留置所
第一話目で、再編集する前に、-携帯電話が電力残り少ない-、というようなことをナナの台詞にありましたが、それについて彼女が、詳しいことを何も語らないというように編集し直しました。紛らわしくて申し明けございません。
今回で、彼女のスマホの詳細について書かせて頂いております。
最近再編集した時期は、9月29日・・・・・・サブタイトルも変更しています。
今回の語り(ナレーション)は、フレイア等のキャラクターではなく、三人称(作者)方式でさせて頂きます。
『プルルルルッ!! プルルルルッ!!』
基本的な骨組みが木製である鍵付きロッカー群の一つの棚から、スマートフォンのシンプルな着信音が鳴り響いた。
音源の場所はとある王都の留置所・・・・・・二階の看守室の隣りにある、容疑者所持品預かりロッカー室からである。
但し、この国の、もといこの世界には、『本来』スマートフォンどころか、通信機器を始めとした電化製品などありはしないのだが・・・・・・。
「はぃやっ!?」
看守室で、マニュアル書を見ながら、事務仕事をしていた女性の新入り看守が、隣の部屋で微かに鳴り響く、スマートフォンの着信音に驚いた。
自分の周りを見渡す新入り看守。今この部屋には、自分一人しかいないと気づき、 どうしましょっ と、焦り混乱した。
急いで看守室の壁の釘に掛けられてある、ロッカー用の鍵の束を掴み、隣部屋へと駆け込む。
半泣きの状態で、音の元凶のロッカーを発見し、そのロッカーの鍵穴に鍵を差し込んだ。
「ああっこれじゃない!!」
その鍵を抜き取り、別の鍵を入れる。持ち手には完全に震えており、着信音が聞こえるたびに、自分の心臓が、ひっくり返ったような気分になる居心地の悪さに浸っている。
「違う・・・・・・」
「これじゃない・・・・・・」
「何で開かないの!?」
新入り看守は、一旦手を止め、深呼吸した。
視線を落とし、持っていた鍵に刻まれていた文字を、しばらくの間眺めた。
彼女は、あることに気づく。
「・・・・・・これ看守用の着衣室ロッカーの鍵じゃないの・・・・・・?」
埃が溜まりぎみの部屋で、一人赤面。
なんかこのピンチの時、 一人で良かった・・・・・・ とか、 いやいや自分が苦手である酒の席の話の種にしようかな・・・・・・ とか、現実逃避の思考に掛けられていた彼女。
自分の軍服なる看守制服のポケットに、手を突っ込む新入り看守。
そう、その彼女が預かっていたのだ。別の鍵の束。気が動転して忘れてたのだ。
余談だが、看守などの役人が、容疑者の所持品を盗ろうものなら、盗ったものを、所持者に返却又は弁償し、検事までに『書類送検』させられたり、始末書を書かされるという身の毛もよだつような罰を受ける。
気を取り直して、音が鳴り響くロッカーを、新たに掴んだ鍵の一つで、開けた。
そこには、四角の透き通る水晶みたいで絶対水晶ではない物がはめられた、その者が見たことも無いような物体が、激しく震えていた。
新入り看守が、おそるおそるその携帯電話に触ろうとする。
その瞬間に、それが、 プッ と鳴り止んだ。
彼女が、安堵の息を漏らし、ロッカーを閉め、元の部屋へと戻ろうと踵を返した。
『プルルルルッ!!』
またスマートフォンが鳴り響く。 ビクッ!! と体を震わせた彼女。
新入り看守が、スマホの両端を掴んで、それを出されたロッカーのナンバーをを眺める。
ちなみに彼女が持っている携帯電話が震えるたびに、その者の喉が干上がるような不快感を感じていた。
「確か・・・・・・このロッカーに入っている物の持ち主って、メガネを掛けて、ローブを着ていた三つ編みの人だよね・・・・・・?」何日か前の、あやふやでおぼろげな記憶を呼び覚まそうとする。
新入り看守が、開けたロッカーの扉を バタンッ!! と激しく閉め、急いで一階にある容疑者収容所に向かって、その携帯電話を持ったまま走って、部屋から飛び出す。半錯乱状態で。
無人になったロッカールームに、別の看守の男が入室する。
「ぷははっ。テロリストのコスプレをした女の娘が、憲兵団に間違えられて、冤罪で捕まえられたって~。今思い出しても笑えるわ! まあ、直にワシも見比べ確認しなけりゃあな・・・・・・あいつら男と女の見分けもつかない節穴かいな~・・・・・・って、小馬鹿にしてたとこだが、双子と思うくらい似てたわ!! あいつら!!」と、何やら説明口調で長々独り言を語っている彼。
『ガチャッ』
「あっそう言えば、ロッカーの鍵、新入りに預けてあったっけな~、呼ばなきゃあ・・・・・・・・・・・・んあっ?」
歩みながら一人で喋っていた彼だが、鍵が閉めてあるはずのお求めのロッカーが、解錠せずに開いた。
そう、彼の開けたロッカーは、今さっき新入りが開けたそれ。その者が鍵を閉め忘れてたのである。
「っかしいな~? 何つ~雑な管理体制だ!! 鍵の閉め忘れとは・・・・・・まあいいか、さっさと返すか。山賊たちの事情調書もあって忙しいしな。・・・・・・にしても随分奥に詰め込んだな、よいしょ」
男がそのロッカーの奥に手を伸ばした所、残りの預かり品達が、感触でわかる。
彼がロッカーの影の部分から手を話し、ロッカーからそれに組み込まれたケースを、重たそうに引きずり外して、それごと両手に持って、退室した。
彼女が駆け寄った道とは、全く別の進路に。
舞台変更 ロッカー室⇒留置所の一階・容疑者収容所A
床の材質が木材で、天井に壁はレンガ、背丈が少し高いシンプルなテーブルなどの家具が設置されている。トイレ(個室ではなく仕切りのみ)水道管完備の薄暗い部屋で、清潔感あふれる白シーツのベットに腰掛けて、軽くうつ伏せた院長の格好をした者は、鉄格子越しで、向かい方面にある無人の鉄格子部屋を、うなだれて眺めていた。
追記・レンガの壁に、食物などを入れる配給口がある。あと廊下上辺に、複数の光魔術『ミクロサン』が、一定間隔に薄い光で発動されるよう配置されている。
まさしく静寂な時間・・・・・しかしそれも終わる。その者の右側から、バタバタと騒がしい足音と着信音が、イヤでも耳に入っていく。
「これあなたのよね?!」
鉄格子と鉄格子の間隔にある赤みを帯びた石畳廊下から、院長の格好をした者の視界に、女看守が現れた。彼女の両踵が急ブレーキし、左手にスマートフォン、右手でそれを指差した状態で、院長の格好をした者に問いたのだ。
院長の格好をしたものは、携帯電話をを目視し、一瞬目を皿のように丸くするも、無言のまま瞼を細め、鉄格子の隙間から手を伸ばし、彼女に向かって頷いた。
「何とかして!! 私じゃどうしようもできない! 何コレ!!? このうるさいの!」と、看守は、両手でそのスマホを、その者の伸ばした手に押し付ける。
押し付けた彼女は、安堵の表情を見せるも、落ち着いたことによってとあることに気づく。
『プルルッルッ! プルルル・・・・・・ピッ』
院長の格好をしたものは、スマホの画面を、慣れない手つきで、薬指でタップした。
『おいっ!! さっさと出ろよ! あちらの世界出身のくせに ザザッ・・・・・・機械音痴か? あっ? オイラの魔力量じゃあ長い時間通話できねえんだ。・・・・・・ザー にしても驚いたか? 本来携帯電話なんて存在しなかった世界で、通話できてる矛盾に。すごいだろ!ザザザザザ・・・・・・ ナナが驚く顔が容易に想像できるぜ』と、電話の向こうから、イイキの声が小さな音量で発せられた。ちなみにすごいノイズが混じって、聞きづらい。
続けて「それより、ナナ。今どこにいんだよ? 図書館の職員にひどい扱いされ、傷心旅行にでも行ったか? アサシにあんたの居場所聞いても知らねえって。せめて一言挨拶して、出かけていきやがれ」と、声が響く。
例の看守は、先程の言葉を音が微量なせいで、うまく聞き取れなかった。
院長の格好をした者が、自分の口を、電話に近づけ、「けホッコホッゴホンッ・・・・・・心配かけてごめんね。今王都にいるよ。
それにしてもすごい驚いた!? ・・・・・・ウチ何が何やら・・・・・・どういう仕組で通話しているの? スマホ」と、可愛らしい声で、電話口に極小声で会話した。
女看守の額に、冷や汗が流れた・・・・・・まさかあれは通話の道具ではないだろうかと勘付いたのだ。鉄格子の向かい側から、院長の格好をしたものを黙視し、その者の動悸を探っている。
『ヌフフフッ聞いて驚くなよ?
実は前々から異世界工学情報学に精通している我ら『マルウェー電子カラクリクラブ』のディジタル工学ヲタクが、ナナに内緒で、 どうすれば通話魔術でナナの携帯電話に通話できるか密かに研究していたんだ。
オイラは少し雑用を手伝っただけだけどな。今泊まり込みで、ちょっと遠出している。
・・・・・・まあ理論はこうだ、まず高山の頂きに高い鉄塔を建てる、んで電波にある信号を魔力波の情報に変換したり、逆に魔力波の信号を電波の情報に変えたりするという術式魔方陣を、その鉄塔に刻む、あと電波の信号なるディジタルデータの翻訳を担当する機械『モデム』もこちらにある。電線いらずのタイプな。
異世界の通信衛星なんていうものなどにも関与しないと通話はできねえらしいからなっ。ズザザ ザー ギンが使った召喚魔術の応用で、もう一つの魔方陣も書いて、一旦電波の情報をあちらの世界に送り込むことはなんとか成功した。人間一人も無理だがね。
流石に異界のゲートを通った電波使っちゃあ通話の間には物凄い通信不良が起こるのも仕方がねえ。
それと、こちらの世界で通話したら、異界の契約した携帯電話会社が不思議がって、ザザ・・・・・・ロック掛けられるかもしれねえがそれも大丈夫・・・・・・!
黒髪のおかっぱ姐さんが別のディジタル機器で、違法侵入・・・・・・コホンっ、裏技使ったから契約解除されても出来るってわけ。バレもしない。
機器や材料とか全部は、あの姐さんがクラブのオイラ達に提供してくれた。
多分彼女も異世界出身だろうが、今度紹介するよ・・・・・・あ~喋った・・・・・・あとインターネットも出来るって言ってたぞ彼女』
「・・・・・・それはすごい・・・・・・!! ところでスマートフォンっていうの、自然に電力が切れて通話できないんじゃ・・・・・・?」
『はっ? オイラがその電話を、ザザザザッー・・・・・・持っただけで魔力によって充電できるようにし、耐熱耐蒸気のカバーも取り付けた恩を忘れたのか!?』
「あははっごめんごめん・・・・・・ところでなぜそこまでして・・・・・・」
『それは知的好奇心と達成感を満たすためだけだ。趣味だ趣味・・・・・・決してお前が無事あちらの世界に帰るための手がかりを見つけるため・・・・・・なんかじゃねえよ・・・・・・全部自分達のためだけだ、勘違いすんじゃねえ』
「ううん・・・・・・ありがと・・・・・・」
『う・・・・・・うるせえっ! とにかく実験も成功した! 通話切るぞ! もう魔力残ってねえ』
『・・・・・・プッツン』
「・・・・・・あの・・・・・・それ通話するための魔道具? すぐにこちらに渡して!! 先程何やら喋った内容も全部吐いてもらいます。投獄された状態で、外部から干渉することは大罪です!!」と、先程とはうって変わるように、冷静にそして熱気迫る看守は、鉄格子先の人に命令した。
「何をおっしゃいますか、ご婦人・・・・・・この牢獄では、魔力『は』一切通さない特殊な土壁で構成されてるはずです。通話なんてどうやってもできないはずでしょ?」と、さっきと比べたらウソのような野太い声で、女看守に語りつける院長の格好をした者。
「そ・・・・・・それもそうね・・・・・・」
あと留置所も含めて、この世界の牢獄の殆どは、壁床鉄格子全部が、魔術などの衝撃に大変強く、物体がぶつかったら酷い不協和音が生まれ、別の部屋にいる獄卒たちが気づく方式である。
ちなみに巨人などの種族を収容する時は、一旦縮小魔術を使って連行し、地下二階の、対巨大牢屋を使用。小人などの小さい種族や、自分の体を縮小する魔術を持つ者は、鉄格子の隙間が極端に狭くなっている特別性を用意している。
「お返し致します、あといくつ程の頼み事があるのですが・・・・・・」と、そう語りながら、自分の持っていたスマートフォンを、女看守に渡す院長の格好をした者。
「えっ・・・・・・ええ何?」
「まず一つ目に、その物体を、定期的にウチに渡してくれないでしょうか? 一週間に一度くらい・・・・・・」
「えっ・・・・・・そんな・・・・・・なぜ?」
「コレは呪いの品です・・・・・・。週一の頻度で、呪文をコレに向けて唱えないと、封印されていた魔王的みたいな何とかが、開放されてしまうのですっ!!」と、そう真面目な顔で語る院長の格好をした者。
「ええっ!? 魔王的みたいな何かが・・・・・・!?」と、自分の手元に渡されたスマートフォンから、顔を遠ざけ、軽くのけぞて驚く女看守。
「魔王的みたいな何かがではなく、何とかです! さっきウチがブツブツ唱えてたのは呪文・・・・・・何も心配することはございません」
「そうだったんだ・・・・・・」
「もう2つ目は、この件については、他言不要・・・・・・一応看守が、収容された、まだ釈放されてない人物に対して、その者の所持品を返すことは、あなたが始末書を書かされるに値する不祥事になりかねない! このことはウチ達の秘密でお願いしますよ・・・・・・! 次にそれを渡すときも他の者にバレないように・・・・・・」
「うっ・・・・・・始末書とか書きたくない・・・・・・」と、院長の格好をした者に諭された彼女は、身震いをして、答えた。
「そうでしょう、そして最後にもう一つ・・・・・・」
「はい・・・・・・」
「異世界文字の読み方の本と、インターネット講座の教科書を、私めに差し入れすることはできるでしょうか?」
自分の悪意と野望に満ちた笑みを、無垢な彼女に悟られぬよう、頼み事をした院長の格好をした者・・・・・・もとい本物のヤハチ院長。
通信衛星とか、携帯電話の仕組みなどが、とんとド素人な者が書いているので、読者の皆様方は、イイキの説明を本気にしないようお願い致します。無知なくせにそれっぽいこと書くことを許して下さい。
読んでくれてありがとうございました。