依頼2
騒然とした人々が逃げ惑う中、警察は民を落ち着かせていた。2人目の強盗が消えたことは誰も気づかなかったらしい。意識しなければ気づけないほど、ギルカは気配を消していたからという理由があるのだが…
それはさておき、ギルカは遺体処理屋に連絡した後、その場を離れ、2枚目の依頼書を見た。
“憎き者を殺せ
スライニング城下町〇〇市場東〇-〇〇
浅黒い肌男女夫婦
15時頃リビングにて決行を許可
追伸:目立たぬよう残酷に”
何とも言えない難しさである。だが、出来ないこともない。なにせ時間の明るい時である。どこかの家から窓越しにこちらを見ている可能性もなくはないわけだから。しかも派手にやれという命令がオマケ付きである。
まず依頼の解説をしよう。憎き者を殺せはタイトルのようなものなので、暗殺者を示した言葉ではないが、たまにこういったものが紛れ込んでいることがある。次の行に書かれているものは見て分かるように住所である。場所がハッキリと分かっている場合、迅速に対応してほしい場合はこうやってプライバシー情報が書かれていたりする。
3時頃決行。時間指定の場合、それより1分でも早い侵入は許されない。かと言って遅くもダメなのである。
現在時刻1時35分
今いる場所からは大体軽く走って40分ほどで着く。それ以外の任務に目を通してみるが、それまでの時間に出来るものではないので、近くの町並みを監察しながら時間潰しをすることにした。ついでに気配も消して。
任務現場辺りの町並みは少し古い建物が建ち並ぶ一軒家が多いが、ほとんど商人の身分のようであちこちから掛け声がかかる。
黒いローブを着込んだギルカの服装はその場に似合わず浮いていた。しかし、気配を完全に消しているためか、誰にも気付かれずに空気のようにその場に紛れ込んでいる。商人の子供達がキャーキャー騒ぎながら駆け回って遊んだり、商売の取引をしたり何気ないその平和な世界は無邪気な空気で包まれていた。裏で生きるギルカにとって、その無邪気さは空気とも言える存在として流していた。任務遂行中の彼は「任務に感情は不要」をポリシーにしている為、全くと言っていいほど関心がなかった。
歩いて町並みを抜けると、今回の任務対象の家を見つける。時間は2時45分。ゆっくり歩いたのでちょうど良い時間になっていた。ギルカは誰も見ていないことを確認すると、スッと細い路地に入り、疎らに光が入る場所から家へと近づく。2時50分。細い路地のサイドにある塀に跳び乗り、遠くの窓越しに監察する。気配は2つ。家の扉から右側がどうやらリビングのようだ。リビングに1人、台所に1人。
そうしているうちに時間がやって来た。静かに、そして派手に殺す。依頼にはそう書いてあるため、まず一つ。そっとキッチンのある勝手口に廻る。扉はなく、吹き抜けになっていた。
…扉はない。飲み物とお菓子…。リビングに持って行くつもりか…。
中を窺うと女性がキッチンに立っており、準備が整ったものからトレイに乗せていた。そのままリビングまで行くのかと思うと、女性はどこかへ手ぶらで出て行く。
ギルカはその隙に部屋へと侵入し、陰と同化して女性がリビングに行くまで待つ。
「〜♪〜♪♪〜♪〜♪」
女性はどうやら気分が良いようだ。鼻歌を唄いながらトレイを持ってリビングまで移動する。それに従い、ギルカは完全に気配を断ったまま女性の背後について行き、リビングの前で姿を消した。
「あなた、ティータイムにしましょう」
「ああ、そうだな。ところで、この記事なんだが…君はどう思う?我々商人として不味い気がするが…」
リビングから聞こえるもう一つは男性。新聞紙らしき音をバサバサと立てながら何やら話している。
「………あら?これは何かしら?」
女性はある部分の記事を読むと、疑問形の声がした。
「それは───うッ!……お、まえ……何を…入れた………!?」
「あ、あなた?!大丈夫?!」
男性がカップに入った紅茶を口にしてから話だそうとすると、突然苦しみ出した。女性は慌てふためいてワタワタとパニック状態に陥る。返事のない主人にハッとして、電話っ!と叫びながら扉を開けたが、そこで女性の意識は途絶えた。いや、ギルカが扉の前に潜み、斬り裂いた。そのままリビングに入り、苦しむ男性の前に立つ。
ギルカは先ほどキッチンから入った時に毒薬を数滴紅茶の中に入れていたのだった。速攻性の毒のため、体内に回るのが早く、放っておいても10分と足らずに命を落とす危険な代物である。
「あ……い…り…………裏、切っ…た…な…」
男性は目を血走らせ、鬼の形相をしながら、じわじわと侵食する意識に耐えて四つん這いで部屋を出ようとする。
…終わりだ。
グサッ…びちゃっ……
グキッ…ぐちょっ………
グキッ…ぐちゃっ…
残酷に冷徹に無造作に…
ギルカはまず意識のある男性の首に短剣を刺し、声が出ないようにすると、そのまま手袋をした手で彼の四肢を無理やり切断した。返り血を浴びながらの作業だが、無感情のギルカには水と同じ感覚で濡れたものの大したことはないと思っていた。
暫く作業をすると、血塗れた手袋で短剣を男性の首から引き抜く。その時には既に絶命していた。あるのは元は人間とは思えない肉の塊だけだった。
短剣で斬り裂かれた女性は胴と頭は全て繋がっているものの、身体から長い紐の腸や膵臓が飛び出し、肉を斬り裂いた際に現れた骨が幾つも見えていた。
……二つ目任務完了。
ギルカは手袋を脱ぎそのまま遺体処理屋に連絡すると、リビングの窓から飛び降り、近くの森の中へと入って行った。
暗殺の描写は難しいものです…(^^;
今回は短めになりましたが、いかがでしょうか?
次回は森の中での描写になりそうですね。何があるのでしょうか?
作者も読者の皆様と同じような気持ちで執筆しています。楽しみですね♪