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俺は知らないがこれをフラグというらしい

 宿屋の親父が持ってきた昼食を食べ終わった俺たちは彼女の呼び名を決めようと思った。勿論プレートも返却済みだ。


「という訳で、なんか呼び名に希望はあるか?」

「いいえ、ハルスワートさんの好きな呼び名で大丈夫ですよ」

「ネーミングセンスは壊滅的だと自負できるが」

「それ完璧に自虐ですよね?」

「ああそうだ」

「開き直ってます?」


 ジト目で彼女が俺を問いただす。

 ふ……開き直っているわけないだろう。


「事実を言っているだけだ」

「それ開き直ってるって言うんですよ」

『童も彼女の意見に賛同じゃ』


 なん……だと。まさか相棒までコイツの肩をもつのか!


 ああ、今更だけどマサムネとこうして話が可能なのは彼女の念話の技能によるものだとか。今までは俺だけに念話を飛ばしていたけど、目の前の彼女にも念話を飛ばすことも可能だった。

 彼女も最初はやっぱりいきなり頭に変な声が響いて驚いたけど、マサムネが元はといえ、【呪い】の武器だったという事を教え……られたら良いが、それだとまたトラウマを呼び起こしそうだったので、一種のマジックアイテムだという事で一応納得した。


 「凄い武器なんですね……もしかして一流の冒険者ですか?」


 と聞かれたがまぁ間違ってはいないだろう。一流の「解呪士の【素質】」は勿論だが、一流の「素質」も持っている。うん。間違ってはいないはず。本当に一流なのかはさておき。


 と、そんな茶番は置いとくとして、俺たちは3人で呼び名決め大会を開催していた。


「じゃぁポチで」

「それは酷すぎですっ」

「悪いがこれ以外に浮かばない」

『諦めよ。こやつはこういう奴じゃ。童に元の名があって心底良かったと思うておる』

「そうだ。諦めろ」


 ああそうだ。俺のネーミングセンスは壊滅的だって分かってるさ。……この議論はマサムネと何度も、それこそ数え切れないほどやってきたさ。

 結果として俺が現実を思い知っただけだがなチクショウ!


「あの…だとしたらどうすれば…」

「自分で自分を名乗る」

「ふえ?」

『まあ、確かにそれもあるかの』


 っていうかコイツの場合それが割と最善な気がする。っていうか、これ以外に選択肢がねぇって気もするがそこはおいとこう。俺が悲しくなる。


「マサムネ、お前はなにかいい案あるか?」

『ナデシコかのぉ』

「お前も論外だな」

『少なくともそなたよりはマシじゃ。なんじゃポチとは。ペットではないのじゃぞ』

「拾ったから実質ペット扱いでもいいだろ」

『なに人を奴隷のように扱いおって。奴隷でもありゃせんのに』

「だが間違ってはいないだろ」

『いんや、やはりそなたに名づけの才能は皆無じゃな』

「人の事言えんのか人の事」

『童は人ではない故そのような常識は通用せん』

「こいつ…!」

「ま、まぁまぁ…」


 こうした議論(主にマサムネが原因)のせいで難航したが意外にも名無しの彼女から提案があった。


「あ…」

「ん?どうした」

「あ、いえ……ただ、今“ニール”って頭に浮かんで…」

「じゃそれで決定。これからしばらく宜しくな、ニール」

「え?決定ですか?」

「決定だ」

『もう少し考えても良い気がするがのぉ』


 という訳で名無しの彼女さん改めニールは自分の中にある【呪い】を解呪するまで付き合うことになった。


「よし、それじゃぁ俺はギルドに行って依頼でもこなしてくる。お前はここで安静しとけよ」

「うう……はい」

『すまんがこればかりはハル殿が正論じゃの。今は十分な休息をとり、己の身体を第一に考えなされ』

「はい……有難う御座います」


 まぁ、ニールのは結構強力だからな。本来ならこうして喋っているだけで体力を大幅に消費するはずなんだが……それは【呪い】が自分自身にのみ向かっているからか?まぁそこは変な憶測が絡むから考えるだけ無駄な気もしなくもないが。



 【呪い】が“憑く”のと【呪い】が“宿る”のとでは定義が大きく違う。どれくらい違うかって言うと、同じ「木」だけど“憑く”だと木の枝とか葉っぱ辺りに相当する。だが、“宿る”ともなると、その根っこや木の幹辺りを示す。勿論、宿っている方がレイスエンペラーとかの災害種になってしまう。

 そして【呪い】にもステージがある。ま、大まかな基準だけどな。


 まず、第一段階。

 これは初期の段階でここを見極めればその【呪い】がどれだけ強いかを大よそだが把握可能だ。そして最も解呪しやすい段階である。


 第二段階。

 初期よりも更に病状が進行している状態で、強い【呪い】だったらここで自我による行動が出来なくなる。ようは乗っ取られる。種類にもよるが、大半の強い【呪い】はここで自由を奪う。場合によってはここに自意識は残るらしいが……俺個人としてはこの時点で自意識はもうないか限りなく薄いんじゃね?って思ってる。


 第三段階。

 二段階より更に悪化している状態。手遅れではないが、かと言ってあまりよろしい状態でもない。強弱関わらず大半の【呪い】はここで自由を奪う。強い【呪い】に至っては自意識、肉体の自由などを全て奪い、一気に最終段階にまで行ってしまう恐れもある。


 第四段階。

 最も悪化している状態。もう意識も朦朧としていて、ここが現世なのかあの世なのか分からなくなる。一番解呪しにくい段階だ。そしてここまで来ると誰でも【呪い】だと分かる。物だった場合、それ相応に強ければ完全な自我が宿って、段階も実質的にここで終わる。マサムネも前はここだった。

 因みに確率的にどれくらい難しいかというと1割は確実に切ってるレベル。それぐらい難関だ。故に、この段階になると封印って手段を最初に取り、そこから解呪および消滅の手順を踏む。


 最終段階。

 これは手遅れって奴だ。ここまで来ると解呪不可能だ。人なら殺さなければ止まらないし、【呪い】による自我に操られる。

 これが物の場合はその効力を非常に強く広げる。勿論、そこまで行くのは非常に稀ではあるが無くはない。もしもマサムネがこの段階にいると自由意志を持ち、全ての人を殺しに殺して、生け血を吸うという文字通りの【妖刀】になっていた可能性も否定できない、とは本人(刀?)談。

 どうやって?と聞いたら『念力か何かで浮遊して移動(サーチ)悪即斬(デストロイ)な感じじゃろうな』と言ってた。変な言語があった気がしたがまぁいい。



 ニールはこの中での第四段階のほぼ最終段階にまで迫っていた。【呪い】がなぜか自身にだけ向かっているという事が本当に幸いした。あの段階で周りに向かっていたら近づいただけで被害にあうレベルだ。それも尋常じゃない範囲で。それに加えてあのままだったらマジで化け物になってたな。

 これが“憑く”場合だと殆どが二や三段階で止まる。相当強力な呪いなら四まで行くが、一番最後の方までは行かない。


 "命"を媒介とした【呪い】は、それぐらい強い。






「よし、今日はどんな依頼があるかなっと…」

「おいあんちゃん、なんか依頼探してんのか?だとしたら俺たちとやらねぇか?」

「ん?」


 ま、【呪い】もそうだがこっちも気を付けないとな…。

 たまにこうして相手が誘ってくる場合もある。勿論中には善意で話しかけてくるような奴らもいる。だが、大半はならず者だ。周りの反応を注視していればこの人物がどれだけの評判の奴なのかが分かる。


「おい、あれって…」

「やめろ。関わるんじゃねぇ」


 よし、評価決定。


「いや、俺は間に合ってる」

「じゃぁ何で依頼なんかみてんだ?」

「なんか適当に良さそうのを探してるだけだ」

「だからそれは俺たちと…」

「いや、自分で見つけるからいいのさ」

「ほぉ……それは女もか?」


 む…雲行きがちょいと怪しくなってきたな。ま、いいか。丁度いいのが一つあったし。


「どうだろうな」


 俺はそう言って丁度良かったと思う依頼をボードから取った。


 こういった依頼ボードにある依頼は大半が常時あるか、それとも誰でもいいからやってくれって奴だ。常時あるのはギルド側から、もしくは領主や国王命令(王家公認)で出されているやつで素材や討伐証明を持ち込めば即座に換金できる。対して、誰でもいいからやってくれって奴は怪しい依頼もある。が、そういう怪しい依頼の中にこういった【呪い】関連の依頼がある可能性が高いからどれが本物か見極める必要がある。そのためにも…


「おい」

「あ、はい。ハルスワート様ですね。本日はどういったご用件でしょうか?」

「こいつについて教えてほしい」


 ギルドで直接聞いたりする。【呪い】を解呪するにはその【呪い】の本質を考え抜き、実行、封印もしくは解呪という訳だ。


「ああ、これはですね…」


 そしてギルドも俺は解呪士だという事は知っている。だから欲しい情報があったら可能な限り教えてくれる。もしもガチでやばいやつだったらギルドマスターとかが出張ってくるが、今回は軽いらしい。

 と思っていたら他の受付嬢が口を出してきた。


「あ、それマスターに話した方がいいかもよ」

「え!?本当?すみません、ハルスワート様。少々お待ちください」


 …どうやら大事らしい。


『ふむ…どう見る?』

(どうって言われてもなぁ…)





 依頼内容:幽霊調査

 依頼人:ベンデルザック・フォン・アインスワート


 内容:私の自慢の別荘に幽霊が住み着いた。誰か調査をしてほしい。解呪士、または除霊士の場合、直接赴いて倒して貰っても構わない。


 報酬:大金貨3枚





(俺としては少なくともその幽霊とやらが闇の因子で出来ているのか、それとも【呪い】で出来ているのかさえ突き止めてくれればなぁ)

『それは…たしかにのぉ』


「お待たせいたしました。ギルドマスターがこの依頼について説明して下さるそうです」

「了解っと」


 大事みたいだな。又はいり込んでるのか…ま、聞けば分かるか。





【ギルドマスター執務室】


 そう、ちょっと豪華な装飾の看板が扉にあって、俺を担当した受付嬢が扉をノックすると入ってもいい許しが出たから入る。


「久しぶりだな、ハルスワート。ま、今は座ってくれ」


 そう言って俺はソファに座った。もうここに何度も呼ばれているからある意味俺も勝手を知ってる。案内してくれた受付嬢は受付に戻って業務を再開している。


「で?今度はどんな訳あり依頼なんだ?これは」


 そう言って俺は疑問と視線をここ、テッルシェルバ領アルシェの街支部のギルドマスターにぶつけた。

 ギルドマスターは以前までランクAまで上ったが今は引退してこの通り執務に励んでいる。その髪は赤髪ショートで目も赤い。褐色肌でその胸も控えめである。


 レイチェル・アルヴスタイン。そして以前の二つ名が……


【紅蓮の戦乙女(ヴァルキリー)


 二つ名にもあるように、女性である。たまに一緒に飲む間柄だ。


「いやなに、この依頼についてなのだがな。恐らく疑問に思っただろうと思ってな」

「そりゃな。で、どっちなんだ?これ」


 どっち、とは闇の因子で出来ているか、それとも【呪い】で出来ているのか。それを聞いている。


「今回は……残念ながら【呪い】だ」

「よしきた!詳しい話を聞かせてくれ」

「まぁ待て。よく見ろ」

「ん?」


 特に悪くなさ……あ。


「ああ、そうだ。よく依頼を見ていなかったな」




 依頼内容:幽霊調査

 依頼人:ベンデルザック・アインスワート


 内容:私の自慢の別荘に幽霊が住み着いた。誰か調査をしてほしい。解呪士、または除霊士の場合、直接赴いて倒して貰っても構わない。


 報酬:金貨3枚



 推奨ランク:B




「あちゃぁ…俺にはまだ無理だったか」

「いや、そうでもないぞ」

「……え?」


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