いよいよ魔王戦⑤
よろしくお願いいたします。
最近再編集した時期は、2018年3月12日。
(落ち着いた動作で合掌し、そのまま一礼)
読者の皆様、今回の語り手は私 ゴルギオン が勤めさせて頂きます。
では早速物語の方を伝えさせていただきますね。( クスリッ と、気品に満ちるよう微笑む)
「ああ・・・・・・もう三つ編みが土でベトベト・・・・・・。帰って、温泉入りたい」と、自分で編んだ髪の毛を触りながら、吐息し、軽く愚痴を語るナナちゃん。
続けて「もう帰らない? さっきの彼の説教で、ウチもう士気とかモチベーションが無く・・・・・・」
灰色なる崖の上から、鼻水流しながら睨むイイキ君と、アンデくんの腕から脱出したばっかりの困った顔を見せたヘリック君が、彼女の視界に入りました。
「・・・・・・わかったわよ!」と、ナナちゃんはいやいや納得するよう叫び、闘志・・・・・・ではなく、闘志の代わりにヤケと呼ばれる感情の炎を、自らの心に灯したのです。
彼女は、魔王の根城に背を向けていました。
「それを聞いて安心しました。さて作戦を実行しましょう」と、ヘリック君は、イイキ君の横で提案します。
「そうね・・・・・・ではまずここら辺の地面やら崖壁に、いっぱいの仕掛けをか・・・・・・」
「貴様らが勇者か・・・・・・?」
一瞬にして自身の背中が、恐ろしい冷気で凍てつかされたと、錯誤したナナちゃん達。
彼女の言葉を、一つの野太い声が遮ってたのです。
ナナちゃんが振り向いた時、自身の瞳に、一人の大男が写った。極至近距離でね。
その方の特徴は、見た目の年齢四十代。髪は黒のスポーツ刈り、顔は鼻が高く、顎がガッチリと角ばっています。
あと眼力がすごいです。筋肉隆々で❤ 、服装についてだけど、まさに古代ローマ兵風の、ブラシ先みたいな羽毛製の飾りを、上部分に取り付けた兜をかぶっております。
上半身裸の上に、平べったい長方形の背甲・胸甲を直に身につけ、腹の下からは、上部分をはだけさしてる漆黒に染めたキトンを着用していました。肩から黒色のマントも羽織っているわよ。
・・・・・・あなた・・・・・・。
彼の周りに発されるオーラが原因なのでしょうか、曇天気味な大雲から紫電が放たれ、大地が震え、彼女たちの精神が萎縮して、喉も干上がってしまったわ。
「我の声が届かなかったのか? 貴様らはこの召畜魔王『クロノグス』を倒しに来た勇者達か? もしそうだとするならば、互いの理念を賭け、各々の得物を交えようではないか!!」
クロノグスさんがそう熱く語ると、怯えながらも口に出さずに一つの思案にかけられてしまったナナちゃん達。いや正しくは、一言目から違和感を感じたんだけどね。
「「「・・・・・・誰かの声に似てない・・・・・・?」」」
彼の声は、ナナちゃん達の聞き覚えのある一つの声を野太くしたら、まさしく同一だとつい思えてしまうくらい似てたの。
そう、『あの子』、『あの方』にだんだん似てきたのよ。時間が立つのも早いわね。
「イイキさん! あれ! あのメガフォン!! あれで吹き飛ばしちゃって!!」と、イイキ君の方に目配せをしたナナちゃんは、魔王にメガフォンという単語を印象づけるように、声を荒らげて発したの。
「成程! 我の敵だな!」と、目尻にシワを寄せ、闘志を表す笑顔を見せたクロノグスさん。
「あれかぁ!? わかった今使う・・・・・・しまった!!」と、自身が背負っている、獅子を象った発声部分が取り付けられているからくりを手に持ち、扱おうとしながら返答したイイキ君。そしてクロノグスさんが、彼の方に顔を向け、闘気を放ちました。
ヘリック「どうしたんです! イイキさん!」
「機械が泥に浸かって、壊れちまったんだ!」と、メガフォンの引き金を何度も何度も焦りながら引くイイキ君。
ナナ「なんですとっ!!!?」
「大丈夫です! ほら数十分前にその機械から放たれる音を、念のためボクが記録しといたじゃないですか? 魔術『サウンド』で!! いきますよ!!」と、説明したヘリック君は前ヒレから、空中に光を宿す魔方陣を出現させ、『とある音』を響かせたのです。その寸前にクロノグスさんは身構えました。
『モロニャニャニョ~ン・・・・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・そんな抑揚皆無、荒々しさどころか可愛さすら微塵も感じられない、なんか定義されてる全てのシリアス現象に喧嘩を売るような、そんなある意味ものすごくひどい音が、山脈の連なりに木霊しました。
・・・・・・まあナナちゃんが、その間の抜けた音を発させるよう、イイキ君に促した目的は、敵方をその死地に響く音で呆然とさせ、意識をメガフォンに向けさせ、そのスキに彼女が繰り出す魔術のための時間稼ぎを作るためなのです。彼女たちはこれでも本気なのです! ・・・・・・たぶん。
しかしその鳴り響く モロニャニャニョ~ン に対して魔王はすぐ。
「ぐわぁあああああぁぁあああああぁああああああああああああああああああああっ!!???!!?」
なんかものすごく苦しんでいました。自分の掌を胸に置いたりとか・・・・・・そのことについてこっちが思考停止に陥っているイイキ君とヘリック君。「何でこの恐ろしげな魔王は、モロニャニャニョ~ン で悶てんのよ!??」とか悩んでいるナナちゃんは、自身の目を点にしてますが、正気をなんとか保ち、呪文を唱えています。
「我が、我が・・・・・・こんな奴らにィィいいいいいィィィいいいいい!!? こんな所で、こんな所でぇえぇぇええええええええぇぇええええええええええええええええええええええ!!!」
そんな荒れ狂うクロノグスさんなどを、遠い場所からギン君は筆舌にしがたい絶望した表情で、岩陰に隠れながら眺めていました。
彼はたった今起こったことを、反復するよう考えています。
ここから話の時系列は、ゾンビのアンデ君とスライムヘァーのカブ君が、ナナちゃん達に敗北した三十分前ほどに戻りますよ?
・・・・・・なかなかすごいわねあの娘たち。・・・・・・喧嘩とかはいただけませんけどね~。
あの子は・・・・・・ギン君はシマウマと呼ばれる馬を操り、ラマにしがみついているカブ君と、足元の土を乗りこなしているアンデ君の先頭に立ち、ギシャーマの郊外付近・・・・・・人気がなく勾配の激しい山道を、最高速度で駆けていた。
よく家に遊びに来る子達なのよ~。
ナナちゃんたちはその時、私が住んでいる町のバス停で、バスを待っていたから、彼らは先を越せた・・・・・・ということね?
「オレはまず魔王を説得する。『彼女達と闘う時は手加減してくれ』ってな。カブとアンデは、三つ編みの女の子達を足止めしてくれ! くれぐれも怪我をさせるなよ!」と、顔は向けずに、彼らについて頼み事をするギン君。
成る程! ナナちゃんたちに大怪我をさせないために、彼女らが去った後、全速力で家を飛び出たのね。
・・・・・・ご近所の人から『あなたの子、思春期をこじらせて、暴走してますよ』なんて伝えられた時は、私、顔から火が出るくらい恥ずかしくって、危うくあの子について考えたままになりそうだったわ!
カブ「当たり前じゃない! ボクはフェミニストで紳士だよ? 女の娘に暴力を振るうわけ無いじゃん!!」
アンデ「善処する・・・・・・」
そうギンくんのお願いに返答した彼ら。・・・・・・ ウウゥッ ギン君に、心から信頼できる友達がいて嬉しいわ。それから約二十分後・・・・・・。
彼らとふた手に別れ、目的地である一つの山脈の四合目中腹に到着したギン君。
先程はうららかな日差しに照らされた町内にいた彼だが、今いる光景は冷風漂う殺風景が広がっていた。
そこには岩壁をくり抜いた場所に建てられてる御殿がそびえ立っていました。・・・・・・と言っても大きさは私の家より一回りくらい小さいけどね。
その根城の特徴なんだけど、外壁は長方形の煤けた岩を積んで囲い、内部は赤紫などの色で塗装した大理石製の壁やら柱が組み込まれてあります。柱なんだけど、ドリス式と呼ばれるシンプルなのを採用してるわ。
入口から大部屋の奥に置かれている玉座まで、赤絨毯が繋がっており、通路や各部屋の壁に一定間隔で掘られた隙間内には、燭台とその上に蝋燭が立てられています。
仕切りがない小窓が転々とあり、全体的に暗めです・・・・・・。
久しぶりに入った自分の父の部屋に、緊張するギン君。
彼は部屋の周りにある家具やら服やらを眺めて、違和感を感じています。
「・・・・・・ギンか?」
ギン君が、声の発された場所・・・・・・光が届いていないイスに視線を向けました。
そこに座ってたのは、召畜魔王 クロノグスさん。彼の今の顔は、先ほど説明したナナちゃんと闘ってる【?】時の顔とは、同一人物とは思えないくらい、穏やかな表情を醸しています。
ギン「ああっ! ・・・・・・親父っ大切な話がある」
彼は、強面なクロノグスさんに対して、大きな怯えはないのです。親子ですもの・・・・・・。
「奇遇だな・・・・・・お父さんもギンに大切な話がある・・・・・・」と、悲しげそうな顔をしながらギンくんの言葉に返答した魔王。ただその放たれる雰囲気は、希望に満ち溢れたような・・・・・・。
ギン「・・・・・・なんだよ奇遇だなって? 手短ならそっちから話せよ・・・・・・」
そしてクロノグスさんは、口を開けました。
「父さんな・・・・・・父さん、自首しようかと悩んでいたんだ・・・・・・」
一瞬自分の父が呟いた爆弾発言で、頭が漂白したギン君でありましたが、自分の心臓がひっくり返るぐらい驚愕したの。
「はああぁあっ!!?」
「父さんもう・・・・・・魔王をやる理由がなくなった。今荷造り中に、休憩していたんだ。」
「荷造り・・・・・・」
ギン君が再び周りを見渡すと、紐に包まれてる乱雑にたたまれた服らに、木箱が大量に積まれていて、革製の袋もいたるところに置かれているのが確認できます。
魔王「私物を全て持ち運びやすいように整理していた。慈善団体に寄付するためにな、逮捕された時に、役員に申請しようと思ったのだよ。・・・・・・魔王の盗品が無事届けられるかというと、少し疑問なんだがね・・・・・・」
ギン「なっ・・・・・・なんで自首を・・・・・・」
「お父さんはな・・・・・・。魔王を初めた理由が母さんにあるのだよ・・・・・・。」
・・・・・・え?
「おふくろ?」
「母さんはな、思考したモノを石化させる能力を持つ・・・・・・自分の意志関係なくな。まあ父さんが未だに石化しないのは、きっとこんなろくでなしのことすっかり忘れてるだろうから。・・・・・・わっはっは!」と、自嘲気味に言った後、豪快に笑うクロノグスさん。・・・・・・違う、私は自分の恋愛対象を石化させることはできないから・・・・・・。
「っ・・・・・・と、まあそんな体質のせいで、彼女はいつも自分の能力で苦しんでんだ。
周りからの風あたりも、表面上はとても穏やかだが、彼女がいないとこではシャレにならないくらいひどかった。畏怖され嫌われた。
もし彼女が国から保護されてなかったら今頃どうなってたのやら。・・・・・・そんな母さんの苦境を見かねた父さんは、勝手に家を飛び出し、友人知人に『クロノグスが、何の変哲もないシロアさんに呪いを掛け、石化させる能力を押し付けた』と、周りに吹聴するよう懇願した。
偽の情報を記した本も出した。父さんは、召喚魔術に長けてるから、魔王を名乗ることができたのである。
あくまで石化させる母さんが、実は被害者で魔王が原因だと世間に偽れば、少しは世間の矛先が父さんに向くだろうとね。・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・。
「そんな・・・・・・どうりで周りからは、親父を悪く言って、おふくろに同情の言葉をかけるのか・・・・・・そんな裏事情が・・・・・・」と、ギン君はこめかみに手を添え、昔のことを思い出しながら呟きました。
「さて・・・・・・魔王をやめる理由ここから話すぞ。しばらく何年か前、母さんが石化能力を誤発動しなくなってきたという情報を、悪友から頂いた。世間からの評価も良くなってきた。一体何があったのかギンは知っているのかね?」
「あ・・・・・・」と、座禅をしている私を、ギン君は想像する。
「わからなければいい・・・・・・。彼女は周りの人から信頼されてきてる。だから父さんは魔王をやる理由が見当たらなくなったのだ。
すぐにでも母さんに会いたい・・・・・・。しかし他の者に今まで自分が凶悪な魔王だと知らしめるには、どうしても罪を犯す必要があった。
歯向かってきた勇者達に【軽い】怪我をさせ、自分の召喚した生き物で、盗みを働かせる。
・・・・・・実に最低な男であった!
だからこれから自首し、罪を償って、まっさらな状態で、堂々と彼女に会いたいのだ!! さて・・・・・・話は長くなったな。ギンも何か要件があって、ここに来たのではないのかね?」
「あっ・・・・・・それは・・・・・・」と、ギン君は彼の話に戸惑いながらも、クロノグスさんに今までの経緯と頼み事を伝えました。
「・・・・・・成る程。ギンの友人が父さん・・・・・・我を倒しにここまで来るのか・・・・・・フフッ! 丁度いい・・・・・・。我にもプライドがあって、自首は恥ずかしくてどうしても出来なかったが、漢らしく闘いに敗れるのなら、喜んで牢屋に入れるぞ!!」と、口にしたクロノグスさんは、玉座から立ち上がり、マントをひるがえさせながら、出口まで歩んでいきます。歩を進める中、とある生物を発見したのです。
「これは・・・・・・異界の獣か?」と、出口外付近で休んであるシマウマを、しげしげと眺めながら問う魔王。
「っ! ・・・・・・ああっ、ここまで来るのにその馬に乗ってきた」
足を止めるクロノグスさん。そして「ところで質問なんだが、ギンは今まで召喚した生き物を、役目を達成させたらどうしているのだ?」と真摯な顔で相手に質問をします。
ギン君は、カンガルーなどの動物を思い出しながら、渋った声で「・・・・・・操作した後ほったらかし・・・・・・」
「それはいかんな・・・・・・。元の場所に戻さないと、双方の世界の生態系が崩れる危険があるだけでなく、召喚された生き物とその家族・主人などを悲しませることになる。まあ我がギンに、召喚生物を元の場所に戻す術を教えてなかったからか・・・・・・今からすぐにその術式を教えるから、習得して召喚した生き物役立たせたら、元の世界に帰せ・・・・・・今までのもな」
それから数分後、今の場面に戻るのね・・・・・・。
「ぐっおおおおぉぉぉおおぉぉおおおおおお!!!」
自分の首を掴みながら、苦しんでいる・・・・・・演じているクロノグスさん。ただしその顔はものすごく赤くなっています。
仕方ないのです。彼の作戦では、相手が攻撃を出してきたら、ヤバそうなものは回避するとして、それ以外なら避けずに受けて、すぐにやられているふりをしようということを、ずっと考えてました。
ただし、ヘリック君の出した攻撃が、モロニャニャニョ~ン音波攻撃なので、もしここで倒れるふりをしたら、本当に自首の数億倍悲惨な恥になると直感し、どうしていいかわからずダメージを受けている演技を続けているクロノグスさん。
そんな所に助け舟・・・・・・今の状況に何のことかさっぱり理解不能なナナちゃんが、ヤケでクロノグスさんに向けて、赤い光弾をを飛ばしました。
その攻撃をわざと防御もせず顔に受けた魔王。
ぶつかった弾幕は、煙のごとく霧散し、空気に溶け込んだんです。
「退くわよ!」
ナナちゃんが後ろに振り向き、駆け出そうとします。
そう・・・・・・彼女の作戦は、まずその魔弾で相手をひるませ、メンバー全員で撤退した後、態勢を整えるというものだったのです。
しかし彼はその攻撃に対して、不自然に地面に転がり、仰向け状態の中、冷や汗まみれで目を瞑りました。
はっきり行ってさっきの魔術は、威力というものが、あってないようなもの。本来彼のような強靭な体がなくとも、倒れ伏すなんてことはありえないのです。
だって・・・・・・その弾の正体は、『催涙弾』
相手方に悟られないよう気絶状態を演じきろうとするクロノグスさんでしたが、彼の目が涙で止まらなくなりました。はっきり申し上げて地味に瞳の奥が痛いそうです。居心地すごく悪いでしょうね。
振り向いた彼女ナナちゃんの眉毛の間に強い影が生まれ、全身が震てます。ものすごく怪訝な表情を表しているのです。もう何から何まで腑に落ちません。
「・・・・・・倒れた?」
ヘリック君は ポンッ と、前ヒレを軽く叩き、「そうか・・・・・・わかった! わかりました! 強固であるはずの魔王が、あっさりと倒れた理由・・・・・・それは術と体の相性!」と、自分で納得したように呟きました。続けて「食べ物にも、人との相性があります。アレルギーとか。きっと、ボク達の魔力は、無敵と揶揄された魔王の弱点だったのでしょう!」
「そうか・・・・・・! つまりオイラ達の攻撃が、奴に圧勝したってことだな!! っていうかオイラが設定組み込んだモロニャニャニョ~ンを、あの召畜魔王に致命傷を与えることが出来た! 自覚してなかったが、 ゴブリン(オイラ)>魔王 ・・・・・・とっいうことになるのかなや!?」と、顔を極度に曲げるくらいににやけて、冗長するイイキ君。 ・・・・・・あの方は、本当は信じられないくらい強いんですけどね・・・・・・フンッ。
クロノグスさんの涙が枯れた頃、捕縛するためイイキ君は、自分がかぶっている体に不釣り合いなくらい大きなニット帽の中に手を突っ込み、そこから彼の両手より少し大きい小さな木箱を取り出しました。
それは、ベタねばとりもち入れです。ベタねばとりもちで絡められた生物は、魔力と信号電気エネルギを吸い取られ無力化してしまいます。
その箱を外し、さあクロノグスさんを取り押さえようとするイイキさんでしたが、手にそれがへばりつき、あれよあれよで短時間、イイキサン自身の体が、ベタねばとりもちなる蜘蛛の巣にハマってしまいました。
「ぎゃぁあああああぁあああああああ!!?」
「・・・・・・何してるのよイイキさん・・・・・・。ウチがあとで小麦粉かけるから、待ってて。今魔王を無力化するから・・・・・・」と、ナナちゃんは、絡め取られているイイキ君を半眼で一瞥し呟き、クロノグスさんの額に、小さな杖先端を添えます。
引きつった顔で、律儀に倒れたままでいる魔王。
彼女の杖から発された穏やかな光が、十数秒間彼の頭を照らします。
ナナ「精神系魔術『勧穏』・・・・・・」
発された彼女の魔術が、クロノグスさんの感じていた気恥ずかしさ・プライド・今までに感じていた罪悪感などのわだかまりを溶かしていきました。彼は自分の心象状況に、最初は戸惑いながらも、徐々に安らぎを得たの。
※勧穏・・・・・・被術者の心にある怒りや恐怖などを取り除く魔術。
攻撃や逃亡を企てようとする相手を阻止することが出来る。発動条件として、術者の技量に関係なく、至近距離で十数秒間その魔力を、対象者に照らさないといけない。
あとその術は、短期間に複数回受けた場合、その者が持つあらゆる意欲がなくなってしまう弊害があるの。それを治すのすごく大変らしいわよ?
クロノグスさんから反抗の様子が感じられないと、判断したナナちゃんは、憲兵団の皆さんを呼ぶため、国から支給される次元の穴札を取り出し投げて、別の空間につながる穴を生ませました。
「はいはいはい~。ただいま参りました。私マガ・・・・・・って、この間の皆様ではないですか。この度も討伐系のクエストを・・・・・・うぉおっ!!? 魔王クロノグス!?」
その黒くよどめく異空間から、ハイエナの紋章を肩に身に取り付けた中世甲冑を全身つけている役人さんが、現れがら語っています。私の夫を見つけ、驚きを隠せないようです。
「ええ大丈夫。レクリリ【レクメンドリリーフの略】掛けときましたから」
「・・・・・・我ら憲兵団でさえ、どうしようもできなかった魔王を倒すとは・・・・・・と、まあ私情とかは置いといて。一応拘束掛けといて連れて行きます」と、マガさんは呟き、後方にいる役人達を呼び寄せました。
「・・・・・・よくぞ我を倒した」
「っ!!?」
術をかけたナナちゃんを始め、クロノグスさん以外の人物全員が驚愕しました。
被術者である者が、魔力が解ける前に、語ったからなの。
ナナ「そんな・・・・・・ウチの精神魔術を受けて、言葉を発そうとする意欲が残ってあるなんて・・・・・・」
『レクリリ』を与えられた人たちは、活力を削られます・・・・・・話すだけでも、半端ではない強い精神力が必要なんです。
「・・・・・・我の根城にある玉座の脇に、とっておきの宝箱がある。勇者たちよ・・・・・・この我を倒した褒美だ。持っていくが良い!!」
「・・・・・・ありがと」
そんなナナちゃんの返答に、クロノグスさんは誰にも聞こえないようなか細い声で答えました「・・・・・・こちらこそ・・・・・・」
こうして彼女たちは、マガさんという方から頂いた書類に、判を押し控えを頂いて、クロノグスさんの屋敷に向かって行ったの。・・・・・・あっ、ちゃんとイイキくんのベタねばトリモチは取り除かれたわ。
「・・・・・・さて私たちは残党を・・・・・・」と、マガさんは、私の夫を異空間に連行した後、自らの同朋に向かって、言葉を発しました。
・・・・・・今度面会お願いするね・・・・・・。
その時!!
「おい! 誰か来てくれ! スライムへァーと人間の様子がおかしい!!」
崖の上から、慌てふためいている男性の声が、叫ばれてました。
急いで発生場所に向かう憲兵団の皆さん。
風の魔術である、マガさんが空気でできた光り輝いている階段を作り出し、数人で崖上に駆けます。
そこにいたのは、アンデ君と、うつ伏せに苦しんで膝をついているカブ君と、いつの間にか彼らに合流してるギン君でした。ギン君もカブ君と同じような症状に陥っています。・・・・・・大丈夫なの!?
「目が・・・・・・眩む。気持ちわりぃ・・・・・・」
「うう気分が・・・・・・」
悶ている二人は、呼吸が乱れていて、体もフラフラしています。激しい頭痛も感じているようです。
「おいハイエナども!! こいつらなんか様子がおかしいんだ! どうなってんだ! なんとかしろ!」と、彼らに寄り添っているアンデくんが鬼気迫った顔で、憲兵団に助けを乞いました。
「・・・・・・これは、高山病!」
マガが呟くよう確認しました。続けて
「気圧はそのまま保った状態で、酸素の繭にくるんで運びます! あなたも同行お願い致しますね!?」と、説明しながら彼は、手の平から多大な青い光を発し、二人の周りに包ませます。
補足ですけど、シマウマは、先程ギン君が新しく会得した術で、元の世界に帰し、ラマは平気そうに呆けています。
「・・・・・・どうしておれは高山病にならねえんだ?」と、カブ君のスライム滴る上半身部分を担ぎながらアンデ君は、マガさんに問いかけました。
あと、彼の髪の毛は、光沢を失い、色がよどみ始め、感触も粘液から、液状へと変わりつつあります。
「ゾンビは酸素ではなく、完全に魔力によって、生命【?】維持されている種族です。あなたがいなければ、私達は、彼らの存在にすぐさま気づきませんでした。ですが大丈夫です! 発見時が早くて良かった」と、マガは、カブ君の下半身を持ち上げ、返答します。
アンデ君達と、憲兵団の皆さんは、患者たちを次元の穴まで運び、医療棟に向かって入っていきました。
・・・・・・この度を持って感謝を申し上げます。アンデ君達ありがとう! 次直接お礼言わせてね?
その異空間と繋がっている魔術を、崖に狭間れた坂道下方の岩陰に、隠れながら眺める影三つがいました。女の娘一人に、男二人。
「わぁっ! 魔王クロノグスさんやられちゃったの~? せっかくアチシ達の仲間にしようと思ったのに、一足先遅れたのね。
それとさっきの鳥人間が歌った麗しい音色で、寝坊しちゃったんだよねアチシ達。・・・・・・怒ってないから」と、次元の穴付近にいる憲兵団の方達と、この場にいない鳥人間に、すごい殺気を飛ばしながら建前を並べる女の娘。
「・・・・・・ジャスミン殿殺意抑えて・・・・・・。
拙者がこの穴に入り、憲兵団一人残らずの鼻頭踏みにじって、クロノグス殿を奪還していいで候? 某なら容易にできるでごぜいやす。シシ殿はいかに所存でござる?」と、男一人目。
「名前を呼ばないでもらおう。どこに立て耳があるかわからない。存在を知られるのは潮時ではない。支障をきたす、退くぞ・・・・・・それと一人称と語尾統一しないのか?」と、男二人目。
「あなたは一人称含めた主語言わないくせがあるわよ? アチシ混乱しちゃ~う? テへ?」と、シシと呼ばれた男に、凄まじい怒気を放ちながら、ぶりっこ気味に注意するジャスミンちゃん。
続けて「シシく~ん。君の足元に付いている緑の物体てナ~ニ? 大丈夫?」と、表面上のみ心配して訪ねてます。
「え?」
シシさんの顔に、先程スライムアレルギーにかかったイイキ君と同じ様な、鼻水やら涙やらが垂れ流されていました。ゆっくりその粘液が、坂に降りて彼の足に当たったのね。
そのころ魔王の根城では。
ナナちゃんたちが喜々として、小柄で豪奢な箱の前に、囲い込んで座ってます。
もちろん罠に気をつけて、慎重に周りを物色してた彼女らです。
部屋が暗かったので、イイキ君が光魔術で、ナナちゃん達の視界先を照らしていました。
さあっ! お宝の中身は!?
トラップではありませんでした。まあ家の旦那が、そんな卑怯な手は使うはずないですけどね。
入っていたのは、瓶詰めにされている紫色の薬品、紙に包まれた粉薬、片方のみのクリップタイプな耳飾り・・・・・・三つでした。
いえ他にも収納されているものがあります。紙切れです。説明書のようでした。
ヘリックさんが、書かれた内容を読み上げます。
「え~と、ガラス瓶に入っている液体は・・・・・・土魔術に掛けたら、それの特殊効果をなくし、その上力を格段に弱めれます。粉薬の方は、スライムアレルギーの症状を飛躍的に緩和させることができます・・・・・・・・・・・・ただし症状開始前に服用しないと無効・・・・・・」
三人が、苦虫を歯ぎしりで潰したような顔を、同時に向けました。
「残りの宝物は・・・・・・?」
ナナちゃんがそわそわした様子で、ヘリックさんに催促しました。
残りのイヤリングは、小柄な鈴からクリップ部分までが糸で編み込んで繋げた代物でした。振れば シャリンシャリン と、華麗に鳴きます。
「はい! 装備したダークエルフの魔力最高値を上げることが出来ます! 約1,5倍で!」
「これはちょうどいいわ!! マーマラさん魔術苦手そうだもんね。素晴らしいおみやげが出来たよ」
そして彼女らは、ギシャーマの薬局で、粉薬と瓶ものを売り飛ばし、それで得た金を使い宿泊。
一泊した後、コウヤ山ふもとまでバスに乗り、それからそれぞれ帰路につきました。
ナナちゃんは自分のギルドに到着した後、マーマラさんというダークエルフに、例の耳飾りをプレゼントしました。耳たぶに挟むクリップタイプですので、肌を傷つけなくていいです。
「わぁっ! お姉さまお土産ですか? ありがとうございます!! なんて美しくて可愛いイヤーアクセサリー・・・・・・」
ナナちゃんは、彼女に土産の説明をしました。
「そ・・・・・・そうですか・・・・・・あははっは」
マーマラさんが、一瞬だけ苦虫を噛み砕いたような顔をしていました。
さてここまでで、この一編が終わ・・・・・・。なんでしょうか作者さん。
え? 石化解除勧告・・・・・・? ナナちゃん達や、ヘリック君とか?
・・・・・・・・・・・・あっ。
いよいよ魔王戦編 完
読んでくれてありがとうございました。
投稿ペースが遅れて申し訳ございません。