声で話すので、より一層(こわ)く聞こえたのだった。


「…話は終わりだ。仕事しろ。俺は4時間後に出る」


「分かりました。わざわざお越し頂きありがとうございました」


シルディックが立ち上がり、右手をグーにして爪を隠すように左胸に当てながらお辞儀をする。ギルカはそれを見てそのまま黒い渦を巻きながら、その場から消えた。


「…仕事が思ったより増えた…。あの2人にはいつまで振り回されてばっかりなんだろう?…とりあえず、番所に行くか」


シルディックはそう呟き、赤い渦を巻きながら、その場からギルカと同じように姿を消した。



その頃ギルカはある一室にいた。一室と言っても、客室なのだが。支部には本部や他の支部から訪れる人の為に客室を幾つか設けられている。階級の高い人であれば、支部長のいるフロアに客室があり、階級の低い人は兵士達と同じ寝泊まりするフロアの別室になる。


…さて、どうするか。



ギルカは残り2つの依頼書を手に思案していた。場所は同じくらい遠いのだが、一つは盗賊団の暗殺。もう一つは城下町から離れた賭博街とばくがいにいる指揮官の抹殺。

盗賊団は人が多い為、単独行動は死や身元の情報を相手に渡しかねない。逃げられる可能性が大いにあるからだ。賭博街の指揮官の抹殺は殺すのではなく、連れていくので大きな街である以上目立ちかねない。よって、単独行動は不可能に近い。


盗賊団は南西の森の中、賭博街は南の町外れにある。本部に1度戻るか、または南支部から数人引き連れて行くか…。様々なメリット、デメリットを考えるが、どちらが良いのか分からない。なにせ、彼は14歳。まだ策士さくしの経験が浅いのである。そこは忘れてはいけない。

とりあえず就寝して、日付けが変わった時にシルディックに相談することにしたのだった。

どちらかと言うと支部内の描写の方が多かった( ̄▽ ̄;)

残り2つの依頼書の内容が明らかになりました。さて、次回ギルカはどちらからどのように行動することになるのでしょうか?笑

私は森が好きなので、盗賊団の暗殺からにして欲しいかな〜。ここはシルディックの考え次第で変わりそうですね。

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