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ぐだぐだ異世界冒険譚  作者: 大錦蔵
11/39

いよいよ魔王戦②

 投稿のペース、何の連絡もなく中途半端なとこで遅れて本当に申し訳ございませんでした。

 2018年3月10日に再編集致しました。

 爽やかに吹き上げる潮風が、ナナちゃん達の嗅覚をくすぐる。

 オリーブの木が、大道沿いに生えている林を、バスで抜け出した彼女たちは、歴史を感じさせながらも、清潔感溢れる町を、視界に入れた。

 彼女達がたどり着いた都の名は、おれギンの出身地である ギシャーマ。

 ゲルタベ町からかなり離れている港街である。

 その町の特徴は、平地では、濃いめ薄めに色を組み合わせることによって生まれる鮮やかなモザイク調の赤レンガのかわらを、屋根に敷いた土壁の建物が主流であり、密集。緩やかな勾配の丘陵地では、先端に二つの渦巻きがあるイオニア式や、柱頭部分が複雑な葉の飾りを施されているコリント式などの、純白一色な大理石製の柱が組み込まれているギリシャ風建築物が、軒を並ばせていた。


 ナナちゃんは、今まで自分が足を運んできた町々とは、建築仕様や風土などのタイプが違ってる上、有名な観光地にもなっているギシャーマを羨望できたはずなのに、バスに揺られていた彼女の心は限りなく黒に近い灰色に染まっていて、感動などできないでいた。なぜなら。


 「へえ~、イイキさんは マルウェー工業大学で、何を専攻したんですか?」

 

 「情報工学。恥ずかしい話ながら、異世界に完全に依存しきっている分野だからな。まあ工学系はだいたい異世界転移者達ありきの道楽学問だ!」


 「もっと詳しく伺いたいですね!」


 ナナちゃんと近い席で、今まで己が無意識領域のみでディスッていたゴブリンと、先刻自分が可愛がろうとしたアザラシが、高学歴アルアルトークを繰り広げていたのであったから。



 舞台の時間は、数時間ほどさかのぼる。

 あっ! 一応言っとくけど、語り手は続けてオレギンです。


 「それではいきなりですが、誰か僕を運んでくれる人を選んでください。僕達 スマートスィール は一応魔力の水を自ら纏わせて、スライド式に移動できるのですが、魔王戦に備えて魔力はとっておきたいので・・・・・・。」と、例のバス停留所前で解説するヘリック。



 「「・・・・・・いや」」

 広角を下に引き連れて、眉毛を吊り下げ、地味に重々しい声で、返答するナナちゃん。

 視線を、話し相手のヘリックではなく、ナナちゃんを配らせて、ぶっきらぼうに返すイイキ。


 「なぜ? 僕は軽いですから、そう皆さんの体に負担をかけないと思いますけど」と、ヘリック。う・・・・・・ん、オレはナナちゃんらが拒否る理由すごくわかるよ・・・・・・。と言うか気付けKY偏屈アザラシ!


 「・・・・・・ウチ、今は大きなゼンマイ草杖を持っているだけだけど、戦闘時にはもう一つの杖を持って、両腕で闘うスタイルだからいつでもは抱えられないよ・・・・・・それにあんたはウチに触れられるの嫌がってたじゃない・・・・・・」と、ナナちゃん。まあ嘘はいってないけど、言い訳ですね多分これ。あとナナちゃんが、相手を あんた とか言ってるの初めて聞いたような・・・・・・?


 「それについてはご心配なく・・・・・・!」といってあのアザラシは、自分がズリ提げているポーチの中から、半透明の薄いビニール手袋みたいなものを取り出しのであった。


 「除菌グローブ・・・・・・! 花崗岩に生える草の植物油を抽出して、とある化学変化を利用して作られたもので、あらゆるウイルス・バクテリアを遮断・殺菌させる作用を持っています。戦闘時には、両手をお使いするとあなた言ってますね? 別にそのくらいには、僕自身が動きますから大丈夫ですよ?」と、ほざくアザラシ。


 「・・・・・・」

 無言になるナナちゃん。彼女の心境は、すぐにでもこんなんよりも、助っ人を別の人にチェンジしたいと考えてる・・・・・・。

 しかし、今遠出のためのなけなしな金銭しか無く、もし断ってしまったのなら、キャンセル料を払ったり、貧乏時の時間が長くなってしまうデメリットも頭に入れてしまった彼女。


 「・・・・・・あんたの持っている能力は?・・・・・・」と、閉ざしていた口を開いて、打倒魔王の作戦につなげるための、別の話題に持っていくナナちゃん。ぶっちゃけ結構大切なことなのだ。


 「おおよく聞いてくださいました・・・・・・!」と、両足ヒレを高らかに挙げ、返答したヘリック。続けて「一つ目は・・・・・・そうですね・・・・・・『サウンド』!! 自分が今まで聞いた歌、演奏のほぼ完全再現している同じ音楽を、自分の前足ヒレから発することができます。

 内容を話しただけでは、大したことはないとお思いでしょうが、戦闘前戦闘中に士気を上げる力が、この術にはあるということをあなた達は、いずれ知ることになるでしょうな・・・・・・! 

 他には複雑な数字の計算を道具も使わずに短時間で答えを出す暗算魔術など・・・・・・ブレイン向きの能力が得意ですね。まあ司令塔系ですかね、僕?」と、自慢げに語った。


 「まあ便利!!」と、手を合わせ喜々とした表情で、絶賛しているナナちゃん・・・・・・皮肉だよねこれ完全に。 

 日常ならかなり役立つ能力だとオレも思うんだけど、・・・・・・魔王だよ? お前が今から戦おうとしている相手は・・・・・・。まあとりあえず彼女は、アザラシの能力を聞いて、心の奥底から脱力し絶望した。その後諦観。


 そんな会話の後、タイミングよくギシャーマ行きのキマイラバスが、彼女たちの前で停車した。

 そして乗車中に、実はイイキもエリート大学卒だと知ったヘリックは、手のひらを返したようにイイキだけの態度は軟化していった。

 先程まで寄生虫やら疫病やらの理由で、彼女の握手を拒否した彼が、煤コケた無骨なゴブリンの素手と、何事もないように握手しているのであったが。イイキさん暴論語って悪いな・・・・・・。


 そして現在に至った。

 至っては何だが、次語るのは、その時間の数分後。


 彼らはギシャーマのとあるバス停に降りていた。

 しぶしぶ除菌グローブを身につけて、ヘリックを担ぐナナちゃん。バスに乗っている間にじゃんけんでイイキに負けたのだ。


 「丁重に扱ってくれないかね? 僕一応絶滅危惧種だから傷一つでも傷つければ、あなたはとんでもない責任を国から背負う事になるよ?」と、胸を張り、声のトーンも人をイラつかせるよう調節してるようなますます傲慢ぶった状態で、注意するヘリック。

 彼を左手で持ち上げようとしたナナちゃんの心に憤怒の熱を発した。先程は、少し落ち着いてきたのに。

 その上ヘリックは続けて「この領土では、僕に敬語を使ってくれないかな? 気も使ってくれたら嬉しいね・・・・・・ここを担当している領主様の祖先は、先程いたゲルタベ町と相反し、雑多にいる者が、希少種を敬い、大切に対応せねばならない重い仕来りを作り出したのだよ。

 あっ・・・・・・あと残念ながら人間あなたは最下位」

 ナナちゃんの精神全部に、殺意の分泌物が溢れかえ、倫理を司っていた脳部分が完全に麻痺。

 無意識的に、自分が持っているアザラシを消し炭にするための呪文を詠唱しきろうとしたナナちゃんであったが。

 イイキが肘打ちで、ナナちゃんの足を叩き、彼女の正気を取り戻させた。

 「さあいこうではないか・・・・・・!」

 ヘリックがたかだかとヒレを挙げ、音頭を取る。


 そこから、紫色を醸し出しているヒヤシンスなどの艶やかな花々や木々が、道の端々に生えている丘の中腹に登っているみなさん。

 大理石製正方形石畳が二列並んだ、少し幅が広い整備された山道。

 時間としては昼時だろうか。

 

 イイキ「ところで、この山に何の用があるってんだ、ナナ。魔王の根城はもっと遠い場所じゃなかったのかい?」


 ナナ「まずは情報収集よ・・・・・・。この近くに住んでいる ゴルギオン さんという女性の方が、例の魔王に被害を受けたとかいう記録が、この文献に書かれてあったの・・・・・・」

 

 ・・・・・・・・・・・・。


 ・・・・・・あっわりぃ・・・・・・ぼおっとしていた。話の続きする。・・・・・・彼女は説明しながら、先程自分の魔力で浮かして付いてこさせているある古ぼけた本の一つを、イイキの手元に、危なっかしく渡す。


 一応補足だけど、魔力と木材・木材の原料となっている物は、操作が容易で、初心者の魔術師でも簡単に本とかを宙に浮かせて、操ることが出来るんだ。例えばナナちゃんの杖とか。


 「ふ~ん・・・・・・。ところで、この本に挟んである紙切れの書かれた返却期限日・・・・・・二年過ぎているぞ・・・・・・?」と、パラパラ読んでいたイイキは、とある一枚の小さい紙を見つけ、書かれている内容について、ナナちゃんを非難した。


 「・・・・・・」

 無言に歩みを続けるナナちゃん。

 それからすぐに何かをごまかすために「あっあと、ゴルギオンさんに会う目的は、何も情報収集だけじゃなくてね、ウチたちが魔王の住処に入る時に必要な呪術をかけてもらうために、頼みに来たわ。」と、重要なことを語ったナナちゃん。


 イイキ「ん? 魔王の住処だろ? なんか邪な方陣とかあったり、とんでもない毒の霧でも漂っているのか?」


 「 召畜魔王 の根城は、確か峰々の高部らへんだと、伺っております。もしかして・・・・・・高山病などを防ぐための術式を、かけてもらうおつもりですか」と、ヘリック。


 「ちょっ・・・・・・ヘリック君、魔王だよ? そんなふつ」


 ナナ「っあら・・・・・・その通りよ? なんか気に食わないね?」


 「普通すぎる理由だったあああああ!? これ一応中世西洋風ファンタジーノベルだぞ!?」と、叫ぶイイキさん。っていうかだめだからねそんなノベルとかのワード。禁句だよ禁句!! 後彼は今回の外出時から、例のプラスチック製の機械を背負っていた。


 「気に食わないとは失礼ですね? 人間の暴言に、僕の繊細なハートはダメージを受けました!」と、ヘリックは叫びながら両ヒレで自分の胸らへんを抑え首を振り、続けて「ああっ・・・・・・早く人間が僕に謝ってくださらないと、この傷ついた心に修復することが、叶わなくなってしまいます・・・・・・。この絶滅危惧種の貴重な心が・・・・・・」と、演説。

 ナナちゃんのことを、人間と言い始めた。 ミツク家 領主が治めている領域だからか・・・・・・。増長しすぎだ、全く。


 流石のヘリックの雑言に、ナナちゃんは、絶望と憤慨に浸りながら、筆舌に尽くすことができないであろう不安を感じてしまった。こんな組み合わせで、魔王に敵うだろうか、それどころか帰還することができるのであろうか、このような心的状況でうまく魔術が繰り広げられるのだろうか・・・・・・など。

 ・・・・・・あまりにも可哀想すぎ。記録読むのがすごく辛い。


 足取りが重い彼女と、小柄故に歩幅が短いイイキさん、抱えられてもらえながら何様なヘリックが、目的地の・・・・・・場所に到着した。


 彼女たちの目に映ったのは、小柄な古代ギリシャ風神殿と、それを渡り廊下で繋げている土壁の建物。

 ココらへんでは、スタンダードな建築構造であったが、他のと違う特徴を挙げるとすれば、庭によりどりみどりな花々が咲き誇っている。バラとか。

 豪邸とはいえないまでも、壁やら庭やら手入れがよく届いていて、とても清潔感に感じられるのである。


 ナナちゃん達が、土壁方面の玄関まで歩み出し、木戸の脇に設置されている大理石台上に置かれた青銅製ハンドベルを彼女が手に掛け、 チリンチリン と軽く鳴らした。


 ああそれは、過大音響の術式を掛けているから、とても音がよく響くんだよね。オレのおふくろが・・・・・・。 っ!!! いやいや、何でもない何でもない! 知らない知らない!


 ナナちゃんが、それを置いた瞬間、瞬くもなくそのベルが石化してしまった。純白なる大理石のごとく。

 「「ええっ!!?」」

 異常な事態にひどく驚愕し、うろたえるイイキさんとヘリック。

 ナナちゃんは、例の本で知ってたのかネタバレしており、少しだけ驚いただけ、それから緊張状態に陥った。


 

 「は~い・・・・・・。あらあらいらっしゃい。こんな可愛い女の娘と賢そうなアザラシさんと・・・・・・え~と、え~と、・・・・・・・・・・・・賢そうなゴブリンさんが、私のお客さん? 嬉しいわ」


 謙虚な足音が彼女たちの耳に辿たどり、その後木戸が開いた。この建物の主が、ナナちゃんの前に表れ、清楚なる声のトーンで歓迎した。・・・・・・イイキさんを褒めようとして、悩んだな。


 建物の主の特徴は、見た目三十代の美しい女性でまさしく美魔女、服装は、一部の汚れも感じさせない純白なる白のキトンを身に包んでいる。見たまんまなら異世界で伝承されているという古代ギリシャの女神風であった。

 淑女の中の淑女である。


 ただしもっともっと特徴的なものが、彼女に挙げられるのだ。それは・・・・・・。


 「ごっ・・・・・・ゴルゴン!!!!??」


 そう・・・・・・、イイキさんが叫んだように、彼女の種族はゴルゴンで、彼女の髪の毛からたくさんのヘビがからみあい、うねうねとうごめいている。あっでもでも、しかしっ! 蠢いているといってもそのヘビたちは、華奢な体つきに、美しい白く輝く鱗を纏っていて、這いずり回り方も、それぞれに気品を纏っているのだから。あと手入れを施された人間風のロングな銀髪も、ちゃんとあるから!


 「そっ・・・・・・その、いきなり押しかけてすみませんがっ・・・・・・! 今回ゴルギオンさんに頼みたいことが有る・・・・・・ので、訪ねて参りました・・・・・・」と、ガチガチに震えた口で、語るナナちゃん。

 あとそのつたない喋り方は、複数のヘビが、彼女の方を眺めているのと、気品あふれる美魔女の前だからという二つの理由があるからである。緊張に拍車がかかっているのだ。


 そんな彼女の話し方に、何の不信感も嘲笑すら存在しない暖かな微笑みで返す美魔女。ナナちゃんが自らの言葉を区切って、少したった瞬間に「そんなに緊張しなくても大丈夫! ここに来たっていう時点で、あなた達の用件もわかってるようなものだわ。こんなところで立ち話も何ですから、中に入ってお茶でもいかがですか? それとも急ぎのようであれば真っ先に用件のほうを?」と、語りかけるゴルギオンさん。


 「・・・・・・用件の方を、お願いしま・・・・・・す・・・・・・」と、かなり緊張が和らいだのだが、舌のろれつが、まだ治らないでいたナナちゃん。


 ゴルギオン「それじゃあどうぞ・・・・・・ああっあと、私の名前は シロア ゴルギオンです。気軽にシロアと呼んでくださいね」


 「おい・・・・・・っ」

 イイキさんが、彼女たちを玄関奥に招き入れようとした美魔女に、声をかけた。

 はい? と返答したゴルギオンさんに対して続けてイイキさんは「ベルが石化したんだが、大丈夫なのか?」と、大理石台上に目配せし、疑問を出した。


 「ベル? ・・・・・・呼び出し用の?」と、視線を例のベルに向けるゴルギオンさん。

 しかしベルは、いつの間にか石化が解けて、濃緑・黒・青の迷彩柄を表している。

 イイキさんが再びそれを一瞥した後、「あれっ? あれ?」と、狐につままれたような謎に包まれている状態で、騒いでいた。


 「あらっ! 久しぶりに発動してしまったらしいのね、気が抜けてしまったのかしら・・・・・・集中なくてはね、ウフフッ・・・・・・」




 それからゴルギオンさんが、家に繋がっているミニ神殿に、彼女たちを連れて行く。

 用件の詳細も聞かない彼女に、何の不信感を抱いていないナナちゃんたち。まあ美魔女の穏やかな心の前では、そんな感情にならないでいた。

 ・・・・・・『あの人』のこと美魔女とかシロアさんって呼びたくねえ。

 

 一同が、イオニア式柱で支えられている渡り廊下を歩いている最中、小声でイイキに質問をぶつけるナナちゃん。


 「・・・・・・なんかシロアさんの顔立ちやら髪の色とか、誰か似てるわよね・・・・・・。でもその知り合いに比べたら首の太さとか、華奢さとか、種別とか性別がちが・・・・・・」


 「そうか? オイラは誰のそっくりさんかはわからないんだが・・・・・・」


 ・・・・・・そうこう話している内に、神殿入り口にたどり着いた彼女たち。

 入り口の横に文字が彫られていた。『ゴルギオン ゼン テンプル』と・・・・・・。テンプルとは、寺院や神殿という意味さ。


 「今から始めるのに、あなたのローブでは、行動を制限して、窮屈に感じるかもしれないわね? 別室で着替えますか? 服とかもお貸し致しましょうか?」と、ナナちゃんに提案を出すゴルギオンさん。

 ナナ「え?」


 


 借りた赤色のキトンを着用しているナナちゃんが、神殿奥にある別部屋から戻ってくる。耳まで真っ赤に赤面している恥ずかしがりな彼女の姿に、イイキさんとヘリックは関心を寄せなかったが。・・・・・・見てぇ。

 杖やカバンも、ローブごと他室で預けている。


 それからナナちゃんたちは神殿内の柱付近で、フカフカのカーペット上に靴を脱いだ状態で立ち、それぞれ折りたたまれている紫色のクッション前に並んで待機されていた。彼女シロアさんの指示が繰り広げられる。ナナちゃんたちは、高山病対策の魔術を発動させるのだろうなあとか考えていた。


 「まずはクッション前で、手を合わせておじぎをしてくださいね」

 彼女たちは、指示通りにする。合掌行為は詠唱・魔方陣作成と並んで魔術発動時に安定性を高めるための儀式である。


 「では、次はクッションに座ってくださいね・・・・・・、臀部をなるべく高い場所で、それと左右どれかの足の甲を、お腹に近づくよう別側のももにのせて組んでください、そうそうそれから下の足の甲を、上の方にある腿にのせて・・・・・・ヘリックさんでしたよね? あなたはそのままクッションに座って大丈夫です」

 言われたとおりにしたイイキさん達・・・・・・だが。


 「イテテテっ!?」

 イイキさんは、その体勢はどうやら無理があった。ナナちゃんは見事に座っている。経験者っぽい雰囲気を纏わしていた。


 「無理しないでくださいね。難しい場合だったり、痛くて仕方なかった時は、どれかの足の甲一つを、腿に重ねるだけで結構です。正座でも全然オッケーですよ?」

 素直に一つ目の提案を受け入れるイイキ。


 「上の方に有る足の上に、右の手のひらを下にした状態で、そこに左の手のひらを重ね、二つの親指をギリギリまでくっつけるかくっつけないかまで、近づけてくださいね。ヘリックさんはヒレを合わせるだけで大丈夫です」


 それから、体を大幅に動かして重心を探したり、瞳を半開きににしたり、とある呼吸の方法などを、ゴルギオンさんから教えてもらったりと、紆余曲折を経て、彼らは静かに座っていた。

 言っては何だが、キトンに着替えた意味があるのか、この座り方で。


 ナナちゃんは座っている内に、芸術的に彫られていた柱と柱の間に通り抜け漂ってくる潮風を、先程とは比べられないくらいに鮮明に感じていた。

 手前には下り坂道に緑艶やかに生い茂る木々などの植物と様々な建物が組み合わされてる景色、遠くにはさんさんと太陽に照らされ輝く海を、眺めることができたのだ。

 さきほどまでヘリックにボロカスに罵詈ばりされていた彼女であったが、いつの間にかもう自分の憤怒も不安も、潮風が吹き飛ばしてくれたようにしずまっている。


 海鳥が一羽、ナナちゃんの視線上方に気持ちよさそうに飛んでおり、ついつい彼女は「あっ!」と、感嘆の息を漏らす。


 


 彼女達の後ろで左右往来に歩んでいたゴルギオンさんは、ナナちゃんの側で立ち止まり、いつの間にか持ちだした木の棒で・・・・・・


 「喝っ!!」


 座禅していたナナちゃんの肩に、打ち据えたのであった。

 警策で響き渡った音は、大理石製のイオニア式柱の間を越えて天高く轟いていた。

 

 

 

 

 


 


 


 


 


 


  

 


 


 

 

 座禅の詳しい作法等を知りたい方は、各自調べてください。 

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