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幽影の君  作者: セレン☆
1/5

依頼

静かなる月明かりの良い夜。1人の少年は大きな石階段を登っていた。その階段は普通の階段ではなく、高さが50cm以上の段差がある階段である。1000段以上ありそうな階段で一般の人ならば1時間以上かかりそうなところにも関わらず、時間短縮のために5段跳びで約5分で息切れ一つせず登り切る。


少年の姿は全身ローブで包み、闇に溶け込んでいた。階段を登り切ると、一見石で出来た崖が現れた。少年はある部分の石に近づき、人差し指でリズミカルに音なく叩く。すると、その石は消滅し、中へと入った。


中は暗く、入口に蝋燭がサイドに2本立っているだけでその他は何も無い。入口の扉は少年が入ったと同時に再び塞がった。真っ暗でその先は目を凝らしてもよく見えない。


なにやら人工的に作られたようなそうでないような洞窟の一本道を永遠に歩く。洞窟の中だというのに、足音は響かない。一本道を真っ直ぐ歩くと、今度は迷路のように幾つもの穴が出現する。少年は迷うことなく目的地へ歩き続け、ようやく本物の玄関へと入った。玄関には門番が2人おり、少年に気づくと敬礼をした。


「はっ、おかえりなさいませ!副頭領様!」


ここは少年のアジト。先ほどの迷路の穴は罠が仕掛けてあり、道を間違えると死にゆく仕掛けになっている。

ちなみに少年は14歳。7歳という最少年にして副頭領になった、天才暗殺者である。先程洞窟の中で足音が響かなかったのは、暗殺技術の一つで暗歩(あんぽ)と呼ばれるものだ。移動中足音を立てないことで相手に気配を感じがたくさせているのだが、物心つく頃から訓練されているため、今となっては癖になっている人が多い。


「…………。」


少年は何も答えずに門番の間を通り、更に奥へと進む。そこはかなり広い広場となっていた。しいていうならば、ギルドのような酒場である。そこにはたくさんの人が静かに賑わっていた。基本的に暗殺者は騒ぐことを嫌う。全てを一瞬で終わらせて何事もなく帰るような、手がかりを一切掴めないようにすることに長けているのもその一つである。


少年が広場に入ったことで、1番入口に近い兵士が気がつき、慌てて飲んでいたカップをテーブルに置いて、少年に跪いた。


「副頭領様、お帰りなさいませ」


兵士の1人が静かにそしてハッキリした声で言った。その声に気づいた他の者達も跪き、同時に話す。


「「「おかえりなさいませ、副頭領様」」」


「…ああ。かしらはどこにいる」


少年は淡々とした抑揚のない声でその兵士に聞いた。


「はっ、頭領様は執務室にございます」


少年はそれを聞いて、何も答えずにふらりとその場から文字通り消えた。そして、ある場所に姿を現し、被っていたフードを外してから壁に向かって話す。


「…頭、ギルカだ」


「入れ」


少年─ギルカの言葉に反応した頭はその壁に黒く渦巻く穴を開けた。ギルカは躊躇いなくその穴に入る。入ると、当然のことながらその穴は綴じ、執務机で作業していた頭がこちらを見た。


「どうだった?」


ギルカは数歩前を歩き、報告をした。


「依頼にあった北東にいるセルヴィック王とその家族の暗殺を完了。その時に見つけた資料がある」


ギルカはその資料を懐から取り出し、差し出した。頭は立ち上がり、その資料を見る。サッと眺めてから口にした。


「任務ご苦労」


「…………。」


ギルカは立ったまま何も言わない。頭はギルカの肩に手を置き、続ける。


「お前には期待している。次の任務はお前への依頼はまだない。まずは溜まりに溜まったいない間の資料の作業でもするんだな。3日後、またここへ来い」


「分かった」


ギルカは指5本を伸ばし、左胸に当て、お辞儀をすると、そのまま壁に穴を開けてその場を後にした。

このお辞儀の動作は「あなたに命に灯火を」という意味であり、アジト内での挨拶で、突然死や災害なく今日も生きられますようにという意味である。他にも戦闘時や兵士にする動作の挨拶などかなり細かく分けられている。

暗殺をする者にとって、いつ死ぬか分からない窮地の状況に追い込まれることがしばしばある。基本的に迅速に戦闘を終わらせるスピード勝負の暗殺者にとって、長期戦の戦闘は向いていない。強い者は残り、弱い者は死にゆく。そして墓はなく、殉死した者への弔いはない。それが裏社会を生きる暗殺者の規則である。にも関わらず、お互いにその動作をすることは社交辞令であり、お互いのために怨みなくなどという意味まで込められていたりする。


ここで建物の説明をしておくが、外から見た、一見崖のように見えるものはある暗殺一家のアジトで当たり前だが、裏関係者が住処として使っている。中の洞窟は4断層に分かれており、地下も含めると8断層となっている。地下最下層は頭の部屋とギルカの部屋がある。というのは、最下層は現頭領と副頭領の部屋、つまり、現頭領は頭、副頭領はギルカだからである。地下3層は執務室と書斎。地下2層と1層は訓練所。ちなみに地下2層が専用訓練所で一般兵は入れない。地下1層は一般訓練所である。地上1階は先程も説明した通り、溜まり場の広場である。地上2階は医務室。地上3階と4階は兵士達の寝泊まりする場所となっている。



ギルカは頭の部屋を出ると、その場を離れ、自分の部屋へと穴を開けて中に入った。先程から穴を開けて入ると言っているが、土と石で塞がっており、どこにも扉が無いためだ。能力を使わないと一生入れない仕組みになっている。言い方は少し違うが、魔法使いが魔法陣を使って行き来しているような感覚だと言っておけば何となく分かるだろうか。


ギルカは中に入ってザッと部屋を見渡し、羽織っていたローブを脱いで、クローゼットに仕舞う。書類はたんまりと溜まっていた。タワーのように重ねられた書類の山々に当たらないように歩き、机に付くと、傍にあった蝋燭に火を灯し、近くにあった紙が当たって燃えないように床へと移動させる。そして机に羽根ペンとインクを取り出してレポート用紙になにやら書き込むと、そのまま書類に没頭し始めた。

ギルカに届く書類は1日2000枚以上。そして今まで任務で隣の国まで行っていたので、3週間ほど部屋を空けていたので今に至る。


ギルカが書類に没頭して8時間。超高速でレポート用紙に15000枚分の書類をまとめて切りを付けたあと、まとめた書類は空間の中に保管し、読み終わった書類はまとめて火に付けて燃やし暖炉に放り込んだ。任務の直後ということもあり、その疲れからベッドに倒れるようにして眠りについた。


3時間半後、ギルカは目を覚ました。かなり睡眠時間が短いというのに、そんなことはお構い無しに起きてシャワーを浴びると、再び書類に没頭する。

ここの暗殺一家は食事は摂らない。その代わりに週に1度森の霊薬を飲んでいる。森の霊薬とは、森の精気を集めたもので人間に必要な栄養素が全て含まれているものである。たくさん飲み過ぎると逆に体を蝕む恐い薬ではあるが、好んで口にしている人が多い。というのも、ゆっくりした食事などしていたら緊急時に慌てて準備が必要になったりするからである。週に1度、数分もかからない食事は時間短縮であり栄養が摂れる一石二鳥の好都合の品物だからだ。ギルカもその1人である。


1日かけて全ての書類をまとめると、再びベッドに倒れた。1日も休まる日はない。そして3日目、いつものようにまた3時間半ほどで起きる。ギルカの睡眠時間は常に3時間半なのだろう。生活習慣がそう身についているようだ。寝るときはすぐ深く眠り、起きる時は深い眠りからすぐ目覚めるように訓練されたギルカは起きてすぐいつもと違う異変を感じた。


なんだ…?いつもより騒がしいぞ?


ギルカは不審に思い、顔を洗ってから黒いローブを羽織る。そして部屋を出てアジトの兵士達の部屋を除いて全ての層を見るが、何もない。


…何があった?


よく分からないが、とりあえず、頭の所へと行ってみることにした。


「…頭、ギルカだ。聞きたいことがある。今いいか?」


「構わぬ。入れ」


中に入ると、いつものように執務机で作業している頭の姿があった。


「どうした?」


「ああ。さっき騒がしい音が聞こえたが、何かあったのか?念のため、兵士以外の部屋を見たが異変はどこにもない」


「ああ。さっきこのアジトを潰そうとやってきた馬鹿者がいてな。罠にかかったんだろう」


「…それだけではないだろう?」


ギルカが頭に問うと、頭はふっと笑って付け加えた。


「お前は勘が鋭い。そうだ。あの罠にかかった仲間の1人が迷路を突破してアジトに攻め込んできた」


「…………。」


ギルカは無表情で驚く様子もなく続きを待った。


「まあ、雑草だったから別に問題はない。ついでにお前に任務だ。軽い仕事だから一気に6つ渡しておく。依頼はコレだ」


頭のいう雑草とは、敵と認識しないくらいの弱さという意味である。ギルカは依頼書6枚を受け取り、ザッと目を通す。


「…了解した。準備が出来次第すぐ向かう」


「頼んだ」


ギルカは指先を揃えて左胸に当て、お辞儀をすると、その場から消えた。自室で必要な武器と毒薬、応急処置用の布など準備をし、軽装で部屋を後にした。


広場に出ると兵士が気づき、ビシッと敬礼をして挨拶した。


「副頭領様、行ってらっしゃいませ」


「…………。」


ギルカはそれに答えずそのまま暗い洞窟の中へと出ていった。

こんにちは!

初めまして。セレン☆です。

暗めの小説を書くのは初めてですので、未熟な所もあるかと思いますが、どうか温かい目で見守って下さい(*..)

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