罪悪感の中で・・・・・
よろしくお願いします。
一番最近の再編集日時は、2018年1月13日です。
今回出てくるキャラ達の髪等の設定を変更いたしました。
「異世界って憧れるよな~!!」
異世界転移者ナナが、山賊たちを蹴散らす数時間前の出来事、つまり時系列が少し過去に遡ることになる。どこか人気のない草原で、銀髪の少年「ギン」と、種族がゾンビで、種族特性の顔色悪さを持ち、気だるけ気味な少年と、『スライムヘァー』の種族である下まつ毛がチャームポイントの少年ら計三人が、だべっていた。
全員が緑色のブレザーを着用し、所持してあるカバンや、胸の紋章のイラスト等には、統一されてある。
※スライムヘァー・・・・・・髪の毛がスライムみたいに粘液でできている、他は人間と同じ。
ちなみに彼らは、『マギク魔術専門高校』の生徒で、一学期の終業式も終わり、帰路についていたのであった。あとこの世界において学校で決められている長期休みの時期等の文化は、日本と違う。
ギン「なんだいきなり、カブ【スライムヘァーの男の名】」
「だってそうだろ? 異世界から転移した人物の~、あるいはその人達から聞いた物書きの書物からによると~、この世界とは全く別の文化を持っているんだよ~」と、カブは自分の緑色な髪もとい粘液を、ヌチャアアッ とったなびかせ、くるくると廻りながら軽快なステップを踏み、その瞳に光を宿し、熱弁した。
「あ~・・・・・・自分の髪の毛の擬音語が、「ヌチャアアッ」とではなく「サラア~ッ」と、に脳内変換されているだろうなこのナルシストが・・・・・・」と、考え呆れたギン。
「テンション低いな!! ギン! アンデ【ゾンビの名】!! 考えてご覧よ!! 雷の魔力のみで機能する都市! 『こんくりーと』と呼ばれる砂利でも石灰でも泥でもない物質! 寿司に天ぷら、万里の長城! 動いているように見える技術を用いる絵の群衆『アニメ』、絵だらけの本『漫画』、『オンミョウジ』と呼ばれる魔術師、あとは・・・・・・」と、長々と演説するカブ。だんだんと話も熱が高まってくる。
「おいおいもういいって、どんだけ話すんだ! カブ!」と、ギンが彼の暴走を止めようと話しかける。
「いやいや話させてもらうよ? とにかく異世界ってファンタジーなんだ!!」と、何度もターンを決め込みながら、弁説するカブ。
ギン「わかったから! お前がこの手の話し好きってことよく知ってるから!!」
「ところでものは相談だけど、ギン・・・・・・」と、カブは冷ややかな目線で、ギンの顔を覗き込む
「なっなんだよ、カブ?」
カブ「君・・・・・・異世界転移者のふり・・・・・・してくれないかな?」
彼らのいる草原に、沈黙が走る。
突き進む風の群衆に、この場の騒音が、奪われた。
「はあっ!?」と、彼の言葉に驚愕し、沈黙が破られた。
「いやいやいや・・・・・・この長期な休みの間、知らない土地で、異世界転移者のふりして旅行してもらいたいって意味だよ? ギン君」と、チッチッと人差し指を振り、ウインクしながら語るカブ。
「いや・・・・・・何言ってんだよ!? 俺生まれも育ちも『マルウェー』だぞ!?」と、反論するギン。ちなみにカブのウインクにドン引きしている。
ギン「それになんで俺なんだよ!? カブがやればいいじゃないか!?」
カブ「いや無理だ・・・・・・。異世界転移者の共通する部分は『人間』・・・・・・彼らの話によると、異世界では知的生命体は人間しかいないらしいんだ・・・・・・信じられないことに。だから君が適任というわけ・・・・・・。」
ギン「いや、頭のスライム剃ればいいじゃないか!」
「いやだめなんだよ・・・・・・。ただでさえなぜかモテないのに、髪の毛まで失ったら、ますます女の子にそっぽ向かれてしまう・・・・・」と、グチャネチャした髪の毛をいじりながら、ため息混じりに答えるカブ。
ギン「いや絶対スキンヘッドにしたらモテるってお前・・・・・・。やだよ、面倒くせえし・・・・・・しかも何で偽らわなきゃいけないんだよ!? 何のメリットが有るんだよ!?」
カブ「知らないのかい? ギン君・・・・・・異世界転移者は女の子にもてるんだよ?」
ギンの神経全てにこれまでにない衝撃が走るのを感じた。大量の熱としびれを含む衝撃が・・・・・・。
「な・・・・・・・・・・・・何だっとっ・・・・・・!?」
「どうだい? 悪い話ではないだろ? 異世界の情報は、この本たちを参考にするがいい、貸すよ?」と、カブは、自分が提げていたカバンの中から、複数の伝記っぽい本を取り出し、ギンに渡した。
「分かった・・・・・ありがとう、親友よ・・・・・・オレやってみる・・・・・・彼女を連れて帰ってくるよ・・・・・・」と、その本らを、鞄に入れ、ダッシュで自分の家に向かって走っていったギン。
すごい勢いで去っていく友人を、眺めるカブとアンデ・・・・・・その時ずっと口をつぐんでいたアンデは、カブに質問した。
「・・・・・・で? 何を企んでいるんだ? スライムヘアー・・・・・・」
「おや? なんでバレたのかな?」と、眉毛を吊り下げ、口角をにやりといやらしく上げたカブ。眉間の間には、濃い影が生まれてる。
「・・・・・・人間が異世界転移者として第2の人生を成功したり、彼に彼女ができたとして、何の得があんたにあるんだ?」と、めんどくさそうに自分の黒い髪の毛をボサボサ掻き、疑問を述べるアンデ。
「いやあね・・・・・・。僕が渡した本らは、この世界出身のファンタジー作家が書いたでっち上げなんだ。・・・・・・本物の情報もあるけどね。・・・・・・でも彼が誤りだらけの情報を基にして、演じあげてたら、ボロが出る。仮に『本物』に出くわしたら爆笑モンさ・・・・・・」と、カブは異世界について語った時のとは、別の熱を込めて話をした。
続けて「ギン君は顔はイケメンで、密かに学校でもモテる方なんだ・・・・・・そのくせ女にモテナイモテナイとほざくムカツクブッリッ!!
そんなやつが、自分の正体がバレることにより、騙された者たちから袋叩きにされたりとか、始業式にボロボロ怪我まみれの格好で通学してくるとこを考えてくるだけで、ボクは背筋がゾクゾクするんですよ!!」と、恍惚そうに語る。
「~てえ、わけで~・・・・・・一緒にギンがどうなってくるのか、密かに覗きに行かないかい?」と、カブはにこやかな笑顔で、アンデを誘う。
「まあ、覗きに行くのは賛成だね・・・・・・彼が異世界転移者という設定なら、この世界にはない物質を持ってるって、他の奴らに思われるだろうな。珍しい物のを欲しがる賊達が、彼を狙いに押し寄せてくるだろう・・・・・・その時ギンに何かあったら、あんたも共犯だろうよ・・・・・・」と、無表情で語るアンデ。
カブがその話を聞いた途端、顔が面白いほど青ざめ、「どっどうしよう・・・・・・とにかくギンを守らないと・・・・・・まさかそこまで考えなかったよ! 賊に狙われて殺されるって、そこまで望むほど僕極悪人じゃないよ!! チョッアンデ!! 力を貸してくれ! 心入れ替えるからあ!! 同じ非モテ連盟の中だろ?」と、焦りに焦りまくったカブは、手を合わせ、アンデに向かって拝み倒して語っていった。
「あっ無理・・・・・これから彼女がいるデートの待合場所に行かねえといけねえから。楽しみにしていた動物園。・・・・・・自分の責任は自分で取れよスライムヘァー・・・・・・」と、最初から無表情を保ったままのアンデは、冷ややかに背を向き、去っていく。
それから彼を呆然と見送ったカブは、数分後澄み切った大空に、ある台詞を叫ぶのであった。
異世界の人達が使い、フレーズの一つにもなってる有名な言葉である。
「リア充爆発しろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
それから舞台となる時間は、『デスブックワーム』の異名をつけられるナナがカンガルーの背に乗り、イイキの名を持つゴブリンと、ギン達が、ギルドの方に向かっていくとこに戻るのである。
ギンがなぜ城に行きたがらなかったというと、マルウエーの住民だからである。しっかり親や家もあり、学校にも通ってるのだから、特例住民票なんて提出しようものなら、すぐ国民名簿で、全部バレるのである。国に。
ぬかるみが激しい荒野から、数キロにある、ヒマラヤ山脈並みの大きさを持つ活火山に向かっていた。
彼らの歩いている土地には、灰・黒・クリームなどの色が点在し合う花崗岩がふんぞり返り、火山灰達が、茶色い植物たちにムチを打つ。
ギンは心の中で、ナナに土下座し、謝りまくっている。詳しいことは彼女に聞いていないのだが、雰囲気を察知するあたり、彼女は望んでこの世界には来てはいない。まいっているナナ相手に、女の子にもてるため演技しているギンは、途方もない罪悪感にかられていた。
「どうしたの? なんか呼吸おかしいわよ? 少し休んでく? ギン君」と、ナナが、振り向き、ギンを心配し語る。
「いやいや大丈夫!! こんなクズの心配するより、自分の足大事にしろって!」と、罪悪感によって荒くなった自分の息を整え、顔を冷や汗まみれにして、言うギン。
「お前・・・・・・そんなネガティブキャラだっけ?」と、イイキは息を乱し、脂汗をタラタラかきながら語る。
「まあでも休まなくても、大丈夫だよ、もう着いた!」と、ナナは、指を指した。
ナナの指した先には、今もなお猛烈に活動している巨大火山の麓の岩壁に隣接している、ボロボロの1階木造建築があった。
ちなみにその廻りには、湯気やら天然のお湯やらが大量に溢れていて、熱気も半端がなくこもっていた。硫黄の匂いも微かにする。
「え!? ここ!!? 大丈夫? この山って、『リザードマウンテン』だよね!? 教科書で習ったけど、この山すっごい危険な活火山じゃないの!?」と、焦りまくり、語るギン。
イイキ「はっ? 教科書」
ギンが、イイキの疑問を聞いたことにより、自分が墓穴を掘る事に気づき「いやいや、この世界の図書館においてある教科書を読んだんだよ!! いやー最近の教科書は、白黒でない絵で描かれるからな~、わかりやすいな~、決して学校から配布されてる教科書じゃないからね!!」と、増した冷汗を拭いながら弁解する。
「大丈夫だよ! この火山は、決して噴火しないから・・・・・・ウチのマスターが熱封印術で、この火山の熱全てを制御してるからね・・・・・・」と、さっきのギンが言った墓穴をスルーして、自慢気に答えるナナ。
「おいおい・・・・・・オレの知る中で、世界最強の火山だぞ!? それを封印するって・・・・・・どんだけやばいやつなんだよ・・・・・・」と、汗がピタリと止まり、背筋が凍りつけるのを感じたギン。
そして三人とカンガルー一匹は、ギルド『炎精霊の巣窟』へと入っていった。
ギルド室内は、まさに蒸気サウナ・・・・・・よくこんなところを、仕事場に選んだな・・・・・・と、口には出してないが、それがギンの率直な感想である。
呼吸するたびに、生ぬるい湯気が入ってきて、肺や胃の中に熱気が帯びてしまう。瞳に水の煙がまとわり付き、ナナの眼鏡が一瞬で曇った。ただ本人はなんてことないような感じで、胸ポケットから取り出した布でそれを拭っている。
それからそのガラスが、湧き出てくる蒸気を弾きだす。魔力が込められた物を使ったのだ。
ギルドの天井付近には、炎魔術『焔丸』と呼ばれる火の玉が浮き、広間全体を赤く照らしているのだが、それでも少し薄暗い。
部屋内情報は、一見大広間。見ただけで安物とわかるくたびれた木のテーブル4つに、そのテーブル1つの周りごとに、椅子5つが乱雑に置かれていた。
床と天井も木製で、壁は土でできている。カウンターも設置されてており、その横長テーブルにある棚は、食器らの収納スペースである。カウンター脇には、蛇口が発見できる。
部屋の奥には、高さ2メートル幅2,5メートルの、暗い洞穴がぽっかり合いていて、一見奥がどこまでどう続いていて、どこに行き着くのかも微塵も想像できない。
そしてその穴から、一人の影がヌッと、現れ出てきた。
「うっうわああああああ!! えっびっくりした!? この人がマスター!?」と、ギンが驚き腰を抜かし叫ぶ。
ナナ「いや違うよ? あの人は アサシ ヨウゾク このギルドの中で、唯一の回復魔術師だよ!」
「そうどす・・・・・・はじめまして、アサシ・・・・・・と申しやす。以後お見知りおきを・・・・・・」と、気品漂った雰囲気をまとって、丁寧にお辞儀するアサシ。
アサシは男で、年齢は20代後半。外見は、髪の毛が薄青色の七三分けで、胡散臭い笑みをいつも保っており、背が高めで、医術師を連想させるように服装は上から下まで白尽くめ。
そして・・・・・・右手に自分の背よりも高い大鎌を・・・・・・持っている。
その大鎌の刃は、極限にまで薄く鋭く、まさしく死神を連想させる形相であった。
ギン「いやいやいや・・・・・・どっちかというとアサシンでは?」
「おや・・・・・・あんさん鋭いどすなあ~、たしかにワテは、こっから海で隔てた隣国の『軍事大国ギリス』の第5代暗殺部隊隊長を、やっといたんどすよ~。でももう無抵抗な人たちを、あの世にお迎えさせる仕事が嫌になり・・・・・・ここ『マルウエー』に亡命したんどす・・・・・・ですから安心してや・・・・・・」と、相手の恐怖心を覗き込んで嘲笑うかのように、口を怪しく曲げるアサシはそう語った。
「いやいや、安心できない!! なんでか安心できない!! ナナちゃん、本当にその人大丈夫なの!? ってかなんで回復魔術師が、大鎌なんて物騒なもの持ってるの!?」と、すごい勢いで、後退りし、震えながら長いツッコミするギン。
ナナ「他のギルドのみんなは・・・・・・?」
アサシ「それなら皆仕事やら遊びやらで、いませんよ? わては今日・・・・・・留守番と面接官やるためここにいるんや・・・・・・」
「あっこれ、依頼達成証書・・・・・・よろしくね・・・・・・!」と、ナナは、アサシに言って、一枚の書類を渡した。
「はいはい分かりました・・・・・・この書類は、ワテが責任持って、預からせていただきます!」と、ナナが提出した書類を、カウンターの机上端にある、茶色い紙製箱の中に置いた。書類入れ場である。
彼は、書類を管理する仕事も請け負っている。
「それよりウチの捻挫、治してくれない? 実は地味に痛くて、まいってんの・・・・・・」と、自分の左足を、アサシに見せつけ、眉毛を釣り上げて言うナナ。
アサシ「わかっとります・・・・・・ところで・・・・・・」
ナナ「えっ何?」
「捻挫を治すには、あの本見ながらやないと分かりませんな~、ほらあれ、あのナナちゃんが前からワテに借りてるあの本・・・・・・返してくれへんとわかりませんな~」と、左手に自分の顎をそえ、これ以上口角が上がらないほど、口角をニンマリとするアサシ。
「・・・・・・くっ、交換条件ってわけね・・・・・・たしかにあの本は2年前に借りてから、返してなかったわ・・・・・・フッ・・・・・・負けた・・・・・・この条件・・・・・・呑みましょう!!」と、とてつもなく蒸し暑い部屋のせいなのか、冷や汗を流したナナは、少し残念そうに苦笑し承諾した。
「イイキさん・・・・・・悪いけど、うちの部屋に行って、ええっと・・・・・・『経口感染する病気全集』という本を、持ってきて!!」と、近くに置いてあった椅子に座りながら語るナナ。
「へいへい・・・・・・」と、イイキは言い、面倒くさそうに、部屋の奥にある洞穴へと入っていった。
「ん? 待てよ? よくよく考えたら・・・・・・いや考えなくても、その本と捻挫ってなんの関係があるの!?」とギンはツッコミを入れる。
「まあそんな小さいこと置いといて、先にあんさん治しましょっか? その顔治さんと、一向にイケメン顔を拝めんやからな~」と、ギンに顔を向けて、影が指しまくっている笑顔を見せつけて言うアサシ。
カンガルーに殴られたギンの顔は、まだ腫れが治っていないのだ。
「ああいやいやいいです・・・・・・生言ってすみませんでした」と、ギン。
一時間前、『武勇伝』を残した複数の山賊を前にしても、なんとか反撃できて、逃げ出せると確証し、ポーカーフェイスを装ったギンであったが、今この場所で、たった一人の回復魔術師を前に、震え上がっていた。何故か 絶対に彼には逆らってはいけない と、ギンの本能が訴えたのである。
まああとで、結局彼に、顔を治してもらったのだが。
「おい!? 何だこの本の数!! 無造作に置きやがって、こんなカオスなタワー群衆の中のどこにお目当ての本があるというんだ!!?」と、洞窟の方から、イイキと思われる声が激しく響いてきた。
ナナたちなどの、ギルドメンバーの小部屋等は、洞窟奥にある。
「机上の一番右側にある、本の塔の一番下の方~!!」と、光が閉ざされてる洞窟に向かって、叫ぶナナ。
さすがは岩窟内・・・・・・イイキとナナから発された音が、あちらこちらに反響してた。
「えっ!? 何言ってんのか聞こえねえええ、もう一度・・・・・・ほんぎゃあああああ!!?」と、イイキが聞き直そうとしたあと、彼の悲鳴が響き渡り、ドサドサという音とともに、洞窟奥から聞こえてくる。
ナナ「えっちょっと大丈夫!?」
「ちょっと、様子見てきます!!」と、洞窟奥に向かい、入っていくギン。
洞窟内は、さっきいた蒸し部屋とは比べ物にならないくらい、肌寒い。
蒸気が出ておらず、カビ臭さはあまり感じなかった。
歩くたびに、微妙に整備されている岩肌の床が、地味にギンの踵に痛みを与えていた。
鍾乳洞である。通路の横すぐに、どこからか流れていた火山灰等で濁った水の溜まっている、段差式に連なった皿みたいな棚田群が見渡せる。
「ヒャアッ!?」
彼の首筋に、岩つららから落ちた水の粒が、滴ったのだ。
玄関に隣接してある部屋とは違い、洞窟奥にある光源は、『永年ホタル』と呼ばれるホタルである。
黄緑色に輝く優しい光を、そのホタル達の臀部から、発していた。数は一見にして十、二十
※永年ホタル・・・・・・自分たちの光源を得るため、一年中光を発するモンスター蛍。魔力を含んだ火山岩や花崗岩を削った水を飲んで、栄養補給する生き物。大きさは、ゲンジボタルとそんなに変わらない。
他に小エビとかも、棚田内に生息している。
「いやっ・・・・・・確かに綺麗だけども・・・・・・! もうちょっとちゃんとした光がほしいよ・・・・・・地面がぬめぬめして滑りやすいし、怖い!!」と、イイキのうめき声に向かって歩くギンは、グチグチ文句を言いながら、暗闇に踊る永年ホタルの光を頼りに、歩み寄っていた。
やがて彼は、複数の岐路にたどりつくのだが、イイキのSOSを聞き逃さず、一番左の方にズンズン進んでいった。このギルド奥は、蟻塚状に通路と部屋が広がっているのだ。
奥に進むと、光が漏れてる木製のドアと、それらを囲んでる土壁を発見し、ギンがそれを開ける。
そこに広がっていた光景は、超過多の本に呑まれたイイキの姿であった。
無残にも、本たちで出来上がった大海に、腕しか現れてないゴブリンは、今にも息を引き取りそうな勢いである。
「あっおい、大丈夫か!?」と、イイキの腕を引っ張り、救出するギン。
余談だが、彼がイイキの姿を見た瞬間、予想通りだなと、思ったのと同時に、考えていた本の数の倍あると、目を丸くした。
「ああすまねえ、助かった・・・・・・」と、一息ついて感謝したゴブリンは、ふと自分のふもとにある2つの本に目を落とし、つづけて「あっ!? この本『木剣使いタタ』の!! しかも同じ巻が2つ!? 1つはオイラに借りて、のちのち汚して読めなくなってから、図書館で見つけちゃった! テヘッ・・・・・・とかなんとかの理由で、2つめを所持してやがる、畜生!!」と、地団駄を踏み、悔しそうに語っていた。
そんな彼をよそ目に、ギンは、ナナの部屋を見渡した。少し彼の鼓動が早くなる。なんたって一応美少女のプライベートルームだから・・・・・・。
まあまず目につくのが、三つもある本棚・・・・・・棚に置いてある本の上に、横の体勢で、別の本が押し込まれ、これでもかと雑に詰め込まれていた。
装飾が控えめな机も設置しており、イイキの言ったとおり、その上には、カオスなタワー群衆と、嫌でも印象づけされる本のピザの斜塔。一部崩れているものの、それでもすごい威圧感を発していた。
その横には、開きっぱなしのノートも置いてある。びっしりとインクで描かれた文字やら美麗レベルのイラストやらを、詰め込ませこんでいる。
女の子らしいとこといえば、あんまりないけど、小柄なベットの枕元に、アザラシのぬいぐるみが置いてあった。
設置してあるクローゼットは、比較的小柄で木製。
光源は、西洋の装飾が施してある吊り下げタイプの行灯で、イイキが先程点けた。床はフローリング、壁には緑と青を基調にしたシンプルな壁紙が貼られていた。残念ながら窓がないので、慣れていないと重々しく感じる。その代わり様々な箇所にある通気口らしき穴から、外の空気が入れ替えてあった。
「お目当ての本は、見つかったのか?」と、視線をイイキに戻すギン。
「おう! あったぞ! これだけど・・・・・・」と、イイキはたかだかと、天井に向けて、本を持ち上げ見せつける。しかしなぜだか思いっきりの笑顔が出せない。
「ああっ・・・・・・これか・・・・・・」と、ギンは苦笑する。
時間はほんの少しだけ進み、ギン達がお目当ての本を持って、ナナたちのいる部屋についた。
「そやそや! これこれっ! これあらへんとあんな難病、こんな珍病、に対して何していいか迷うからな~、ワテは怪我治すの得意やさかい、病気に関してはあんまし自信もてへんのや~」と、ギンから渡された本を、極細の目で、覗き込みながら、歓喜の声を上げるアサシ。
「すみませんけど、水とかあります? 荒野やら蒸気サウナやらで、もう喉からっからっ」と、少しフラフラ気味で、乾いている音を発するギン。
アサシ「おおっ、ええよええよ! あっつい熱湯に、冷た~いお水、どっち飲みたい?」
「いや・・・・・・あの・・・・・・冷たいお水で・・・・・・こんな蒸し風呂、一択しか無いじゃないですか・・・・・・」と、少し目眩を感じているギンは、なんとか返答した。
「ん~、そうやな~・・・・・・、あっついお湯なら、この部屋の水道管から、飲めるけど、水なら洞窟行かな、あらへんでっ。ナナちゃんの部屋の隣りにある岩窟道に、ぎょうさんあるから、たらふく飲み~や」と、自分の大鎌を玄関脇の壁に立て掛けながら、返答するアサシ。
「完全な二度手間!! イイキさんの様子見ようとした瞬間に、聞けばよかった畜生!!」と、限界ギリギリ寸前な状態である喉に、さらなる追い打ちをかけるように大声で貼り叫ぶギン。
ギンは目的地に着くために歩き始めたのだが、とある光景を振り返りながら見ていた、腰を落としたアサシの右手から発する緑色の鮮やかな光が、ナナの患部を優しく包み込む光景を。
数分後。
ギンが、鍾乳洞の壁に取り付けられていた、水道管から出る水を貪って、完全復活の状態に戻り、彼らがいる部屋にたどり着くと、「なんやな~このイラスト・・・・・・鎌を持ったキツネ・・・・・・これわてのこと? すごいわ~リアルやわ~。となりに『アサシンアサシ』の文字とか、マジ的を射ているようやんけ・・・・・・さすが人の本借りて、落書き掻き潰す大物には、ほんま・・・・・・頭が上がりませんわ・・・・・・おおきに・・・・・・」と、『おおきに』とか言ってるのに、全然雰囲気だけ笑ってなく、立ち上がって彼女を見下ろしながら語るアサシと、椅子に座ったまま頭が下がり放しのナナ、テーブルに伏せて、狸寝入りをこくイイキの姿、玄関脇で、尻尾を振りながら眠るカンガルーなどが、彼の瞳に映り、鼓膜に響いた。
彼は、 だろうね・・・・・・ と、思っていた。
ナナは、アサシから借りた本を、事もあろうに余白に落書きやら、メモやらを記載してしまったのだ。イイキが呆れ、ギンが苦笑したのもこれが理由である。
ギンがふと、ナナの左足を見たところ、どうやら捻挫は治療完遂されたらしい。両足をパタパタ軽快に動かしている。
「ちょっと、悪かったわよ、仕方なかったのよ・・・・・・落書きしてしまったのは、その時頭のなかで、 ビビビ と、いろんなインスプレーション湧いた時、書く紙が近くに見当たらなかったから。・・・・・・その・・・・・・代理で、・・・・・・ほんとうにごめん・・・・・・」と、呆れるような言い訳を話すナナ。
「別にワテは、感心してるだけやで? なんで謝ったり、言い訳するんや・・・・・・?」と、白々しく問いかけるアサシ。・・・・・・・・・・・・彼から発している雰囲気は、絶対に笑ってはいない、それどころか怒気などの感情一種すら感じられない。
この絶妙な雰囲気が、ギンやナナ、イイキをより酷い恐怖を与えていた。
アサシ「・・・・・・まあ、ワテは本の件は、別に構いはしないんやけど、どうしてもあんさんが、申し訳ないと言うんなら・・・・・・体で払ってもらうしかあらへんね・・・・・・」
「あっイヤ、それだけは・・・・・・それだけは勘弁して・・・・・・」と、瞳が潤んで、血の気が引き、首を横に振って、拒否するナナ。
「えっうそ・・・・・・!?」と、『体で払ってもらう』というワードに、口元が緩み、鼓動が早くなってしまったギン。破廉恥な願いが、彼の中で生まれていたのだ。
「いやいや痛くしないからさ・・・・・・」というアサシのセリフに、ギンはますます息遣いが荒くなった。
「あとでぜ~んぶ回復するやさかい、なます斬りにして、ええかな? 華奢な女の子の体内に、刃を滑らせるなんて、考えただけで、興奮が止まりませんな~」と、自分の肩を抱いて、体を震わせ、顔を赤らめるアサシ。
その瞬間、ギンの鼓動と笑顔が一時的だが、氷結した。
「だ~め・・・・・・! そんなの犯罪行為そのものじゃない!!」と、表面的に怯えをなくし、自分を鼓舞するかのように少しキレ気味に答えるナナ。
「ちゃんと鎌に、消毒魔術や、止血魔術かけるやさかい、安全安心やすよ? それに斬られたら、そらもう昇天するかのような恍惚さが得られるかもな~? どうです?」
だからだ~め~、そんなわけ無いじゃん! と、ナナはアサシの提案を受け入れなかった。
「そっか~・・・・・・残念やさかい・・・・・・、斬られたいときには言ってくれたら、いつでもええで!」と、しょげたり、立ち直ったりで答えるアサシ。
「そんな機会絶対っねえっ!!」と、机に伏せていたイイキが、顔を上げ、アサシにツッコミを入れる。
ギンは、『人殺したくねえから亡命してきたんじゃないの!?』と、内心でツッコミ。その後さっきのことを思い出した。・・・・・・国の役人の一人が言っていた・・・・・・『炎精霊の巣窟』に所属しているメンバー全員は、いかれている』とかなんとか・・・・・・。
そのとおりだと思った。・・・・・・まさかこれ序の口レベルじゃねえよな・・・・・・という思考にもかられていた。
「ごめんくださ・・・・・・」
寝ているカンガルーの尻尾が、玄関脇で立て掛けている大鎌の柄にあたる。バランスが崩れた大きな刃は、猛烈な位置エネルギーによって、玄関入り口に激しく突き刺さった。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!??」
刃が落ちた方向から、可憐な悲鳴声が聞こえてきてる。
何事かと、アサシは大鎌を引っ張り上げ、室内にいた人たちは、入り口の外側地面に視線を落とす。
そこにはダークエルフの女の娘が、倒れ込み、気絶していた。
※ダークエルフ・・・・・・褐色の肌を持つ、耳が尖った種族(彼女の場合、耳が垂れ下がっているタイプである)。魔術の才が、人間や、ヘアースライムとかに比べて、平均的に高い傾向にある。
ナナたちも、彼女の周りに集まる。
ギン「すっげえっ美人!?」
アサシは、腰をおろし、ダークエルフの女子の頭を、自分の膝に乗せ(要は膝枕)、彼女の柔和な頬に指で触れ、『医療用』の電気魔術を軽く流したのである。
バチバチッ と青白い光が、彼の手に付着し、弾け飛ぶ。
すると、彼女は一瞬だけ身震いし、意識を取り戻したのだ。
「えっ私生きてる!? ここどこ!? なんか目の前で、すごい勢いなナニカが、落ちてきましたけど・・・・・・?」と、慌てふためき、起き上がるエルフの女の子。
ナナ「ここは『炎精霊の巣窟』だけど? 大丈夫?」
「あっそうだ! 私炎精霊の巣窟に、面接を受けに来たんでした! お騒がせして申し訳ございません! もう大丈夫です!!」と、ナナの返答を聞いた彼女は、 ピィン!! と、背筋を正し、垂れ下がってる耳を一瞬上げ、頭を下げて、言った。
「わっわえ・・・・・・しっ失礼しました・・・・・・私は3時の面接の約束で、まひっ・・・・・・参りましたっ!! マーマラ・ダークネス ともうひっ・・・・・・申します!! 今日はよろしくお願いします!!」と、全然舌のろれつが回らない状態で、自己紹介するマーマラ。
マーマラの外見の特徴は、腰まで伸ばした黒色の髪の毛、温かみを持つ青い瞳。
緑の長袖シャツ(フード付きで、胸元にバッテンの形をした縫目がある)、ゆったりと長い茶色のロングスカート。
全体的にとっても地味だが、清潔感が漂っている。手提げのカバンを、両手で気品よく持っていた。
ギンは少し、違和感を感じていた。ギンの偏見によるものだが、『ダークエルフ』という種族は、大半の人物が、露出の多い衣装を好み、鮮やかなアクセサリーを全身に纏っているというイメージがあった。 まあこういうおしとやかさを持ってる女の子も萌えるな とか思う彼である。
「あ~・・・・・・、あんさんが今日の面接希望者かあ~・・・・・・わてはてっきり、ナナちゃんの連れてきた銀髪のお兄さんが、それやと勘違いしとったからな~・・・・・・。まあっ詳しい話は、部屋入ったあとで、ゆっくり聞きましょか・・・・・・」と、立ち上がったアサシは、踵を返し、ナナたちとともに、ギルド室内に向かった。
玄関に一番隣接してある席には、面接官アサシが座っており、真中部分の机を挟んだ状態で、向かいの席には、内定希望者のマーマラが座っていた。
あとなぜか、今回の面接で関係ないナナとイイキ、挙げ句の果てにはギルドの者ですらない、顔が腫れ上がっているギン・・・・・・そして寝そべっているカンガルーが、マーマラ達のいる部屋にいて、当たり前のように、彼らはくつろいでいた。
そんな状態の彼らを、信じられないものでも見るかのように、呆然と眺めるマーマラ。
「そいじゃまあっ、名前もさっき聞いたし、あんさんの長所とか得意なこととか聞きたいな~・・・・・・」と、自分の顎に手を添え、にっこりほほえみながら語るアサシ。
まあ、ほとんど表情は変わってないですが・・・・・・。
「あっはいっ!! 私の長所は、桁外れに持つマリョ・・・・・・あっ!! 申し訳ございませんやってしまいました!!」と、何かを言い続けようとしたマーマラは、何を考えてか、いきなり席を立ち上がり、完全にアガっている状態で、仁王立ちしていた。
その様子を見ていたアサシや、ナナたちは、頭のなかにクエスチョンマークを満たし、首を傾げた。
ただ、その十数秒後・・・・・・何か閃いたイイキは、アサシのもとに向かい、小声で彼と、何か話している。
「あっ!! あ~あ~なるほどな~・・・・・・そうゆことか・・・・・・」と、イイキの助言に、コクコクとうなずき、「では、お座りください・・・・・・」と、手を差し伸べる容量で、自分の手のひらを、マーマラに向けながら、椅子を勧めたアサシ。
「あっっ・・・・・・はい、失礼します!!」と、彼の言葉に反射するように、マーマラは、猛烈な勢いで、椅子に座り直した。
ナナとギンは、彼らのやっていることが、全然理解できないでいる・・・・・・。
「なるほどな~・・・・・・面接官の前で、いきなり椅子に座るなんて、マナー違反やもんな~・・・・・・マメな子や・・・・・・」と、コクコクうなずき、腕を組んだ状態で、嬉しそうに語るアサシ。
でもさっきの彼女の行動は、そのまま椅子に座ったまま返答する者よりも、印象悪くなるな~・・・・・・あがっているせいもあるが・・・・・・応用がきくのが苦手と見える・・・・・・まあっ・・・・・・この面接実は・・・・・・ とかなんとか思考に耽るアサシ。
「まったく・・・・・・本当に大人ですか? アサシ・・・・・・仕方ねえ・・・・・・」と、椅子の一つを、ガリガリっと、引きずりながら語るイイキ。
アサシの座ってる席の隣に、運んできた椅子を設置し、ピョンッと、中腰の状態で椅子に乗ったイイキは、続けて「あんたが不甲斐ねえから、オイラも一緒に面接官やらしてもらう!!・・・・・・・・・・・・このイイキ・・・・・・『圧迫面接の鬼』の通名を持ち、様々な就職希望者を、絶望の淵に叩き起こした伝説を持っているぜ・・・・・・」と、完全悪役顔で、マーマラの顔をにらめつけて語った。
アサシ「ほう・・・・・・イイキさんも参加しなはるんですか・・・・・・これは頼もしい・・・・・・よろしく頼みますどす・・・・・・」
クックックッ とでも笑っているかのようにも見える面接官二人は、禍々しいオーラを放ちながら、マーマラと対峙していた。
彼らは、他の誰が解釈しても、完全に悪ふざけの態度で、面接に臨んでいた。
ナナ「ちょっ・・・・・・あなたたち・・・・・・」
それでマーマラの方はというと、悪意たっぷりある彼らに威圧されて、震えた状態で放心していた・・・・・・いつ泣き出してもおかしくない様子である。
くっくっくっ・・・・・・どうだ? 泣き虫のあんたには、内定なんて取れないんだよ・・・・・・永遠にな!! とか、 お前は魔術もろくに使いこなせないダメダメエルフが・・・・・・ などの幻聴が、マーマラの精神に襲いかかる。 ・・・・・・最早限界寸前。
「あ~も~・・・・・・このドSコンビがあああああああああああああああっ!!!!!!!」と、面接官二人の後ろにナナが迫り、彼女の左手に持った細小杖から発された風の弾丸で、イイキを室外まで吹き飛ばし、恐怖で震えてる右手に持った、雷を纏っているゼンマイ草型大杖で、自分がさっき怯えていたアサシをなんとか殴った。もちろんマーマラに当たらないように。
そしてドSコンビは、気絶した。
マーマラは、一時的に、思考停止していたのだが・・・・・・。
「まったく、あの人たち・・・・・・この面接は形だけ、ウチのギルドは人手が足りないから、ほぼ百%で採用するとか話してあったのに、調子に乗って・・・・・・! 大丈夫? マーマラ・・・・・・ちゃん? さん? とにかくこんな住みづらくて、ろくでもない連中がいるギルドだけど、良かったらよろしくね!」と、そう言ったあとマーマラに、自分の片手を差し出すナナ。
マーマラ「おっ・・・・・・」
ナナ「え?・・・・・・」
「お姉さまって・・・・・・お呼びしてもよろしいでしょうかっ!!?」と、尊敬の眼差しでナナの瞳を眺めながら、両手で彼女と強く握手したマーマラ。
ナナ「はいいいいいいいいいいいいいいいっ・・・・・・!!!!??」
彼女が、後に正式な手続きを経て、このギルドに加入することになった。
読んでくれてありがとうございます。
余談ですが、アサシのノリや言葉が、15禁のような気がします。
これからは、表現に気をつけたいと思います。
何度も再編集して申し訳ございません。 (これからも何か失敗したとこを気づいてやるかもしれません)