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ぐだぐだ異世界冒険譚  作者: 大錦蔵
19/39

空調機完備のダンジョン④

 本当に投稿ペースものすごく遅れて、申し訳ございません。しかも今回すごく話が長いです。

 最近再編集した時期は、2018年3月6日。

 今回の語りナレーターであるオレは、吸線鬼の リウム とかいう者ではない。


 ミャンミー の名を持つ人外の男がいた。

 今から何十年かほど前、この世に通常ならぬ異質な生を受けた。二年後に小学校に通うことになり、そこであらゆる科目を学ぶことになる。(彼の種族の特徴では、寿命が短い代わりに、学習能力と身体成長の速度が、非常に高い)

 人柄も良く、色んな分野に興味を持っていた。

 趣味は料理で、マルウェー料理検定二級を、十七歳で取得。

 腕っ節に自信を持ち、就職のジャンルを得意な調理師ではなく、傭兵を選んだ。

 そしてその職業で、彼は様々な武勇伝を作り上げたのである。

 周りの者達も、彼に対して、尊敬の念や羨望を向けており、皆幸福に暮らしていたんだ。


 まあそのミャンミーとか言う男・・・・・・今な・・・・・・。










 お亡くなりになったよ。私がこのナレーションやってる三日前にな。本当に惜しい男を失ったもんだ。(悔しそうに体を震わすナレーター)

 ナナとかいう人間が掴んで押し付けてきたAED(自動体外式除細動器)の電極パッドが、両方共彼の左胸と右脇に当たり、電気の衝撃を受けた時に、灰になって消滅してしまったんだ。

 

 AEDといえば、人の命を救うために存在する機械のはずなのにな。


 その周りにいる彼を慕っていた者たちが、その時呆然としていてな。気を取り戻した途端にね、慟哭したんだよ、全員。


 まあ事の経緯は、こうです。


 「足軽ライトフットや、蟲熊ワームベァーに、非不死ノンアンデッドとか!? 何よ何の冗談よこれ!!」

 ダンジョン内で、ナナが前方の大群に、戦慄していたんだ。

 前の話の最後ら辺ではな、彼女達の前に、立ちはだかった者たちの種族は二種類であったが、いつの間にか一着の足軽も合流してる。そいつは コソコソ 怪物熊の背後で、非不死の女性に、空洞のフードを近づけ、耳打ちをやっているようだ。



 「くそっ!! 鉄塊は別として、こいつら、たらふくの放射線喰らわしてんのに、全然くたばりやがらねえっ」

 自らの手を、敵勢にかざすリウムは、怒りをぶちまける。

 付法術の応用で、膨大なアルファ線を、相手に向かって掌から放つ。

 必要ないと思うけど、一応断っておく。鉄塊って足軽のことである。



 「ほっほっほっ。三白眼ではないお嬢さんよ。蟲熊というやつは、どんなに数値が高い放射線を被曝しようとも、びくともしないのじゃ。それと、ワシら非不死もな」


 「うっせえ! なんだ三白眼じゃないお嬢さんって!? 変なあだ名付けんじゃねえ!! 死ね!」

 リウムの暴言に対し、ナナは少しドン引きした。


 「フム・・・・・・ッ。さて乱暴者のお嬢さんらよ。悪いが、ワシらは、今から手荒なマネをさせてもらうぞよ。行くぞ!!」

 怪物熊二匹と羽飾りの集団が、侵入者二人めがけて、突進する。


 それに対してナナは、とある言葉の羅列を小声で詠唱しながら、小杖を背後に向け、紫炎に現在進行形で焦がれているゼンマイ型杖を、敵の集団に標準を合わせた。

 「リウム! 付法術エンチャントお願い!」


 「おうっ!」

 彼女が今度、ナナの得物先に、放射能を含んだ魔力を漂わせる。


 ナナの大杖から、炎の弾丸が発射された。しかしただの炎魔術ではない。

 通過後に氷を生む火炎弾。足軽共を、蹴散らした攻撃だ。


 先程耳打ちされた非不死の女が叫ぶ。

 「みんな! あの炎どんどん肥大化するわよ。周りも凍らせる! 余分に距離を取って!!」 


 非不死の連中は、それぞれ頭を屈めるなり、横に跳ぶなり回避する。

 「カンポ。避けろ!」


 「ぐぉおおおっおおおおっおおおおおお」

 非不死の老人が、それを後方側にいる怪物熊に注意した。後にその熊が、敵の炎魔術から避けようとするが。

 しかし激突した。ナナが唱えた呪文の効果の意図は、軌道修正であり、回避した後のカンポの後頭部にめがけたのだその炎は。

 激しい爆音と、なんか骨や氷や鎖が軋むような音の後、煤けた色の煙が、熊の後頭部から燻された。例の熊は、盛大にうつ伏せで倒れた。あの熊の周りには、氷の礫が生まれている。

 そう周り。つまりは非不死の足などが氷漬けになっている。


 「・・・・・・え?」

 その後ナナは驚いた。非不死達は、同種族である仲間の動けなくなった足を、氷ごと櫂で砕いたからだ、同時期に。

 そして・・・・・・。

 「・・・・・・修復している。やっぱり・・・・・・!」

 彼女は顔を悪くし、上のセリフを呟く。そう、砕かれた灰色の足は、粉状に舞い、各々の非不死の傷ついた部分を付着し、何事もなかったかのように、ごく短時間で元の状態に戻ってる。ちなみに彼らからは、血液一滴も存在していない。

 

 「ナナ!! もしかしたら非不死って奴の特性って、自己修復能力か!?」

 そうリウムが呟くと、ナナは急ぐよう首肯する。

 「じゃあっ早く死霊の弱点ウィークネスオブデッドとかの、対死霊系の魔術出してくれよ! 」

 リウムが焦るように頼むと、ナナは持っている双杖に、稲妻を纏わし、

 「無理よ! 非不死は、死霊系じゃないから、死霊の弱点では、全然効かないの!」

 そう叫んで、歯向かって来る非不死達の櫂の閃撃を、大杖でなんとか防ぐ。

 ほとばしる青色の電気を一瞥した非不死達は、一瞬だけ不快な顔をした後、無表情になる。


 リウム「じゃあどうすんだよ!?」


 ナナ「こうするの!」

 彼女は自分の小杖を、先程倒したのとは別の前方側にいる化熊に向けて、術を発動した。被術者であるその化物の体は、十数秒程、虹色に光った。

 その後例の熊から、・・・・・・なんかこう・・・・・・フワフワな雰囲気を纏い始めた。漫画の背景部分にあるという点描写とやらや温かみを意味するようなスクリーントーンみたいな・・・・・・。

 大半の非不死達の瞳が、ついその熊に向けてしまった。


 「・・・・・・可愛い・・・・・・」


 「ああっ、もふりたいわ」


 「今すぐ抱きつきたい・・・・・・!!」


 「何でこんな愛くるしい存在を、今まで俺達は大事にしてこなかったんだ!?」


 櫂を得物にしている彼らは攻めるのを止め、面の部分がクマムシの顔になっているグロテクスな獣に、溢れんばかりの熱い視線を送る。

 化熊は、彼らの様子に気づき、足を止めて気味悪がり、左右を見渡した。


 「誇張愛想プリティーデフォルメ・・・・・・!!」

 大杖を自分の首に当て、細小杖を水平にしたまま、技名を呟くナナ。

 呪術に属する誇張愛想という術に掛けられた獣・獣系化生を、視界に入れた者達は、たとえその者達が本来どんなに冷血であっても、その被術物が可愛く見えて仕方なくなってしまう呪いにあてられてしまうのだ。

 あとヘリックという化けアザラシも、その呪術にかかったことがあるのだが、短時間で解くようナナがその時、術を設定している。


 「お・・・・・・い? 何だこれはナナ! なんかキモい熊が、急にすごく可愛く見えてきたぞ?」

 真っ白い頬を、ピンクに染めて驚くリウム。その様子に少し面食らったナナ。


 「はい解呪!」

 ナナが持っている小さい杖を、リウムの首に当てる。

 「うわっ! やっぱり気持ちわりぃ!」

 呪術を解除することもできるナナ。


 「じゃあ本領発揮行くわよ? 付法術エンチャント頼むねリウム」


 爺の非不死が、困惑している熊の体に、魔術で生んだただの水をかける。

 途端に他の連中の双眸から熱が取れ、正気に戻る。赤みを帯びた顔が冷め始め、瞼が半開きになり、黙ってワームベァーのその異質な顔をしばらく眺めていた。

 その様子に、顔を引きつってしまった丸眼鏡の娘。


 彼女達は知らなかったようだが、蟲熊ワームベァーという種族は、その生き物がどのような状態異常になった場合でも、体に大きさが見合った分の水を触れた場合、即回復する。あとダメージも。

 そうそれは、呪術も含まれるのだ。例えば呪いの秘術に長けた魔王が、何年かけ、渾身込めて最高の呪文を蟲熊に詠唱し、大成功した場合でも、その獣に水をかければ一瞬でおじゃんになるのだ。


 「ここは退くしか・・・・・・」

 ナナがリウムに、顔合わせで合図しながら呟く。


 「・・・・・・一体何の騒ぎですかこれは!?」


 ナナとリウムは、不意に耳に届いた声で、一瞬自分の心臓が爆発したのかと錯誤し、二人同時に激しく後ろに振り向く。

 そこに立っていたのは、西洋甲冑フルタイプの幽鬼ファントム騎士ナイトなんだ。肺も喉も存在していない兜の奥で、驚愕と混乱の感情を含む言葉を吐き出していた。

 やつは今まで、立て札を調達するため外出していて、戻ってきたのだ。


 ナナは後悔した。

 彼女は、化熊の呪術から、自分と護衛対象を解呪するため、その時索敵魔術を使えなかった。そのためあの騎士の存在に気づけなかったのだ。

 いや本来一つの杖だけ解呪に徹しさえすれば、あとの一つの得物で、後ろの敵に感知できたはずなのに。

 つい熊の呪術が、解除した時、焦って二つの杖を、敵の大群に向けてしまった彼女。


 リウムは一粒冷や汗を流し、拳に力を入れる。 

 今になって、放射線の流れの異常を感知した。誇張愛想の影響を受けて、正しい判断がつかなくなってしまったのだ。本当はナナの失態のはずなのに、自身に対して腸の中を沸かしていた。

 


 ナナがとっさに、その幽鬼騎士に向かって、小さい杖を向けた。

 いきなりのことで、二つの腕甲で兜を護る幽鬼。


 ファントムと魔女ウィッチにウ゛ァンパイヤの間に、エアコンから発せられる温風以外の横から突き進む突風と、それにより生まれた鋭い風切音が、ほとばしる。


 そして数秒後・・・・・・騎士の目の前で、二人が倒れ始めた。


 「・・・・・・は?」

 何が何やらわからない騎士。

 奴が振り返ると、背後姿の例の爺さんが、櫂を構えた状態で、静止していた。

 なんか彼の足の裏には、少し柔らかい感触があるのだが、見下ろしても、燭台の灯りが床まで届いてないので、何を踏んだのかは目視できなかった。


 「あの・・・・・・何があったんですか!?」


 爺さんが、今までの状況を説明した。

 後、周知の事実だと思うのだが、二人の娘を倒したのはその老いた非不死。

 他の非不死や、騎士の目にも止まらない速さで疾走し、軽めに得物を振り回したのだ。

 


 ・お化け屋敷に属する者たちは、一息つき会話。床に伏せるナナ達を見下ろしながらで。


 「何なんだ彼女ら? 強盗? お化け屋敷に侵入するなんて前代未聞だぞ」


 「おかしな女の娘らだ。おい見てみろ、杖がまだ全然燃えきってねえぞ。足軽の出す紫炎はこんなにしょぼっかったか?」

 一人の非不死が発した言葉に対して、不服を表すよう じゃらじゃら 体を激しく揺らす足軽衆。


 「・・・・・・沙羅曼蛇サラマンダーとかいう幼女だけが、足軽の術を軽減させる加護の技を持っているらしいんだが・・・・・・」


 「そいじゃっ。この杖二つよこせ。へし折ってやる」

 

 「バカ! やめろっ」


 「なんでだよ?」


 「『館長』ですら、習得してない対紫炎の魔術が施した魔術具だぞ! こんなものすごく貴重なのを、もし台無しにしてみろ! ・・・・・・魔術ヲタクの彼女にばれたら、俺達どんな目に遭うのかわかってるのか・・・・・・!!?」と、本来寿命を迎える以外は、絶対に亡くなることがない非不死の一人が、尋常ではないくらい、恐れおののいた。それで同感と意見を示しわせるように、周りの化物達も、震えが伝染する。

  「足軽! そのゼンマイ杖についてる炎消せ!!」

 一着のライトフットが、逆手に持った杖を、ナナの得物に近づけた。

 特に光も蒸気も何も出ずに、ただ蝋燭ろうそくの火がそよ風で消されるように、静かにその魔炎が鎮まった。


 「よしっ! これで恩が売れる!!」


 「拘束用の紐、楽屋から持ってきます」

 建物奥に一人戻る非不死。 


 「いやあ・・・・・・とにかく無事で済んで・・・・・・あっ!?」

 西洋甲冑の幽鬼が、兜の奥から叫んだ。

 どうした? と問う一人に、奴は

 「客が来てるんでした。私は帰宅するまでの道中に、走って彼女らを追い越したのです。女の娘二人こちらに向かっています。とにかくこの状態をなんとか処理しないと・・・・・・!!」と、慌てふためく。

 ちなみにその時、娘達の背を発見した幽鬼騎士は、すすきの茂みに隠れて、迂回したのだ。


 「客? ・・・・・・また強盗とかじゃないだろうな?」


 「何を言ってるんですか!? せっかくリニューアルしたんですのに!! 本当にレジャーを楽しみにしていた方々なら、このままだと台無しになってしまいますよ!!」

 そう奴は熱弁しながら、数回片足を激しく踏んだ。

 それに対して他は、ある者は軽く引き、ある者は感激したまま震えていた。・・・・・・おれじゃんかよこれ。


 「よしっでは早速ヨロイ(もう一匹目の蟲熊の名)!! 二人を楽屋まで運ぶぞ!!」

 爺さん非不死は、丁重に一人づつ抱え、うつ伏せ状態になるよう二人を、四つん這いになっている蟲熊の背に乗せる。拘束はしていない。

 二つの杖を彼が握っている。ちなみに大杖はもう上先端の渦巻き部分が、灰となっている。

 彼らは急いで、その場から離脱した。


 


 「きゃぁあ~・・・・・・! なんか冷たくない? あっ顔部分だけなんか ムアッ とする」

 そこから間もなく、テンション高めで、楽観的な声が反響されて、ここまで届く。


 「ホラーレジャーで表れる体感温度だけじゃないね。奥見てみな。なぜか氷柱が通路の真ん中にあるぞ」

 先程とは別の声色がにじみ出す。クールな知的さを含んでいるような。


 彼女達とは全く別の娘らが先程、入店してきたのだ。

 セイレナルという名前を持つ人鳥ハーピーと、人蛇ラミアという種族に属するヨルムン二人。

 セイレナルが八行上の呟いた、寒気と熱気についてだが、前文は、ナナの炎魔術で出現した氷塊の影響で、後文は取り外されたエアコンの温風の残りである。 


 ※人鳥・・・・・・ベースは人だが、両腕が鳥の翼になっており、肩やら太ももが羽に覆われ、足も大きめだが、鳥のそれ(マルウェー国出身者基準)


 ※人蛇・・・・・・上半身が人間で、下半身が蛇で構成されている人外。


 「ふふ~ん。ジブットって国の文化をモチーフにしたお化け屋敷ってわけね。さ~て・・・・・・アタシを楽しませてくれるかな?」

 セイレナルは、居丈高にダンジョンを見渡し、威張るように腰に手である羽を添え、呟く。


 「それはほぼほぼ無理ゲーだ。私達は、マルウェーの最恐なる心霊スポットやら、お化け屋敷をあらかた制覇して慣れているからな。ま、お手並み拝見・・・・・・」

 ヨルムンも、高慢そうに返答する。

 どうやらこのお化け屋敷を、彼女らは低レベルだと見くびっているらしい。

 壁の上部分にはめ込んであるラジカセから、例の不気味な音楽が流れ出した。

 岩畳なる床下に、体重圧で作動するカーペット状のセンサーが有り、人や人外が通ってるのを感知した瞬間にそれが、コードで繋いであるラジカセのスイッチを入れるのだ。


 二人が、ナナ達が闘った場所にたどり着いてる時にセイレナルが口を開く。

 「おかしいわ・・・・・・。なによここ。全然仕掛けもタレントもいないじゃない。なによこのしょっぼいBGM」


 ヨルムンも言葉を発そうとした瞬間。

 「・・・・・・う~ら~め~し・・・・・・や~」

 彼女ら前方方面から、呻くよう声を発する者がいた。ただ暗くてよく様子がわからなかった。


 「ふん。 何がうらめしやだ。ベタベタの陳腐文句なんかおよび・・・・・・じゃ・・・・・・」

 そう悪態着いてるヨルムンは、途中言葉をつまらせる。

 言葉を発した相手が壁掛けの燭台近くまで歩み出し、灯りに晒され、全貌が確認できたから。


 「・・・・・・」

 

 そこにいたのは、スケルトン・・・・・・生きる人型骸骨だ。ただそいつは、霜を纏っている。どくろ部分が左下に角度四十五度傾き、足を動かすたびに怪しく体幹が揺れ、それがおどろおどろしさを生み出していた。体中が徹底的にヒビだらけで、虚空を満たすその二つの眼窩には、生半可な人生を歩んだものには到底持つことは出来ないであろう怨念の光を宿していた。そう理不尽を味わい、憤怒に心を満たす時に発せれる光が。

 その光が、凶暴な大虎も容易に絞め殺すことができる人外ヨルムンが怯み、言葉をとぎらせていたのだ。


 「なっなによ? この従業員!? 演技なのこれ!? 迫真すぎるでしょ!?」

 セイレナルが、スケルトンの威圧感に圧倒され、一歩下がる。

 

 「ぅうぁあああああぁぁああぁぁぁあああぁあ」

 後ろに降ろした彼女の鋭い蹴爪を持つ足が、『何か』を踏んだのだ。その『何か』から、娘二人が聞いたこともないような、この世のものとは思えない不気味な声が呻いた。

 「きゃぁぁぁああああああああぁぁぁああああっ!!?」

 しかもセイレナルは裸足で、黄色の鱗を纏った鉤爪みたいな足裏には、なんか腐った肉のような、仲間に忘れられたゾンビのような、生ゴミをパンパンに入れたビニール袋のようなのを連想させるような生々しい感触が、はっきりある。

 ・・・・・・作者な。例えが中世西洋風から逸脱しすぎじゃないのか?


 ヨルムン「おいっ何だ!? セイレナル」


 「踏んだ踏んだ踏んだ!? なんかキモいの踏んだ!! もうイヤっ。行こっ進も?」

 彼女は吸線鬼とかではないので、光が届いてない床付近は、視覚で感知できないでいた。


 「戻らんのかいっ。わっわかった。ちょっちょっと待ってくれ、私の足がもつれて・・・・・・」

 松明の火で青色に輝く鱗を持つ下半身をくねらせて慌てるヨルムン。

 なんとか二人が身を寄せ合い【ガールズラブでは無い】、スケルトンを脇に、恐る恐る通り越す。

 怨念を持つ骸骨は、意識が朦朧としているらしく、彼女らが怯えながら近づいてきても、何の対応も取らず弱々しく仁王立ちしていた。ただし、憎悪の火炎がますます燃える心情を、外部からでも察知できるんだがな。


 「ふっふっふっ・・・・・・いっ・・・・・・いや~、まあまあだね。今回」

 

 「そっ・・・・・・そうだ・・・・・・な?」

 そう虚勢で語り合う二人を前に・・・・・・。

 

 がしゃがしゃしゃりんがしゃんっ!!

 ぐおおぉぉぉおおおおおぉぉぉっ!!

 

 とある化物集団が、娘二人の目前に、各々ムクリと起き上がり、立ち塞がったのな。ある者達は黒く焦げており、又は霜が張り付いている。もう全員が全着プラス一匹、ボロボロの状態である。

 灯りが乏しく、閉塞感のある通路で、面がクマムシのと一緒なグロテクスの獣と、顔が存在しないたくさんのフードの奥が、彼女達を静かに眺めていた。


 「「きゃぁぁあああああああああぁぁぁあぁぁあああああああああああああああああああ!!?」」

 遺跡中に、二人の人外の悲鳴が響き渡った。

 




 場面は、ダンジョン奥・お化け屋敷大広間に切り替わる。

 二人の人外の叫喚が、ここまで反響している中。非不死たちに連れられてる、化熊の背に乗せられたリウム達がいた。

 

 「う・・・・・・んんっ」

 ナナは昏睡状態に陥っていた。


 「つ・・・・・・え」

 どうやら夢を見ているらしい。


 伝えるのが遅いと思うが、まあ作者のせいなんだが、ノンアンデッドの爺さんが、ナナたちに攻撃した時、得物である櫂にとある術を付与しのである。その時彼は撫でるぐらいに弱々しい衝撃を、彼女達に優しく与えただけだったが。そのおかげで彼女達は傷一つついてない。

 『アウトノック』。攻撃した体の部位・威力に関係なく、高確率で対象者を昏睡状態にする。

 非不死が先天的に・・・・・・つまり学習ではなく本能によって使える魔術がそれである。

 本っ当に今更な説明なのだが、本来化生はこの世に生を受けたときから、必ず各々種族によって種類が違う、先天的に会得している魔術があるのだ。

 スマートスィールである化けアザラシは、自らの身体に水を纏い、移動し、

 吸線鬼は、自分の体にある放射線を、外部に的確に放つことができるのだ。


 話を元に戻す。爺さんの魔術で眠っている彼女の夢の内容だが・・・・・・何? 人の夢の中覗き見るのは、プライバシーの侵害? 大丈夫だ。責任は俺じゃなくて、全部作者にあるんだから。彼女が怒ろうが、訴えようが、不利益全部作者に背負ってもらうさ。


 ナナの頭の中の光景・・・・・・。

 思い出された何年か前のゲルタベ町。外では降雪が適度にあり、大道真ん中には馬車が行き交い、街路樹の緑には、冷たい白粉が塗られていた。


 ナナが、自分のおさげ三つ編みを揺らし、一つの大きめな本を行儀よく持ちながら、行儀悪く町中を歩いている。

 しかしいつもの彼女の姿ではない。背は前より少し低く、鮮やかな髪の色も赤茶ではなく、日本人スタンダードの艶やかな黒である。掛けてある眼鏡の種類も度も違う。まあ大きめな丸メガネだが。服装はローブではなく、コートとかマフラーなどを着用。

 

 「ナナちゃん。歩きながら本を読むのを止めて。何度も何度も言ってるんだけど?」

 ナナの隣を歩いている幼女が、保護者面ヅラで、彼女を注意する。

 いつもの彼女であれば、いつも背筋真っ直ぐで、元気で明るい印象があるのだが、その当時ではいつもうつむき、暗めでおとなしすぎていた。

 ちなみに背の高さでは、ナナちゃんは謎の幼女より、だいぶ高く、はたからの感じではどうしても、やっぱりナナのほうがお姉さんに見える。

 


 「・・・・・・」

 ナナは無言で返したが、おとなしくその本を脇に抱えた。ただ注意した幼女の方ではなく、前方の・・・・・・地面付近を見下ろしている。


 「あと背筋も少し曲がってる」


 「・・・・・・」

 ナナは何か話そうと、口を開こうとするも、何も声を出さずに背を伸ばそうとする。姿勢を直した彼女の歩き方は、なんだか少しぎこちなかったが。相変わらず幼女に顔を向けない。


 謎の幼女が、ナナの持っている本の表紙に、目を配った。魔術に関しての本であった。


 「・・・・・・ナナちゃん、魔術どうしても習いたいの?」


 「・・・・・・」

 謎の幼女の問いかけに、しっかり聞こえているが無反応を決め込むナナ。表面的には穏やか。


 「・・・・・・わかった。フレイアは折れるよ。正当防衛にも必要だしね」


 「・・・・・・っ!?」

 幼女のその発言に、少し間を置いて驚くナナ。やっと、謎の幼女・・・・・・と、顔をやっと合わせたのである。


 「ただし、悪い事や危ない事するようなら、もう金輪際魔術を教えないし、フレイアさせてやんないから!!」

 そうナナにきつく睨みつけ言いつけた謎の幼女であった。


 ナナは「嬉しい。ありがとうございます。 やりましたよ!!」と、やっとこの回想出始めて口を開き、跳ねて飛んで喜んでいた。キャラぶれてるぞ。


 「・・・・・・はっ!!」

 一瞬で自分が何をやっているのか気づき、首を激しく振って、周りを見渡し、動くのを止めた。


 「何かに熱中したり、喜んだ時、自分を見失う癖を、治そうとしているでしょ?」

 高圧的にナナを見上げてフレイ・・・・・・謎の少女は口にし、クールさを失わない程度で軽く微笑む。

 それに対して冬なのに汗だくになり、顔を真赤にしたナナであった。


 「ナナは初心者だから杖あったほうが良いのよね? この近くの安・・・・・・良い魔術具売店に連れてくね」

 

 数分後。

 彼女達がたどり着いた場所は、屋根はレンガ敷きで、木造建築の店前であった。

 

 謎の少女は両手でそれの戸を押し、連れとともに入室。そこには左真ん中奥には、カウンターと、店長一人がいて、部屋の左右には数多な綺羅きらびやかor禍々しいor地味orシュール的な魔導書やらガラスビンやら杖やらの品物が、棚にのせたり、立て掛けたりして陳列している。


 「いらっしゃい!」

 カウンターの向こう側にいる店長が、彼女達に挨拶をした。

 そしてその店長実は・・・・・・今回の語り手、オレのことであった。

 『その時』の俺の外見は、メタボ体型な人間で、黄色い髪の毛に、チョビ髭である。

 

 ナナは、おとなしげに左右老いてある商品を見渡していた。ただ興奮して喜んでいることは、微かにそん時わかったがな。

 「おう、嬢ちゃんか。久しぶりに殺し合いでもしねえか」

 オレが何気なくいつものフレーズを、謎の女に提案した。その言葉に、ナナは心底何が何やら驚愕し、顔を青ざめ、震えて幼女の後ろに隠れたのだ。

 まあ盾にした女の娘は小さいから、自分の体を隠しきれてないし、あんまり意味ないけどな。


 「しない。杖を買いに来た。このにおすすめなの・・・・・・ない?」

 謎の幼女は、オレの殺意ある言葉に、威風堂々いなし、用件を事務的に口にする。


 「はいよ。そいじゃあこれなんかどうだい?」

 おれは、自分の後ろに立てかけてある商品を持ち出し、彼女達に見せて勧めた。

 それは、上部分が大きな黒色の紫水晶をはめ込んであり、高さ・幅・シルエットは、まんま回想前のナナが使っていたゼンマイ草型の杖と同じような杖である。木材の色はこげ茶色。


 「それ高そ・・・・・・良さそうだね。詳しい情報は?」

 そう幼女は、尋ねてくる。ナナの方も怯えをなくし、相変わらずの無言っぷりだが、自らがにやけてることに気づき、頭を下げて表情をさとられないよう努めているとこを見ると、気に入っている様子である。 


 「ああっ放射線を・・・・・・」


 「却下」

 オレが懇切丁寧に教えようとした時に、謎の少女は突然拒否を示した。


 「ん? 何でだ? ただこれが放射線を放出・・・・・・」


 「・・・・・・却下」


 「ああわかった」

 府に落つことのないような納得の仕方をしたオレの返答に、ナナは少し残念そうに、面をうつむかせたままでいた。


 「まあ気楽に店のもん見渡しな。勧めた杖なんかただの一例さ。意外な掘り出し物があるかもしれんからな」


 ナナは迷うことなく、店の左側に立てかけてあった例のゼンマイ草型杖まで歩み、柄部分を掴んだ。他のと見比べてかなり地味で、無骨。

 その時の彼女は、頬を赤らめ、口元を緩めていた。


 「それでいいんか? まあ長所は平均のと比べて丈夫なところと、安いところさ。かなりな」

 オレの安いという言葉に、幼女の口元も緩めてきたのだが、一瞬で引き締まり、ナナに話しかける。


 「いいのそれで? 他にも鮮やかな水晶をはめ込んだのとか、美飾のとかもあるけど・・・・・・」

 その幼女に対して、ナナは軽く頷いた。


 「まさかギルド建設のために、フレイアの懐を気遣って、安いの選んでいるとか?」そう真摯に詰問する幼女であるも、首を横に振るナナ。


 「じゃあなんで?」

 謎の幼女は、彼女の瞳をじっと見つめて尋ねる。数秒後、ナナは参ったのか、やっと口を開いた。


 「・・・・・・好きな漫画のキャラクターが・・・・・・使っている・・・・・・のと似てたから・・・・・・」


 ナナの選んだ理由に、吐息一つの幼女。


 「じゃあこれで。似合わないと思うけどリボンのラッピングお願いね」

 そう注文した幼女であった。オレはその時それを承諾。


 オレはラッピング中に、幼女に尋ねる。

 「どうだ? 一回くらい戦わねえか? 俺に勝てたら半額にしてや・・・・・・」


 二秒後、煤まみれでオレは倒れ伏していた。幼女は、店内の全てを一瞬だけ火だるまにしたのだ。ナナはいきなり視界が赤やオレンジに染まったので放心状態。だがどこも火傷はしておらず、店主以外は何もダメージを受けてなかった。


 「これで半額ね。もうあなた好戦的な性格なんとかしないの? そのままじゃ、死んだ後魂が鎖帷子に入っちゃうよ?」と、説教を一つの幼女。


 「足軽ライトフットのことか・・・・・・。スカイエルフ神道の教えだな。闘争に陶酔した奴は死んだ後、アンレンス神に、他の生物を絶対に傷つけることができなくなってしまう足軽に変えられてしまうらしいが、オレは不信心だからな」弱々しく立ち上がりながら、黒煙を吐いて返答するオレ。


 リボンを結んだ杖を、オレはまだ呆然気味なナナに渡した。


 「ありがとうございました~」

 オレは、勘定を払って背を向け出口に去る彼女にお辞儀をして、挨拶した。


 彼女らの外での会話。


 「・・・・・・ありがとう」


 「いいの。それよりあなたの世界には、クリスマスというのがあるね。クリスマスプレゼントになるの?」

 マルウェーには、キリスト教が存在してなかった。クリスマスなどの知識や信仰は、まんまとある異世界出身者からの影響である。


 「・・・・・・」

 ナナは今日二日だけど、まあ良いかと、微笑み。杖を軽く抱きしめた。心が火照っている。

 

 「あっそうだ。フレイア、あらゆる炎に強くする術、その杖にかけてあげる。あと後で哀れ道化師にも、とある魔術付与強要させるから」

 謎の幼女が、穏やかな緑色の炎を出現させ、ナナのプレゼント品を優しく緩やかに包み込む。万一にも火傷をすることのない人体無害の魔術。

 異能を発動している途中で、幼女は自分の財布の中身を少しの間厳しい表情で覗いた後、無表情で申し訳無さを含むよう呟いた。

 「・・・・・・いらなくて汚れてない本ある? ナナちゃん。生活費が・・・・・・」


 その瞬間に回想が終わった。ナナの目が覚めたのだ。・・・・・・いや全然謎の幼女でないだろフレイア!!?

 「・・・・・・本!!」そう呟く。大切に扱えないくせに、読書欲は人一二倍強い彼女は、大切なたからを売られてしまう恐怖を受けた。

 それで生まれたストレスが、受けた非不死の術すら弱体化させたのだ。

 気づくと彼女の頬や胸腹や膝に、モフモフとした獣の毛が感じ取れる。

 蟲熊の毛が。


 自分と、護衛対象リウムがたった今、敵地の奥へと連れられているのを思い出した。

 今は広間にいるらしい。

 すぐに行動に移さないでいたナナ。

 彼女は周りの状況を見渡す。どうやら非不死や足軽達は、彼女たちの前方を進んでいて、自身は後ろら辺にいると・・・・・・。そして二つの杖は、熊に背を向けて歩いている老人が持っていた。自分たちの後方には、人影一人見当たらないが、とある機器を入れた箱みたいなのが、広間入口付近・燭台脇に、一つ置かれていた。実はその物体は、各点々とこの設備に配置されている。

 あと甲冑タイプの幽鬼騎士は、道行く途中で、客たちの待ち伏せゆえ、集団から外れてる。

 


 ナナは疑問に感じた。なぜか彼女の得物が、今炎に包まれてなかった。戦場のセオリーどうりなら、敵の魔術師の杖は壊すか・・・・・・又は術者から距離を置いて隠すのが一番なのに。

 そしてナナはすぐには行動を起こさなかった。

 顔を熊の毛に埋めて微弱な声で何かを呟く。


 「・・・・・・光の精よ・・・・・・杖の魔よ・・・・・・汝らに頼み乞う。遥か異界にある神器を模して、我を助けよ・・・・・・!!」


 「『模円刃杖チャクラムステッ・・・・・・』」


 「娘さん。さっき『本!!』とか呟きませんでしたかな?」

 杖を背に隠しながら、櫂でナナを攻撃しようとする爺さん。一瞬で彼女の呪文に聞きつけ、一瞬で体の向きを変え、軽く飛翔し、突っ込んできた。


 だが、大杖は天に向かって、それを掴んでいる老人の腕を引っ張り上げた。彼はごく短時間、空中に漂う形になった。彼女の得物は、上・下先端が光り、激しく回転した。それにより爺さんの腕が崩壊し、粉になって舞う。

 老人は、急に天井まで引っ張り上げられ、一瞬で自分が持っていた物に体を弾かれたため、尻餅をついてしまった。すかさずその杖が、体制を崩した彼を上半身全て灰に変えた。

 それと同時に、ナナはダメ元で、得物なしの素手で、リウムにかかった昏睡を解呪しようとする。

 それに対して彼女は「う~ん。お母ちゃん。後二分だけ・・・・・・」と、寝言を呟いていた。

 ナナは杖なしで、解呪を成功した試しが今までで一度もなかったのだ。


 異変に気づき、振り返る軍団。だがもう遅い。大男も蹴散らすその武器は、非不死達を大量のグレーの粉に変え、地上にいる足軽たちに回避させた。(全着身のこなしが、非常に軽い)


 ナナは数秒ほど二種類の空想に耽った。一つは、リウムの寝言聞いたこと、彼女にバレたら殺される。・・・・・・本当に二人は、知り合って一日も立たない間の仲だが、ナナはリウムの逆鱗をなんとなく察知していた。

 そしてもう一つ・・・・・・今自分が乗っているのが敵で、化熊だってこと。


 「ぐおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおぉぉおおおぁあああぁぁあああああぁぁあああああああぁぁあああっ!」

 立っては伏せ、立っては伏せで、なんとか後ろにしがみつく娘を振り落とそうとする熊。

 その時リウムは落下して、壁に頭をぶつける。


 ゴワゴワな毛を掴んでいる彼女は、今上半身が粉になっている爺さんから、魔術で小杖を浮かせて、手元までなんとか取り寄せた。


 まさしくロデオの状態の彼女だが、熊が屈んでいる状態を見計らって、腰を床に近づけるよう捻り、リウムに小さい杖を当てて、解呪した。


 粉末状になった非不死の体は、修復するまで壊れた部分は動かせない。ゆえに足軽と蟲熊意外が怯んでいた。しかし今まさに数秒で全快し終えている彼らであったが・・・・・・。

 ただ大杖は、ブーメランみたいに術者の方に戻って突進する。

 その時にまた灰が、広間の空間に広がった・・・・・・。

 ナナは小杖で、回転する得物を操り、たった今自分がまたがって暴れまくる熊の顔面にぶつけた。

 その熊は、仰向けで倒れたが、彼女は押しつぶされる前に、なんとか横に跳び降り、事なきを得てる。

 事なきを得てる? 地上にいる足軽達が距離を保ちながら、紫炎をまるで雨のごとく連射しているし、 爺さんの体ももう治りかけてる。


 ナナは空を舞う大杖をキャッチして、小杖と共に非不死の老人の胸当てを着けた部分に、程々の電圧と電流を持つ雷魔術を食らわせたのだ。爺さんはまだ動くには、後一秒ほど必要で、彼女の攻撃を受けさざるを得なかった。


 紫炎はもう双杖に何度もぶつかってる。ヤケになっているのか。

 敵の炎は、徐々にそして確実に彼女の得物を焦がしていた。

 

 「・・・・・・何で戦闘不能にならないのよ!?」

 ナナは、死んで動かなくなることも、まして実は気絶も睡眠もダメージ・疲労も存在しない非不死に対して、倒れないことに焦りを含む驚愕を表した。


 「ほっほっほっ・・・・・・なんでかの?」

 口も喉も完全に修復した爺さんは、笑って答える。ナナは彼の胸当てを睨みつけて、

 「・・・・・・これゴム製じゃないの!? 隅にカタカナでゴムって書かれてある!!」と、気づき叫んだ。


 今舞台となっているこの世界には、本来ゴムや、プラスチックなんかは、存在していなかった。・・・・・・今更なっ。この遺跡、エアコンやら、ラジカセなどあるから。


 「ふぐ・・・・・・!?」

 余裕を持った爺さんが、いきなり自分の胸を大きな掌で押さえつけ、倒れ伏した後、痙攣し始めた。それは演技ではなく。


 「え? ゴムなのに、電気が通った・・・・・・?」

 それにも驚きを隠せないでいたナナを尻目に、

 「『γ光線付法術レイガンマエンチャント

 リウムが、ナナの二つの杖に向かって、光を漂う手をかざした。


 「リウム!!」

 そうリウムも起き上がったのだ。さっきの小杖の解呪が効いたわけだな。なんかそいつの額ら辺に、赤い液体が微かに流れているんだが。

 

 「ガンマ線単体に当てられた魔力の雷は、物体の電気抵抗率が高ければ、その分通りやすくなり、逆に低ければ通りにくくなる・・・・・・ナナ! 水くせぇ。俺も闘わせろ!!」


 手を休まず紫炎を飛ばしている地上にいる足軽に対して、ナナは倒れた爺さんの櫂を拾い上げ、それで大杖と小杖を手前にするよう重ねた。

 やむをえず、攻撃を止める足軽達。仲間の得物を破壊することにためらったのだ。


 「ナナ! 何であのジジイは倒れたんだ? 雷が弱点か!?」

 そのリウムの疑問に、ナナではなく、一人の若人非不死が答える。爺さん以外の非不死はもう全員治っていたのだ。

 「非不死ノンアンデットでは他の生物と完全に違い、死んでいることこそが動く条件。弱点は程よい微弱の電気や蘇生術。つまりはそれにより心臓が動いて、灰の血液が体中駆け巡り、体が生存状態に変わってしまえば、全ての筋肉が弛緩し行動不能になり、魔術が使えなくなる。・・・・・・・そして」


 ドッ という音が、かすかに響く。その若人は、持っていた櫂の下先端に付いてる尖った釘で、仲間である老人の胸を串刺しにしたのだ。

 他の非不死達も全員、ためらうことなく例の爺さんを、持っていた得物で、喉やら腹などの急所を突き刺す。


 リウムがその異様な光景に、汗を一粒頬に流し、微かに開いた口をその時閉じようとはしなかった。いやあまりの突飛な彼らの行動に、開いていることすら気づけ無い。


 突き刺された部分から、灰がいきよいよく吹き出した。それから痙攣をしなくなった爺さんは、自分の体至る所に風穴を開かせたまま起き上がり、余裕の笑顔を、彼女達に見せつけたのだ。


  「死ねば蘇る。何度でも」と、老人。

 

 そしてその口で、何かを言う瞬間に・・・・・・ ドサドサッ 爺さんの周りにいた非不死達一人残らず床に体を預ける。先程の爺さんと同じような体の震えを表して。


 「はえっ!!?」何のことかわからないでいる爺さん。


 「『潜在雷ヒドゥンボルト・・・・・・」』

 ナナは、敵前で、自分が使った魔術名を口にする。

 その術は彼女が前、スライムヘァー達と闘った時に、仲間のゴブリンにかけた魔術なのだ。

 対象のものに、電気を帯びさせる魔術。その術にかけられたものにはダメージがなくとも、それに近づいたものに、被術者から電流が流れてダメージを与える。

 

 「お嬢さん・・・・・・これは一体・・・・・・?」


 「あなたはさっき自分の胸当てに、同時に二つの杖を押し付けられましたよね?」


 「・・・・・・まさか!!」

 彼は目をこれほどなく見開き、かすかに震わした声を発する。


 「そう・・・・・・大杖からには何の変哲もない雷の魔術を、そして小杖こそが『潜在雷』を放出させたの」

 それにより、さっき爺さんを治療するため殺した非不死達が、彼から微弱な電流を、集団の得物である各々の櫂が電気の通り道になって、攻撃を受けてしまった。 

 それぞれの心臓が電気衝撃で動き始め、爺さん以外のが行動不能になってしまったのだ。


 「して・・・・・・やられたの・・・・・・」


 ナナは、足軽の術が張り付いてある双杖を、爺さんの櫂ごと電気を纏わせ・・・・・・れない。糸くずほどの電気しか、空中に舞わなくなり、格段に低威力になってしまったのだ。


 「ええっ!?」


 「・・・・・・嬢ちゃん達の方がな」と、口角をかすかに曲げて呟く爺さん。その後天井を仰ぐしぐさを、ナナ達に見せつける。

 釣られてリウムも上を向いた。ナナは老人から目をそらさない。


 「あっあの鎖共!!?」

 リウムの瞳に映ったのは、天井に、吸着の魔術で体を張り付いて、彼女達を見下ろす足軽たちだった。

 ある者達の方では、天井や壁上部分いっぱいに、逆手に持ってる小杖の先端から生活用魔術でインクを使って、小さいのから大きいのまで引くくらいの沢山の魔法陣を書きまくり、俺達の方ではナナの得物に、小杖を向けている。


 「・・・・・・あれ解呪妨害やら、雷弱体化の魔法陣じゃないの!?」

 ナナはリウムの叫びに、大杖の探知魔術で、敵やインクの系列を感知した。

 俺達の攻撃で、紫炎が床に向かって乱射され、彼女達の二つの杖を、爺さんの櫂にあたることなくぶつけまくる。


 「・・・・・・やめて・・・・・・っ!!」

 ナナは顔を引きつらせ、丸メガネの奥の瞳に熱い水を流し、悲しみを口に表した。大切な家族と称してもいい幼女が自分に買ってくれたかけがえのないプレゼントだからだ。

 そしてすぐに大杖の方を、探知魔術から、水魔術に切り替え、大きな水弾を放ち、足軽オレたちに突進する。しかしそれでも紫炎はすり抜けるし、インクは霞むこともない。足軽オレ達は、難なく吸着魔術を解き、降りるよう避けた。

 爺さんは、倒れた仲間の櫂を拾おうとする。しかしナナがその瞬間つまんだ小杖から、辺り一面視界を白に変える光を照らす。それは閃光弾。


 「リウム!! 付法術エンチャント!!」

 目を瞑り、左腕に顔を覆いながらも、彼女の意見に沿うよう、もう片方の腕を、部屋いっぱいに満ちる光に向けたリウム。


 足軽オレ達はともかく、放射線にさらされた光を、浴びたナナも爺さんも、そして術者本人も体がふらつく。三半規管を狂わせる効果が付け加えられたのだ。


 「ううっ・・・・・・気分悪い。で・・・・・・も」

 吐き気がこみ上げているナナは、それでも火傷しない紫の炎に包まれた大杖を、三本目の足にして、大部屋入口付近に歩み寄った。つまりは後退。


 「お・・・・・・嬢ちゃん。仲間を置いて逃げるのかい?」

 落ちてる仲間の櫂を、千鳥足で拾い上げた爺さんは、そう呟きながら、リウムに得物を振り上げようとする。

 しかし・・・・・・。

 泥の砲弾が、爺さんの上げた腕に突撃し、彼の姿勢をぐらつかせ、リウムが無事に済む。

 「護衛仲間見捨てるわけ無いでしょ・・・・・・!」

 そう彼女は、小杖を爺さんに向けたまま真摯に言う。彼から距離をなんとか取るリウム。


 爺さんが、軽く真上に跳び、得物の下先端を、周りの非不死達全員に閃撃する。たった数秒で。

 まさしくかまいたち。まだ酔いが残る状態で、鮮やかに同族を皆殺しにした。鋭い剣圧と大きな風切音が、部屋中に満たす。一流の剣豪すらも彼のオールさばきには、目をみはるほどであろう。

 次々と立ち上がる化生共。


 ナナはまたも閃光攻撃を、大杖から発出させる。リウムも阿吽の呼吸と、発光源に手をかざした。

 全員が全員(足軽オレ達は除く)視界がぐらつき、嗚咽して、体を揺らす。


 「に・・・・・・逃げるの。リウム・・・・・・」

 そのナナの言葉に、リウムも撤退を開始した。

 フラフラ の足で、出口まで向かう二人。


 「に・・・・・・逃さんぞ。嬢ちゃん達」


 とある人工物付近になんとかたどり着いたナナ達。

 非不死達は、酔いも軽くなったのか、小走りで彼女達の方まで接近してくる。


 ナナは小杖を自分の敵に向けた。三度の閃光のため。


 「く・・・・・・!」しかし足軽オレ達もただ傍観してたわけじゃない。周囲に対しての光弱体化の魔法陣を、片っ端から部屋の奥で書き上げている。そう彼女の杖から出たのは、ほんの少しの灯り。ひるませるには程遠い。


 「リウム・・・・・・逃げて!! ・・・・・・ウチが殿しんがりになる!!」

 その言葉に、一瞬だけ呆けるリウムは、「はあっ!?」と、叫ぶ。


 「・・・・・・敵の実力を見誤っていた。あなただけでも・・・・・・退いて・・・・・・!」


 「ふざけるな! ふざけるな! 置いていけるか!!」


 リウムの怒号をよそに、ナナは持っていた全ての杖と櫂を床に落として、近くにある機器・・・・・・金属の箱からAED取り出した。

 その箱に取り付けられている警報が鳴る。

 ナナはその機器を持ち上げ、電源スイッチを押し、それらを貼る場所のイラストが書かれた二つの薄い人工物を引っ張り上げ、発せられる合成音声のガイドに従い、爺さんに取り付けた。

 もう自棄やけになっているだろう、彼女はAEDの除細動による電撃を利用して爺さんを倒すつもりだろうが、それ一回だけでも、かなり手間と時間がかかるはずだぞ。

 爺さんもされるがままでない。得物をナナの肩に打ち据えたのである。今度は手加減などなく激しく。

 腕っ節に自信がある爺さんの、渾身の一撃。


 しかし・・・・・・。


 「・・・・・・痛くない?」

  ナナに先程受けたダメージがなかった。全く。化熊を吹き飛ばすほどの威力を秘めた攻撃を、特に体を鍛えたわけでもない人間である彼女が防御魔術も使用せず、平気で立っていること対し、老人は驚愕のあまり、放心状態になる。

 周りの集団も、訳が分からず、つい足を止めてしまった。

 何かを思い出したナナ。確か遺跡に入る前、トロールが畑を耕している付近を歩いてる時のこと、ここ最近、時々あらゆるものを、傷つけることができなくなるという現象の話を、リウムと話したのである。

 

 「・・・・・・まさか今?」

 

 ナナが電源とは別のボタンを押した。

 爺さんが、その二つの本体をコードに繋いである電極パッドを、自分の体から引き離そうとするも、もう機械は、彼の感じることのない心電図を解析した後だった、・・・・・・電流が流れる。


 その瞬間。爺さんは、何故か一瞬で体全体が灰になり宙に拡散され、もう元に戻ることはなかった。

 電極パッドと、爺さんが着ていた着衣はゆらゆら舞い降りる。


 しばらくの間、沈黙が走る。自己修復しない爺さんに、異常を感じた仲間の一人が、故人の名を叫ぶ。

 


 「ミャ・・・・・・ミャンミィイさァァああああああぁあああああああああああんっ!!!?」


 

 こうして、前頭の場面に至るのである。

 広間の天井に設置された暗視機能付きの防犯カメラが俯瞰するよう、呆ける足軽オレ達を一人残らず、一挙一動全て映していた。

 

 


 


 

 

 

 

 

 


 


 

 


 


 


 

 


 


 

 


 


 

 


 

 

 

 ちなみにマルウェーやギリス出身者には、蘇生の魔術を使えるのが、一人もいません。

 宮沢賢治の童話『蜘蛛となめくじと狸(著作権保護期間過ぎてます)』の一部を参考にしました。

 次投稿は早めに出す予定です。

 読んで下さりありがとうございました。

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