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ぐだぐだ異世界冒険譚  作者: 大錦蔵
18/39

空調機完備のダンジョン③

よろしくお願いします。

 最近再編集した時期は9月30日です。

 「眩しいな中・・・・・・」

 外で降り注ぐ黒の陽光を背に向けて、まばゆいオレンジに輝くダンジョン中、俺達は廊下の奥へと進んでいた。


 「眩しい・・・・・・?」

 人間(ナナ姐)には暗く感じとるとかな? 遺跡内は。光のみに関しては、太陽光と、両壁に組み込まれ、少なく配置されてあるしみったれた燭台の貧しい火しかここにはない。


 俺は興奮してんだ今。・・・・・・読みたかった本の最初のページを開けるナナ姐みたいにさ。このダンジョン内以外で、俺は産まれたときからこのオレンジ色の光を感じたことはない。ミントとバニラを合わせたみたいな芳ばしいガンマ線の匂いが漂っていたりもする。

 吸線鬼(俺)と人間(ナナ姐)がともに共感できるダンジョン内の特徴描写だがな、外は季節が冬よりの秋なんで、少し肌寒く感じるんだが、奥では気味が悪いほど心地よく温い。カビ臭さは全く無い。

 地面には瓦礫が散乱している・・・・・・ただし、それらに角ばったものは何一つなくて、通行のじゃまになんて微塵もなってない。まるで計算してわざと人為的にばらまいた、そんなような感じだった・・・・・・。

 横に目を配ると、黒壁が土台の壁画が確認できる。・・・・・・遺跡というかダンジョンというか、らしいとこがやっと出たな。

 その画の内容だが、ピラミッド壁画風とか言うの? 横向きに描かれたキャラクター達に、宙に浮くよう描写されてる錫杖・カラフルな水差し・いろんな動植物などだよ。

 ただナナ姐には、置かれた火どもに照らされる、一端の絵にし確認できないだろうな。

 そして・・・・・・天井には、四角の形をした『エアコン』なるものが、はめ込まれている・・・・・・複数に・・・・・・あらゆるとこで。


 俺「なあ・・・・・・エアコンとかいうやつは、異界のもんだろ? 何で廃退してる遺跡にあるんだよ? 」


 「そんなことウチに聞かれてもわからないよ~? ここ謎が多すぎる! 何でプラスチックが存在してない世界でエアコンがあるのか、電気はどこに引かれているとか、他に・・・・・・も、ここに来るまでの道がなぜ整備されてるとか、リウムさんが言う、この内部では・・・・・・放射能・・・・・・が・・・・・・」

 ナナ姐は俺の質問に返しているのだが、途中で静かに、そして緩やかにその顔を青ざめる。何かに気づいたのだ。


 「ここの放射能度・・・・・・どれくらいなの?」

 そう彼女は、人間にとって感じ取れない存在に怯えていたのだ。

 ちなみにナナ姐は、放射線の恐ろしさについての知識は備えている。


 「安心しろ、そんなに濃くない。人間にとっては、ちょっと血液中の白血球が減ったりするだけの・・・・・・」


 「それが嫌なんじゃない!!」


 「冗談だ。本当に人体に害がないほどの量だ。それに・・・・・・俺がいる。俺吸線鬼のそばにいる限り、そんな心配いらないぜ」


 なぜなの? と不安がる彼女に俺は、

 「ラジエーシャンウ゛ァンパイヤはな、息するだけで、まわりの放射線を吸い尽くすことができるのさ。空気中の物だろうが、テメエのどたまにあろうが」と説明しきった。


 そんな会話をしてる中、俺達の目前に二つの岐路に分かれていた。一つ目はそのまま前方、二つ目は右方面の上階に続く階段が、確認できる。

 階段の側には、灯りが周到に用意されて、それの足元が見えないなんてことはない。

 俺達は軽く話し合った後、そのまま前進することに決めた。


 まあそのすぐな・・・・・・。

 

 壁上部分にはめ込んであるラジカセから、不気味な音楽が流れ出してきたと思ったら、

 「ばぁああっ!!」

 顔色が明らかに悪いおっさんが、俺達の先にある曲がり角の物陰から飛び出て、両手を上げながら奇声を放ち、こっちに急接近してきた。

 どうやらそいつの種族・・・・・・ゾンビらしい。


 ナナ姐は落ち着いた様子で杖を傾け、俺はジャケットポッケに片手を突っ込み、殺気を放ち身構える。

 しかしそいつ・・・・・・様子がおかしい。近づいた後、そのまま微動だにしていない。いや、それは誤りだった。俺達のリアクションに、戸惑いを隠せないようだった。

 このダンジョンをアジトにしている賊であるなら、すぐにでも侵入者を迎撃するはずである。


 ナナ姐も不思議がり、例の化け物に、「あの~・・・・・・」と、話しかけようとする。

 だが!

 「騙されるなナナ! 無抵抗をアピールして、不意討ちを食らわす気だぞ、そいつ!!」

 そう俺は一喝した。


 一瞬で俺の方に対して仰天する化物。ナナ姐は俺の言葉に、反射的に従った。魔術を発動したのだ。

 「うわわっ!? はいっ!! 『風魔術 空気操作エアコントロール!!」


 ナナ姐の大杖上先端から細々しい光が出たかと思えば、すぐにゾンビは微小の声で、「あっああぁ・・・・・・」と、呻いたのさ。

 俺は正直エグいと思った。もしや彼女は、敵の体ん中にある空気を外に絞り出すよう動かして、窒息死させようとしてるんじゃないかなと。

 だがそれだけじゃねえ。

 実はその攻撃と同時期、ナナ姐が持ってる大きな杖の最下部分から、一筋の白い光線を放出して、野郎の顎に食らわせてるのだ。しかも受けている奴は、気づきすらしてない。

 やつは自分の膝が落ちて、間もなく動かなくなった。何が起こったかすらわからねえだろうな。

 勝利に要した時間は5秒。・・・・・・で、圧勝したナナ姐に、俺は軽く口笛を吹いた。


 その時の俺は心ん中仰天したのさ。まさか彼女が、『同時並行』型とは・・・・・・同時並行型術者っていうのは、複数の術を同時に発動させる魔術師ということである。短所として術そのものの威力・効果・規模が、普通の術者と比べたら、劣っているというところか。


 「う~ん、やっぱり調子が最高でも5秒かかっちゃった。『同時並行型』じゃないプロなら、2秒で気絶させれるだろうにな~」と、額に指を添え、がっかりしたような顔で不満を漏らしたナナ姐。

 

 そんな態度に俺は、

 「な~にくれえこと言ってんだよ? さすが魔王を倒した奴だな! 見事な手際だったぜ」と、俺は語った後、「さてさっきのは奴を窒息死させたのか、レーザーで殺したのか? どっちが勝因だ? 俺が気づいた白い光ってのは、放射線か?」と、質問を並べた。


 「そんな一気に聞かな・・・・・・いやいや殺してないからウチ?! 人聞きが悪い」と、返答した後、少し大声を上げたナナ姐。

 すぐに彼女は、ここが敵地だと思い出し、はめてある革手袋で自分の口を塞いだんだな。

 「・・・・・・気絶させただけ、まあ彼は目を覚ました後でも、しばらくは体が動かせれないから、安心してリウム」と、そう彼女は小声で説明する。


 「んで、なんで二つも術を発動したんだよ? 空気操るだけども良かったんじゃねえの?」


 「空気操ったのは、彼が大声を出させないようにするため。助けを呼ばせないためにね。ゾンビを窒息させることは出来ないの。

 さっきの光線の名は『死霊の弱点ウィークネスオブデッド』で、浴びせたゾンビやスケルトンなどの死霊系を、短時間で無力化させる魔術なんだ」


 「スケルトン・・・・・・あの人骸骨オンリーのことか?」

 俺は、やられたゾンビが、先程飛立して来た前方の曲がり角を、指差した。


 「うん、そうそう」

 ナナ姐も発見して、のんきに頷く。


 示した場所の影から、こちらを覗き込んでいる人体骨模型が、震えてる。


 「みんなぁああああああああああっ!!!! ツド先輩が倒れたぁあああっ!! 娘二人が、恐怖で錯乱して攻撃し始めたんだあああああっ!!!」

 喉の筋肉もない奴が、骨のみの顎を使って叫んだのだ。奴の声の出し方に、恐れがにじみ出ている。

 

 廊下の奥から、

 「なんだと!?」

 「くそぉっ!! すぐに取り押さえろ! 傭兵共を呼べ!」

などの怒号がこちらまではっきり聞こえてきたのさ。


 「せっかくできるだけ気づかれずにで、相手の戦力を削ろうとしたのに~っ!!」

 ナナ姐は、己のケープの内ポケットから小杖を取り出し、大杖の下先端を床に叩きつける。


 細小杖から先程の光線が発射された。

 俺はそれに掌を向ける。発した場所から微かに、光を帯びた。

 ナナ姐の大杖にぶつけられた石畳みから、氷の牙が現れ、骸骨まで地味に突進する。

 しかし相手は、氷結の攻撃を直前に跳ねて回避し、彼女の光魔術も、奴の額に少しかすめたが、避けたのだ。

 敵側は、受けた術の効果で弱りそうになっているものの、なんとか持ちこたえてる。『死霊の弱点ウィークネスオブデッド』は、浴びせ続けないと、効果を最大限に発揮されない。・・・・・・だがな。


 「『γ光線付法術レイガンマエンチャント』」

 俺は、骸骨の化物が着地した瞬間に、そう魔術名を名乗ってやった。

 彼女とヤツが、何事かとこちら側に向く。


 「ふん、残念だったな、どくろの化物。俺の付法術で、お前の平衡へいこう感覚はめちゃくちゃになったぞ」

 俺の言葉に、白骨化死体は驚きを隠せなかった。奴の足元が、おぼつかなくなってくる。

 

 ナナ「どういうこと?」


 「ああ説明してやるぜ。話は長くなるし、ちょっと小難しくなるがな。魔力で生まれた・又は操られた元素エレメントというのはな、単種の放射線と、非常によく干渉するんだ」

 言葉を受けたナナ姐は、 ポカ~ン とした顔を表す。


 補足だが、マルウェーで、基本的に定義されている元素っつうのは、火・水・土・風を始めとした、自然物のことだ。光や草・闇とかも含むぞ。


 俺は彼女を無視するよう続けて、

 「影響の具合だがな、それの自然現象なる法則を大改変してしまう程だ。土魔術に強めなガンマ線のみをぶつければ、それの体積が膨張しだし、バルーンのように宙に浮きはじめ、光魔術に付け加えれば、その攻撃に当たった者は、三半規管を狂わ・・・・・・せられ・・・・・・?」と、語り続けたが、言葉の最後らへんに気づいたのだ。・・・・・・極当たり前のことを・・・・・・。


 「こいつ三半規管どころか・・・・・・耳ねえじゃねえか・・・・・・」

 そう思った自分だ。思っただけだ思っただけ。口にはしてねえ飲み込んだ。しまったこいつ骨だけだ。


 ちなみに例の生きてる骸骨はというと、

 「く・・・・・・そうだったのですか・・・・・・。道理で頭がぐらぐらしてて、気分が悪く、吐き気が・・・・・・」

 俺の説明を馬鹿正直に受け止め、その後  がんらがららら という骨特有の衝撃音を奏でて、倒れ伏したのだ。・・・・・・いや~、暗示って怖いね。


 「いや~すごいね。リウム! 放射線を魔術に付法エンチャントするなんて聞いたことが・・・・・・」

 俺の側ではやし立てたナナ姐も、やっと気づいたようである。


 「・・・・・・暗示って怖いね」


 「・・・・・・おう」


 俺が力なく返答したあと、遺跡の奥から、鎖の塊を壁にぶつけるような音、クマのうめき声が、反響するよう響き出した。


 「来るぞ・・・・・・」


 どんどん敵が迫ってくるのが分かる。前と違い多勢。音そのものが鮮明になりだし、大きさ自体も増すばかり。しかしそれも長くは続かなかった。とある一瞬で ピタリ と止んだのだ。・・・・・・こちら側すぐの前方の死角に、潜んでいるように思えた。


 「・・・・・・待ち伏せしてる?」

 ナナ姐が、不気味な静寂の中、切羽つまった表情で呟く。続けて、

 「リウム。透視できる?」と、尋ねた。


 「無理だ。ガンマ線といえば、物を透過させる特徴を持つ、だから放射線を光源にもしている俺達吸線鬼なら、透視能力を持つとよく他種族に誤解される。だがそんなことはない。最低限俺はそんな異能持ち合わせたことはない」


 「そう・・・・・・曲がり角の、陰の様子が気になるの・・・・・・リウム耳を貸して、合図したら・・・・・・」


 何秒俺たちは、腰を下ろした姿勢を変えず、奥を凝視したのであろう。一秒一瞬がとてつもなく長い時間に感じた。頬には冷や汗が伝う。自分の乱れた呼吸に気づき、整える・・・・・・。業務用のエアコンの風と作動音が、うっとおしく感じた。


 「行くわよ!!」

 ナナ姐が叫び、自らの片腕を、出入り口に向かって、空に振って合図し、走り出した。・・・・・・後方に。


 多数の陰が、オレたちの行動に、驚いたようだ。角の先に、金属音が忙しなく鳴ったから。

 後方を向いた俺たちは、確かに耳にした。通路奥に隠れた奴らが、俺たちを追う時発せられる足音を。


 すぐにナナ姐は振り返り、小さな杖を構えた。実は撤退は演技で、敵を俺たちの近くまでおびき寄せるための罠だったのだ。


 彼女の視解に映ったのは、鎖帷子くさりかたびらを、全身で包んだように見える、複数の人陰。どうやら奴らは、身を屈めているようだ。遺跡内に光は乏しいから、よくわからないのだナナ姐は。


 ※鎖帷子・・・・・・金属の輪をつなぎ合わせて作られた衣服。西洋甲冑の下に着ることが有り、強度は鎧そのものよりも、低い。


 「何よこれ!?」


 ・・・・・・崩れた。何が崩れたって? ナナ姐の得物であるゼンマイ草型杖の上先だよ・・・・・・微小ながらも禍々しい紫の炎に焦がされていたんだ。いつの間にか掠めた程度の攻撃を受けているってか。しかし原因は、ダンジョンの奥にいる奴らじゃねえぞ。犯人は・・・・・・。


 「上だ! ナナ!」

 俺は、周りの放射線の流れが変化したことに気づき、怪しいであろう天井部分を見上げた。ごく真上の方。


 いつの間にか、近くにあった業務用のエアコンは取り外され、それによって生まれた穴から、三人の影が、こちらを見下ろしている。三人じゃねえ。三匹でもない・・・・・・ただしくは三着。そいつらの数え方な。


 「足軽ライトフット!?」

 ナナ姐は、中身が空気しか存在しない鉄塊を発見して、そう叫んだ。


 その化物共は、幽霊が戦装束に憑依することによって、体を得た『幽鬼ファントム騎士ナイト』の一種で、特徴はフード・長袖シャツ・モンペ・足袋・手袋を全部繋がれた状態で構成されており、身体である衣服は、全て楕円の鉄輪を組み合わせて出来ている。

 奴らは一人残らず、左肩部分には、コバンザメの絵が描かれた革製の紋章を取り付けていた。


 「そうか・・・・・・時間かけて様子見たことが仇になったな畜生・・・・・・」

 まさか天井裏から仕掛けれるとは奴らめ・・・・・・。


 天井側の足軽共が、逆手に持ってる細小杖から、先程の紫色の炎を飛ばした。

 ほとばしる異様な火の粉が、雨のように、俺達に向かって降ってくる。

 いや正しくは俺達にではなく・・・・・・。

 「杖に!?」

 ナナ姐がすぐに気づく。奴らは俺らの生身ではなく、最初はなっから、彼女の武器を狙ってきたのだ。

 おかしなことに、その火からは、熱なんてものは感じられなかったよ。


 通路側からも、紫炎弾が、数々と飛び舞う。

 ナナ姐がまだ魔炎の被害を受けてない方の杖を、通路側の敵共に向けて、上部から来る攻撃を、俺をかばいながら避けた。背中で俺を押し出したのだ。

 そういや俺が頼んだ依頼、自分の護衛だったな。

 読者は、”通路側気にしなくて良いのか”と突っ込まれそうだが、それは大丈夫。やっぱりナナ姐は魔王を倒したかいがある。術を発動している小さい杖には、アンテナと同じような機能を持ち、敵の挙動をいちいち彼女が見なくても、感知することができるらしい。

 彼女の脳には今頃、サーモグラフィーカメラで録画している映像みたいなのが、直接流れ込んでいる。魔術物や生命体がいたらすぐに的確に察知できるらしいぞその魔術。

 ただ範囲は、向けられた先五メートルくらいだが。

 

 彼女の今にも崩れている大杖から、炎の弾が発射される。俺はすかさず、その魔術にガンマ線を付法した。

 赤く燃える弾丸の軌道に、細長く歪な氷が生まれる。白く冷たい霧を纏っていた。

 それに対してナナ姐と足軽共が、挙動不審になって、呆然とする。


 「ガンマ線を纏った魔炎は、周りにあるあらゆる熱を奪い、自分の力とする」


 見下ろしている鎖帷子の化け物共は、気を取り戻し、天井裏の横奥に引っ込んで避けた。なんと逃げ足の早いことか。

 彼女の発した炎が天井裏の壁にぶつかった瞬間に、耳をふさいでも無駄なぐらいの轟音と、目を瞑らないと気が狂うような衝撃波が撒き散らされ、岩の破片が飛び交った。


 ナナ姐は開けた口をふさぐのを忘れていた。牽制目的である炎が、思った以上の威力を発揮したからだけではない。まあ、周りの熱を奪う炎だからな、威力が高くなるのも当然だ。

 一階と天井裏をつなぐ、戦塵満ちた四角の穴が、フタをするよう氷結した。これでは出入りするためには、氷を砕くなり溶かすなりしないといけないな。


 通路側の足軽共も立ち直り、前方側の者達は、ナナ姐の杖めがけて、紫炎を放ち、後方のでは、こちらにバレないよう四つん這いになり、とんでもなく素早い速度で撤退した。・・・・・・それが後に俺達を苦しめることになる。


 「リウム! お願い!」

 ナナ姐は、小杖に設定する魔術を、索敵用にではなく、先程の炎攻撃に変えようとするのだ。

 

 「おうっ!!」

 俺は元気よく返事をした。


 「頼むからエンチャントしないでぇえええええぇえええええええええええっ!! さっきの出したら、敵が死んじゃうんじゃないっいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっ!!」


 「えええええええええええええええぇえぇぇぇええええええええええええええっ!!?」


 ・・・・・・ナナ姐よ、言ってくれても、もう遅い。彼女の発した炎をついうっかりガンマ線をエンチャントしちゃった。


 敵の攻撃から、杖を抱いて護るナナ姐。なんとか守りきれた。あの紫炎、俺達の体に触れてもなんともないように、彼女の出した炎や氷そして物体そのものに触れても、すり抜けるようだ。


 得体の知れない紫の火より、もっと自然の法則を覆す赤き炎術が、表面を濃い緑色の光を纏わせた状態で、足軽どもの軍勢に飛び込び、暴発した。

 彼女の発した炎の辿たどった空間には、すぐ霜が生まれ、結構大きめな氷の礫が、重力に従うよう パラパラ 地面に落ちる。

 そして攻撃対象である足軽共は・・・・・・・・・・・・ある者は爆風により、手袋やら足部分やらが吹き飛ばされ、ある者は付法術の効果で、己の熱が奪われ氷結し、ある者は今にも威力を増す炎に飲まれ、焦がれていた。これは死んだな。俺はそう確信する。

 黒く錆びたたくさんの楕円の輪が、霜の着いた地面にばらまかれている。


 「・・・・・・」

 ナナ姐が、目を見開き、疲れきった表情で、その光景をただ眺めていた。まるで脅すためだけに包丁を持った気の弱い強盗が、歯向かってきた一般市民を誤って殺害してしまった。そんな人の顔だったのさ。


 「・・・・・・いやナナ。相手は賊、しかも元々金属に魂を憑依した化物だぞ? 別段一着二着葬ったくらい・・・・・・な?」

 そう俺は俺なりに、ナナ姐を慰めようとする。彼女は、護衛には、冷静さと冷酷さが必要なんじゃないか? と、心の中に少しある俺であったが。


 「・・・・・・」

 ナナ姐は、俺の言葉を無視して、薄暗い中、放心状態を自分の瞳に宿していた。


 「おい! こんなとこで呆然としてんじゃねえぞ!? 下手したら出入り口からも、あいつらのお仲間が帰ってくるかもしれねえな。そうなったら挟み撃ちだぞ挟み撃ち!!」

 俺は、その時少し焦っていたのさ。


 黙ってたナナ姐は、やっと口を開き、

 「うっさいわね!! わかってるわよ!!」と、叫んだ。その時の俺が、今まで彼女から聞いたことがないような酷い棘の含みを持っているのだ。


 ナナ姐の怒声で、不意に驚いた俺は、つい、

 「はぁあっ!? わかってねえだろ!? じゃあなんで立ち尽くしてんだっ。同時並行型だろテメー、地味な魔術しか使えねえザコのくせに、護衛なんて仕事すんなよ!!」と、溢れたいきりたつ感情が、抑えきれずにぶちまけてしまう。


 「だったらウチに頼まなきゃ良かったじゃん!? ヤンキー女!! 良くも気にしてることを~、好きで同時並行型やってんじゃないのよ!! ファスナーまみれ!!」


 「テメェー!! 上等だっ。テメーのイカスあだ名教えてやろうか・・・・・・デスブック・・・・・・」口論になっている俺は、ふとナナ姐の背後を見上げて、しりすぼませた。その後、

 「ワーム・・・・・・?」

 そう呟く。


 「はぁああっ!? ウチが好きで名付けられたわけじゃないですけど~!? デスブック・・・・・・」


 「ああっいや、後・・・・・・あれ・・・・・・」

 俺の指差した方向に、回れ右するナナ姐。示した部分は、足軽共が倒れた場所だ。


 「ん? あっ、ワーム・・・・・・ベアー。蟲熊ワームベアー・・・・・・」

 新たな種族の刺客が、ナナ姐に、起立した状態で、立ちはだかっていた。至近距離で。


 そいつは、姿そのものや、生えている毛は熊そのものだが、顔の構成部分が恐ろしい。

 耳は可愛らしい丸っこいものだが、眼と鼻と歯が存在せず、大きくて歪でないまん丸の穴が、面の中央部に口となっており、それの周りには、灰と青を混ぜたような色を持つ、花びらみたいなのがついていた。

 つまりは、熊と、緩歩動物『クマムシ』の合成獣キマイラなのだ。爪もクマムシと同じよう。

 大きさはヒ熊の一回りな大きさを持つ魔獣だから、図太い俺でも、戦慄する。


 「ウッウッウウウゥゥゥウウウウ・・・・・・ウチこういうグロテクスなの苦手・・・・・・」

 口に手を抑えて、面を下げるナナ姐。吐き気でも催したか?


 「ぐぉおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

 怪物は、不自然に整った丸い形をしている穴から雄叫びを放ち、自らの猛々しさをめいいっぱい表していた。ナナが呟いた一言に怒号しているのだろうか? うるせえ音が、岩製建築物の壁やら床に跳ね返りまくる。


 「下がって、リウム!! 援護をお願い。加減はこっちでやるから、思いっきり付法術して!」

 と、俺をかばうよう、攻撃態勢を整えるナナ姐。まるで先程の口喧嘩がなかったかのように、アイツの護る様は、輝いていた。放射線が多いという意味じゃねえぞ、断っとくが・・・・・・あんなひでえこと言ったのに俺・・・・・・。


 「さて・・・・・・カンポよ。取り押さえるのが目的のため、加減は忘れるなよ」

 化熊の背後で、新たな声が発された。一人の爺が、俺達の前に姿を現す。


 「ちっ・・・・・・最低でも二匹いるってか、にしても変な格好したやつだな」


 「娘さんよ・・・・・・、数え方を学び直したほうが良いぞ。ワシは人外だが、人権を持っている。匹ではなく人じゃ・・・・・・それと・・・・・・」


 そう説教を垂れた男の特徴は、肌は灰色。頭に白く短い布をかぶせ、そのまた上に異界にいたというアメリカインディアンなる先住民が身につけてそうな、羽の冠を履いている。ただしその羽の色は、縁起の悪さを連想させるように全部黒。

 胸骨部分に、黒色で、得体の知れない素材でできている、胸当てをしていた。

 船を漕ぐための道具あるだろ。かいだよ木製の櫂。長さは一メートルくらいかな。得物にしてんだよ、そのじじい。

 ちなみにその武器で、本来水をかき出す部分には、彼岸花がカラフルに描かれていて、それとは反対部分端では、鉄製の刃渡り5センチほどの、針が付いていた。

 ああそうか、種族の特徴言っちゃった。奴個人の描写だけどよ、年寄りだよ、髭なしの。地味のダボダボな服着てるぞ、以上。


 奴の言葉を無視したその時の俺は、ナナ姐の体の震えに、気づいたのだ。しかも尋常じゃないくらい・・・・・・。


 「おっおい、どうしたんだ、ナナ?」


 彼女がゆっくり口を開く。

 「ウチ・・・・・・本で読んだことがある。櫂を振り回し、カラスの羽飾りを身につける人外・・・・・・寿命二十年迎えた瞬間のみ死亡する・・・・・・まさか、ほんとにいたなんて・・・・・・」

 

 「ほうっ、お嬢さん。ワシの種族をご存知のようじゃの。中々マイナーだというのに」

 顎に人差し指添えて、楽しげに呟く奴。

 ちなみに化熊は、おとなしく待機している。やはりあのジジイが、飼い主か。


 「おいっ! ナナっ。一体そいつの種族なんなんだ!?」


 

 「・・・・・・非不死ノンアンデッド


 そのナナ姐が言う非不死の野郎は、一つ咳払いをして、

 「ああ伝え忘れていたな、三白眼の娘よ。実は・・・・・・」と、戦慄する彼女をほっとき、何かを伝えようとする。・・・・・・だが!


 「よく見ろ! もうろくジジイ!! 俺は三白眼じゃねえ」と、俺の瞳を指差して、怒鳴ってやった。


 驚くナナ姐と、非不死。

 「おおっすまんすまん、もう老いてしまって、自分でもよくわからなかったんじゃ。許してくれ」

 そうジジイが言った後、

 「じゃあ伝えるぞよ、ワシとカンポ、一人と一匹で無し・・・・・・」と言っている。

 その瞬間の俺らは、放心状態に陥っていた。


 よく奴らの後ろを、注意深く見渡して、耳をすませば、確認できる。確認できたのに・・・・・・。

 何てことだ。たった一人と一匹だなんて、どんだけ周り見てなかったんだよ俺。


 「ワシを含む非不死が十。蟲熊がコイツを含めて二匹じゃ」




 その頃、例のダンジョン入口前。


 「いやぁ、まいった、まいった。まさか大通り通っていたら、いきなり土巨人が迫り上がった幻覚が見えて、そのせいで気絶しちゃったよオレ。遅れちまったい」

 すすき林道中で立ち止まり、息を乱しながら、言い訳じみた独り言を呟く一匹の騎士がいた。


 オレが奴を一匹って呼ぶのは、下等人外だから。そいつは足軽とは別の種類の幽鬼騎士だ。まあ姿は西洋甲冑フルタイプだがな。

 

 そいつは、一つの立て札を左の小脇に抱えていて、右手には木槌を持ち、急いでいたのだ。

 そしてその幽閉騎士は、遺跡出入り口の脇に、その立て札を打ち付けた。


 「ふ~・・・・・・。やっと、開設できたな。いやはや早く奴らを驚かしたいもんだ」

 顔なんて存在しない兜から、達成感を含む笑みがついつい溢れてしまう騎士は、腰に手を添え、石造物を見上げていた。

 ちなみにもちろんのこと、奴は、今設備内で、戦闘が繰り広げているなんて、微塵も思っていない。


 立て札の内容。

 『お化け屋敷 ダンジョン リニューアルオープン。本日・明日28日無料です』



 


 

 



 

 

 

 


 


 

 

 


 


 

 

 


 


 

 


 

 




 


 


 

 

 



 読んで下さり、ありがとうございました。

 足軽の本来の意味は、日本の戦国時代にいた、平時に農作業などやって、戦争になったら出陣する兵士のことです。

 次の投稿ペースが遅れるかもしれません。

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